『敵強化』スキルを笑われて幼馴染に置いていかれた俺のレベルが有頂天でおさまる所を知らないので、助けたケモミミ美少女奴隷とイチャイチャしながら迷宮の最深層目指すことにした～神魂のニルヴァーナ～

やり直しとホントの名前

５の１６「グリッドと尋問」

　闇ギルドのアジトの１つ。

　その１室。

　実行部隊リーダーであるグリッドの私室に、部下のオッチーが駆け込んできた。

オッチー

「リーダー！　大変です！」

グリッド

「何だいきなり。夜中だぞ？」

　グリッドはソファの上から、オッチーを睨みつけた。

オッチー

「それが……例のガキが……！」

グリッド

「例のガキって、例のクソガキか？」

　グリッドは、苦々しい顔で尋ねた。

　彼らはついこのあいだ、手痛い敗北を味わっている。

　一生忘れられないほどの、痛烈な体験だった。

　そのおかげで、例のガキなどという言葉で、意味が通じてしまうのだった。

オッチー

「はい。例のクソガキです」

　オッチーはグリッドに、想像通りの言葉を返した。

グリッド

「……どうしたんだ？」

オッチー

「それが、リーダーに会わせろって……」

グリッド

「今、どこに居る？」

オッチー

「応接室で待ってもらってます」

オッチー

「飲み物に、毒でも入れましょうか？」

グリッド

「止めろ。すぐ行く」

オッチー

「はい」

グリッド

「…………」

グリッド

（何だってんだ……？）

　グリッドは立ち上がり、私室を出た。

　そして、早足で応接室へと向かった。

　オッチーも、グリッドのあとに続いた。

　２人が応接室に入ると、ソファにヨークの姿が見えた。

　グリッドは、その向かいのソファに腰かけた。

　オッチーは、ソファの横側に立った。

グリッド

「よう。ガキ」

ヨーク

「よう。オッサン」

グリッド

「……どうして俺の居場所が分かった？」

ヨーク

「木鼠だ」

ヨーク

「俺には、あの日あの場所に居た、全員の居場所が分かる」

グリッド

「……はぁ」

　グリッドはため息をついて、床の方を見た。

　ちょろちょろと、木で出来たネズミがうろついていた。

　あの日以来、どこまでもついてくる。

　ヨーク襲撃に参加した全員が、木のネズミに見張られていた。

グリッド

（どんだけなんだよ。このネズ公は）

グリッド

「それで、何の用だ？」

ヨーク

「分からねえか？」

　ヨークはそう言ったが、グリッドには、特に心当たりが無かった。

　グリッド自身は、ヨークたちからは完全に手を引いたつもりだった。

グリッド

「部下が何かしたか？」

　グリッドは部下たちに対し、ヨークへの攻撃をかたく禁じていた。

　命令がきちんと守られていれば、何も起きないはずだが……。

　部下の勝手な暴走は、起こりうることだ。

　グリッドはそう考えて、ヨークに尋ねた。

ヨーク

「…………」

　ヨークはグリッドの質問に答えなかった。

　その代わりに、別の質問を投げかけてきた。

ヨーク

「裏カジノってのを知ってるか？」

グリッド

「知ってるもなにも……」

　それくらい、裏の世界で生きる人間なら、誰でも知っていることだ。

　おぼっちゃんは、そんなことも知らないのか。

　グリッドは内心でそう思いつつ、説明を始めた。

　このおぼっちゃんに逆らっても、ロクなことにはならないからだ。

グリッド

「この王都に、裏カジノはいくつも有る」

グリッド

「さらにその何割かは、ウチの経営だ」

ヨーク

「闇ギルド以外にも、でかい非合法組織が有るのか？」

グリッド

「有るさ」

グリッド

「一番目立ってんのが、俺たち闇ギルドってだけだ」

グリッド

「もっとヤバい組織が、俺たちをデコイにして活動してやがる」

グリッド

「で？　裏カジノがどうした？」

ヨーク

「少し前、マレル公爵が、裏カジノのカモにされた」

ヨーク

「それにお前たちは関わってるのか？」

グリッド

「いや。アレは俺たちじゃない」

　グリッドは断言した。

　グリッドは、マレル公爵が利用したカジノを把握している。

　使用されたカジノは、闇ギルド運営のものではなかった。

ヨーク

「何が起きたかは知ってるんだな？」

グリッド

「そりゃな。公爵家絡みともなれば、嫌でも耳に入ってくるさ」

ヨーク

「公爵をハメたのは誰だ？」

グリッド

「それは話せない」

ヨーク

「どうして？」

グリッド

「ウチを潰せるのは、お前だけじゃないってことだ」

ヨーク

「弱気だな」

ヨーク

「舐められたら終わりじゃなかったのか？」

グリッド

「相手が悪い」

ヨーク

「俺よりもか？」

グリッド

「その通りだ」

ヨーク

「…………」

グリッド

「なあ、ガキ」

グリッド

「本当に情報が欲しいんならな、お前はまず、俺たちを拷問にかけるべきなんだよ」

グリッド

「それを思いつかない。思いついてもやろうともしない」

グリッド

「人畜無害すぎるんだ。お前は」

グリッド

