『敵強化』スキルを笑われて幼馴染に置いていかれた俺のレベルが有頂天でおさまる所を知らないので、助けたケモミミ美少女奴隷とイチャイチャしながら迷宮の最深層目指すことにした～神魂のニルヴァーナ～

やり直しとホントの名前

５の７「幼馴染と真実」

　ヨークたちは、フルーレに対し、自己紹介を済ませた。

フルーレ

「バニ、キュレー、ミツキ、ヨーク、バジル、ドスだな」

　フルーレは、確認するように、６人の名前を口にした。

　そして視線を、ミツキの方へと向けた。

フルーレ

「ミツキはいっつもフードを被ってるのか？」

ミツキ

「まあ」

フルーレ

「仲間になったんだ。顔を見せて欲しい」

ミツキ

「どうぞ」

　そう言って、ミツキはフードを外した。

　獣の耳と奴隷の首輪が、フルーレの目に映った。

エル

「…………！」

　フルーレは平然としていたが、エルは驚きの表情を見せた。

　エルは奴隷だ。

　自分と同じ境遇の者が、珍しいのだろうか。

フルーレ

「ミツキは奴隷なのか」

　遠慮なく、フルーレが尋ねた。

ミツキ

「いえ」

ミツキ

「奴隷のフリをしていた方が、狙われにくいですからね」

ミツキ

「このことは、内密にお願いします」

フルーレ

「当然だ。仲間だからな」

ミツキ

「ありがとうございます」

　ミツキはフードをかぶりなおした。

フルーレ

「皆、よろしく」

バニ

「はい。よろしくお願いします」

フルーレ

「それでは早速、ラビュリントスへ行こうか」

バニ

「すぐにですか？　準備は……」

フルーレ

「装備は身に付けている」

フルーレ

「お前たちの実力なら、上層程度の攻略に、大した物資は必要が無いはずだ」

フルーレ

「それと、敬語は止めてくれ」

フルーレ

「同じパーティの仲間なんだ。遠慮は要らない」

バニ

「……分かったわ」

バニ

「行きましょうか。フルーレ」

フルーレ

「ああ！」

　……。

　一行は、迷宮へと向かい、王都の通りを歩いた。

　パーティの先頭に、フルーレとバニ、エルが立った。

　その後ろをキュレーとドス。

　３列目を、ヨークとミツキ、バジルが歩いた。

　バジルが小声で、ヨークに話しかけた。

バジル

「どう思った？　妹に会って」

ヨーク

「別に……１００％確定ってわけじゃないんだろ？」

バジル

「何にせよ、同じ一族だ」

ヨーク

「同じっつってもな、俺は半分魔族だし」

　エルの背中には、立派な翼が見えた。

　それは、ヨークの背中には無いものだ。

　ヨークの翼は、幼い頃に切り取られたと聞く。

　記憶に残らないくらい、小さい頃の話だ。

　ヨークには、翼の記憶は無い。

　それに、ヨークとエルとでは、肌の色も違う。

　同じ種族だと言われても、釈然としないものが有った。

ヨーク

「ただ……」

ヨーク

「本当に妹なら、守ってやりたい。そう思った」

バジル

「そうか」

　バジルは薄く笑った。

　何の笑みだよ。

　ヨークは一瞬そう思ったが、口には出さなかった。

　やがてヨークたちは、広場へとたどりついた。

　そこから大階段を降り、迷宮に入った。

　上層での探索は、順調に進んだ。

バニ

「そろそろ日が暮れるわね」

　第５層の探索途中で、バニがそう言った。

フルーレ

「……もうそんな時間か」

　フルーレが、名残惜しそうに言った。

バニ

「町に戻りましょうか？」

　バニはミツキに声を向けた。

　この日、何かが起きる。

　バニはそのことを、ミツキから聞いていた。

　このまま帰ってしまって良いのか。

　バニはミツキに、それを確認したいようだった。

ミツキ

「待って下さい」

　案の定と言うべきか。

　ミツキはバニの意見を否定した。

フルーレ

「どうした？」

　事情を知らないフルーレは、不思議そうにミツキを見た。

ミツキ

