5の4「再戦とあっさりとした決着」
ヨークのレベルを修正しました。
バジル
「…………」
バジル
「はぁ?」
バジル
「つーか、誰だよテメェは」
バジルはミツキに対し、いきなり現れて好き放題言ってんじゃねーぞという顔をした。
ミツキ
「私はミツキ」
ミツキ
「ヨークのパートナーです」
バニ
「えっ? えっ?」
キュレー
「えっ? どういうこと?」
キュレー
「ヨーク君は、バニちゃんと結婚するんじゃないの?」
ヨーク
「えっ? 初耳だけど」
バニ
「えっ?」
キュレー
「だって、ヨーク君とバニちゃんは、家となりでしょ?」
ヨーク
「言われてみれば、そうだな」
ミツキ
「えっ? 納得するんですか? それで」
ヨーク
「そういえば、お前とバジルも家となりだよな」
キュレー
「ふふっ。そうだよ」
バジル
「ゴチャゴチャうるせえっ!」
馴れ合いが始まり、本題が進まない。
業を煮やしたバジルが、一行を怒鳴りつけた。
キュレー
「うう……鼓膜が……」
隣で大声を出されたキュレーは、顔をしかめ、手のひらで片耳を押さえてみせた。
場が静まったのを見ると、バジルはミツキを見て、目を細めた。
バジル
「……結局何なんだよ。その女は」
ミツキ
「込み入った話になります。ひとけの無い所で、お話出来ませんか?」
バジル
「…………」
バジルは、ギルドの出入り口に向き直った。
バジル
「ついてこい」
キュレー
「換金は?」
バジル
「後で良いだろ」
バジルを先頭に、一行は冒険者ギルドを出た。
そして、大きな家屋の、庭に移動した。
その家の外見は、見るからに古びていた。
廃屋のように見えた。
ミツキ
「ここは……」
その廃屋には、井戸が有った。
ミツキはその井戸を、じっと見つめた。
その様子を見て、ヨークが尋ねた。
ヨーク
「来たこと有るのか?」
ミツキ
「いえ。直接はありませんが」
バジル
「お前……」
ミツキ
「何か?」
バジル
「入れよ」
ヨークたちは、廃屋の中へと入っていった。
中は埃っぽかった。
まともに手入れはされていないようだ。
ヨークたちは、応接室へ移動した。
その部屋だけは、なぜか小綺麗だった。
きちんと掃除がされているようだった。
部屋の中には、四人掛けの大きなソファが、2つ有った。
2つのソファは、向かい合うように置かれていた。
その間に、ローテーブルが置かれていた。
テーブルの上には、中身入りの酒瓶が見えた。
バジルたちは、ソファの片方に腰かけた。
ヨークとミツキは、その向かいに座った。
6人が着席すると、バジルがまっさきに口を開いた。
バジル
「俺が話す。お前らは黙ってろよ。うるせェから」
ドス
「分かった」
バジル
「…………で?」
バジルはヨークを睨んだ。
喧嘩に負けた直後のヨークなら、萎縮してしまっていたかもしれない。
今、ヨークは揺るがなかった。
落ち着いた顔で、まっすぐにバジルを見返していた。
バジル
「ヨーク。どうして王都に来た?」
バジル
「前に……分からせてやったはずだがな?」
バジル
「分からなかったか? それとも、忘れっちまったのか?」
ヨーク
「ミツキの話を、聞いて欲しいんだが」
バジル
「知るかよ」
バジル
「答えろヨーク。どうして王都に来た」
ヨーク
「自分の道を、見つけたからだ」
ヨーク
「俺は強くなった」
ヨーク
「だからここに来た」
バジル
「強くなっただと?」
バジル
「もう1回、分からせてやろうか?」
そう言って、バジルはソファから立ち上がった。
バニ
「ちょっと……! バジル……!」
血の気の多いバジルを、バニが止めようとした。
だが……。
ヨーク
「良いぞ」
肝心のヨークが、そう発言した。
バジル
「は?」
バニ
「えっ?」
バジルとバニは、呆気にとられた様子だった。
ヨークはバニに、ほほえみかけた。
ヨーク
「バニ。心配しないでくれ」
バニ
「そんなこと言ったって……」
以前バニは、ヨークが叩きのめされるのを、間近で見ている。
心配を隠せない様子だった。
ヨーク
「だいじょうぶ」
ヨーク
「俺は強くなった。それと……」
ヨーク
「俺が勝ったら、ミツキの話をマジメに聞いて欲しい」
バジル
「本気か?」
ヨーク
「本気だ」
バジル
「表に出ろ」
ヨーク
「ああ」
6人は、庭へ移動した。
他の4人に見守られる形で、ヨークとバジルは向かい合った。
2人は剣を構えた。
バジル
「村のナマクラじゃねえな」
ヨークの剣を見て、バジルはそう言った。
村に有る剣は、古いものばかりだ。
ヨークの剣は新品で、それなりの物に見えた。
ヨーク
「折れそうだったんでな。買い換えた」
バジル
「装備は一人前かよ。……行くぞオラァ!」
短期なバジルは、かけ声を試合開始の合図にして、ヨークに斬りかかった。
人によっては、これを不意打ちだと思ったかもしれない。
