5の3「目標と再会」
『スライムだけ倒して最強になるのどうなん?』と思ったので
スライムレベリングを下方修正しました。
修正に抜けが有ったらすいません。
ミツキ
「ですが、まだ余裕は有りましたよね?」
ヨーク
「そうだな」
さきほどのスライムは、レベルだけ見れば、遥かに格上だった。
だが、死闘をこなしたという感覚は無かった。
処理に近かった。
もっとレベルを上げていても、楽に戦えたかもしれない。
ヨーク
「レベルは……」
______________________________
ヨーク=ブラッドロード
クラス 暗黒騎士 レベル187
______________________________
ヨーク
「やば……」
ミツキ
「本日のノルマまで、あと半分ですね」
ヨーク
「ノルマとか有ったのかよ」
ミツキ
「1日に、100は上げたいと思っていました」
ヨーク
「それじゃ、あと2体くらいは狩るか」
ミツキ
「はい」
ヨーク
「しかし……これだけ効率が良いのに、前の俺は思いつかなかったんかな」
ミツキ
「思いつかなかったわけでは無いと思いますよ」
ヨーク
「うん?」
ミツキ
「これは私の想像ですけど……」
ミツキ
「ヨークは、強くなりすぎるのが嫌だったのではないでしょうか?」
ヨーク
「どういうことだ?」
ミツキ
「あなたの成長速度は、早すぎました」
ミツキ
「魔術師だというのに、斬り合いで戦士を圧倒するほどに」
ミツキ
「命懸けの迷宮探索も、あなたにとっては散歩でしか無かった」
ミツキ
「あのまま行けば、あなたの隣に立てるものは、誰も居なくなってしまう」
ミツキ
「だから暗黒騎士になるという選択肢も、選ばなかったのかもしれません」
ミツキ
「聖女の試練で、手枷を嵌められた時……」
ミツキ
「あなたは少し、楽しそうだったらしいですよ」
ヨーク
「聖女?」
ミツキ
「それはまた、今度お話しますね」
ミツキ
「とにかく、あなたは成長が早すぎる自分に、孤独を感じていたのだと思います」
ヨーク
「……そういうもんかな」
ミツキ
「ですが、今生のあなたは、人を突き放し、孤高の存在であらねばなりません」
ミツキ
「そうしなくては、神には届かないのですから」
ヨーク
「……楽しみだったんだけどな。ラビュリントス」
ヨークは薄く微笑み、視線を下げた。
ミツキ
「申し訳有りません」
ミツキ
「ですがきっと、良い出会いも有りますよ」
ヨーク
「そうか」
ヨーク
「そうだな」
……。
______________________________
ヨーク=ブラッドロード
クラス 暗黒騎士 レベル425
______________________________
あっという間に、ヨークのレベルは400にまで上昇した。
レベル上げは、このまま順調に行くかと思われた。
だが……。
ヨーク
「『敵強化』」
立ち寄った森の中で、ヨークはスキル名を唱えた。
ヨークの手のひらは、スライムへと向けられていた。
いつものとおりに、スライムは強化される。
そのはずだった。
だが……。
ヨーク
「えっ!?」
ヨークは驚きの声を上げた。
眼前のスライムが、粉々に砕け散ったのだった。
後にはただ、ちっぽけな魔石だけが残されていた。
ミツキ
「ヨーク? これはいったい……」
ヨーク
「俺にもわからん……」
ミツキ
「もう1度、試してみてはいかがですか?」
ヨーク
「……ああ。『敵強化』『戦力評価』」
ヨークの前方には、まだ2体のスライムが残っていた。
ヨークは再びスキルを発動させた。
だがやはり、スライムは粉々に砕け散ってしまった。
ヨーク
「…………? 『敵強化』『戦力評価』」
ヨークは、前よりもレベルが低くなるように意識して、スライムを強化した。
__________________________
レッドスライム レベル340
__________________________
ヨーク
「レベルを抑えたらだいじょうぶっぽいか……?」
ミツキ
「『敵強化』には、レベル上限が有るということですか?」
ヨーク
「これが俺の限界ってことなのか……?」
ミツキ
「あの、スライム以外の魔獣にも試してみませんか?」
ヨーク
「……分かった」
ヨークたちは、森の中をうろついた。
そして、ウサギ型の魔獣を発見した。
__________________________
ファングラビット レベル3
__________________________
ヨーク
「『敵強化』『戦力評価』」
鋭い牙を持つ魔獣に向かい、ヨークはスキル名を唱えた。
__________________________
ファングラビット レベル637
__________________________
ヨーク
「行けた……!」
そのとき、強化された魔獣が、ヨークに飛びかかってきた。
