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その12





ミツキ

「ごちそうさまでした」



 ミツキは野蛮な村民に少し強奪された串焼きを、完食した。



ヨーク

「ああ。お前……」



 ヨークはミツキの手を取った。


 ヨークの口がミツキの指を吸った。



ミツキ

「……何ですか?」



 ミツキは表情を崩さずに問うた。



ヨーク

「タレがついてた」


ミツキ

「勝手に人の指を舐めないで下さい。失礼ですよ」


ヨーク

「お前もやったじゃん」



 ヨークは首輪の登録の時のことを持ち出した。


 あのときは、切って血を流したヨークの指を、ミツキが舐めていた。



ミツキ

「ッ……! あれは医療行為ですから。話が違います」


ヨーク

「そうなのか?」



 自分は失礼なことをしたのか。


 ヨーク本人にあまり実感は無かったが、一応謝ることに決めた。



ヨーク

「悪い」


ミツキ

「心から反省しているのですか?」


ヨーク

「はいはい」


ミツキ

「私が寛大で無ければ、裁判に発展していましたよ?」


ヨーク

「いや、それは無いだろ」


ミツキ

「権利意識が低いですよ。ヨーク」


ミツキ

「村民丸出しですね。村臭いです」


ヨーク

「村は関係ねぇだろ!?」


ミツキ

「マナーを弁えないとハイソサイアティな方々に馬鹿にされますよ?」


ヨーク

「ハイソ……?」


ミツキ

「都民化しなさい。トミナイゼイションです」



 ミツキはまるでテクニカルタームであるかのごとく、造語を繰り出した。


 3秒ほど前に作ったものだ。


 村民は造語に圧迫された。



ヨーク

「んなこと言われても……」


ミツキ

「とにかく、女性の肌にみだりに触れるような事は、厳禁です」


ミツキ

「特に、舌で舐めるなど言語道断です」


ミツキ

「二度としないこと。分かりましたね?」


ヨーク

「分かった」


ミツキ

「よろしい」


ヨーク

「それじゃ、行くか」


ミツキ

「はい。どちらへ?」


ヨーク

「早くラビュリントスに行きてーな。けど、店を回るのも良いかも」


ミツキ

「慌てないで。まずは宿を探してはいかがですか?」


ヨーク

「宿か。それもそうだな」


ヨーク

「行くか」


ミツキ

「行きましょう」



 ヨークたちはそれらしい建物を探しながら、石畳の街路を歩いた。



ヨーク

「あれ、そうかな?」



 ヨークは2階建ての建物の、看板を指差して言った。



ミツキ

「多分」



 二人は宿屋らしき建物の中へと入っていった。


 街路とは別の石材を、ヨークの靴底が叩いた。



ヨーク

「こんにちは~。ここって宿屋で合ってますか?」


店主

「はい。いらっしゃ……」



 来店したヨークを、店主は笑顔で出迎えた。


 だが、その笑顔はすぐにおさまってしまった。



ヨーク

「部屋、空いてますかね?」



 ヨークは雰囲気の変化に気付かず、問いかけた。



店主

「……帰ってくれ」



 店主は無愛想にそう答えた。



ヨーク

「満室でしたか?」


店主

「良いから、帰ってくれ」


ヨーク

「何だよその態度……」



 相手の拒絶に対し、ヨークの口調も棘を帯びた。



ミツキ

「行きましょう」



 店主に何か言おうとしたヨークの袖を、ミツキが引いた。



ヨーク

「ミツキ?」


ミツキ

「無理を言ってはいけません」


ミツキ

「さあ、行きましょう」



 クラスの力によって、ミツキは怪力になっている。


 ヨークはずるずると外へ引きずり出された。



ヨーク

「何なんだ……?」


ミツキ

「もしかすると……私のせいかもしれません」


ヨーク

「え?」


ミツキ

「私が奴隷だからなのかも……」


ヨーク

「この国だと、奴隷は認められてるんじゃないのか?」


