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その10「首輪と命令」

異世界漫才にジャパニーズミームのような描写が見られますが、多分ホンヤクの都合です。




 結局、ミツキはヨークを主人として登録することに決めた。



ヨーク

「それで、どうやれば良いんだ?」


ミツキ

「まず、親指の腹に刃物で傷をつけて下さい」


ヨーク

「えっ? 痛いじゃん?」


ミツキ

「やりなさい」


ヨーク

「ちぇっ……」



 ヨークは腰の長剣を軽く清めると、右手の親指を裂いた。


 本当は清潔な短剣でも使った方が良いのだが、ヨークは頓着しない。


 斜めに入った傷から血液が流れた。



ヨーク

「あ~……痛……」


ヨーク

「それで?」


ミツキ

「その指で、首輪正面の丸い所に触れて下さい。それで登録は成るはずです」


ヨーク

「触る? それだけか?」


ミツキ

「それだけのようです」


ヨーク

「そうか」



 ヨークはミツキの首輪に右手を伸ばした。


 首輪の正面部分には、皿のような窪みが有る。


 その窪みに、血塗れの親指が触れた。


 首輪が輝いた。


 そして、ミツキの全身が赤い光に包まれた。



ミツキ

「んっ……」



 ミツキは身を震わせた。


 少しすると光は収まった。



ヨーク

「大丈夫か?」


ミツキ

「はい。終わりました」


ヨーク

「終わったなら……行くか」


ミツキ

「待って下さい」


ヨーク

「まだ何か有るのか?」


ミツキ

「指を治した方が良いでしょう。こちらに寄越して下さい」


ヨーク

「ああ……」



 ヨークは一度下げた手を、再びミツキに伸ばした。


 ミツキは両手でヨークの手を包むように持った。


 そして……。



ミツキ

「ちゅっ……」


ヨーク

「えっ?」



 ミツキはヨークの親指を口に含んだ。


 ミツキの舌がぐいぐいと傷口に押し当てられた。


 温かい。


 ヨークは傷が癒えていくのを感じた。


 傷が塞がると、ミツキはヨークの指から口を離した。



ミツキ

「あ……」



 不味いことをしたかもしれない。


 事が終わってからそう思い当たったのだろう。


 ミツキは顔を背けて言った。



ミツキ

「弟が怪我した時なんかに、こうしてたので、つい……」



 ヨークはそれほど気にした様子も無く、自身の親指を見た。



ヨーク

(塞がってる……)



