『敵強化』スキルを笑われて幼馴染に置いていかれた俺のレベルが有頂天でおさまる所を知らないので、助けたケモミミ美少女奴隷とイチャイチャしながら迷宮の最深層目指すことにした～神魂のニルヴァーナ～

やり直しとホントの名前

５の１０「日記とダンス」

ドス

「俺たちが一緒に住めば、連中も手を出し辛くなるはずだ」

ドス

「それに、精神的にも安心すると思うしな。バニは」

バニ

「名指し？」

ヨーク

「部屋空いてるかな？」

ミツキ

「たしか隣の部屋は、空き部屋だったと思いますけど」

ヨーク

「なんとかなるか？」

　……。

　話はすんなりと進んだ。

　バジルたちの部屋が、無事に決まった。

　サトーズの宿に、バジルたちがやって来ることになった。

キュレー

「お世話になります」

サトーズ

「はい。よろしくお願いします」

　バジル一行は、挨拶と荷運びを済ませた。

　……そして夜。

　ヨークたちの寝室に、ミツキの姿が有った。

　ヨークの姿は見えない。

　風呂の時間だった。

　ミツキはベッドの上で、ハードカバーの本を手にしていた。

ミツキ

（先は長い……）

ミツキ

（私は……上手くやれているでしょうか……？）

　ミツキが手にしているのは、日記帳だった。

　前の運命で、ミツキが記したものだ。

　ある日突然に、今のミツキの前に現れた。

　放っておくのもどうかと思い、ミツキは日記帳を読んだ。

　読破した。

　そして、後悔した。

　あまりにも頭の悪い文章だったからだ。

　前半の内容は、ただの色ボケしたバカの日記に見えた。

　ひたすらに『ご主人さま』へのノロケが綴られている。

　ミツキは読みながら、こんな頭の悪い文章は書きたくないと思ったものだ。

　最後まで読むと、その内容は、荒唐無稽な神話のようになっていた。

　妄想が過ぎる。

　ミツキはこの日記を、捨ててしまおうかとも思った。

　だが、気になる部分も有った。

　日記の持ち主の境遇が、ミツキと似ている。

　日記を書いている時点では奴隷らしいが、その前は、小国の姫だったらしい。

　そして、弟の名をユウヅキという。

　その他にも、色々と共通点が見つかった。

　自分たちを題材にした、日記風の小説。

　そんな風にすら思えた。

　しかし、いったい誰が、このようなものを記したのか。

　ミツキには見当がつかなかった。

　日記の筆跡は、知り合いの誰とも似ていなかった。

　不本意ながら、ミツキの筆跡に酷似していた。

ミツキ

（まさか、私が夢遊病にでもなって、これを記したとでも言うのではないでしょうね？）

ミツキ

（否）

　ミツキは自身の妄想を、即座に否定した。

ミツキ

（私は句読点の代わりに、ハートを使ったりはしない）

ミツキ

（断じて）

　だが、筆跡までまねて、日記風小説を書く者が居るのか？

ミツキ

（しかも大長編ですよ？）

　ミツキは不気味に思いつつ、日記帳を捨てることは出来なかった。

　そしてつい、何度も読み返してしまっていた。

　馬鹿らしいと思いつつも、ミツキは日記の内容に、引き込まれていった。

　そんなある日……。

　日記の通り、弟が消えた。

　置き手紙が有ったが、筆跡は弟のものでは無かった。

　これも日記に記されていた通りだった。

　弟を追ってたどり着いた大陸では、奴隷商に出くわした。

　ミツキは日記の知識を元に、奴隷商を撃退した。

　そして、日記はただの妄想では無いと、確信した。

　ならば、ヨーク＝ブラッドロードという少年も、この世界に実在する。

　そう考えると、ミツキの胸は、高鳴りを止められなかった。

　そして、彼を守らなくてはならないという、使命感も湧いて出た。

　ご主人さまは、私が助ける。

　そう考えるだけで、ミツキのしっぽがパタパタと揺れた。

