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6の4「出会いと誤解」



ヨーク

「違うけど?」


クリスティーナ

「だったら、ボクの可愛い妹と、何をしていたというのかな?」


マリー

「聞いて。姉さん」


クリスティーナ

「うん。何だい? マリー」


マリー

「その人は……ナンパの人から助けてくれた。良い人」



 車椅子の少女がそう言うと、ヨークを睨んでいた少女の表情が、和らいだ。



クリスティーナ

「そうなのかい?」



 その少女は、ヨークを睨むのを止めると、そう尋ねてきた。



ヨーク

「まあな」



 ヨークは短く答えた。



クリスティーナ

「……そうか。疑って悪かったね」


ヨーク

「分かってくれたなら良い」


クリスティーナ

「妹を守ってくれてありがとう」


クリスティーナ

「ボクはクリスティーナ=サザーランド。秀才魔導技師だ」



 クリスティーナと名乗った少女は、ヨークに微笑みかけた。



ヨーク

「秀才って。そこは天才って言うところじゃ無いのかよ」


クリスティーナ

「そこまで自惚れちゃいない」


ヨーク

「しっかし、魔導技師か」


クリスティーナ

「何だい?」


ヨーク

「ついこの前も、魔導技師と知り合ってな」


ヨーク

「偶然ってのは続くもんだな」


クリスティーナ

「ふ~ん?」


ヨーク

「その車椅子、おまえが作ったのか?」


クリスティーナ

「まあね」


ヨーク

「凄いな」


クリスティーナ

「えっ? ありがとう」


マリー

「姉さん」


クリスティーナ

「マリー?」


マリー

「姉さんだけ自己紹介して……ずるい……」


クリスティーナ

「ああ。ごめんよ」



 クリスティーナは、車椅子の後ろへ移動した。


 そして、妹の肩に手をかけて言った。



クリスティーナ

「さあ、思う存分自己紹介するんだ」


マリー

「…………」


ヨーク

「…………」


マリー

「私は……マリー=サザーランド……」


マリー

「まだ学生」


ヨーク

「そうか。俺はヨーク=ブラッドロード」


ヨーク

「冒険者だ」


マリー

「冒険者……」


クリスティーナ

「商会の人かい?」



 突然に、クリスティーナがそう尋ねてきた。


 いきなりの質問に戸惑いながら、ヨークはこう答えた。



ヨーク

「商会? いや。違うが」


クリスティーナ

「そうなんだ?」


ヨーク

「…………?」



 ヨークの疑問は消えなかった。


 どうしてそんな質問をしてきたのか。


 ヨークは逆に尋ねてみようかとも思った。


 そのとき。



フルーレ

「ヨーク!」



 シートの方から、フルーレが声をかけてきた。



フルーレ

「いつまでナンパしてるんだ!?」



 フルーレは大きめの声で、責めるようにそう言った。


 クリスティーナはそれを見て、ヨークにジト目を向けた。



クリスティーナ

「……やっぱりナンパだったのかい?」


ヨーク

「女連れでナンパするかよ。アホ」


クリスティーナ

「あ……あほ……?」


ヨーク

「連れが呼んでるから、もう行くぞ」


ヨーク

「じゃあな」



 ヨークは2人から離れていった。



クリスティーナ

「……失礼なやつだな」



 自分をアホ呼ばわりしたヨークに、クリスティーナはそんな感想を漏らした。



マリー

「姉さんも失礼だったと思うけど」



 恩人を、いきなりナンパ呼ばわりしている。


 マリーからすれば、お互い様に見えたようだった。



クリスティーナ

「ぐ……」



 妹に責められて、クリスティーナは苦しげな顔を見せた。



クリスティーナ

「あれはマリーが絡まれてると思って……」



 ヨークはシートへと帰還した。


 そこへエルが声をかけてきた。



エル

「お帰りなさいませ」


ヨーク

「ただいま」



 ヨークはエルに微笑んだ。


 次に、フルーレが口を開いた。



フルーレ

「女が2人に増えた時は、もう帰ってこないかと思ったぞ」


ヨーク

「なんでだよ」


エル

「何事も無くて良かったですね」


フルーレ

「私は、ヨークが戦う所が見られるかと思ったんだが」


ヨーク

「戦いにはなんねーよ」



 ヨークはそう断言した。


 ヨークの戦闘能力は、人間の域を超えている。


 ただのナンパ男に襲いかかられても、小指で撃退できる。


 いや……。


 もし屈強な冒険者が相手でも、結果は大差無いだろう。


 ヨークはそう考えていた。



フルーレ

「ガッカリだ」


ヨーク

「どんだけ喧嘩に飢えてんの? やばい奴だな」


フルーレ

「えっ」



 固まるフルーレを尻目に、エルはお弁当に手を伸ばした。


 そして、肉料理にフォークを刺すと、ヨークの口へと運んだ。



エル

「はい、どうぞ」


ヨーク

「うん。美味い」



 ヨークは妹が用意したランチを堪能した。


 食事を終えると、3人で町を回った。


 やがて日暮れ時になった。


 ヨークは2人を、メイルブーケ邸まで送り届けた。



エル

「わざわざ送り届けて下さり、ありがとうございます」



 メイルブーケ邸の庭の前で、エルは丁寧に頭を下げた。



ヨーク

「気にすんなよ。それじゃ」


フルーレ

「ああ。また遊ぼう」