「人の足音が、近付いて来ます」

フルーレ

「それが？　ラビュリントスなんだから、人くらい居るだろう」

バニ

「ミツキは…………勘が良いのよ」

バニ

「何か感じたのかもしれない。彼女に従いましょう」

フルーレ

「……分かった」

　一行は、その場で少し待った。

　すると、ヨークたちが居る部屋に、男たちが入ってきた。

　そのリーダーは、グシューという闇ギルドの男だ。

　グシューは、部下を大勢連れていた。

グシュー

「よう。バジル」

バジル

「来やがったか」

　バジルは驚きもしなかった。

　そのことに、グシューは逆に驚かされた。

グシュー

「……？　気付いてやがったのか？」

ヨーク

（樹縛、１２連）

　ヨークが杖無しで、呪文を成立させた。

グシュー

「なっ……！？」

　事は済んだ。

　グシューたちは、１人残らず樹木に拘束された。

　口上の間もなく、戦いは終わった。

フルーレ

「えっ？」

　事態を把握できないフルーレが、間の抜けた声を上げた。

バジル

「一瞬かよ」

　バジルは呆れたような顔で、ヨークの方を見た。

フルーレ

「今のはヨークがやったのか？」

ヨーク

「俺は暗黒騎士なんだ」

フルーレ

「凄いな。けどこの連中は……？」

バニ

「あの人たちは、闇ギルドのメンバーよ」

フルーレ

「闇ギルドだと？　お前たち、そんな連中と付き合いがあるのか？」

バニ

「私たちに限った話じゃないわ」

バニ

「後ろ盾の無い冒険者は、皆そうよ」

バニ

「見かじめ料を納めないと、迷宮での安全は、保証されない」

バニ

「そういうことになっているの」

フルーレ

「馬鹿な……」

フルーレ

「そんなこと……お父様が許すはずが……」

　迷宮の法の管理は、フルーレの家の管轄だ。

　だというのに、迷宮がそんなにも荒れているとは。

　フルーレは、ショックを隠せない様子だった。

バニ

「フルーレのお家の事情は分からない。けど、事実よ」

フルーレ

「そうなのか……」

　真剣な顔でバニに断言され、フルーレは彼女の言葉を信じた。

　思うところは有りつつも、目の前の出来事に意識を向けた。

フルーレ

「結局、こいつらは何がしたかったんだ？」

ミツキ

「大きな宝石を身に付けているから、狙われたのではないですかね」

　ミツキはそう言って、フルーレの首周りを見た。

　そこには凝った装飾の、首飾りが有った。

　その首飾りには、大きな魔石がはめられていた。

フルーレ

「む……。私のせいか。すまない」

キュレー

「別に、何も無かったし。ね？」

エル

「皆様のおかげで、助かりました」

エル

「私１人では、お嬢様をお守りすることは、適わなかったでしょう」

ヨーク

「別に……。仕事だしな」

エル

「ヨーク様……」

　エルは潤んだ視線を、ヨークへと向けた。

　悪党たちを一瞬で倒したヨークを、英雄のように思っているのかもしれない。

バニ

「はいはい！　撤収撤収！」

　バニは手を叩きながら、ヨークとエルの間に立った。

　エルの視線が、バニの体に遮られた。

ヨーク

「おう」

　ヨークたちは、迷宮を出た。

　そこでグシューたちを、衛兵へと突き出した。

　衛兵に拘束されたグシューたちは、いずこかへと連れられていった。

　その後、ヨークたちは６人で、大階段の広場で話すことになった。

フルーレ

「ありがとう。皆」

フルーレ

「皆のおかげで、楽しい１日を過ごすことが出来た」

バニ

「ええ。私も楽しかったわ」

バジル

「明日はどうすンだ？」

フルーレ

「皆が構わないのなら、明日も一緒に潜りたい」

フルーレ

「駄目だろうか？」

バジル

「どうする？」

バニ

「良いわよ」

キュレー

「うん」

ドス

「構わない」

ヨーク

「…………」

　ヨークは無言だった。

エル

「ヨーク様？」