だが、ヨークは気にしなかった。
ヨーク
「…………」
バジル
「ガァ……ッ!?」
バジルの剣が、ヨークに届くことはなかった。
バジルの腹に、ヨークの拳が突き刺さっていた。
剣を持った相手に、拳を叩き込むのは楽では無い。
今の2人の間には、大きな実力差が有る。
この光景は、それを証明していた。
バジル
「……………………」
ヨークの拳は、威力も並では無かった。
バジルはその場で崩れ落ちた。
……。
バジル
「…………」
少しして、バジルは目を覚ました。
その視線の先に、キュレーの顔が有った。
キュレー
「おはよう」
そこは、応接間のソファの上だった。
バジルはキュレーに、膝枕をされていた。
バジル
「俺は……」
ドス
「お前は負けた」
ドスがそう言った。
ドスは、ソファの隣に立っていた。
バジルは首を回し、向かいのソファを見た。
そこにヨークが座っていた。
その両隣には、ミツキとバニの姿も有った。
バジル
「そうか」
バジル
「また、俺の負けかよ」
バジルは上体を、持ち上げた。
バジルの後頭部から、キュレーの太腿の感触が消えた。
バジルはソファに座りなおした。
そして、ヨークに声をかけた。
バジル
「レベルは?」
ヨーク
「1500くらいだ」
バニ
「1500!?」
その数値は、王都の冒険者の常識から、大きく外れている。
バニは素直な驚きを見せた。
ドス
「『敵強化』の力か?」
冷静な口調で、ドスが尋ねた。
彼は、あまり驚いていないように見えた。
ヨーク
「そうだ」
ヨークは簡潔に答えた。
バニ
「どういうこと?」
2人だけで納得されても困る。
バニがドスに説明を求めた。
ドス
「敵を強化すると、入手出来るEXPも上昇する」
ドス
「違うか?」
ヨーク
「そこまで分かるのか」
今までヨークは、バジルたちを驚かせる側だった。
そんなヨークが、初めて小さな驚きを見せた。
ドス
「ずっと考えていた」
ドス
「お前ほどの男が、どうして、何の役にも立ちそうにないスキルを、授かったのか」
ドス
「スキルとは、持ち主を助けるものだ」
ドス
「デメリットしか無いスキルが存在するなど、考え難かった」
ドス
「デメリットが存在するのなら、それに相応しいメリットが有ると思った」
ドス
「そう考えたとき、EXP上昇という効果は、最もそれらしいように思えた」
ヨーク
「ちなみに、他のアイデアは?」
ドス
「たとえば、敵を強化することで、ドロップアイテムが手に入るとか……」
ドス
「あるいは、敵が急激な強化に耐えられず、自壊するとかだな」
ミツキ
「鋭い……」
バニ
「ヨークは、ずっと危険な敵と戦ってきたってこと?」
ヨーク
「危険っつーか、レベルが上の相手とは、戦ってきたな」
ヨーク
「けど、今はミツキが居てくれるし、本当に死にかけたのは、最初の方だけだ」
バニ
「死……?」
キュレー
「っ…………」
ドス
「…………」
バジル
「…………」
4人の空気が、暗く沈んだ。
心配させてしまったかもしれない。
そう思ったヨークは、苦笑いを浮かべた。
ヨーク
「ちょっと、やり方を間違えてな」
バニ
「ごめんなさい……私のせいで……ごめんなさい……」
ヨークの予想より大きく、バニは傷ついているように見えた。
自分が危険な目にあったのは、自分の選択の結果だ。
バニが傷つくようなことでは無い。
ヨークはそう思って、バニに声をかけた。
ヨーク
「別にお前のせいじゃないと思うぞ」
ドス
「いや。俺たちのせいだ」
ヨーク
「…………?」
ドスの断言に対し、ヨークの頭上に疑問符が浮かんだ。
ドス
「俺たちのエゴで、お前を追い詰めた」
ヨーク
「エゴって……」
ヨーク
「使えないと思ったやつを置いてくなんて、普通のことだろ?」
バニ
「違うの!」
ヨークの言葉を、バニは大声で否定した。
バニ
「私たちは……ヨークが足手まといだから置いて行ったんじゃないの……」
ヨーク
「…………?」
ドス
「バジル。話しても良いな?」
ドス
「ヨークはもう、俺たちよりも遥かに強い」
ドス
「これ以上秘密にしても、自己満足にしかならないだろう」
バジル
「……好きにしろ」
ドス
「心して聞いてくれ。ヨーク、お前は……」
ミツキ
「第3種族」
ドスの言葉を遮って、ミツキが口を開いた。
ヨーク
「えっ?」
バニ
「っ……!」
バジル
「テメェ……!」
バジルは勢いよく、ソファから立ち上がった。
そして剣を抜き、ミツキに殺意を向けた。
ミツキ
「そう睨まないで下さい」
ミツキ
「私はあなた方の、敵ではありません」
バジル
「いつ知った? ヨークのことを」
ミツキ
「最初から」
ミツキはフードを外した。
狼の耳が、露になった。
バニ
「えっ……?」
ミツキ
「それが私のスキルですから」




