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5の6「兄と妹」



キュレー

「王都だと差別が当たり前みたいにあって、闇ギルドみたいな連中も居た」


キュレー

「優しいヨーク君を、王都が傷つけると思った」


キュレー

「だからヨーク君が、王都に来たいと思わないようにしようと思ったの」


ヨーク

「それで俺をボコったのか?」


キュレー

「バジル君はね、純粋にヨーク君に勝ちたかったんだと思うよ」



 キュレーはそう言って、バジルを見た。



バジル

「…………」



 バジルは無言のまま、ヨークのそっぽを向いていた。



ヨーク

「…………? まあ良いや」


バジル

「良いのかよ」



 バジルが顔を、ヨークの方へ向けた。



ヨーク

「済んだことだしな。俺もやり返したし」


ヨーク

「ワンパン入れたらスッキリしたよ」


バニ

「ふふ。ヨークらしいね」


ヨーク

「ん」


ヨーク

「で……俺の家族を探してたのか?」


バニ

「ええ」


バニ

「あなたのお母さんは、死んだってことになってるけど、違うの」


バニ

「本当は、あなたが産まれたばかりの頃、村を出て行った」


バニ

「理由は分からない」


バニ

「何にせよ、良い理由じゃない可能性の方が高かった」


バニ

「それで、死んだってことにしようって……」


ヨーク

「蚊帳の外かよ。俺は」



 大事なことを、幼馴染たちは、ずっと黙っていた。


 彼らなりに、考えが有るというのはわかる。


 だがそれでも、ヨークは不満だった。



バニ

「ごめん」



 バニの方も、秘密を黙っていたことが、完全に良いことだとは思っていない。


 後ろ暗い気持ちは有る。


 だから、素直に謝ってみせた。



ヨーク

「……どうして今になって、話そうって思ったんだ?」


ドス

「お前が強くなったからだ。俺たちの想像を遥かに超えて」


ドス

「どうやら、俺たちは過保護だった」


ドス

「強者であるお前には、自分の過去と向き合う権利が有る」


ヨーク

「弱くても話せよって思うんだが」


ヨーク

「俺自身のことなんだから」


ドス

「わがままだったんだ。俺たちは」


ヨーク

「…………」


ヨーク

「妹が居るのか? ここに」


ミツキ

「おそらくは」


ミツキ

「ですが彼女は、魔族と黒翼族とのハーフではありません」


ミツキ

「おそらくは、人族と黒翼族のハーフです」


バジル

「チッ……。種違いかよ」



 ミツキの言葉を聞いて、バジルの眉間に、大きなシワができた。



ミツキ

「……ヨークは妹さんに会いたいですか?」


ヨーク

「妹は……元気にやってんのか?」


ミツキ

「奴隷としてはありえないほどの好待遇で、良家に仕えています」


ミツキ

「王都の第3種族としては、幸福な部類だと言えるでしょう」


ヨーク

「そうか」


ヨーク

「幸せにやってるなら、わざわざ名乗り出ることもねーかな」


ミツキ

「……それで良いのですね?」


ヨーク

「ああ」


ヨーク

「ポッと出の俺に、兄貴だなんて言われても困るだろうし」


ヨーク

「それに、父親も違うんじゃあな」


ヨーク

「気まずくなるかもしれねえしさ」


ヨーク

「けど……」


ヨーク

「一目くらい、見てみたいかもしれねえ」


ミツキ

「それなら、会いに行きましょう」


ミツキ

「それが彼らの命を救うことにも、繋がりますから」


ドス

「俺たちが、殺されるという話だったな?」


ミツキ

「はい」


キュレー

「相手は闇ギルド?」


ミツキ

「はい」


ミツキ

「冒険者ギルドからの依頼がきっかけで、あなたがたは闇ギルドと敵対します」


ミツキ

「そして、殺されてしまう」


バニ

「それなら、その依頼を受けなかったら良いのかしら?」


ミツキ

「どうでしょうね」


ミツキ

「あなたがたは少々、目立ちすぎてしまったようですから」


ミツキ

「目障りに思った闇ギルドが、あなたがたを除こうとする可能性も有ります」


ミツキ

「まあ、これは推測ですけどね」


ミツキ

「とにかく、依頼は絶対に受けて下さい」


バニ

「どうして?」


ドス

「依頼の場にはヨークの妹も来る。そうだったな?」


バニ

「あっ、そっか」


ミツキ

「はい。そして……」


ミツキ

「依頼には、私たちも同行させて下さい」


ミツキ

「あなたがたは、我々が守ります」




 ……。




 後日。


 ヨークはバジルたちと共に、冒険者ギルドへと向かった。


 すると……。



ザンボ

「バニ」



 ギルド内で、ギルド長のザンボが、バニに声をかけてきた。



バニ

「ギルド長」


ザンボ

「ちょっと奥で話良いか?」


バニ

「私だけですか?」


ザンボ

「全員だ……と言いたかったんだがな」


ザンボ

「その2人は何者だ?」



 ザンボはそう言って、バニたちの後ろに視線を向けた。


 そこに、ヨークとミツキが立っていた。


