6の7「イジューと糾弾」
クリスティーナ
「取ってくるって……ドロップアイテムなんて簡単に手に入る物じゃ無いだろう?」
ヨーク
「いや。そうでも無いんだが……」
クリスティーナ
「…………?」
具体的な話をするには、ヨークのスキルについて話をする必要が有った。
あまりスキルについてベラベラと喋るべきではない。
幼馴染から、そう警告を受けていた。
だが、ヨークの目には、クリスティーナたちは、悪い人間では無いように見えた。
エボンに対しても、ヨークは同様に評価していた。
彼女たちになら、話しても構わないだろうか。
ヨークはそう考え、口を開いた。
ヨーク
「一応は、ここだけの話にしといてくれるか?」
そう言ってヨークは、ちらりとミツキを見た。
ミツキ
「…………」
ミツキには、ヨークを止める素振りは無かった。
クリスティーナ
「うん? ああ」
ヨーク
「エボンさんも黙っといてくれよ」
エボン
「分かった」
マリー
「私は……?」
ヨーク
「頼む」
マリー
「うん……頼まれた……」
ヨーク
「それじゃあ言うけどさ」
ヨーク
「俺のスキルは、アイテムドロップを強化出来るんだ」
ヨーク
「ドロップの確率は増えるし、品質も良くなる」
ヨーク
「だから、魔光銀を手に入れるのも、そんなに難しいことじゃ無いんだ」
クリスティーナ
「っ……! そんなスキル聞いたことも無いよ……!?」
ヨーク
「レアスキル持ちなんだ。俺は」
エボン
「なるほどなあ」
大きな驚きを見せたクリスティーナに比べ、エボンの反応は穏やかだった。
年齢によるものか。
それとも、生まれ持った本人の性格か。
とにかく、エボンはすんなりと、ヨークの言葉を受け入れた様子だった。
クリスティーナ
「信じるのかい?」
自分と温度差の有るエボンを見て、クリスティーナがそう尋ねた。
エボン
「俺に嘘ついて、誰が得すんだよ」
クリスティーナ
「…………」
周囲が動じていないのを見て、クリスティーナも平静さを取り戻したようだ。
落ち着いた口調で、こう言った。
クリスティーナ
「それじゃあ……お願いしても良いかな?」
ヨーク
「分かった」
リホ
「むぅ……」
ヨークがクリスティーナに味方すると知って、リホはつまらなさそうな顔を見せた。
エボン
「それで、結局どうするんだ?」
エボンは開発する魔導器について尋ねた。
エボン
「魔光銀で作っちまって良いのか?」
ヨーク
「ああ。良いよな?」
ミツキ
「はい。よろしくお願いします」
クリスティーナ
「…………」
魔弾銃に高級素材を使うことに、クリスティーナにはまだ、思うところが有るようだった。
だが、用意された魔光銀は、ヨークたちの所有物だ。
強く口出しすることもできなかった。
……。
一行は、エボンの店を出た。
クリスティーナとマリーは、ヨークたちとは別行動することになった。
クリスティーナ
「……それじゃ、また夜に」
マリー
「またね」
ヨーク
「ああ」
別れの挨拶を済ませたとき、リホが口を開いた。
リホ
「えっ? 夜って何すか?」
ヨーク
「日が沈んだ時間帯のことだ」
リホ
「そういう意味じゃ無いっス!?」
ミツキ
「彼女の家の晩餐に、招待されているのですよ」
リホ
「正気っスか?」
ヨーク
「じゃあおまえ留守番な」
リホ
「えっ?」
ヨーク
「俺とミツキの2人で行くけど良いか?」
クリスティーナ
「うん。構わないよ」
リホ
「待つっス! ウチも行くっス!」
ヨーク
「正気か?」
リホ
「むしろ天才っス」
ヨーク
「良いか?」
クリスティーナ
「え? うん。別に、構わないよ?」
クリスティーナは、少し挙動不審になって言った。
ヨークはそれを妙に思ったが、あえて言及することは無かった。
ヨーク
「待ち合わせはどうするんだ?」
クリスティーナ
「夕方になったら、君たちの宿まで迎えに行くよ」
ヨーク
「分かった。それじゃ」
クリスティーナ
「うん」
クリスティーナは、マリーの車椅子を押しながら、ヨークから遠ざかっていった。
2人の姿が小さくなると、ヨークはリホに声をかけた。
ヨーク
「これからどうする?」
リホ
「ウチは魔石の刻印をしないといけないっス」
ヨーク
「そうか。じゃあ俺たちは迷宮に行くかな」
ミツキ
「はい」
……。
クリスティーナは、マリーと一緒に家に帰った。
それから1人で家を出て、勤め先であるドミニ工房に向かった。
彼女は早足で、正面から工房に入った。
そして、最短ルートで社長室へ向かった。
ノックも無しに、クリスティーナは社長室の扉を開いた。
そして無遠慮に、社長室へと入っていった。
社長室には、イジュー=ドミニの姿が有った。
イジューは革張りの椅子に腰かけ、何かの書類に目を通していた。
