『敵強化』スキルを笑われて幼馴染に置いていかれた俺のレベルが有頂天でおさまる所を知らないので、助けたケモミミ美少女奴隷とイチャイチャしながら迷宮の最深層目指すことにした～神魂のニルヴァーナ～

CurseD_God

７の５「リーンと誓い」

　ヨークたちは、宿屋へと帰還した。

　ヨークは気絶した赤ローブの女を、寝室のベッドに寝かせた。

　それから食堂に行き、サンゾウにごはんをおごった。

　数百年ぶりの食事を、サンゾウはおなかいっぱいまで食べた。

サンゾウ

「かたじけないでござる」

　腹を膨らませたサンゾウは、ヨークに礼を言うと、どこかへと去っていった。

　それからヨークたちは、寝室へと戻った。

　ベッドの上の女は、まだ気絶したままだった。

　ヨークたちは、黙って彼女が目覚めるのを待った。　

リーン

「ん……」

　ミツキのベッドの上で、赤ローブが目を覚ました。

ヨーク

「よっ」

　隣のベッドから、ヨークが彼女に声をかけた。

リーン

「…………！」

　あの男は驚異だ。

　逃げなくては。

　赤ローブの女、リーン＝ノンシルドは、反射的にそう考えた。

　リーンは転移の力で、ここから逃れようとした。

　だが、力を発動する直前に、彼女の手首を、ヨークの手が掴んでいた。

ヨーク

「逃げんなよ」

　ぎりりと手首を掴まれて、リーンは動けなくなった。

ヨーク

「クリーンのばあちゃんがどうして迷宮に居たのか、説明してもらうぞ」

クリーン

「おばあちゃん……」

　ヨークの隣に、クリーンが座っていた。

　彼女は心配そうな視線を、リーンへと向けていた。

リーン

「っ……！」

　リーンはヨークに掴まれていない方の手で、自分の顔を撫でた。

　仮面が外れている。

　クリーンに顔を見られてしまった。

　彼女はそのことに気付いた様子だった。

クリーン

「どういうことなのですか？」

リーン

「…………」

　リーンは気まずそうに俯いた。

　ヨークはリーンを捕まえたまま、彼女に強い視線を送った。

ヨーク

「おまえはサンゾウを殺すつもりだった」

ヨーク

「そんな奴を、黙って帰すわけにはいかねー」

ヨーク

「ある程度のことは話してもらうぞ」

　リーンはクリーンの祖母らしい。

　つまり、友人の家族ということになる。

　そんな相手を傷つけたいとは、ヨークは思わない。

　だがリーンは、サンゾウの命を狙っていた。

　たとえ友人の家族であろうが、このまま野放しにはできなかった。

リーン

「正直に話したら、帰してもらえるのかしら？」

リーン

「それに、私の言うことを、あなたは信用出来るのかしら？」

ヨーク

「そいつは話の内容次第だ」

リーン

「…………」

　リーンはヨークに対し、測るような視線を向けた。

　彼女の手首は、ずっとヨークに握られている。

　もし彼が本気を出せば、こんな細い手首など、簡単に握りつぶされてしまうだろう。

　リーンはヨークがはなつプレッシャーから、それを理解していた。

　少しすると、彼女は諦めたように口を開いた。

リーン

「私は……」

リーン

「トルソーラ神に仕える戦士よ」

リーン

「トルソーラさまから直々に御力を賜り、竜の軍勢や第三種族、魔族とも戦った」

リーン

「ドラゴンを殺すのは、彼らがトルソーラさまの敵だから」

　リーンは正直に素性を語った。

　それを聞いて、クリーンは驚いた様子を見せた。

　家族だというのに、これらの事は初耳だったらしい。

クリーン

「おばあちゃん、そんな凄い人だったのですね」

クリーン

「けど、どうやってあの場に現れたのですか？」

リーン

「私は転移の魔術を使えるのよ」

リーン

「王都の中くらいなら、どこでも一瞬で移動できるわ」

ヨーク

「どうしてあそこにドラゴンが居るってわかったんだ？」

　ヨークはそれをふしぎに思った。

　リーンが現れたのは、ヨークがサンゾウと出会ってから、ほんの数分後だった。

　誰かの通報を受けたとも思えなかった。

リーン

「私は事物を察知する『探知』のスキルを持っている」

リーン

「そのスキルにドラゴンが引っかかったから、倒しに来たってわけ」

ヨーク

「なるほど。それで、どうする？」

リーン

「……どうって？」

ヨーク

「神のためにサンゾウを殺すってんなら、おまえは俺の敵だ」

　もしそうなら、何らかの決着はつけねばなるまい。

　ヨークの内側で、闘志がふつふつと揺れていた。

クリーン

「待つのです」

ヨーク

「何だ？」

クリーン

「サンゾウは、神から鱗を授かって、ドラゴンになったと言っていたのです」

クリーン

「それなのに、サンゾウは神様の敵なのですか？」

リーン

「……私とドラゴンとでは、仕える神様が違うのよ」

クリーン

「神様って何人も居るのですか？　知らなかったのです」

リーン

「あまり人に言ってはダメよ？」

クリーン

「…………？　分かりましたけど……」

