表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

152/226

6の2「デートとベンチ」



 迷宮の深層。


 73層。


 ヨークとミツキは、リホのための素材の採取を終えていた。


 だが、ミツキの剣の素材を得るために、さらに狩りを続けていた。


 ヨークの魔剣が、ダークゴーレムを切り裂いた。


 前の運命の時は、ヨークの剣に、これほどの威力は無かった。


 今、彼の剣は、ゴーレムを倒すほどの成長を遂げていた。


 ゴーレムが消滅すると、後には魔石と金属塊が残された。



ミツキ

「これで十分でしょう」



 ミツキは魔石と金属塊を拾い上げ、スキルで『収納』した。


 そしてヨークに声をかけた。



ミツキ

「リホさんがナンパされる前に帰りますよ」


ヨーク

「え? あいつ宿屋だろ?」


ヨーク

「最近のナンパは宿屋にも湧くのかよ」


ミツキ

「良いから、走りますよ」


ヨーク

「あいよ」



 ミツキは走り出した。


 ヨークもその後に続いた。


 2人は目にも留まらぬ走りで、迷宮から脱出していった。


 迷宮を出た2人は、大階段の上の広場に立った。


 空を見上げると、既に夕方になっていた。



ヨーク

「ん?」



 ヨークが何かに気付いた様子を見せた。



ミツキ

「何でしょう」


ヨーク

「あいつ、リホじゃないか?」



 ヨークはそう言って、広場の一点を指さした。


 そこに、リホらしき少女が立っていた。



ミツキ

「そうですね」


ヨーク

「おーい。リホ」



 ヨークはリホの名を呼びながら、彼女に駆け寄った。



ヨーク

「何してるんだ? こんな所で」


リホ

「ブラッドロード……?」


ヨーク

「何だよその疑問系は。宿に戻ったんじゃないのか」


リホ

「なんとなく……気になって……」


ヨーク

「素材なら、活きの良いのが獲れたぜ」


リホ

「魚?」


ヨーク

「何言ってんだお前」


リホ

「えっ?」



 ヨークたちは、3人で宿に帰還した。



 そして翌朝を迎えた。



ミツキ

「ヨーク。朝ですよ」



 ベッドで目を閉じるヨークに、ミツキが声をかけた。



ヨーク

「ん……」



 ヨークは目を開いた。


 ヨークの瞳に、ミツキの微笑みと、窓からさしこむ日光が見えた。



ヨーク

「おはよう。ミツキ」



 ヨークはミツキに微笑みを返した。



ミツキ

「はい。おはようございます」



 朝の挨拶を終えると、ミツキはヨークから視線を外した。


 そして、自分のベッドの方へと向き直った。


 ミツキのベッドの上では、同居人となったリホが、寝息を立てていた。



ミツキ

「リホさん。起きて下さい」



 ミツキはリホに声をかけた。


 それでも起きる様子が無かったので、ミツキはリホの肩に手をかけた。



リホ

「う……」



 ゆさゆさと体を揺さぶられると、リホは眠そうに目を開いた。


 そして体を起こし、ミツキに朝の挨拶をした。



リホ

「おはようっス」


ミツキ

「はい。おはようございます」



 ミツキとの挨拶が終わると、リホは上体を横へと向けた。


 そして、ヨークの方を見て言った。



リホ

「ブラッドロードもおはようっス」


ヨーク

「ああ。おはよう」



 それから3人は、朝の身支度を済ませた。


 そして、食堂で朝食を済ませると、一度部屋に戻った。


 ヨークは着替えを持って、洗面所に向かった。



リホ

「あれっ? また着替えるんスか?」


ヨーク

「ああ。今日はデートの約束が有るんだ」


リホ

「えっ? ブラッドロード、恋人が居るんスか?」


ヨーク

「いや。あいつは妹みたいなもんだ」



 ヨークにそう言われ、リホはほっとした様子を見せた。



リホ

「……そうっスか」



 ヨークは洗面所の方で着替えると、寝室に戻ってきた。


 彼の格好は、いつもの冒険者スタイルとは違う、小洒落た服装になっていた。


 ヨークは腕を広げて、ベッドに座るミツキとリホに、自分の姿を見せた。



ヨーク

「どうだ? 初めて着るんだが」


ミツキ

「素敵ですよ」


リホ

「まあ……似合わなくは無いっスね」


ヨーク

「良かった」



 それぞれの感想を聞き、自信を持ったらしいヨークは、出口へと向き直った。



ヨーク

「それじゃ、行ってくる」


リホ

「もう行くんスか?」



 リホが尋ねた。


 時刻はまだ、8時前だった。


 デートの待ち合わせとしては、少し早いのではないか。


 リホはそう思ったらしい。



ヨーク

「ああ。朝型なんだろうな。エルは」


ミツキ

「……そうですね」



 ミツキはつまらなさそうに言った。


 それに対し、ヨークは楽しそうに言った。



ヨーク

「何か土産買ってくるか?」


リホ

「甘いものが良いっス」


ヨーク

「ミツキは?」


ミツキ

「同じで良いですよ」


ヨーク

「分かった。じゃ」



 ヨークは寝室を去った。


 ミツキはリホと2人きりになった。



ミツキ

「私も少し外出しますね」



 ミツキはそう言うと、ベッドから立ち上がった。



リホ

「どこに行くんスか?」



 リホは、ベッドに座ったまま尋ねた。



ミツキ

「武器屋へ」


ミツキ

「今まで使っていた剣が、そろそろ折れてしまうので」


