表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

198/226

7の11「ニトロとデレーナ」



バークス

「っ……! 勝者、ユリリカ=サザーランドチーム!」



 シデルは倒れたが、彼女の結界は未だ健在だった。


 結界の力で倒れたまま、バークスが決着を告げた。



ユリリカ

「やった……! お姉ちゃん凄い!」


ヨーク

「そうだな」


シデル

「……………………」



 シデルは無言で立ち上がった。


 そしてクリスティーナを睨みつけた。



シデル

「認めない……」


シデル

「こんなの認められるかああああぁぁぁっ!」



 絶叫が、シデルの背中に赤い羽を呼んだ。


 羽は推進力を産んだ。


 クリスティーナを害そうと、シデルは前に出た。



ヨーク

「落ち着けよ」



 ヨークが前に出て、シデルの両腕を掴んだ。


 ヨークの純粋なパワーが、シデルの前進を止めた。



シデル

「離せっ……!」


ヨーク

「勝負はついた。分かってるだろ?」



 そんな事を言われても、とても受け入れられるものでは無かった。


 シデルはヨークの手を、振りほどこうとした。


 だが……。



シデル

(びくともしない……!?)



 氷漬けにでもされたかのように、掴まれたシデルの腕は、ピクリとも動かなかった。



シデル

「それなら……!」



 シデルはヨークに体を寄せた。


 そして彼の首筋に、牙を突き立てようとした。



シデル

(私のモノにして……ッ!?)


シデル

(歯が……通らない……!?)


シデル

(だけど……この人の血の香りは……皮膚越しだというのに……)


シデル

(甘……)


シデル

「ひぐっ!?」



 シデルの体がびくびくと震え、体から力が抜けた。



ヨーク

「おい。だいじょうぶか?」



 ヨークは呼びかけたが、返答は無かった。


 シデルは恍惚の笑みを浮かべたまま、気を失っていた。


 シデルが作り出した結界が、徐々に消滅していった。



ヨーク

「うーん……」



 シデルの妙な状態を見て、ヨークは唸った。


 そこへクリスティーナが近付いてきた。



クリスティーナ

「何だったんだい? この破廉恥な女は」


クリスティーナ

「いきなり首に……キ……キスするなんて……」



 クリスティーナの声音には、動揺の色が見られた。


 シデルの狙いは吸血だった。


 しかし、血が出なかったこともあり、クリスティーナにはそれが情熱的な接吻にしか見えなかった。


 兜の下の顔は真っ赤になっていたが、ヨークからは見えなかった。



ヨーク

「戦いで興奮したんだろう」


クリスティーナ

「何を平然としてるんだい? キミのみさおが奪われたんだよ?」


ヨーク

「みさおて」



 ヨークはシデルを抱きかかえ、壁際まで歩いた。


 そしてシデルの体を横たえた。


 そこへミツキが近付いてきた。



ミツキ

「ヨーク」


ヨーク

「うん?」


ミツキ

「ちょっと……」



 ミツキはヨークの前に立った。


 ヨークは黙ってミツキを見守った。


 ミツキはヨークの肩に手を乗せた。


 そして自身の顔を、ヨークの首に寄せてきた。


 ミツキは舌を出して、ヨークの首をぺろりと舐めた。



ヨーク

「……!?」



 ヨークは驚いて、一瞬ビクリと震えた。



ミツキ

「治療です」



 ミツキは平然とした顔でそう言った。


 そしてクリーンの方へ戻っていった。



ヨーク

「……そうか」


ヨーク

「治療か……」



 ヨーク自身、なんだか癒やされた感覚が有った。


 なのでミツキの言葉に対し、疑問を挟むことはできなかった。


 ヨークがミツキの背中を見ていると、バークスが口を開いた。



バークス

「Aブロック第2試合の代表者は、中央へ集合して下さい」


ヨーク

(普通に続けるんだな)


ヨーク

(ギャラリーを巻き込んでも、特にお咎めは無しか?)


ヨーク

(まあ、後で何か有るかもしれんが)



 第2試合の組み合わせは、イーバチーム対トリーシャチームだった。


 イーバとトリーシャが、広間の中央へと移動した。


 そしてトリーシャが、バークスに向かってこう言った。



トリーシャ

「棄権させていただきます」


バークス

「了解しました」



 トリーシャの棄権によって、イーバの勝利が決まった。



ヨーク

(当然か)



 ヨークはそう考えた。


 トリーシャが勝ちを譲ることは、きっと最初から、決まっていたのだろう。



ヨーク

(すると、俺の相手は……)


