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その11





ミツキ

「どうですか? ヨーク」



 狼を倒したミツキが駆け寄って来て、ヨークに言った。


 尻尾を振りながら、自慢気に微笑んでいる。



ヨーク

「別に……」


ヨーク

「それくらいはして貰わないと困る」


ミツキ

「むぅ……」



 ヨークは何故か、ミツキを素直に褒めることが出来なかった。


 そんな自分のことを、良くないなと思ってしまった。



ヨーク

「…………」


ヨーク

「嘘だ。凄いぞミツキ」


ミツキ

「なんだが、無理に褒めてもらったみたいですね」


ヨーク

「別に、そんなことねーよ」


ヨーク

「次行こうぜ。次」


ミツキ

「はい」



 ヨークたちはさらに索敵を続けた。


 そのうちに、棘鼠という、背に棘が生えた鼠を発見した。



ヨーク

「命令する。あの魔獣を倒せ」


ミツキ

「はい!」



 鼠に向かっていくミツキを、ヨークは見守った。


 ミツキは、難なく魔獣を撃破することが出来た。


 一仕事終えたミツキは、尻尾を振りながら駆け戻ってきた。



ヨーク

「大分余裕が出てきたな」


ミツキ

「そうですね」


ヨーク

「そろそろ命令無しでも大丈夫そうか?」



 戦闘後だというのに、ミツキの表情は落ち着いて見えた。


 ヨークの本心としては、首輪の力など使いたくない。


 気持ち悪いことだと思っていた。


 これだけ余裕が有るのなら、良いのではないか。


 そう考えての提案だった。



ミツキ

「いえ。それは必要かと思いますけど」



 ヨークの提案は、即座に蹴られてしまった。



ヨーク

「そうか?」


ミツキ

「はい」



 ヨークは釈然としなかったが、反論することも出来なかった。


 ミツキも内心は怖いのに、あえて平気な顔をしているのかもしれない。


 男のやせ我慢とは、そういうものだ。


 ヨークはそう考えた。


 まあ、ミツキは女性なのだが、細かいことは気にしなかった。



ヨーク

「そうか。それで……」


ヨーク

「そろそろ、敵のレベルを上げていこうと思うんだが」


ミツキ

「『敵強化』のスキルですか」


ヨーク

「ああ」


ヨーク

「今は、レベルのおかげで戦えてるってだけだ」


ヨーク

「最終的には、同レベルの相手と、互角に戦えるようになって欲しい」


ミツキ

「分かりました」



 ヨークたちは、さらに魔獣を探した。


 さきほどと同じ魔獣、棘鼠が現れた。


 ヨークとミツキは、ほぼ同時に棘鼠に気付いた。


 ヨークは棘鼠に、手のひらを向けた。



ヨーク

「『敵強化』『戦力評価』」



_____________



棘鼠 レベル22


_____________




 棘鼠の体が輝き、強化は完了した。



ヨーク

「命令する。あの魔獣を倒せ」


ミツキ

「はい」



 ミツキは棘鼠に向かっていった。


 レベル差は10。


 まともな剣士であれば楽勝のはずだ。


 だが……。



ミツキ

「っ!」



 ミツキの大雑把な剣が、鼠に回避された。


 そこに出来た隙に、鼠が体当たりを入れた。



ミツキ

「あっ……!」



 ミツキは倒れ、押し倒される形になった。


 そうなった時には既に、ヨークの杖が鼠に向けられていた。



ヨーク

「……氷牙!」



 ヨークが放った氷の牙が、鼠を吹き飛ばした。


 鼠は一撃で絶命し、魔石となって消えた。


 驚異が消えたのを見ると、ヨークはミツキに駆け寄った。



ヨーク

「怪我は無いか?」


ミツキ

「……はい」



 ミツキは立ち上がり、服についた土埃をはらった。


 そんなミツキを見て、ヨークは悩んだ。


 ミツキは弱い。


 弱すぎると言っても良かった。



ヨーク

(レベル10下でもキツイか……)


ヨーク

(聖騎士の体力は、戦士に劣るって言うからな)


ヨーク

(クラスを戦士にしておけば、もっと楽に戦えたのかもしれねーが……)


ヨーク

(まともにパーティを組むのなら、ヒーラーは必須のはずだ)


ヨーク

(俺が賢者にクラスチェンジして、ミツキを戦士にするか?)