 ミツキはフードを被っていたため、容姿がはっきりとしなかった。



ヨーク

「…………」



 何か言うべきか。


 ヨークが迷っていると、バニがザンボに答えた。



バニ

「新しい仲間です」


ザンボ

「信用出来るのか?」


バニ

「はい。同じ村の出身ですから」


ザンボ

「分かった。一緒に来てくれ」



 一行は、ギルドの応接室へと向かった。


 部屋に入ると、バジルたちはソファに座った。


 ヨークとミツキは、ソファの後ろに立ち、様子を見守った。



バジル

「それで?」


ザンボ

「今が貴族連中の、社交シーズンだってのは知ってるか?」


バジル

「いや。それが?」


ザンボ

「今、国中の貴族が、この国の王都に集まって来てる」


ザンボ

「加えて、今は成人式の季節だ」


バジル

「で?」


ザンボ

「先日成人式を終えた貴族が、迷宮に潜りたいという話でな」


ザンボ

「お前達には、その護衛を頼みたい」


バジル

「良いぜ」



 バジルは快諾した。


 普段なら、面倒だと断ったかもしれない。


 だが、ミツキの話を聞いていれば、断ることなどできなかった。



ザンボ

「引き受けてくれるか」


バジル

「ギルド長直々の頼みだからな。断れねえだろ」


ザンボ

「すまんな」



エル

「いけません! お嬢様!」




 応接室の外から、若い女性の声が聞こえた。


 それからすぐ、扉が開いた。


 軽装の金属鎧を身にまとった少女が、部屋に入ってきた。


 彼女の名がフルーレ=メイルブーケだということを、ミツキは知っていた。


 フルーレの後ろには、銀髪の少女の姿も見えた。


 銀髪の少女は、メイド服姿で、背にはコウモリのような翼が生えていた。



フルーレ

「まだかギルド長! 待ちくたびれたぞ!」



 フルーレはそう言ってから、バジルたちを見た。



フルーレ

「おお……! お前たちが仲間か。よろしく頼む」


バジル

「おう」



 空気を読まない女は、バジルは嫌いだ。


 だが平然として、フルーレに答えてみせた。



ザンボ

「……バジル、平気か?」



 バジルの性分を知っているザンボが、気遣うように尋ねた。



バジル

「何がだ? 問題ねえよ」


ザンボ

「……そいつは良かった。彼女がくだんの依頼人だ」


フルーレ

「私はフルーレ=メイルブーケ。メイルブーケ迷宮伯家の次女だ」


バジル

「メイルブーケ……」


バジル

「大物じゃねえか」


フルーレ

「大物か。父をそう言ってもらえるとは、誇らしいな」


フルーレ

「それで、彼女は専属メイドのエルだ」


エル

「はじめまして」



 エルはバジルたちに向かい、ぺこりと頭を下げた。



バジル

「ああ」


ヨーク

「……………………」



 ヨークはエルを、じっと見てしまっていた。


 どうしてか、目をはなせなかった。



エル

「あの……?」



 エルは、ヨークの視線に気付いたようだ。


 ふしぎそうな顔になった。



ヨーク

「っ……。悪い」



 不自然なことをしてしまった。


 そう思ったヨークは、慌てて視線を逸らした。



エル

「あの、何か粗相をいたしましたでしょうか?」


バジル

「いや。お前は何も悪くねぇ」


バジル

「どうやらコイツは、アンタに見惚れちまったらしい」


エル

「えっ……!?」



 バジルの言葉を受けて、エルの耳が赤くなった。


 恋愛慣れしていないのか。


 それともまんざらでもないのか。


 初対面であるヨークたちには、分からないことだった。



ヨーク

「いや、俺は……」



 妹に、気が有ると思われるのはまずい。


 そう思ったヨークは、弁解をしようとした。



バジル

「照れんなよ」



 ヨークが何か言おうとしたのを、バジルが笑って遮った。


 悪い笑みだった。



ヨーク

「ふざけんなよ」



 ヨークはバジルを睨みつけたが、バジルは楽しそうだった。



バジル

「ハハッ」


フルーレ

「むぅ……」



 話の主役が、エルに移ってしまった。


 そう思ったフルーレは、不満そうな様子を見せた。



エル

「あっ……」



 エルはそんなフルーレの様子を、素早く察知した。


 そして、大声で言った。



エル

「私なんかより、お嬢様の方が綺麗ですから! お嬢様に見惚れて下さい!」


エル

「私は奴隷ですから……あなた様のような素敵なお方とは釣り合いませんし……」


ヨーク

「んなことねえよ。エルは綺麗だ」



 ヨークは断言した。


 妹を褒めるのは、兄の義務だ。


 そう思っているのかもしれない。



エル

「あぅ……」



 褒められ慣れていないのか。


 エルは真っ赤になり、うつむいてしまった。



フルーレ

「……依頼人は私なんだが」


バジル

「そうだな。話してくれ」


バジル

「特に報酬の話なら、大歓迎だ」




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