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5の11「ダンスと成功」




ミツキ

「首輪付きの私が、立ち入っても良いものなのですかね?」


フルーレ

「エルだって奴隷だが、会場には出入りするぞ」


フルーレ

「ヨークの召使いという立ち位置なら、問題無いと思うが」


ヨーク

「ミツキは仲間だ。召使いじゃない」


フルーレ

「……そうか」


フルーレ

「それじゃあ、ヨークだけでも来てくれるか?」


ヨーク

「分かった」


ミツキ

「私も行きましょう」


ヨーク

「ミツキ?」


ミツキ

「一度、召使いのフリをしてみるのも、面白そうです」


ミツキ

「よろしくお願いしますね。ご主人様」




 ……。




 パーティ当日になった。


 前の運命と同様に、エルが宿屋まで迎えに来た。


 ヨークの見送りのため、バジルたちは通りまで出た。



ヨーク

「んじゃ、行ってくる」



 ヨークが猫車の隣に立って言った。


 ヨークとミツキは、パーティ用の正装に着替えていた。


 今回の衣装は、フルーレの側が用意したものだ。


 ヨークたちの事情を聞かされていたため、そこまで気を回すことができた。



バジル

「舐められンじゃねえぞ。貴族どもによ」


バジル

「一発かまして来い」


ヨーク

「何をだよ」


ドス

「…………」


キュレー

「後でお話聞かせてね」


バニ

「おみやげよろしく」


ヨーク

「みやげ?」


エル

「任せておいて下さい」


ヨーク

「そうか?」


エル

「はい。猫車へどうぞ」



 ヨークとミツキは、エルと共に猫車に乗りこんだ。


 中には、向かい合うようにして、椅子が2つ設置されていた。


 ヨークの隣にミツキが、向かいにエルが座った。


 エルとヨークの目が合った。



エル

「ぁ……」


ヨーク

「どうした?」


エル

「こんな風に座るのは、初めてだと思いまして」


ヨーク

「そうだな」



 メイルブーケ本邸に向かい、猫が走りだした。



ヨーク

「……何か話してくれ」


エル

「話……ですか?」


ヨーク

「普段はフルーレに遠慮して、あんまり話さないだろ?」


ヨーク

「エルの話を聞かせてくれよ」


エル

「……はい。それでは……」



 エルはぽつぽつと、自分のことを話しはじめた。


 最初はぎこちなかったが、じょじょに打ち解け、柔らかい空気になっていった。



エル

「それでブゴウ様が、私に立派な羽猫を下さったのです」


エル

「私はその猫にポチと名付け、大切に育てました」


ヨーク

「そっか」


ヨーク

「俺、羽猫って乗ったこと無いんだよな」


エル

「よろしければ、私のポチに乗ってみませんか?」


ヨーク

「良いのか?」


エル

「はい。もちろんです」


ミツキ

「……着いたみたいですよ」



 ミツキが外を見て言った。


 猫車が、立派な邸宅の前で停車していた。



エル

「あっ……」


エル

「もう着いてしまったのですね」


ヨーク

「また今度、話を聞かせてくれ」


エル

「はい」


ヨーク

「ゆっくり猫に乗りながらっていうのも良いな」


エル

「はいっ!」



 3人は、猫車を降りた。


 門をくぐり、庭を歩き、邸宅の玄関へと向かった。


 そこから中に入ると、大広間が見えた。


 そこでは楽団が、優美な音楽を奏でていた。


 着飾った貴族たちが、談笑しているのも見えた。


 何人かの視線が、ヨークへと向かった。


 ヨークはそれを気にせず、自由に周りを見ていた。


 エルは視線を巡らせ、主人であるフルーレの姿を探した。



エル

「……お嬢様のお姿が、見当たりませんね」


ヨーク

「ああ」


エル

「ヨーク様のご到着を、お知らせしたいと思います」


エル

「お嬢様をお連れするまで、こちらでお待ちいただけますか?」


ヨーク

「分かった」



 そのとき、ボワイヤがエルに近付いてきた。



ボワイヤ

「そこのメイド」


エル

「はい。何でしょうか?」



 エルは前の運命で、ボワイヤとどうなったのかを知らない。


 無警戒に、ボワイヤに返事をした。



ボワイヤ

「なかなかの見た目を……」


ミツキ

「えいや」



 ミツキは一瞬でボワイヤの背後にまわった。


 そして、首筋に手刀を打ち込んだ。



ボワイヤ

「う……!?」



 ミツキの一撃で、ボワイヤは気を失った。


 ミツキは崩れるボワイヤの体を、支えながら言った。



ミツキ

「おや。この殿方、どうも具合が悪そうですね」


ミツキ

「どこか空き室で、休ませてあげてください」


エル

「は、はぁ……」



 エルはボワイヤを運んでいった。


 エルのレベルは、もう2桁になっている。


 人を1人抱えるくらい、簡単なことだった。


 エルが居なくなり、ヨークたちは広間に残された。


 知り合いが居なくなってしまったが、ミツキが隣に居る。


 ヨークは今の状況に、特に不安は感じなかった。



ヨーク

「何だったんだ?」


ミツキ

「必要なことです」


ヨーク

「ふ~ん……?」


ヨーク

「ミツキ」


ミツキ

「何ですか? ご主人さま?」


ヨーク

「ご主人て……」


ヨーク

「なあ、試しに踊ってみるか?」


ミツキ

「遠慮しておきます」


ミツキ

