その1の2
後には四人の幼馴染が残された。
ドス
「バジル……」
今まで黙っていたドスという少年が口を開いた。
ヨークは背が高い方だが、そんな彼よりもさらに長身。
すらりとした体型だが、華奢では無い。
長い手足はしっかりと鍛えられていて、手も大きい。
短髪の黒髪で、紫色の瞳をしていた。
普段はあまり喋らない。
黙ってヨークたちの後をついてくるような少年だった。
幼馴染たちは皆人族で、ハーフなのはヨーク一人だった。
バジル
「何だよ?」
バジルはドスを睨んだ。
バジル
「お前らだって、こうするべきだって納得してただろうが」
ドス
「そうだがな……」
ドス
「辛いぞ。あれは」
バジル
「ヌルいやり方して、無理やり着いてくるって言ってきたらどうすンだよ」
バジル
「そうなったらアイツの為にもなンねえ」
バジル
「あれくらい突き放してやった方が、向こうもハッキリ分かるってモンだ」
ドス
「…………」
バジル
「それに、あいつのフォローならバニがやるだろ」
いつの間にか、バニの姿が無くなっていた。
バジル
「あいつはヨークに甘い」
バジル
「血迷ってヨークを連れて行くとか言い出さなきゃ良いが」
ドス
「俺たちにとって、王都の迷宮は未知だ」
ドス
「これが友との最後の別れになるかもしれんぞ」
バジル
「友って……何をむず痒いこと言ってンだよ」
ドス
「……そうか」
ドス
「むず痒いか」
ヨーク
「…………」
ヨークは村外れで一人になった。
バニ
「ヨーク」
ただぼんやりとしている所に、バニが声をかけてきた。
ヨークが後をつけられたわけでは無い。
バニにはなんとなくヨークの居場所が分かる。
何年も前からそうなっていた。
ヨーク
「……何か用か?」
バニ
「別に……」
バニ
「らしくないじゃない」
バニ
「あれだけ言われて、何も言い返さないなんて」
ヨーク
「うるせえな」
ヨークは露骨に不機嫌な様子を見せた。
バニ
「何よ」
ヨーク
「……悪い」
ヨーク
「言い返せなかったんだよ」
ヨーク
「俺のスキルが何の役に立つか……俺でも分からなかった」
バニ
「それは、いきなり変なスキル貰ったら、誰だってそうでしょ」
ヨーク
「変なスキルか」
ヨーク
「そうだよな」
バニ
「スキルがその人の全てじゃないでしょ?」
ヨーク
「……そうかもな」
ヨーク
「けど、結局はお前も賛成なんだろ? 俺を置いてくことに」
バニ
「責めてるの?」
ヨーク
「責める権利が有るか?」
ヨーク
「ただ俺が見限られた。それだけだ」
バニ
「権利とか……」
ヨーク
「良いから一人にしてくれ」
バニ
「拗ねてる」
ヨーク
「拗ねて悪いかよ」
ヨーク
「お前が俺の立場だったら、拗ねずにいられるのか?」
バニ
「そんなの……」
バニ
「ヨークは……どうするの?」
ヨーク
「村に残る。決まってるだろ?」
バニ
「目指さないんだ? 冒険者」
ヨーク
「嫌味か?」
バニ
「今日はどうしてそう……」
ヨーク
「そんなに変か?」
笑われて、拗ねた。
人間として普通のことをしている。
違うのか。
ヨーク
「おかしいことをしてるか? 俺は」
バニ
「あなたは……普通のことを言ってると思う」
バニ
「それって、変よ」
ヨーク
「意味分かんねえ」
バニ
「……今日はもう行くわ」
バニ
「またね。ヨーク」
ヨーク
「…………」
バニは去っていった。
もう少し居てくれるのでは無いのか。
内心ではそんな期待をしていたのかもしれない。
ヨークは感情を隠すことが出来なくなった。
ヨーク
「変にもなるだろうがよ」
ヨーク
「皆が俺を笑ったんだぞ?」
ヨーク
「俺を囲んで! 笑った!」
ヨーク
「変になるだろうが! クソが!」
ヨークは思い切り地面を蹴った。
それで何が起きるわけでもない。
ただ土埃が舞った。
虚しい代償行為だった。
あの時、同年齢の幼馴染にヨークを嘲笑った者は居なかった。
ある者は戸惑い、ある者は驚き、ある者は安堵していた。
それに気付く余裕は彼には無かった。
……。
一週間後、バジルたちが出発する日が来た。
平和な村にとって、若者たちの旅立ちはちょっとした事件だった。
村人たちは総出でバジルたちを見送った。
王都では何が起きるか分からない。
保護者たちの中には泣いている者も居た。
バジル
「ンじゃ、行ってくンぜ」
バニ
「皆、元気でね」
キュレー
「いってきます」
ドス
「ん」
「行ってらっしゃい!」
「怪我には気をつけてね!」
「応援してます!」
「お前らには期待してるからな!」
「土産頼んだぞ!」
皆の温かい声援を受け、若者たちは旅立っていった。
美貌の少年が丘の上からその様子を眺めていた。
長い艷やかな銀髪に薄青い肌。
身にまとう衣服だけが容貌とは不釣り合いにみすぼらしい。
ヨーク=ブラッドロードだった。
ヨーク
「…………」
ヨーク
「じゃあな」
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ヨーク=ブラッドロード
クラス 戦士 レベル1
スキル 敵強化 レベル1
効果 敵のレベルを上昇させる
サブスキル 戦力評価 レベル1
効果 対象の名称、レベルを判別する
ユニークスキル ニューゲームプラス
効果 全てをやり直す
SP ???+1086
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