ミツキ

「法律が全てではありませんから」


ミツキ

「何か悪い印象を、持たれてしまったのかもしれません」


ヨーク

「何だよそれ……」


ミツキ

「可能性の話ですので」


ミツキ

「他の宿屋もあたってみましょう」


ヨーク

「……分かった」



 ヨークは別の宿を見つけ、入店した。



サトーズ

「いらっしゃいませ」



 ヨークよりも先に、店主らしき男が口を開いた。


 男はカウンターの奥から、ヨークに視線を向けていた。


 小柄で、年齢は40ほど。


 人族。


 白シャツの上に、グレーのフォーマルジャケットを着用している。


 髪は茶で、レンズが小さめの丸メガネを身に着けていた。


 頭にはツバの無い、丸い帽子が浅く被さっている。


 商人には帽子を好むものが多い。


 ヨークはそんな印象を持っていたが、理由までは分からなかった。



ヨーク

「宿泊出来ますか?」


サトーズ

「もちろん」


サトーズ

「……一人部屋で構いませんか?」


ヨーク

「二人居る。見えないのか?」



 ヨークは店主らしき男を睨んだ。


 敬語を使う気分では無くなっていた。



サトーズ

「気を悪くしたならすいません」


サトーズ

「奴隷連れのお客さんは、始めてだったので」


サトーズ

「同じに扱ったら、逆に失礼かと思ったのですが」


ヨーク

「俺と彼女は対等だ」


サトーズ

「対等? 奴隷なのにですか?」


ヨーク

「悪いか?」


サトーズ

「……いえ。それでは、二人部屋が一つでよろしいでしょうか?」


ヨーク

「助かる」


ヨーク

「……前に行った宿屋じゃ、宿泊を断られてな」


サトーズ

「奴隷は駄目だと言われたのですか?」


ヨーク

「直接言われたわけじゃないが……」


ヨーク

「他に……何か理由が有ったんだろうか?」



 ヨークにとって、王都は別世界だ。


 その意図を汲めと言われても、難しかった。



サトーズ

「ええと……怒らないでいただけますか?」


ヨーク

「何だ?」


サトーズ

「断られたのは、お客さんが魔族だからかもしれませんね」


ヨーク

「魔族? 俺はハーフだ」



 純血の魔族は、耳が尖っている。


 ハーフであるヨークの耳は、丸かった。


 人族と同じ形をしていた。


 それに、純血の魔族より、ヨークの肌色は薄い。


 きちんと見れば、ヨークが純粋な魔族で無いということは、明らかだった。



サトーズ

「失礼。人はまず耳よりも、肌を見ますからね」


サトーズ

「青い肌を見たら、魔族だって思います」


サトーズ

「それに、ハーフと魔族は同じだって言う人も居る」



 少しでも魔族の血が混じっているのなら、人族では無い。


 ならば、魔族だろう。


 そう考える人たちも居た。



ヨーク

「だったら何だ」


サトーズ

「その宿の主人は、『魔族嫌い』だったのかもしれません」


ヨーク

「魔族嫌い……? 何だそれは?」


サトーズ

「分からないのですね?」


ヨーク

「悪いか?」


サトーズ

「いえ。お客さんが住んでた町は、随分良い所だったらしい」


ヨーク

(村だが)


サトーズ

「王都には、種族が違うというだけで、相手を嫌う連中が沢山居ます」


ヨーク

「どうして? 俺が魔族だったら何なんだ?」


サトーズ

「かつては戦争をしていた相手です」


サトーズ

「恐怖心を抱く方も、居るのかもしれません」


サトーズ

「恐怖は裏返り、害意となる」


ヨーク

「……戦争をしたのは、俺たちの先祖だろう? 俺じゃない」


サトーズ

「そうですね」


サトーズ

「あるいは……深い理由は無いのかもしれません」


サトーズ

「人は集団を作り、そこに閉じこもるように出来ている」


サトーズ

「相手を嫌う理由は、後から探せば良い」


ヨーク

「…………」


ヨーク

(原因は俺……?)