　エルは不安そうに、ヨークの方を見た。

ヨーク

「あ……」

ヨーク

「元々は、俺とミツキは、バジルたちとは別のパーティなんだ」

ヨーク

「だから……」

エル

「…………」

ヨーク

「だけど……」

ヨーク

「俺も居た方が良いか？」

エル

「はいっ！　勿論です！」

　曇りかけていたエルの表情が、一気に明るくなった。

ヨーク

「っ……そうか」

ヨーク

「それじゃあ俺たちも、一緒に行くよ」

バニ

「シスコン」

　バニが、脇腹をつつくような声で言った。

ヨーク

「うるせえ」

エル

「？」

フルーレ

「楽しみだ」

フルーレ

「明日はここに、９時集合で良いか？」

バジル

「良いぜ」

フルーレ

「うん」

フルーレ

「それじゃあ、今日はこれで」

バニ

「ええ」

　話が終わるとフルーレたちは、広場から去った。

バジル

「さて、メシにでも行くか？」

ミツキ

「…………」

　……。

　夜。

　食堂で夕食を済ませたバジルたちは、宿への道を歩いていた

キュレー

「凄かったね。ヨークくん」

バニ

「……ええ。だけど……」

バニ

「凄くなりすぎちゃった気がする」

キュレー

「不安？」

バニ

「……うん」

キュレー

「大丈夫だよ。家隣だし。ね？」

　キュレーはそう言って、バジルに視線をやった。

バジル

「俺に振るんじゃねえよ」

ドス

「なあ」

バジル

「どうした？」

ドス

「やけに静かだ……っ！」

　突如、左右の建物の屋根に、多数の人影が現れた。

　そのうちの２０人ほどが、弓を構えていた。

　敵襲だ。

　数が多い。

　矢の雨が降った。

キュレー

「えっ……？」

バジル

「キュレー！」

　バジルはキュレーを抱きしめた。

　そして、襲撃者たちに背を向けた。

　バジルの背中に、矢が何本も突き刺さった。

バジル

「あ……」

　矢は深く刺さり、臓腑を貫いていた。

　バジルの体が、ずるりと崩れ落ちた

キュレー

「バジルくん！？」

キュレー

「バジルくん！　バジルくん！　バジルくん！」

　キュレーは、バジルの隣で腰を落とし、ただ彼の名を呼んだ。

　バジルは何も答えなかった。

ドス

「キュレー！　立て！」

キュレー

「あ……ああぁ……」

　キュレーは息を止めたバジルの傍に座りこみ、動けなかった。

バニ

「うぅ……」

　バニのうめき声がして、ドスは彼女に視線を向けた。

　バニの肩に、矢が刺さっているのが見えた。

ドス

「くっ……！」

　自分が戦うしかない。

　そう思い、ドスは１人抜刀した。

　屋根の上から、槍を構えた襲撃者たちが、飛び降りてきた。

　ドスは剣で、槍の一撃を防いだ。

　だが、その隙に、別の槍が突き込まれた。

　ドスの横腹に、槍が突き刺さった。

ドス

「があっ……！」

　ドスの視線が、自身の左手に移った。

　その中指に、念話の指輪が有った。

ドス

（ヨーク……！）

　ドスの念は、届かなかった

　剣を持った襲撃者が、ドスの手首を斬り飛ばしていた。

　指輪のはまった手が、地面へと転がった。

　襲撃者はそのまま、ドスの首の、側面を狩った。

ドス

「…………」

　頚動脈から勢い良く血が飛んだ。

　ドスの体が地面に倒れ、びくびくと震えた。

バニ

「いや……」

バニ

「いやああああああああぁぁぁっ！」

　バニの絶叫が、街路に響いた。

　……。

　翌日、とある廃屋の古井戸に、４人の冒険者の遺体が沈んだ。

　数ヵ月後、遺体が発見された。

　その事件は、新聞の片隅を彩った。

　小さく。

　冒険者の死など、誰も気にしなかった。

　ただ、月狼族の少女だけが、沈痛な面持ちで、その記事を見ていた。

　ヨーク＝ブラッドロードは、新聞を読まない。

　友人は、自分を見放して、去っていった。

　そう感じ、傷ついた。