「今日の私は、付き人ですからね」


ヨーク

「…………」



 ヨークは残念そうな顔を見せた。


 そこへデレーナが声をかけてきた。



デレーナ

「そこのあなた」


ヨーク

「俺か?」



 今のヨークにとって、デレーナは初対面の相手だ。


 いったい何の用事かと、ふしぎそうに彼女を見た。



デレーナ

「見ない顔ですけど、ここに来るのは初めてですの?」


ヨーク

「ああ」


ヨーク

「珍しいのか? 常連以外の客が招かれるのは」


デレーナ

「それはそうでしょう?」


ヨーク

「ふ~ん……?」


デレーナ

「申し遅れましたわ」


デレーナ

「わたくしはデレーナ=メイルブーケ」


デレーナ

「メイルブーケ迷宮伯家の長女ですの」


ヨーク

「ヨークだ。ヨーク=ブラッドロード。こっちはミツキ」


デレーナ

「ブラッドロード? 商会の関係者ですの?」


ヨーク

「商会? 違うが……」


ヨーク

「メイルブーケってことは、フルーレの姉貴か?」


デレーナ

「姉貴……? ええ」


デレーナ

「私のことは知らないのに、妹のことは御存知ですのね」


ヨーク

「ここにはフルーレに呼ばれて来た」


デレーナ

「そう……。あなたでしたのね。フルーレが招待したいと言っていたのは」


ヨーク

「フルーレはどこに?」


デレーナ

「お色直し中ですわ」


デレーナ

「珍しく着飾っているようでしたけど……そういうことでしたのね」


デレーナ

「あの子……婚約者が居ますのに……」


ヨーク

「え?」


デレーナ

「いえ」


デレーナ

「美しい方。よろしければ、私と踊って下さらない?」


ヨーク

「踊りか……」


ヨーク

「良いぞ。ただ、パーティに来るのはこれが始めてでな」


ヨーク

「お手柔らかに頼む」


デレーナ

「承りましたわ」


ヨーク

「行ってくる」


ミツキ

「はい」



 ヨークはデレーナの手を取って、広間の中央へと向かった。


 見目麗しい少年少女だ。


 二人の美貌が、参加者たちの目を引いた。


 歩きながら、ヨークは周囲を観察した。


 みんなが踊っている踊りを、確認するためだった。



ヨーク

(こういうやつか……)


ヨーク

(ミツキに教わった通りだな)



 貴族たちの踊りは、ミツキに教わった踊りと同じものに見えた。


 これなら練習通りにすれば良い。


 そう思い、ヨークは踊り始めた。


 デレーナの方は、この踊りに慣れているようだった。


 ヨークのリードにそつなくついて来た。


 そして目に見える失敗も無く、見事に踊りきった。


 2人は参加者たちの視線を浴びながら、ミツキのところへ戻った。



ヨーク

「ただいま」


ミツキ

「はい」


ヨーク

「どうだった? 俺のダンス」


ミツキ

「ご立派でしたよ。ご主人さま」


ヨーク

(ご主人さまて。楽しいのか? 召使いごっこ)


デレーナ

「あの……」


ヨーク

「ん?」


デレーナ

「またお会い出来ますか? 素敵なお方」


ヨーク

「ああ」


デレーナ

「……はい」


フルーレ

「ヨーク」



 フルーレの声が聞こえた。


 ヨークは声の方を見た。


 フルーレが、ヨークに近付いてきていた。



デレーナ

「フルーレ」


ヨーク

(着飾ってんな。別人みたいだ)



 フルーレの格好は、迷宮に潜る時とは大違いだった。


 優美なドレスを身にまとい、まさに良家の御令嬢だった。



エル

「…………」



 フルーレの斜め後ろには、エルの姿が見えた。


 ヨークがエルを見ると、彼女と視線が重なった。



ヨーク

「…………」



 ヨークは、無言で小さく手を振った。



エル

「…………」



 それに対し、エルは微笑みを返した。



フルーレ

「お姉様。見事な踊りでした」


デレーナ

「ありがとう」


デレーナ

「……それでフルーレ。ヨークはあなたが招待したんですの?」


フルーレ

「はい。その通りです」


デレーナ

「こんな素敵な方と、いったいどこで知り合ったんですの?」


フルーレ

「私が冒険者と、迷宮に潜っているのは御存知でしょう?」


デレーナ

「ええ」


フルーレ

「ヨークは、私が行動を共にする、冒険者パーティの一員です」


デレーナ

「冒険者……?」


デレーナ

「全くそうは見えませんわ」


フルーレ

「確かに、ちょっと綺麗すぎますね。ヨークは」


デレーナ

「…………」



 そのとき……。



???

「フルーレ」



 フルーレに、声がかけられた。



フルーレ

「ユーリ?」


ユーリ

「大事な話が有る」


ユーリ

「あの素敵なダンスの後でこのような話、無作法だと分かってはいるが……」


フルーレ

「ユーリ。いったい何だというんだ?」



 ユーリと呼ばれた人物は、場の華やかさとは正反対の、厳しい顔つきになった。



ユーリ

「フルーレ……とても残念だ」


フルーレ

「はい?」



 フルーレの戸惑いを無視して、ユーリは言葉を続けた。



ユーリ

「フルーレ=メイルブーケ」


ユーリ

「お前との婚約を解消させてもらう」


フルーレ

「な……!」


ヨーク

「…………」


ヨーク

(何か始まったんだ?)





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