バークス

「Bブロック第1試合の代表者は、中央へ集合して下さい」



 バークスがそう告げた。


 Bブロック第1試合は、サレンチーム対アシュトーチームだ。


 アシュトーチームには、デレーナが居る。


 チームの最高戦力であるデレーナが、当然のように広間中央に立った。



サッツル

「出ましたね」


ニトロ

「……私が行こう」


サレン

「はい」


ニトロ

「サッツル。キミが行っても良いけど」


サッツル

「遠慮しておきます」


ニトロ

「ちぇっ」



 ニトロがデレーナの前に立った。



デレーナ

「娘さんの前で、少し恥をかいていただきますわ」


ニトロ

「キミは……」



バークス

「試合開始」



サレン

「お父様……」


ニトロ

「…………」



 ニトロはデレーナの瞳を見た。


 そして。



ニトロ

「あ」



 彼が口を開いた瞬間、デレーナの姿が消えた。



ニトロ

「んぐっ!?」



 背後から肩甲骨を叩かれ、ニトロは倒れた。


 ニトロの魔石が砕けた。


 彼の敗北だった。



バークス

「勝者、アシュトー=ブラッドロードチーム」


デレーナ

「お返しですわ」


ニトロ

「キミは……覚えているのか?」


デレーナ

「次に何かすれば、私はあなたを許しません」


ニトロ

「……覚えておくよ」



 二人とも、守るべき聖女候補の所へ戻っていった。


 デレーナはアシュトーの所へ。


 ニトロはサレンの所へ。



ニトロ

「負けてしまったよ」



 娘の前に立ったニトロは、薄く苦笑いをした。



サレン

「…………」


ニトロ

「すまないね。親のなさけない姿なんか、見たくないだろうに」


サレン

「お父様はなさけなくなんかありません!」


ニトロ

「声が大きいよ。サレン」


サレン

「あっ……」


サレン

「すいません」



 一方、勝者であるデレーナは、泰然とアシュトーの前に立った。


 文句なしの勝ち星を得たデレーナを、アシュトーは笑顔で出迎えた。



アシュトー

「やるじゃねえか」


デレーナ

「ありがとうございます」


デレーナ

「ですが、次の相手は少し厳しいかもしれませんわね」


アシュトー

「あのキレた大剣使いか」


デレーナ

「理知的な方ですけどね。普段は」


アシュトー

「合理主義者ってわけだ?」


アシュトー

「まあ良いさ。無事に第3の試練まで来られたんだからな」


アシュトー

「第3の試練も、勝てるに越したことは無いが……」


アシュトー

「最後に勝つための弾は、用意してある」



 次は一回戦の最終試合だった。


 組み合わせは、クリーン対マギーだ。


 枷の無いクリーンの動きは、マギーを圧倒した。


 マギーはまともな反撃もできず、クリーンに打ち倒された。


 マギーの腕輪の魔石が砕け、クリーンの勝利が決まった。


 無事に勝ちを手にしたクリーンは、リーンたちの方へ駆け寄っていった。



クリーン

「やったのです! モフミちゃん! おばあちゃん!」


リーン

「そうね」



 マギーは固い顔で、イーバたちの所へ戻った。



マギー

「負けてしまいました……」


イーバ

「だいじょうぶ。仇は取ってあげるわ」


イーバ

「サンゾウがね」


サンゾウ

「えっ? 拙者でござるか?」


イーバ

「がんばりなさい」


サンゾウ

「善処はするでござる」



 次は2回戦の第1試合だ。


 組み合わせは、ユリリカチーム対イーバチームとなっていた。


 誰を出してくるかと思い、ヨークはイーバたちの様子をうかがった。


 するとサンゾウが前に出るのが見えた。


 あいつが相手なら良いだろう。


 そう考えたヨークは、自分が戦うことに決めた。


 広間の中央で、ヨークとサンゾウが対峙した。



クリスティーナ

「ブラッドロードさ~ん! がんばれ~!」


ユリリカ

「がんばえ~!」


ヨーク

「…………」



 ヨークは応援に対し、無言で手を振り返した。


 そしてサンゾウと目を合わせた。



ヨーク

「よっ」


サンゾウ

「胸をお借りするのでござる」


ヨーク

「今日はアレは使うのか?」



 またドラゴンと戦うことになるのだろうか。


 そう思い、ヨークは尋ねた。



サンゾウ

「いえ」


サンゾウ

「1度敗れた戦法を使うなど、愚の骨頂でござるからな」


ヨーク

「そうか」



 つまり、別の戦法が見られるということか。



ヨーク

「楽しみだ」



 期待がヨークを微笑ませた。



バークス

「試合開始」



 バークスの宣言によって、試合が始まった。


 サンゾウは手と手を組み合わせ、ヨークが見たこともない形を作った。



サンゾウ

「にんにん。分身の術!」



 どろんと、サンゾウの周囲で煙が上がった。


 次の瞬間、サンゾウの体が四つに分身していた。



ヨーク

「レアスキルか……!」


サンゾウ

「スキル? 否。ニンポーでござるよ」


ヨーク

「ニンポ……? 何だか知らねえが、おもしれえ!」


サンゾウ

「行くでござる!」



 四体のサンゾウが、同時に前に出た。


 彼らの手中には、鋭い小太刀が見えた。


 サンゾウたちはトリッキーな動きで、四方八方から攻撃をしかけてきた。



ヨーク

「ははっ!」



 これほどの猛攻は、なかなか味わえるものではない。


 ヨークはニコニコしながら防御に専念した。


 たとえ数は多くとも、サンゾウの動きは、1対1ではヨークに劣っていた。


 ヨークは時に受け止め、時に回避することで、全ての攻撃を防ぎきった。



ヨーク

「一つ目!」



 ヨークの斬撃が、分身のうちの一つを斬った。


 真っ二つになった分身は、煙と共に消滅した。



サンゾウ

「むむむ……」



 明白な実力差が、サンゾウを唸らせた。



サンゾウ

「やはり、お強い」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