「だから俺は、連中の方が怖い」

ヨーク

「拷問して欲しいのか？　Ｍかよ」

グリッド

「やってみろよ」

　そう言って、グリッドは皮肉めいた笑みを浮かべた。

ヨーク

「…………」

ヨーク

「止めとく。俺は変態じゃねえからな」

　ヨークはソファから立ち上がった。

ヨーク

「悪かったな。妙な疑いをかけて」

グリッド

「いや」

グリッド

「裏の組織同士には、少なからず関係がある」

グリッド

「同盟だったり、敵対してたり、上下関係だったりな」

グリッド

「だから、全くの冤罪ってわけでも無いんだ」

ヨーク

「そうか」

ヨーク

「邪魔をした。またな」

グリッド

「もう来ないでくれ」

　ヨークは応接室から出た。

　そして廊下を歩き、闇ギルドのアジトから出た。

　道に出ると地面を蹴り、近くの建物の屋上に飛び乗った。

ヨーク

（無駄足だったか……）

ヨーク

（けど、良かった）

ヨーク

（俺の呪文が破られたってわけじゃ無かった。それに……）

ヨーク

（もし誓いを破ったのなら、殺さなきゃいけなかった）

ヨーク

（良かった……）

ヨーク

「さて……問題はユーリアの弟だな」

ヨーク

（虱潰しに探してみるか）

ヨーク

「木鼠、万連」

　ヨークは呪文を唱えた。

　ヨークの周囲に次々と、木の鼠が出現した。

ヨーク

「ユーリを探せ」

　ヨークが命じると、鼠は町中に散らばっていった。

　ヨークは屋根の上で、鼠が何かを見つけるのを待った。

　そして、３０分が経過した。

ヨーク

（……見つからねえな）

　鼠には、可能な限りの捜索をさせたつもりだった。

　だが、ユーリアの弟らしき人物は、まるで見つからなかった。

ヨーク

（王都にはいねえのか？　それとも……）

　鼠では潜入できない場所に、匿われているのか。

ヨーク

（普通にやっても、見つけるのは無理かもしれねーな）

　……。

　ユーリアの寝室。

アヤ

「入るわよ～」

　廊下から声をかけた後、アヤが入室してきた。

　ユーリアは、丸テーブル隣の椅子に、腰掛けていた。

ユーリア

「……何でしょう？」

　疲れを感じさせる声音で、ユーリアが尋ねた。

アヤ

「次の作戦が決まったわ。来なさい」

ユーリア

「分かりました。ですが……」

ユーリア

「その前に、ひとめだけ弟に会わせて下さい」

アヤ

「はぁ～」

　アヤは芝居がかったため息をついた。

アヤ

「まだ分かって無かったの？」

アヤ

「あなたはそんなこと、頼める立場じゃないのよ」

ユーリア

「…………」

ユーリア

「殺したんですか？」

　ユーリアの表情が、一変した。

　さきほどまでの、疲れた様子とは違う。

　見開かれた目からは、殺意すら感じられるほどだった。

アヤ

「は？」

ユーリア

「あなたたちは、ユーリを殺してしまったんでしょう！」

ユーリア

「だから会わせられないんだ！　この人殺し！」

　ユーリアは、鬼のような形相で、アヤに掴みかかった。

アヤ

「ちょ……！」

　アヤはつかみかかって来たユーリアの、腕をひねった。

　そして、地面へとねじ伏せた。

　手慣れている。

　戦闘用の訓練を積んでいるらしかった。

ユーリア

「うぁ……！」

　アヤによって制圧され、ユーリアはうめき声を上げた。

ユーリア

「返して……ユーリを返してよ……」

ユーリア

「ああぁぁあぁぁ……」

　さきほどまで怒りを見せていたユーリアが、弱々しく泣き出した。

アヤ

「限界か……」

　情緒不安定なユーリアを見て、アヤはそう呟いた。

　さすがに、ここまで心が弱っていては、作戦に使うのは難しい。

アヤ

「良いわ。弟に会わせてあげる」

ユーリア

「生きてるんですか……？」

アヤ

「あなたが勝手に殺しただけでしょ」

　アヤは呆れたように言った。

アヤ

「連れて行ってあげる」

アヤ

「ただしあなたには、薬で１度眠ってもらう」

アヤ

「人質の居場所を、知られるわけにはいかないからね」

ユーリア

「分かりました」

　アヤが出した条件を、ユーリアはあっさりとのんだ。

アヤ

「ちょっとそこで待ってなさい」

　アヤは寝室から退出した。

　ユーリアは立ち上がり、椅子に座り直した。

　アヤはすぐに帰ってきた。

　彼女の手には、紫色の液が入った小瓶が見えた。

　アヤはその瓶を、テーブル上に置いた。

アヤ

「さあ、飲みなさい」

ユーリア

「…………」

　ユーリアは小瓶を手に取り、蓋を開けた。

　そして、恐る恐る口に近付け……。

ユーリア

「んくっ」

　一気に飲み干した。

ユーリア

「……苦いです」

アヤ

「文句を言わないの」

ユーリア

「んぅ……」

　薬が効いてきたのだろう。

　ユーリアの体から、力が抜けた。

　目を閉じて、ぐったりと、椅子に体をもたれさせた。

　そしてすぅすぅと、寝息を立てはじめた。

　アヤは眠ったユーリアの体を、抱え上げた。

アヤ

「あ～。面倒臭い」