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6の15「魔弾と大穴」



ミツキ

「思い切ったことをしましたね。ソロで魔術師だなんて」



 ミツキが口を開いた。


 ネフィリムは、ニンジャから魔術師へと、クラスチェンジを遂げていた。


 ネフィリムの希望ではなく、ヨークの采配だ。


 クラスチェンジのための費用も、全てヨークが出した。


 かさむ出費に、ネフィリムは怯えを見せていたが、必要経費だと言い聞かせた。



ヨーク

「魔術師の一番の欠点って、敵の攻撃に無防備なことなんだよな」


ヨーク

「けど、ネフィリムは脚力は有るみたいだから、行けるかなと思って」


ヨーク

「武器で戦わない方が、手足に負担がかからないしな」


ミツキ

「理に適っていると思います」


ミツキ

「ですが、途中で脚が取れたりしないか、心配になりますね」


ヨーク

「う~ん……」


ヨーク

「滅多に外れるもんじゃ無いらしいんだが、1回外れるのを見ちまうとなあ」



 魔術師は脆い。


 もし脚が外れれば、簡単に致命の一撃を受けてしまうだろう。


 そんな彼女を独り立ちさせることができるのか。


 ヨークは不安だった。



ヨーク

「ティーナに相談してみるか」


ミツキ

「……ティーナ?」


ヨーク

「うん?」


ミツキ

「いえ」


ミツキ

「次の獲物を探しましょうか」




 ……。




 エボンに発注したフレームの、完成予定日になった。


 ヨークはリホを連れて、武器屋を訪ねることに決めた。


 朝の寝室で、ヨークは身支度を終えた。


 そしてリホに声をかけた。



ヨーク

「魔石は持ったな?」


リホ

「ういういっス」


ヨーク

「良し。行くか」



 ヨークは部屋の出口に足を向けた。


 そのとき……。



ミツキ

「待って下さい」


ヨーク

「どうした?」


ミツキ

「ちょっとお化粧のノリが悪くて……」


ヨーク

「えっ? ふだん化粧とかしてないだろ?」


ミツキ

「実はしてるんです」


ヨーク

「えぇ……」


ミツキ

「はぁ。ヨークはよっぽど早く行きたいようですねぇ」



 ミツキはニヤリとした笑顔を、ヨークへと向けた。



ミツキ

「そんなに魔導器が楽しみなんですね?」


ミツキ

「ワクワクが止まらないと」


ヨーク

「……悪いかよ」



 子供扱いされた気がして、ヨークはミツキから顔を逸らした。



ミツキ

「いえいえ」


ミツキ

「ふふっ。お可愛いこと」


ヨーク

「リホ。こいつ置いてくぞ」


ミツキ

「えっ?」



 ヨークは足早に部屋を出た。


 すると廊下に、バジルの姿が有った。



バジル

「よう」


ヨーク

「よう」


バジル

「…………」



 何か言いたげなバジルを見て、ヨークは少し待った。


 だが、なかなか口を開かないので、焦れて尋ねた。



ヨーク

「用が有るんじゃねえのかよ」


バジル

「……魔弾銃が出来たらしいな?」


ヨーク

「そのはずだけど」


バジル

「後で……俺にも貸せよ」



 バジルはそれだけ言うと、自分の部屋に戻っていった。



ヨーク

「ワクワクが止まらないのかよ……」



 ヨークたちは宿を出た。


 すると外に、クリスティーナの姿が有った。



クリスティーナ

「やあ」


ヨーク

「やあ」


ミツキ

「やあ」


リホ

「何スか? 暇なんスか?」



 リホが眉をひそめて尋ねた。



クリスティーナ

「ボクは優秀だから、一日中働かなくても良いんだよ」


リホ

「つまり暇なんスね」


クリスティーナ

「…………」


クリスティーナ

「ボクの記憶が正しければ、今日は魔弾銃が完成する日だったね?」


クリスティーナ

「どれほどの物か、拝見させてもらおうじゃないか」


リホ

「図面、見たっスよね?」


クリスティーナ

「図面と実物は、また別物なんだよ」


ヨーク

「つまり、ワクワクが止まらないということか」


クリスティーナ

「うん?」



 ヨークたちは、クリスティーナを加えて、武器屋への道を歩いていった。


 クリスティーナは楽しげに、ヨークに話しかけてきた。



クリスティーナ

「それでね、マリーがだいぶ歩けるようになってきたんだ」


ヨーク

「良かったな」


クリスティーナ

「うん。良かったんだ」



 ニコニコとしたクリスティーナを伴い、ヨークたちは武器屋に到着した。


 店に入ると、エボンが腕を組んで立っているのが見えた。



ミツキ

「お邪魔します」



 ミツキはぺこりと頭を下げた。



エボン

「……来たか」


エボン

「待ってたぜ。ボウズ。嬢ちゃん」



 話をすると、フレームの部品は、既にできあがっていることが分かった。


 それで、ヨークたちが見ている前で、フレームを組み立ててもらうことになった。



ヨーク

「ギュイーン」


ヨーク

「ゴゴゴゴゴ」


ヨーク

「ガチャッ」


エボン

「……気が散るんだが」


ヨーク

「ワクワクが止まらないんだ」



 ヨークの妨害を乗り越え、エボンはフレームを組み上げた。