　……。

ヨーク

「ふぅ……」

　ヨークが脱衣場から出てきた。

　風呂上がりなので、身軽な格好をしていた。

　ヨークは自分のベッドに座り、ミツキに声をかけた。

ヨーク

「なんとか一区切りついたな」

ミツキ

「そうですね」

ミツキ

「ですが、遊んでばかりはいられませんよ」

ヨーク

「また何か有るのか？」

ミツキ

「はい」

ミツキ

「ダンスレッスンです」

ヨーク

「……うん？」

ヨーク

「聞こえなかった。もう１回言ってくれ」

ミツキ

「ダンスレッスン。踊りの練習ですよ」

ヨーク

「？？？？？？？？」

ミツキ

「少し意外だったようですね？」

ヨーク

「少し？」

ミツキ

「近々フルーレさんから、ヨークにパーティへの誘いが有ると思います」

ミツキ

「立派なお屋敷でやる、お貴族様のパーティです」

ミツキ

「それに出席したヨークは……」

　いったいどうなるというのか。

ヨーク

「…………」

　ヨークは真剣に、ミツキの言葉を待った。

ミツキ

「ダンスで恥をかきます」

ヨーク

「うん？」

ヨーク

「恥をかいて、それからどうなるんだ？」

ミツキ

「色々あります」

ヨーク

「その色々が問題だと思うんだが」

ミツキ

「その程度のことは、今のヨークならなんとでもなります」

ヨーク

「その程度て」

ミツキ

「問題は、ダンスで失敗したあなたが、貴族連中の晒し者になるということです」

ヨーク

「それじゃあパーティを欠席したら良いんじゃないか？」

ミツキ

「いえ。ダンスの後で、フルーレさんが色々あるようなので」

ヨーク

「色々」

ミツキ

（個人的に、日記に出てくるフルーレさんは好きませんでしたが……）

ミツキ

（今回のヨークは、エルさんを気にかけている様子ですしね）

ミツキ

（彼女たちを見捨てるというわけにはいかないでしょう）

ミツキ

「まあそういうわけなので、ヨークにはダンスを身に付けていただきます」

ヨーク

「恥をかくだけなんだよな？　俺が」

ミツキ

「はい」

ヨーク

「別に良くねーか？」

ミツキ

「駄目です」

ミツキ

「ヨークをバカにして良いのは、私だけなんですからね？」

ヨーク

「初耳だが」

ミツキ

「そういうわけですから、レッツトライです」

ヨーク

「ミツキが教えてくれるのか？」

ミツキ

「はい」

ミツキ

「ここは狭いですからね。外に行きましょう」

　２人は通りへ出た。

　既に日は沈んでいる。

　だが、王都の通りは、街灯によって照らされている。

　真っ暗というほどでも無かった。

ヨーク

「ここでやるのか？」

ミツキ

「はい」

ヨーク

「人に見られないだろうな……」

ミツキ

「魅せてやりましょう」

ヨーク

「初心者なんだが」

ミツキ

「ヨークなら、すぐに上達しますよ」

ミツキ

「さあ、お手を」

　ミツキはヨークに手を差し出した。

ヨーク

「ああ……」

　ヨークはミツキの手を、軽く握った。

　ミツキはその手を、ぎゅっと握り返した。

　そして、全身をヨークに寄せ、密着した。

ヨーク

「おい……！」

　ヨークは慌てた様子で、ミツキから離れようとした。

　だが、ミツキはぎゅっとヨークを抱き寄せ、離さなかった。

ミツキ

「どうしました？」

　ミツキはすまし顔で、そんな風に尋ねた。

ヨーク

「こんなに体をくっつけるのか？　貴族の踊りってのは」

ミツキ

「はい」

ヨーク

「マジかよ」

ミツキ

「マジです」

　マジだった。

ミツキ

「貴族の社交界というのは、縁談を固めるための場でもあります」

ミツキ

「ですから、女子は胸元の開いたドレスを着たり……」

ミツキ

「こうして殿方に体を預けて、誘惑したりもするのです」