 そこには、剣でつけた傷は、跡形も無くなっていた。



ヨーク

「ありがと」



 ヨークは感謝の笑みを浮かべた。



ミツキ

「いえ」


ヨーク

「レベル1なのに、もう治癒術を使えるんだな? それも無詠唱で」


ミツキ

「えっ? はい。そうですね」


ヨーク

「聖騎士……思ったより優秀なんだな?」


ミツキ

「待って下さい」


ヨーク

「ん?」


ミツキ

「自分で良く分からないクラスを、人に選ばせたのですか?」


ヨーク

「ざっくりとは知ってる。予想以上だったってだけだ」


ミツキ

「……どうして私を聖騎士に?」


ヨーク

「回復役が欲しかった」


ヨーク

「けど、前衛の居ないパーティに、治癒術師や賢者は入れられない」


ヨーク

「だから、自分で身を守れる聖騎士にした」



 治癒術を使えるクラスと言えば、治癒術師、賢者、聖騎士だ。


 その中で前衛をこなせるのは聖騎士だけだった。


 2つの役割をこなせ、生存力も高い聖騎士は、少人数のパーティで特に有用だった。


 他にマイナーなクラスも有るが、それらを選ぶ冒険者は滅多に居ない。



ヨーク

「聖騎士が治癒術を使えるのは、レベルが上がってからと思ってたが、違ったんだな」


ヨーク

「それに、呪文を覚えるための瞑想も……」


ミツキ

「個人差が有るのかもしれませんね」


ヨーク

「そういうもんか?」


ミツキ

「はい」


ヨーク

「そうだ……。スキルは?」


ミツキ

「『収納』です」


ヨーク

「有名なレアスキルだな」


ミツキ

「そうなのですか?」


ヨーク

「『収納』持ちは、どのパーティも欲しがるってくらい、便利なスキルだって聞いた」



 ちなみに、情報源はアネスだ。



ミツキ

「なるほど。引く手あまたですか」


ミツキ

「短い付き合いでしたね」



 ミツキはくすりと笑ってヨークに背を向けてみせた。



ヨーク

「待てって」


ミツキ

「はい」


ヨーク

「とりあえず俺と来いよ。後悔はさせねーから」


ミツキ

「首に一撃貰った時点で、大分後悔しているのですがねぇ」


ヨーク

「……悪かったって」


ミツキ

「許します」


ヨーク

「ありがと」


ヨーク

「それじゃ、行くか」


ミツキ

「はい」


ヨーク

「まずはお前のレベルを上げよう」


ミツキ

「分かりました」


ヨーク

「そうだ。町を出る前に何か買っておきたい物は有るか?」


ミツキ

「ええと……」


ミツキ

「医薬品などを」



 ミツキは少し言いづらそうに言った。



ヨーク

「風邪薬なら有るぞ」


ミツキ

「そうでは無く……」


ヨーク

「腹痛の薬も有る」


ミツキ

「あなたって最低のクズですね」


ヨーク

「えっ」



 釈然としないヨークだったが、一応はミツキに従った。


 町の中央まで戻り、ミツキのデリケートな買い物を済ませた。


 何を買ったのか、ミツキは教えてはくれなかった。


 一人で店に入り、買った物もとっととスキルで『収納』してしまった。


 またクズ呼ばわりされても嫌なので、ヨークは何も言わなかった。




 買い物を済ませると、ヨークたちは町を出た。


 そして、自警団に居た時のように、魔獣を探した。


 一時間ほどして、ヨークたちは魔獣を発見した。



_________________________



毒鼠 レベル4 耐性 毒 弱点 炎 氷 雷


_________________________




ヨーク

「居たな」



 ヨークたちが見つけたのは、毒鼠という魔獣だった。


 その名の通り、牙に毒を持つ鼠で、体長は120センチほど。


 ハインス村の周囲では見ない種類だった。




ミツキ

「はい」


ミツキ

「私はどうすれば……」


ヨーク

「とりあえずそこで見ておいてくれ」


ミツキ

「それで良いんですか?」


ヨーク

「今回だけな」



 ヨークは、近付いてくる毒鼠に手のひらを向け、唱えた。



ヨーク

「『敵強化』」



 毒鼠の体が輝いた。



ミツキ

「……?」


ヨーク

(『戦力評価』)