 賢者のクラスであれば、攻撃呪文と治癒呪文の、両方を扱うことが出来る。


 その分、同レベルの魔術師や、治癒術師に比べると、呪文の威力は落ちる。


 だが、ヨークには、レベルを上げるアテが有る。


 その点だけなら問題が無かったのだが……。



ヨーク

(……駄目だ)


ヨーク

(ミツキが戦士として大成するって保証が無い)


ヨーク

(割り切って、自衛が出来る治癒術師として使う……)


ヨーク

(それが最初の案だったはずが、欲が出ちまってるな)


ヨーク

(初めて仲間が出来て、浮かれちまってる)


ヨーク

(独りでも強くなって、最強の冒険者になる)


ヨーク

(そういう気持ちでやってきたはずだ)


ヨーク

(あまり浮つくな)


ミツキ

「……ごめんなさい」



 難しい顔をしたヨークを見て、ミツキは詫びた。


 自分が悪いと思ったらしい。



ヨーク

「仕方ないさ」


ミツキ

「…………」


ヨーク

「大丈夫。俺が守るから」



 守るというのは、ひょっとしたら格好いい言葉なのかもしれない。


 だが実態は、戦力にならないと言って突き放したのと変わらなかった。



ミツキ

「……はぁ」



 ミツキは返答とため息の、中間のような声を出した。



ヨーク

(切り捨ててるか? 俺は)


ヨーク

(バジルたちが、俺にしたみたいに……)


ヨーク

(……気にすんな。出会ったばっかりだ。友だちでも無い)





ヨーク

(どうせ、離れてくんだろ? お前も)





ヨーク

「…………」



 ヨークは気持ちを切り替えて、ミツキという人材の運用法を考えた。



ヨーク

(自衛させるだけなら、手っ取り早く、レベルを上げれば良いか)


ヨーク

「次は俺が戦う。自分のレベルも上げないといけないからな」


ミツキ

「分かりました」



 ヨークは探索を再開した。


 やがて魔獣が見えた。


 赤い狐の背から、炎が上がっていた。


 炎狐という魔獣だ。



ヨーク

「居たな……」


ヨーク

「『部位強化』、樹縛、『敵強化』、『戦力評価』、氷槍十連」



_____________



炎狐 レベル130


_____________




 まず、スキルで狐の後ろ脚を強化した。


 そして、体勢が崩れたところを、呪文で縛った。


 それから狐を強化すると、攻撃呪文を連発で叩き込んだ。


 氷の槍が、炎狐を絶息させた。


 流れ作業のように滑らかに、魔獣は撃破された。


 魔獣には、攻撃の余地すら与えられなかった。


 新たなスキルを得て、訓練を積んだヨークは、同レベル程度の魔獣なら無傷で倒せるようになっていた。



______________________________




ヨーク=ブラッドロード



クラス 魔術師 レベル128



______________________________





 魔獣を倒したヨークは、自身のレベルを確認した。


 ヨークのレベルは、村を旅立った時のままだった。



ヨーク

(上がらない……か)


ヨーク

(EXPは、ミツキと二等分なんだろうか?)


ミツキ

「その……」


ヨーク

「どうした?」


ミツキ

「レベルが100を超えてしまったのですが……」


ヨーク

「気にすんな」


ミツキ

「気にするなって……」


ヨーク

「王都に行けば、レベル100なんてゴロゴロしてるはずだ」


ミツキ

「そうなのですか?」


ヨーク

「ああ」



 新米冒険者のバジルが、半年たらずでレベルを17まで上げたのだ。


 どうやら迷宮では、村で過ごすよりレベルが上がりやすいらしい。


 ずっと迷宮を攻略しているベテランなら、それくらい行っているだろう。


 ヨークはそう予測していた。



ヨーク

(多分だけど)