魔獣の速度は、スライムの比では無かった。
ヨーク
「っ! 『強化解除』!」
ヨークは慌て、魔獣の強化を解除した。
元の強さに戻った魔獣は、ミツキに斬り捨てられた。
ミツキ
「だいじょうぶですか?」
ヨーク
「ああ」
ヨーク
「強化の上限は、魔獣によって違うみたいだな」
ミツキ
「スライムによるレベル上げは、ここまでということですね」
ヨーク
「しんどくなるな」
ヨーク
「スライム以外は、1対1だと、同じくらいのレベルでもキツいんだよな……」
ミツキ
「これからは、1対1ではありませんよ」
ミツキ
「2人でやり遂げましょう」
ヨーク
「そうだな」
……。
2人は、王都への旅を続けた。
これまでとはうって変わり、死闘の旅路になった。
2人は傷つきながらも、お互い助け合い、腕を磨いていった。
やがて、2人の視界に、巨大な樹木が映った。
比肩する物の無い、世界一の大樹だ。
王都の世界樹だった。
ヨーク
「見えたな。世界樹が」
村を出たことが無かったヨークにとっては、初めて見る立派なランドマークだ。
ヨークは少しだけ、感慨深そうな様子を見せた。
ミツキ
「大きいですね」
ヨーク
「あの樹の頂上に、神が居るのか?」
ミツキ
「はい。枯れてしまえば良いのに」
ヨーク
「枯葉剤でも撒くか?」
ミツキ
「良いですね。是非やりましょう」
物騒なことを、楽しそうに言い合いながら、2人は王都へと歩いていった。
外壁を越え、王都に入った。
そして、串焼きを食べながら、ぶらぶらと街を歩いた。
ヨーク
「うん。それにしてもこの串焼き美味いな」
ミツキ
「まだまだ有りますよ」
ミツキの手中には、紙袋が有った。
袋の中には、たっぷりの串焼きが詰められていた。
ヨーク
「買いすぎじゃね?」
ミツキ
「ホントに?」
ミツキはからかうように笑った。
……。
いつの間にか、ヨークは串焼きを、全て食べ終わっていた。
ミツキ
「ほら、完食したでしょう?」
ヨーク
「そうだな。美味かった。ところでお前……」
ヨークはミツキの手を取った。
そして、彼女の指を舐めた。
ミツキ
「ふふふ。何ですか?」
ミツキは愛おしげに微笑みながら、ヨークに尋ねた。
ヨークはミツキの手から口をはなした。
ヨーク
「タレがついてた」
ミツキ
「はい。ありがとうございます」
ミツキ
「ヨークにもついてますよ」
ミツキはヨークの手を取った。
そして、彼の指を舐めた。
ミツキ
「あむ……ぺろ……」
丹念に、丁寧に。
ミツキはヨークの指についたタレを、舐め取っていった。
ヨーク
「…………」
ミツキ
「ん……んむ……」
ヨーク
「……もう良いだろ?」
ミツキ
「すいません」
ミツキ
「舐めるの、好きです」
ヨーク
「…………」
ヨーク
「ほどほどにな」
ミツキ
「はい。ほどほどにします」
ミツキは再び、ヨークの指をくわえた。
……。
5分後。
ミツキはヨークの指から口をはなした。
ヨーク
「これからどうするんだ?」
ミツキ
「まずは、宿を取りましょう」
ヨーク
「あれ宿屋じゃないか?」
ヨークはそう言って、目についた建物を指差した。
ミツキ
「あれは駄目です」
ミツキは即座に断言した。
ヨーク
「どうして?」
ミツキ
「店主が魔族差別主義者なので、ハーフのヨークは、宿泊を拒否されることになります」
ヨーク
「魔族差別? そんなのが有るのか?」
ミツキ
「はい。残念ですが」
ヨーク
「それじゃあどうしたら良いんだよ?」
ミツキ
「良い宿を知っています。お任せ下さい」
そう言って、ミツキはヨークの前を歩いた。
ヨークはミツキとはぐれないように、黙って彼女のあとに続いた。
……。
ミツキは、サトーズの宿の扉をくぐった。
サトーズ
「いらっしゃいませ」
店主のサトーズが、来客を出迎えた。
ミツキはフードを外し、狼の耳を見せた。
ミツキ
「2人部屋を、お願い出来ますか?」
ミツキ
「冒険者志望で、長期で利用させていただきたいのですが」
サトーズ
「承りました」
サトーズ
「前金で5泊分、銀貨5枚をいただきますが、よろしいですか?」
ヨーク
「5泊?」
サトーズ
「あまり多く払われても、途中で宿を替える方もいらっしゃいますからね」
サトーズ
「それに、冒険者を続けられなくなる方も」
ヨーク
「そういうもんか」
ミツキ
「どうぞ。お確かめ下さい」
ミツキはスキルで財布を出現させ、中から銀貨を取り出した。
そして、カウンターテーブルの上に置いた。
サトーズ
「はい。確かに」
サトーズ
「こちらの宿帳に、記名をお願いします」
ヨーク
「分かった」
ヨークとミツキは、宿帳に名前を書いた。
サトーズ
「それでは、お部屋にご案内しましょう」
サトーズ
「私は店主のサトーズと申します。以後、お見知りおきを」
ミツキ
「ミツキです。主人の名はヨークです」
ヨーク
(主人……。まあ、そういうことになるのか?)