 最後に魔石を組み込み、魔弾銃は無事に完成した。


 武器を手にしたリホは、ヨークたちと共に、迷宮へと向かった。



クリスティーナ

「へぇ……。迷宮っていうのはこうなってるんだね」



 迷宮の第1層。


 クリスティーナが、壁や天井を見回しながら言った。


 そんな彼女を、リホは鬱陶しそうに見た。



リホ

「どういう風の吹き回しっスか? おまえが迷宮に来るなんて」


クリスティーナ

「キミの魔弾銃の挙動も見ておきたいし……」


クリスティーナ

「それにここは、ネフィリムの職場でもあるからね」


リホ

「きたねー職場っスね」


クリスティーナ

「失敬な。ネフィリムの職場は汚くなんてない」


リホ

「そうっスか」


ヨーク

「それで、どう使うんだ? 魔弾銃ってのは」


クリスティーナ

「簡単だよ。銃口を敵に向けて、トリガーを引くだけさ」


ヨーク

「するとどうなるんだ?」


クリスティーナ

「どうって……」


クリスティーナ

「ブラッドロードさんは凄い冒険者なのに、そんなことも知らないの?」


ヨーク

「田舎モノなんでな」


リホ

「これが有れば、誰でも攻撃呪文を放つことが出来るっス」


ヨーク

「凄いな。っていうか、アレ?」


ヨーク

「それが有れば、魔術師とかこの世に必要無くない?」


クリスティーナ

「いいや」


クリスティーナ

「魔弾銃は、素材にした魔石の出力以上の火力は、出せないからね」


クリスティーナ

「さすがに高レベルの魔術師には敵わないよ」


ヨーク

「ふ~ん」


ヨーク

「それじゃあ使ってみてくれよ。魔弾銃」


リホ

「了解っス。それじゃ、スライム相手に試し撃ちするっス」


ミツキ

「スライムは……」



 ミツキは日記にのっていた悲劇を思い出し、声を漏らした。



リホ

「なんスか?」


ミツキ

「いえ。なんでもありませんでした」



 自分たちは既に、スライムによるレベル上げを卒業している。


 いまさらスライムが絶滅しても、特に問題は無い。


 そう気付いたミツキは、話をごまかすことにした。


 一行はスライム部屋を目指し、迷宮を進んだ。


 その途中で、大鼠と遭遇した。



クリスティーナ

「あっ! 敵! 敵だよ! ブラッドロードさん!」



 クリスティーナは興奮した様子で、大鼠を指さした。



ヨーク

「慌てんな。俺たちが守ってやる」



 ヨークはそう言うと、クリスティーナの前に立った。



クリスティーナ

「っ……うん……」


ヨーク

「リホ。撃て」


リホ

「了解っス!」



 リホは大鼠に、魔弾銃の照準を合わせた。


 そして引き金を引いた。


 そのとき……。


 魔弾銃から、巨大な炎の渦が、放たれた。



ミツキ

「えっ?」



 ミツキが呆けたような声を漏らした。


 炎は一瞬で、大鼠を蒸発させた。


 そしてさらに、周囲の壁や天井を爆砕しながら、迷宮を突き進んでいった。


 渦は迷宮の壁に突き刺さり、そして……。



クリスティーナ

「ええっ!?」


リホ

「ふぇ?」


ヨーク

「は……?」



 やがて炎は消えた。


 迷宮の壁に、深い深い横穴が出現していた。


 炎は、奥が見通せないほどに深く、迷宮の壁を抉っていた。


 迷宮は頑丈だ。


 並の魔弾銃では、100万発撃ち込んでも、こうはならないだろう。


 見るも無惨なありさまだが、迷宮には、自己再生機能が有る。


 大穴は少しずつ、修復されていった。



ミツキ

「……………………????????」



 ミツキの頭の上で、特大の疑問符がグルグルと回った。



ヨーク

「……どういうことだ?」


クリスティーナ

「そんなのボクが聞きたいよ!」


クリスティーナ

「こんなの……神話に出てくる神の兵器じゃないか……!」


リホ

「ひょっとして……」


ミツキ

「何か心当たりが?」


リホ

「ウチが天才すぎるせいで、無意識のうちにとんでもない物を発明してしまったっスか?」


ヨーク

「ソウデスネ」


ヨーク

「魔弾銃は、高レベルの魔術師には、かなわないっていう話だったよな?」


ヨーク

「けど、今のは俺が全力で放った呪文と、同じくらいの威力が有った」


リホ

「えっ? アレ撃てるんスか?」


ヨーク

「撃てるけど、問題はそこじゃなくて……」


クリスティーナ

「いやいや。それも問題だと思うけど」


クリスティーナ

「ブラッドロードさんは人間だよね?」


ミツキ

「……?」


ミツキ

「ご主人様はかみさまですよ?」



 ミツキは目をグルグルさせながら言った。



ヨーク

「いきなり何言ってんの?」


リホ

「さっきのショックで頭おかしくなってるっス」


ヨーク

「それより、結局何がどうなってんだよ」


ミツキ

「あっ、分かりました」


リホ

「ミツキ。頭だいじょうぶっスか?」


ミツキ

「失礼ですね。私は正常です」


ヨーク

「それで? 正常に考えると、何がどうなるんだよ?」


ミツキ

「おそらくは、ヨークのレベルが原因なのだと思われます」




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