_________________________



毒鼠 レベル36 耐性 毒 弱点 炎 氷 雷


_________________________




 ヨークは抜刀し、毒鼠を迎え撃った。


 毒鼠は、同じレベルの赤狼と比べると、動きが鈍かった。


 特に苦戦することもなく、ヨークは鼠を斬り倒した。



ヨーク

「良し」


ミツキ

「???」


ヨーク

「レベルを確認してみろ」


ミツキ

「はい」



 ミツキは目を閉じた。



___________________________



ミツキ=タカマガハラ



クラス 聖騎士 レベル32


___________________________




ミツキ

「あっ。いっぱい上がってる」


ヨーク

「いくつになった?」


ミツキ

「32です。その……」


ミツキ

「『敵強化』というのは?」


ヨーク

「俺のスキルだ」


ヨーク

「俺は敵のレベルを上げ、手に入るEXPを高めることが出来る」


ミツキ

「EXP?」


ヨーク

「魔獣を殺すことで手に入る力だ」


ミツキ

「なるほど」


ヨーク

「スキルのこと、あまり他言はするなよ?」


ミツキ

「どうしてですか?」


ヨーク

「俺のスキルは強力だからな。騒ぎになると困る」


ミツキ

「自惚れててキモい……」


ヨーク

「……………………」


ヨーク

「お前、剣を持ったことはあるか?」


ミツキ

「全く」


ヨーク

「俺の剣を貸すから、ちょっと振ってみろ」


ミツキ

「はい」



 ミツキはヨークから剣を受け取り、振った。



ヨーク

「うわっ」



 想定外の惨状だった。


 ヨークはうめき声を上げた。



ミツキ

「うわっ?」


ヨーク

「……なるほど。レベルが全てじゃ無いんだな」


ミツキ

「何ですかその不満そうな顔は」


ヨーク

「別に」


ヨーク

「レベル1ケタの、村の連中の方が、よっぽどマシだと思っただけだ」


ミツキ

「失礼ですね!?」


ミツキ

「……剣が悪いのではないですか?」


ヨーク

「うわ~。コイツうわ~」



 道具のせいにするという、下手クソあるあるを見せたミツキを、ヨークは煽ってみせた。



ミツキ

「し……仕方ないではないですか! 初めてなのですから!」



 ミツキは頬を赤くして怒った。



ヨーク

「まあな」


ミツキ

「……どうしたらアナタを満足させられますか?」


ヨーク

「数をこなすしか無いだろ」


ミツキ

「数……ですか」


ヨーク

「これから毎日剣を振ろうぜ?」


ミツキ

「はい」


ヨーク

「この先の敵は、全部お前が倒せ」


ミツキ

「私が……?」


ヨーク

「最初は『敵強化』は使わない。レベル差が有るから大丈夫なはずだ」


ミツキ

「はい!」





__________



毒鼠 レベル4


__________





ミツキ

「ひえええええっ!」



 なんということでしょう。


 そこには毒鼠から逃げ回る、ミツキの姿が有った。


 レベル差は8倍。


 普通に戦えば楽勝のはずなのだが……。



ヨーク

「なんで逃げんだよ!? 逃げたら戦いにならねえだろ!?」


ミツキ

「だって……だってぇっ……!」



 走り回りながら、ミツキは少し涙声になっていた。



ヨーク

「クソ……」



 ヨークは鼠に杖先を向けた。



ヨーク

「赤破」



 ヨークの攻撃呪文が鼠に直撃した。


 鼠は一撃で消滅した。


 鼠が死んだのが分かると、ミツキは足を止め、膝に手をついた。



ミツキ

「ひぃ……ひぃ……」


ヨーク

「…………」


ヨーク

「強さ以前の問題だな」


ミツキ

「おかしい……こんなはずでは……」


ヨーク

「どんなはずだったんだよ……」


ヨーク

「……なぁ」


ミツキ

「はい」


ヨーク

「奴隷に命令するのってどうやるんだ?」


ミツキ

「……………………」


ヨーク

「何だよその顔は」


ミツキ

「変態」


ヨーク

「違ぇよ!?」


ヨーク

「ただ俺は、命令で強制的に、お前を戦わせられないかと……」


ミツキ

「外道」


ヨーク

「いや、そうだけどさ?」


ヨーク

「無理にでも、戦ってる内に、ヘタレが克服できるかもしれねえだろ?」


ミツキ

「ヘタ……」



 ミツキは渋柿を噛んだような顔になった。



ヨーク

「そう思ったけど……まあ悪趣味だったな。悪い」


ミツキ

「私に命令をしたければ、『命令する』と言えば良いです」


ヨーク

「ミツキ?」


ミツキ

「まあ、理に適っているような気は、しますし?」


ミツキ

「私が貴方を選んだのですから」


ヨーク

「……そうか」


ヨーク

「命令する」


ミツキ

「っ……」



 初めての命令を前に、ミツキの体が強張った。



ヨーク

「以後、一切の命令に服従せず、自分の考えで行動しろ」


ミツキ

「え……?」



 ミツキの肩から力が抜けた。



ミツキ

「あなたは……………………」


ミツキ

「ホモなのですか?」


ヨーク

「なんでそうなる!?」


ミツキ

「私のような美少女への命令権を手放すようなことを言うなんて……」


ヨーク

「美少女? ハハッ」



 ヨークは顔芸でミツキを煽った。



ミツキ

「…………」


ミツキ

「まあ、あのような大雑把な命令が、有効だとは思えませんが」


ヨーク

「そうなのか?」


ミツキ

「おそらくは」


ヨーク

「……命令する。右手を上げろ」


ミツキ

「はい」



 ミツキはヨークの言葉に従って左手を上げた。



ヨーク

「……駄目か」


ミツキ

「そのようですね。首輪の力は健在です」


ミツキ

「ふふふ。なんか面白いので、もっと命令してみませんか?」



 そう言ったミツキの尻尾は、パタパタと揺れていた。



ヨーク

「しねぇよ」


ミツキ

「ちぇっ」


ヨーク

「しかし……どうするかな……」


ミツキ

「さっきの案で行きましょう」


ヨーク

「さっき? 何だっけ?」


ミツキ

「私を命令で、強制的に戦わせるというものです」


ヨーク

「あんま気が乗らんが……」


ミツキ

「代案は?」


ヨーク

「お前をクビにする」


ミツキ

「さ、行きましょう。ガンガン命令して下さい。ガンガン行こうぜと」


ヨーク

「良いのかよ?」


ミツキ

「貴方の命令で動くというのは癪ですけどね」


ミツキ

「他に案が無いのだから、仕方が無いでしょう?」


ヨーク

「まぁ……うん……」


ヨーク

「けど……俺の村は……奴隷なんて居なくて……」


ミツキ

「向こうに狼が見えます」



 ミツキは遠方を指差した。



ヨーク

「あ? うん」



 ヨークはミツキの指差す方を見た。


 そこには確かに、魔獣の姿が見えた。


 既に魔獣の方は、ヨークたちに気付いている様子だった。


 相手は大したレベルの魔獣では無い。


 だが、それは結果論だ。


 もし強敵に近付かれていたら不味かったかもしれない。


 実際は、このような場所に、ヨークを脅かすレベルの魔獣が出ることは、無いのだが……。


 油断しすぎたかなと、ヨークは思った。



ミツキ

「しっかりして下さい。あなたがパーティリーダーでしょうが」


ミツキ

「さあ、命令して下さい。私に戦えと」


ヨーク

「…………」


ヨーク

「命令する。あそこに見える敵を倒せ」


ミツキ

「承りました。ご主人様」


ヨーク

「ごしゅ?」


ミツキ

「ふふっ。行ってきます」



 長剣を手に、ミツキは敵へと駆けていった。


 ヨークはミツキの戦いを遠くから見守った。


 不格好な、素人くさい剣が、狼を斬り倒すのが見えた。


 ミツキの勝利だった。




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