ミツキ

「社交ダンスというのは、いやらしいものなのですよ。ヨーク」

　ミツキは妖艶な笑みを、ヨークへと向けた。

ヨーク

「う……」

ミツキ

「どうしました？」

ミツキ

「ひょっとして、私に誘惑されてしまいましたか？」

ヨーク

「……だったら悪いのかよ」

ミツキ

「……………………」

ミツキ

「いえ」

ミツキ

「悪くは無いですけど」

ヨーク

「どうやるんだよ。いやらしい踊りってのは」

ミツキ

「アッハイ」

ミツキ

「まずはこうして……」

ミツキ

「ラララ～♪　ララ～♪」

　ミツキは小声で歌いながら、ヨークをリードした。

ヨーク

「歌、綺麗だな」

ミツキ

「ありがとうございます」

　２人はまったりと、ダンスの練習をした。

　その数日後……。

　迷宮の１７層。

　ヨークたち８人は、シートを敷いて、迷宮の床でランチをしていた。

　一行はシートの上で、エルが作ってきたお弁当を囲んでいた。

ヨーク

「エル」

エル

「何でしょう？」

ヨーク

「それ食べさせて」

エル

「えっ？　はい」

エル

「ヨーク様、どうぞ」

　エルは、料理の１つをフォークで突き刺し、ヨークに差し出した。

ヨーク

「あ～ん」

　ヨークは大口を開け、おいしそうにそれを食べた。

ミツキ

「…………」

　そんな２人の空気を、まるで意に介していないようで、フルーレは自分の話を始めた。

フルーレ

「実は２日後に、家でパーティが有るんだ」

フルーレ

「皆を招待したいと思うんだが、どうかな？」

バニ

「もちろん行くよ」

　バニは快諾した。

ドス

「待て」

バニ

「え？」

ドス

「どういうパーティなんだ？　それは」

フルーレ

「どうって……普通の社交パーティだが」

ドス

「貴族のパーティということだな？」

フルーレ

「まあ、そうなるな」

ドス

「俺たちは、冒険者だ」

ドス

「パーティに着ていくスーツやドレスも無ければ、社交ダンスもしたことが無い」

ドス

「それを理解していて誘っているのか？」

フルーレ

「ダンスを……したことが無い？」

キュレー

「村の踊りなら有るけどね」

バニ

「うん。こういうやつ」

　バニはシートから立ち上がり、フルーレに踊りを見せた。

　それは貴族たちの踊りとくらべ、明らかに洗練されていない。

フルーレ

「……個性的な踊りだな」

バジル

「素直に言えよ。ダセェって」

バニ

「えっ？」

ドス

「そういうわけだ」

ドス

「粗野な田舎者の俺たちに、貴族を納得させる振る舞いなど出来ない」

フルーレ

「そうか……。すまない……」

フルーレ

「ただ、皆が喜ぶかと思ったんだ」

ドス

「分かっている」

ドス

「短い付き合いだが、お前は人を踏みつけて喜ぶような人間では無い」

フルーレ

「ドスは率直で、助かる」

ドス

「俺の役目だからな」

フルーレ

「ふふっ」

ミツキ

「…………あの」

フルーレ

「うん？」

ミツキ

「そのパーティ、ヨークは出席でお願いします」

フルーレ

「だが……」

ミツキ

「ヨークは、社交ダンスを身に付けています」

バニ

「えっ？　いつの間に？」

ミツキ

「こんなこともあろうかと、私が教えました」

キュレー

「こんなこともって、ミツキちゃんのスキルの……」

バニ

「良いなあ。私も踊ってみたいわ」

ミツキ

「お教えしましょうか？」

バニ

「ありがとう！」

ミツキ

「ただ、パーティには間に合わないと思いますが」

バニ

「良いのよ。ヨークと踊ってみたいだけだし」

ミツキ

「そうですか」

フルーレ

「つまり……」

フルーレ

「パーティには、ヨークとミツキが来てくれるということで良いのか？」