ミツキ

「もっともっとレベルを上げないといけませんね」


ヨーク

「おう。目指せレベル1000だ」


ミツキ

「お~!」



 ミツキは左手を高く上げた。


 二人の旅は続く。


 野の魔獣など、ヨークたちの敵では無かった。


 二人は順調に、王都の周辺までたどり着いた。


 王都の象徴である巨大な樹木が二人の目に映った。



ヨーク

「見えたな。『世界樹』が」



 世界樹とは、神が世界に最初に植えたと言われる、神聖な樹木だった。


 幹の直径は1キロを超え、山よりも高く伸びていた。


 王都の北端に生えているはずだが、ヨークたちが居る南側からでも十分に見ることが出来た。



ミツキ

「大きいですね」


ヨーク

「ああ。なんつーか、感動だな」


ミツキ

「はい。枯れてしまえば良いのに」


ヨーク

「何言ってんのお前!?」


ミツキ

「なんかウザくないですか? デカくて」


ヨーク

「お前の思考回路わかんねえ……」


ミツキ

「今日中には、王都に着けますかね?」


ヨーク

「どうかな。相当でかいらしいからな」


ミツキ

「距離感が狂ってしまいますか」


ヨーク

「そうだな」


ミツキ

「やはり枯れた方が良いのでは?」


ヨーク

「なんなん?」



 ヨークたちは歩き続け、王都の外壁近くまでたどり着いた。



ヨーク

「でかい壁だなあ。何のために有るんだ?」


ミツキ

「戦争のためでしょう」


ヨーク

「ふ~ん……?」


ミツキ

「あそこに入り口が見えますね」


ヨーク

「列が出来てるな。何してるんだ?」


ミツキ

「検問でしょう」


ヨーク

「検問……?」



 ヨークたちは、外壁の出入り口部分にまで歩いた。


 そして、既に列を作っていた人たちを真似て、列に並んだ。



ヨーク

(なんか……緊張するな……)


衛兵

「次」


ヨーク

「は、はい!」



 ヨークは用紙に名前を記入し、手荷物検査を受けた。


 どうやら荷物には問題無いらしく、すぐにオーケーが出た。


 次に、衛兵は水晶を持って、ヨークに向けた。


 村の神殿に有る物と同じだと、ヨークは気付いた。


 あまり良い思い出は無かった。



衛兵

「『敵強化』スキル? 何だそりゃ?」


ヨーク

「魔獣を強くするスキルです」


衛兵

「はぁ?」


ヨーク

「…………」


衛兵

「まあ良い。識別の水晶に嘘は無いだろうからな。それで……」


衛兵

「その女、お前の奴隷か?」


ヨーク

「はい。それが?」


衛兵

「通行税を払ってもらう。小金貨二枚だ」


ヨーク

「金貨二枚!? 多すぎる!」



 ヨークが自警団で一月働いても、小金貨一枚にもならない。


 王都でまともな職業についていれば、なんとか払うことも出来る。


 村から出てきたばかりのヨークには、辛い金額だった。



衛兵

「奴隷は高額商品だ。相応の税が設定されている」


ヨーク

「っ……。そんな金……」



 そのとき、ミツキはすっとヨークの前に出た。



ミツキ

「どうぞ」



 どこから出したのか、ミツキは衛兵に金貨を握らせた。



ミツキ

「あまり兵隊さんを困らせてはいけませんよ。ご主人様」


ヨーク

「あ、あぁ……」



 ミツキのおかげで、二人は無事に検問を抜けることが出来た。


 外壁を抜けた先は、賑やかな大通りになっていた。



ヨーク

「すげぇ人だな」


ミツキ

「そうですね」


ヨーク

「……あの金、どうしたんだ?」


ミツキ

「奴隷商人から拝借しました」


ヨーク

「死体から盗ったのか?」


ミツキ

「お優しい人」



 ミツキは薄く笑った。



ミツキ

「人さらいにかける情けなど、私には有りませんよ」



 ヨークは金貨の持ち主だった魔族のことを思い浮かべた。



ヨーク

(俺も……あの人からミツキを盗ったようなもんなんかな)


ヨーク

(けどなぁ……)



 法律がどうであれ、ミツキを見捨てることは出来なかった。


 ヨークは深く考えるのを止めた。



ヨーク

「まあ……。助かったよ」


ミツキ

「どういたしまして。……露店がたくさん有りますね」


ヨーク

「良い匂いだな」


ミツキ

「何か食べますか? 富豪の私が奢りますよ」


ヨーク

「何でも良い。お前が好きな物買って来いよ」


ミツキ

「……はい」



 ミツキは露店に小走りで向かっていった。


 そして、串焼きを二本買って帰って来た。



ミツキ

「どうぞ」



 ミツキは二本の串焼きの片方をヨークに渡した。



ヨーク

「ありがと」


ミツキ

「意外でした」


ヨーク

「何が?」


ミツキ

「商品を、売ってもらえないかもしれない。そう思っていました」


ヨーク

「売ってもらえない? そんなわけねえだろ?」


ミツキ

「杞憂でしたけどね」


ミツキ

「この国では、月狼族を捕らえて、奴隷にすることが認められている」


ミツキ

「家畜と同じ。人間扱いされていないということです」


ミツキ

「ですが、お店の方の扱いは普通でしたね」


ヨーク

「良かったじゃねえか」


ミツキ

「はい」


ミツキ

「権利が無いということと、悪感情が有るということは同一では無いのですね」


ヨーク

「んん?」


ミツキ

「この町において、私は蛾では無く蝶だということです」


ヨーク

「良く分からんが……」


ヨーク

「この串焼き、美味いな」



 いつの間にか、ヨークの口がミツキの串焼きに伸びていた。



ミツキ

「あっ! 私の分!」


ヨーク

「美味いからな」


ミツキ

「理由になってませんが!?」





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