クリーン

「おばあちゃんは……ヨークの敵なのですか……？」

リーン

「そうなるでしょうね」

クリーン

「そんなの……嫌なのです……」

　クリーンは、悲しげな様子を見せた。

リーン

「クリーン……」

ヨーク

「俺もクリーンの身内を、手にかけたくはねえ」

ヨーク

「誓ってくれるか？　今後オレたちに危害を加えないと」

リーン

「それは無理よ」

　クリーンの願いを知りながら、リーンはそう断言した。

リーン

「神と敵対する者と戦うことは、私の重要な使命」

リーン

「違えることはできないわ」

ヨーク

「そうか。だったら……」

ヨーク

「最初に俺を殺しに来い」

リーン

「え……？」

ヨーク

「騙し討ちみたいなので仲間を失うのはたくさんだ」

ヨーク

「正面から、俺の首を取りに来いよ」

ヨーク

「俺をブッ殺せたら、その後は好きにすりゃあ良い」

ヨーク

「負けねえけどな」

リーン

「……面白い人ね。あなた」

ヨーク

「そうか？　それで、どうすんだよ？」

リーン

「誓うわ」

リーン

「あなたの仲間を手にかける前に、あなたを倒すことを、トルソーラ様に誓う」

ヨーク

「……良かった」

リーン

「手、そろそろ離してくれる？」

ヨーク

「……ああ」

　ヨークはリーンを解放した。

　自由になったリーンは、ベッドから立ち上がった。

ヨーク

「俺たちのことを神に報告するか？」

リーン

「いいえ」

リーン

「報告なんかしなくても、あの御方は、私たちを見ていらっしゃるわ」

ヨーク

（俺たちの動きは、筒抜けってことか？）

ミツキ

「仲間に私たちを襲わせるということは無いでしょうね？」

リーン

「見たところ、あなたたちの強さは、奇襲でどうにかなるレベルを超えている」

リーン

「クリーンに危害が及ぶかもしれないのに、そんな無謀な真似はしないわ」

ミツキ

「……そうですか」

リーン

「もう行って良いかしら？」

ミツキ

「どうぞ」

クリーン

「村に帰るのですか？」

リーン

「そうね」

クリーン

「あの……」

クリーン

「おばあちゃんに、私の守護騎士になって欲しいのです……！」

リーン

「はい……？」

クリーン

「おばあちゃんはドラゴンより強いのですよね？」

リーン

「そのつもりだけど」

クリーン

「おばあちゃんがそんなに凄い人だなんて、知らなかったのです」

クリーン

「ぜひ私と一緒に、聖女の試練に出て欲しいのです」

リーン

「それは……」

クリーン

「ダメ……なのですか……？」

リーン

「う……」

リーン

「私が出たら、聖女の試練なんて楽勝で勝ち進めてしまうわ」

リーン

「全て私頼りだなんて、おもしろくないでしょう？」

リーン

「せっかくの思い出づくりを……」

クリーン

「けど、聖女の試練には、ヨークも参加するのですよ？」

クリーン

「楽勝なんてことにはならないと思うのです」

リーン

「えっ？」

リーン

「……あなた、どういう立場なの？」

ヨーク

「ユリリカの守護騎士だが」

リーン

「ユリリカ……？　知らない名前ね」

　それからリーンは、不機嫌そうにヨークを睨んだ。

リーン

「あなたはウチのクリーンよりも、ユリリカっていう子の方が良いって言うの？」

　保護者としての目線で、彼女はヨークを責めた。

ヨーク

「良い悪いって言うか、単に先約ってだけなんだが」

リーン

「ヨーグラウ」

リーン

「あなたみたいな化け物が聖女の試練に出たら、メチャクチャになるって分からないのかしら？」

ヨーク

「ヨークだっての。それで……」

ヨーク

「試練の内容知らんから、適当に受けたんだが、まずかったか？」

リーン

「試練の半分は、戦いに関するものよ」

リーン

「あなたと他の参加者で、まともな戦いになるとは思わないけれど？」

ミツキ

「ヨークは私が倒しますよ」

リーン

「あなたはヨーグラウとは別の聖女候補と出るの？」

ミツキ

「はい。クリーンさんと一緒です」

リーン

「……はぁ」

リーン

「大変ね。今年の試練に出る子たちは」

　……。

リーン

「というわけよ」

ニトロ

「どういうわけかな？」

　大神殿のニトロの部屋を、リーンが訪ねて来ていた。

リーン

「だから、聖女の試練にクリーンと出るって言ってるの」

ニトロ

「試練をメチャクチャにするつもりかな？」

　ニトロは呆れたように言った。

リーン

「私が出なくたって、ヨークとミツキがメチャクチャにするわよ」

リーン

「気付いてる？　もうあの二人は、私よりも強い」

ニトロ

「そこまでなのかい？」

リーン

「ええ」

リーン

「今のガイザークなら、私の手助けが無くても、倒せてしまうでしょうね」

ニトロ

「そう……。惜しいな」

ニトロ

「人は足りているのに、物の方が欠けているなんて」

リーン

「…………」

リーン

「そうね」