ヨーク
「よろしくお願いします」
サトーズ
「はい。よろしくお願いいたします」
3人は、宿の階段を上った。
そして、サトーズを先頭にして、2階の部屋に入った。
サトーズ
「こちらの部屋をどうぞ」
ヨーク
「どうも」
サトーズ
「それでは失礼します」
ヨークとミツキを残し、サトーズは部屋を出ていった。
ヨーク
「さて、ラビュリントスに行くか」
ミツキ
「その前に、冒険者ギルドに行かなくてはなりません」
ヨーク
「ギルド?」
ミツキ
「はい。迷宮に入るには、ギルドで通行証を発行してもらう必要が有るのですよ」
ヨーク
「んじゃ、行くか。場所は分かるか?」
ミツキ
「はい。ですが……」
ヨーク
「…………?」
ミツキ
「冒険者ギルドに、あなたの幼馴染が訪れます」
ミツキ
「そして……放っておくと、彼らは殺されてしまいます」
ヨーク
「は……?」
ミツキ
「彼らを救いましょう。ヨーク」
……。
ミツキに促されるまま、ヨークは冒険者ギルドに向かった。
ギルドの建物の前で、ヨークは立ち止まった。
そして、建物を見上げた。
ヨーク
「ここが冒険者ギルド……」
ミツキ
「緊張してますか?」
ヨーク
「ちょっとな」
ヨーク
「レベル10000の冒険者とかは、居ないんだよな?」
ミツキ
「10000のヤツは、世界樹に居ますからね」
ヨーク
「よし。行くぞ」
ミツキ
「ちょっと待って下さい」
ミツキ
「すぅ~はぁ~」
ヨーク
「お前も緊張してるのか?」
ミツキ
「戦闘力が上がる、謎の呼吸法です」
ヨーク
「謎かよ」
2人は、ギルド内に移動した。
ヨーク
「失礼しま~す」
アイサツは大切だ。
そう思ったヨークは、中の人たちに声をかけた。
するとテーブルの面々から、ヨークに視線が飛んできた。
ヨーク
「っ……視線めっちゃ来るな」
ミツキ
「だいじょうぶです。ヨークの方が強いですよ」
ヨーク
「そうか? えっと……」
ミツキ
「あちらのカウンターへ行きましょう」
ヨーク
「なるほど。カウンターね? うん……」
若干挙動不審に、ヨークはカウンターに向かった。
ヨークはカウンターに居る女性に、声をかけた。
ヨーク
「すいませ~ん」
ユッケ
「はい。ご用件は?」
ヨーク
「迷宮に行きたいんですけど、通行証って貰えますかね?」
ユッケ
「はい。通行証だけでよろしいですか?」
ヨーク
「だけ……というのは?」
ユッケ
「冒険者ギルドに入会いただけると、フリーの冒険者には無い、お得なサービスが受けられます」
ユッケ
「今なら年会費、銀貨6枚となっております。いかがですか」
ヨーク
「えっと、それじゃあお願いします」
おのぼりさんのヨークは、なんとなく入会を決めた。
ユッケ
「……二言は有りませんね?」
ヨーク
「はい」
ユッケ
「よっしゃあああああああぁぁぁっ! ノルマ! 達成ッ!」
ヨーク
「ノルマ?」
ミツキ
「気にしない方が良いですよ」
ヨーク
「そっか」
ユッケ
「それではこちらに、御記名をお願いしま~す」
ヨーク
「分かりました」
少しの手続きを経て、ギルド証が発行された。
ヨーク
「おぉ……!」
田舎者のヨークにとっては、物珍しいものだ。
ヨークは嬉しそうに、ギルド証を手に取った。
ユッケ
「ギルド証は、迷宮の通行証も兼ねております」
ユッケ
「入り口でギルド証を提示すれば、入場が可能となります」
ヨーク
「ありがと」
ヨーク
「そうだ。ミツキは……」
ミツキ
「私は第3種族なので」
ヨーク
「…………」
ミツキ
「あなたが気にすることではありませんよ」
ミツキ
「それより、彼らが来ます」
ヨーク
「あぁ……」
ヨークは、ギルドの入り口を見た。
そのとき、入り口の扉が開いた。
1つのパーティが入ってきた。
ヨークは立ち止まったまま、4人が近づいてくるのを待った。
ヨーク
「……よう」
距離が縮まると、ヨークの方から4人に声をかけた。
バニ
「ヨーク?」
ドス
「来たか」
キュレー
「ドスくん、知ってたの?」
ドス
「いや」
バジル
「てめぇ……」
バジルはヨークを睨みつけた。
バジル
「どうしてここに居ンだ?」
ヨーク
「それは……」
なんと言ったものか。
ヨークが言葉に悩んでいると、ミツキが口を開いた。
ミツキ
「単刀直入に言いましょう」
ミツキ
「このままだと、あなたがたは死にます」