クリスティーナ
「社長」
クリスティーナに呼ばれ、イジューは書類から顔を上げた。
そして意外そうに、クリスティーナを見た。
イジュー
「どうした? 何か問題でも起きたか?」
クリスティーナ
「そうですね。非常に重大な問題が」
クリスティーナは責めるような声音で言った。
イジュー
「対応する。早く言え」
クリスティーナ
「ミラストックさんのことです」
イジュー
「あいつがどうした?」
クリスティーナ
「とぼけないで下さい!」
クリスティーナは声を荒らげた。
クリスティーナ
「彼女が工房を辞めたと言って、本当はクビにしていたんですね……!?」
イジュー
「そうだな」
表情一つ変えず、イジューは肯定した。
クリスティーナ
「っ……!」
ふてぶてしいイジューの態度に、クリスティーナの気勢が削がれた。
クリスティーナ
「どうしてそんなことを……?」
イジュー
「お前に話す必要が有るか?」
クリスティーナ
「彼女を失ったことは、工房にとって大きな損害です」
クリスティーナ
「私だけではなく、社員全員に話す義務が有ると思いますが」
イジュー
「ミラストックを解雇したのは、政治的判断によるものだ」
イジュー
「一見損失のように見えても、全体で見ればプラスになっている」
イジュー
「だが、それを馬鹿正直に話せば、社員に動揺が走る」
イジュー
「だから伏せた。以上だ」
クリスティーナ
「政治的判断……? 何ですかそれは?」
イジュー
「お前が知る必要は無い」
クリスティーナ
「そんな物言いで、納得しろと言うのですか……?」
イジュー
「出来ないか?」
クリスティーナ
「当たり前です……!」
イジュー
「ならばどうする?」
イジュー
「お前には、内定が決まった時から目をかけてやった」
イジュー
「私が居なければ、お前の研究は半分も進んではいなかっただろう」
クリスティーナ
「恩は返しているはずです!」
クリスティーナ
「ボクが開発した魔導器は……この会社に十分な利益をもたらしている……!」
イジュー
「……十分に恩は返したか。なるほど。そう考えているわけだ」
イジュー
「ならば、私を糾弾するか?」
クリスティーナ
「それは……」
イジュー
「私の弱みを知っているお前なら可能だ」
イジュー
「どうする? 私をこの社長の椅子から引きずりおろすか?」
クリスティーナ
「そんな……」
クリスティーナ
「そんなこと……出来るわけが無い……」
クリスティーナ
「分かっているくせに……!」
イジュー
「ならば、話は終わりだ」
イジュー
「さっさと業務に戻れ。サザーランド」
クリスティーナ
「十分に働いていますよ。ボクは」
クリスティーナは、イジューに背を向けた。
イジュー
「……待て」
社長室を去ろうとした彼女を、イジューが呼び止めた。
クリスティーナ
「何か?」
クリスティーナは、振り返らずに尋ねた。
イジュー
「会ったのか? ミラストックに」
クリスティーナ
「はい。偶然町で。それが何か?」
イジュー
「どうだった? 彼女の様子は?」
クリスティーナ
「イケメンに、おんぶされてましたよ」
イジュー
「うん? ……どういうことだ?」
クリスティーナ
「失礼します」
クリスティーナは出入り口のドアノブに手をかけた。
イジュー
「あっ、おい」
イジューはさらに、クリスティーナを呼び止めようとした。
だがクリスティーナはそれを無視し、ドアから廊下へと去っていった。
ドアが閉じられ、社長室に居るのは、イジュー1人になった。
イジュー
「むう……」
……。
ヨークたちは迷宮で、ドロップアイテムを収集した。
そして宿屋に戻ると、シャワーを浴び、身綺麗にして、別の服に着替えた。
着替えが終わったヨークは、バニの部屋へと向かった。
部屋の前に立つと、ヨークは扉をノックした。
バニ
「どうぞ~」
部屋の中から、バニの声が聞こえてきた。
ヨークは扉を開き、部屋の中へと入った。
ベッドの上に、バニがごろごろと転がっていた。
隣のベッドには、キュレーの姿も見えた。
バニ
「あっ、ヨーク」
客人がヨークだと分かると、バニは起き上がり、微笑みを見せた。
ヨーク
「あのさ……」
ヨーク
「今日、俺たち3人は、外でメシ食うことになったから」
ヨーク
「一応報告しとく」
キュレー
「どこで食べるの?」
ヨーク
「クリスティーナの家」
バニ
「えっ? クリスティーナって誰?」
聞き慣れない女の名に、バニの笑みが引っ込んだ。
ヨーク
「友だちかな。んじゃ」
報告だけ済ませると、ヨークはさっさと退出していった。
残されたバニは、キュレーの方を見た。
バニ
「クリスティーナって誰?」
キュレー
「友だちかな」