 ヨークはフルーレたちに背を向けた。


 途中でお土産にお菓子を買い、宿に帰還すると、ミツキたちと一緒に夕食をとった。


 だらだらと過ごしていると、辺りはすっかり暗くなった。


 ヨークはのんびりと、ベッドに寝転がった。



ヨーク

「なあ、リホ」



 ヨークはリホに声をかけた。


 くつろぐヨークやミツキと違い、彼女だけは、作業台と向き合っていた。


 リホはヨークには視線を向けず、前を向いたまま答えた。



リホ

「何スか?」


ヨーク

「今日公園で、魔導技師に会ったよ」


リホ

「別に魔導技師なんて、珍しく無いと思うっスけど」


ヨーク

「それが、俺と同い年くらいの女の子なのに、もう自分の作品を作ってるんだ」


リホ

「ウチはヨークより若いっスけど」


リホ

「……ちなみに、そいつは何作ってるんスか?」


ヨーク

「車椅子を作ったっぽいな」


リホ

「車椅子?」


ヨーク

「手で動かさなくても、勝手に走るんだ。凄いだろ?」


リホ

「…………」



 作業台の方を向いていたリホが、初めてヨークを見た。



ヨーク

「どうした?」



 ヨークはリホと目を合わせながら尋ねた。



リホ

「別に。何でもないっス」



 リホはヨークから目を逸らし、再び作業台に向き直った。


 そして言った。



リホ

「ウチだったら、車椅子なんかより、人気が出る物を作れるっスよ」


ヨーク

「そうか。リホも凄いな」


リホ

「……そうっスね」


ヨーク

「……そろそろ寝るわ」



 ヨークはそう言って、布団をかぶった。



リホ

「お休みっス」


ヨーク

「リホもあんま夜更かしすんなよ?」


リホ

「眠くなったら寝るっス」


ヨーク

「ん……。ミツキもおやすみ」


ミツキ

「はい。おやすみなさい」



 ヨークは目を閉じた。


 リホが作業用の明かりをつけている。


 おかげで少し、寝付きにくいような気がしていた。


 だがそれは杞憂だったようで、やがてヨークは、眠りへと落ちていった。




 ……。




リホ

「ブラッドロード……起きるっス……」



 ベッドで目を閉じるヨークに、リホが声をかけた。



ヨーク

「ん~……」



 ヨークは眠そうに目を開いた。


 そして、窓の方を見た。


 朝日が差し込んでくる気配は無かった。


 まだ日の出どきではないようだ。



ヨーク

「まだ暗いぞ……今何時だよ?」


リホ

「知らないっス……」



 リホは眠そうに言った。



ヨーク

「何かあったのか?」


リホ

「図面……出来たっス……」


ヨーク

「もう出来たのか」


リホ

「フ……フフ……」


リホ

「ウチの方が……凄いっス……」



 リホはそう言って、ヨークの上に倒れこんだ。


 そして寝息を立て始めた。



リホ

「すぴ~……」


ヨーク

「コイツ一瞬で寝やがった」



 どれだけ眠かったのか。


 とっとと寝れば良かったものをと、ヨークは呆れた。


 それからヨークは、布団から抜け出した。



ヨーク

「ほれ、ちゃんとベッドで寝ろ」



 ヨークはリホを抱え上げると、ミツキのベッドに運んだ。


 ミツキの隣にリホを寝かせると、布団をかけて、自分のベッドに戻った。



ヨーク

「お休み」



 ヨークは眠り直そうとした。


 だが……。



リホ

「んぅ……」



 リホはベッドから起き出すと、ヨークのベッドに入ってきた。


 そしてすぅすぅと眠ってしまった。



ヨーク

「お前起きてるのか寝てるのかどっちだよ」


リホ

「……………………」


ヨーク

(……まあ良い。寝るか)



 ヨークは目を閉じた。


 隣からは、リホの体温が感じられた。


 やがて、夜明けになった。



ミツキ

「ん……」



 ミツキは起床した。


 ベッドから起き出したミツキは、まずは部屋のカーテンを開けた。


 それからヨークを起こすべく、彼のベッドに向かった。



ミツキ

「ヨーク……」



 ミツキがヨークに声をかけた、そのとき……。



リホ

「んゃ……」



 ミツキはヨークのベッドで、リホが寝ているのに気付いた。



ミツキ

「ヨーク。起きて下さいヨーク」



 ミツキはヨークの体を、がしがしと揺さぶった。


 するとヨークが目を開いた。



ヨーク

「ん……。おはよう」


ミツキ

「はい。おはようございます」


ミツキ

「どうしてリホさんが、そちらのベッドで寝ているのですか?」


ヨーク

「さあ? 甘えん坊だからだろ?」


ミツキ

「なるほど?」


ミツキ

「リホさん。リホさん」



 ミツキはリホを、揺り起こそうとした。


 それをヨークが止めた。



ヨーク

「寝かしといてやってくれ」


ヨーク

「なんか夜更かししてたみたいだしな」


ミツキ

「夜更かし? 何故?」


ヨーク

「作業の区切りが悪かったんだろ」


ヨーク

「寝る前に、図面が出来たって言ってたぞ」


ミツキ

「もう出来たのですか?」


ヨーク

「そう言ってた」


ミツキ

「前の運命よりも1日早い……」


ヨーク

「まずいのか?」


ミツキ

「いえ」


ミツキ

「リホさんの件で、防がなくてはならない出来事は、2つだけです」




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