リホ

「了解っス」


ミツキ

「行ってきます」


リホ

「行ってらっしゃいっス」



 リホに見送られ、ミツキは寝室を出た。


 そして宿屋を出て、まっすぐに武器屋に向かった。


 武器屋に入ると、そこにはエボンの姿が有った。


 ミツキは自分から、エボンに話しかけた。



ミツキ

「おはようございます。エボンさん」


エボン

「おう。今日は早いな。ボウズ」



 エボンは気の良い笑みで、ミツキを出迎えた。



ミツキ

「そうですね」


ミツキ

「今日はヨークが、友人と健全な遊びに行ってしまったので」


エボン

「逆に不健全みたいじゃねえか。その言い方」


ミツキ

「それより、お願いしたいことが有るのですが」


エボン

「何でも言ってくれ」


ミツキ

「それでは……」



 ミツキはスキルを使い、金属塊を取り出した。


 先日迷宮で集めたものだ。


 ミツキはそれを、空いているテーブルに置いた。


 ずしりと重そうな音が聞こえた。



エボン

「こいつは……!」


ミツキ

「これで頑丈な剣を作って欲しいのです」


エボン

「頑丈って……」


エボン

「前に売ったやつで十分だろ?」


ミツキ

「あれはもうすぐ折れる予定なので」


エボン

「えぇ……売ったばっかだろ」


エボン

「あの剣を、どんな使い方したら折れるんだよ」



 呆れた様子のエボンを見て、ミツキは大剣を取り出した。


 そして言った。



ミツキ

「今、折りましょうか?」



 エボンには、そのときのミツキの声が、とても冗談には聞こえなかった。



エボン

「止めてくれ」


エボン

「頑張って造ってんだぞ? それでも」


ミツキ

「それは……すいません」



 ミツキはエボンに謝罪すると、剣を収納した。



ミツキ

「ですが、私には剣が必要なのです」


ミツキ

「決して折れない頑強な剣が」


エボン

「ドラゴンとでも戦うのか?」


ミツキ

「いえ」


ミツキ

「蜘蛛ですかね。大きい」


エボン

「うぇ……」



 どんな魔獣を想像したのか、エボンは気持ち悪そうにしてみせた。



エボン

「蜘蛛苦手なんだ。俺」


ミツキ

「奇遇ですね。私もです」




 ……。




 ヨークは、エルとの待ち合わせ場所である、噴水広場に向かった。



フルーレ

「やあ。ヨーク」



 噴水に近付くと、フルーレがヨークに声をかけてきた。


 フルーレの隣には、エルの姿も有った。



エル

「ヨーク様」


ヨーク

「お待たせ」


エル

「いえ。今来たところです」


ヨーク

(こういう場合の『今』っていつだろうな? ん……?)



 ヨークはエルが、ピクニックバスケットを持っていることに気付いた。


 それで尋ねた。



ヨーク

「その鞄は?」


エル

「お弁当です」


ヨーク

「俺が持つよ」


エル

「いえ。あっ……」



 エルの身分は奴隷だ。


 主人の友人であるヨークに、荷物を持たせるわけにはいかない。


 そんなエルの考えなど一顧だにせず、ヨークは強引に、バスケットをもった。


 自分はエルのお兄ちゃんだ。


 お兄ちゃんが妹の荷物を持つのは、当然のことだ。


 そう考えていた。



ヨーク

「それで、どこに行こうか?」



 今日のデートに関し、ヨークはノープランだった。


 2人の行きたい場所に行けば良い。


 そう思っていた。



フルーレ

「ヨーク。こういう時は、男の方がデートプランを考えてくるものだぞ?」


ヨーク

「そうなのか」


フルーレ

「そうなのだ」


ヨーク

「悪いな。今考えるから……」


フルーレ

「だが、こんなこともあろうかと!」



 フルーレはどこからともなく、3枚のチケットを取り出した。



フルーレ

「観劇のチケットを用意してきた。感謝するが良い」


ヨーク

「プランは男が考えるんじゃ無かったのか?」


フルーレ

「見たかったんだ。私が」


ヨーク

「それなら仕方ないな」


フルーレ

「うむ」


ヨーク

「何時からだ?」


フルーレ

「9時半だな」


ヨーク

「まだちょっと有るな。何かしても良いが……」



 ヨークは、噴水の周囲に有るベンチに目をやった。



ヨーク

「たまにはゆっくりするか」



 ヨークはベンチの中央に座った。


 そして、自分の両隣を、ポンポンと叩いた。



ヨーク

「座れよ」


フルーレ

「あ、ああ」


フルーレ

「行くぞ。エル」


エル

「ですが……!」


フルーレ

「臆するな! それでもメイルブーケに仕える者か!」


エル

「……はい!」


ヨーク

(……何やってんだ?)



 フルーレは、のっしのっしと歩いてきて、ヨークの左に座った。


 エルは、ちょこちょこと走ってきて、フルーレとは逆側に座った。


 2人の少女の体が、ヨークと密着した。



エル

「あ……あぅ……」


ヨーク

「ん……。ちょっと狭いか」



 このベンチは、3人で座るには、狭かったかもしれない。


 そう思ったヨークは、立ち上がろうとした。



ヨーク

「俺が立って……」



 そのとき。


 立とうとしたヨークの腕を、フルーレが掴んだ。



フルーレ

「待て。早まるな」


ヨーク

「……何を?」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