ヨーク

(宿屋を追い出されたのは……ミツキじゃなくて俺のせいだった?)


ヨーク

「……っ。馬鹿馬鹿しい……!」


サトーズ

「そう言えるのなら、あなたは幸福だと言うことです」


ヨーク

「……あんたは?」


サトーズ

「はい?」


ヨーク

「あんたは俺を嫌わないのか?」


サトーズ

「自慢ですが、私は友達が多いです」


サトーズ

「付き合う相手が増えるほど、種族なんて気にしている余裕は無くなりますよ」


ヨーク

「そういうものか?」


サトーズ

「そういうものです」


サトーズ

「……それにですね」


サトーズ

「心底から魔族全てを嫌っているのは、人族全体から見て一割にも足りません」


サトーズ

「ただ、彼らは本気ですからね」


サトーズ

「人数の割に、どうしても存在感が出てしまう」


サトーズ

「あまり御気になされないことです」


ヨーク

「気にするなったって……」


サトーズ

「損をします」


サトーズ

「気にしている暇が有れば、良い縁を育むのが良い」


サトーズ

「そうすれば、多少の悪意はただの雑音になります」


ヨーク

「やれるなら、やるが……」


サトーズ

「そうして下さい」


サトーズ

「さて、二人部屋を用意させていただきますが、何泊のご予定ですか?」


ヨーク

「しばらく居る予定だ」


サトーズ

「王都には御商売で?」


ヨーク

「目当てはラビュリントスだ」


サトーズ

「冒険者ですか」


ヨーク

「ああ」


サトーズ

「それでは……前金で五泊分いただきます。銀貨五枚になります」


ヨーク

「五泊?」


サトーズ

「あまり多く払われても、途中で宿を替える方もいらっしゃいますからね」


サトーズ

「それに、冒険者を続けられなくなる方も」


ヨーク

「危険な所らしいな」


サトーズ

「もちろん」



 ヨークは財布から銀貨を取り出した。


 安くない出費だが、すぐに元を取るつもりだった。



ヨーク

「銀貨五枚だ。よろしく頼む」


サトーズ

「はい」


サトーズ

「こちらの宿帳に記名をお願いします」



 店主はペン立てからペンを取ると、宿帳の隣に置いた。



ヨーク

「分かった」



 ヨークはペンを手に取り、宿帳にフルネームと出身地を記入した。



ヨーク

「ミツキも」



 ヨークはペンをミツキに渡そうとした。



ミツキ

「私は……」


ヨーク

「ほら」



 強引にペンを持たされ、ミツキは仕方なく宿帳に向かった。


 そしてファーストネームだけ記入し、ペンをペン立てに戻した。



サトーズ

「それでは、お部屋にご案内しましょう」


サトーズ

「私はサトーズと申します。以後、お見知りおきを」


ヨーク

「ヨークだ。彼女はミツキ」


ミツキ

「よろしくお願いします」


サトーズ

「はい。よろしくお願いいたします」



 3人は階段を上った。


 そして、2階の客室へ移動した。


 ベッドが2つある、ほどほどの広さの部屋だった。


 窓が大きめで、開放感が有る。


 寝室の隣には、バスルームも備え付けられている。


 設備がしっかりしていない宿だと、風呂は共用になる。


 悪くない部屋だとヨークは思った。


 途中で泊まった町の宿屋より、内装が洒落ている。


 ベッドのデザイン一つ見ても、田舎の宿とは差が有った。


 ヨークは都会の空気を感じたような気分になった。


 背負っていた荷物を置くと、ヨークはサトーズに話しかけた。



ヨーク

「それじゃあ、ラビュリントスを見てくる」


サトーズ

「はい。ところで、これは忠告ですが……」


サトーズ

「宿の外では、あまりお連れ様を、見せびらかさない方が良いかもしれません」




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