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５の１の２「旅立ちと再会」

　ある日、少年の村が、巨大なスライムに滅ぼされた。

　もっと俺に力が有れば。

　そう思い、少年は泣いた。

　ある日、少年は、黒鎧の戦士に敗れた。

　あの魔導器の力を、破ることさえ出来れば。

　そう思い、少年は泣いた。

　ある日、少年の大切な人が、吸血鬼に殺された。

　この手枷さえ無かったら。

　そう思い、少年は泣いた。

　……。

　ハインス村を出たヨークは、王都への道を進んでいた。

　やがて遠目に、動くものが見えた。

　ヨークは目を凝らし、その正体を確かめようとした。

ヨーク

（人……？）

ヨーク

（それに……魔獣か……！？）

　人が、魔獣に襲われている。

　磨き抜かれたヨークの視力が、そう判断を下した。

　ならば、助けねばなるまい。

　当然のようにそう思い、ヨークは駆けた。

ヨーク

「氷狼！」

　ヨークは走りながら、氷狼を出現させた。

　その脚は、ヨークよりも速い。

　氷狼は、ヨークの前を駆けた。

　ヨークの視線の先に、ローブ姿の人物が見えた。

　その人物は、魔獣と戦っていた。

　手中には、刀が見えた。

　対する魔獣は、緑狼が３体。

　ヨークからすれば、たいしたことのない魔獣だ。

　だが、旅路で出会う魔獣としては、かなり凶悪だった。

「はああああっ！」

　ローブ姿の人物が、狼を切り伏せた。

　その隙に、残った緑狼の１体が、飛びかかろうとした。

　そこに、ヨークの氷狼が間に合った。

　氷狼の牙が、緑狼を仕留めた。

　緑狼は、残り１体になった。

ヨーク

「氷槍」

　ヨークは杖を構え、唱えた。

　氷の槍が、緑狼を貫いた。

「あっ……」

　それに気付いたローブ姿の人物が、視線を彷徨わせた。

　その瞳が、ヨークへと向けられた。

「やっと……」

　ローブ姿の人物が、フードを外した。

　銀色の髪、そして狼の耳が、ヨークの瞳に映った。

　彼女がミツキという名前であることを、今のヨークは知らない。

ヨーク

（第３種族……？）

ヨーク

（綺麗だな）

ミツキ

「やっと会えた……」

　ミツキの体が、ぐらりと崩れた。

ヨーク

「おい……！」

　ヨークは慌て、ミツキに駆け寄った。

　彼女が倒れないように、その体を抱きとめた。

ミツキ

「ヨーク……私のかみさま……」

　ミツキは、ヨークに体重を預けながら、小さくつぶやいた。

ミツキ

「…………」

　彼女は安心した様子で、目を閉じた。

　そして、動かなくなった。

　呼吸は有る。

　大きな外傷は無い。

　ヨークの素人判断では、命に別状はないように思えた。

ヨーク

「俺の名前を……？」

　……。

ミツキ

「ん……」

　道路の脇。

　草花の上で、ミツキは目を覚ました。

　ミツキは寝転がったまま、首を左右に動かした。

　ミツキの左側に、ヨークが腰を下ろしていた。

ヨーク

「起きたか」

　ヨークはすぐに、彼女の目覚めに気付いた。

　それで彼女に声をかけた。

ミツキ

「すいません。ご迷惑をおかけしてしまって」

ミツキ

「少し……気が抜けてしまったようです」

　ミツキは詫びた。

　その表情は、申し訳無さそうというよりも、どこか幸福そうだった。

　喜びの顔が、彼女の美貌を、さらに引き立てていた。

　ヨークはミツキに見惚れそうになったが、自制心を働かせ、話を進めることにした。

ヨーク

「どこかで会ったか？」

ミツキ

「ナンパですか？　良いですよ」

ヨーク

「いやいや。ってか、良いのかよ」

ミツキ

「はい」

ヨーク

「……マジメにやってくれ」

ヨーク

「倒れる前に、俺の名前を呼んだだろうが」

ヨーク

「どうして、俺の名前を知ってたんだ？」

　ヨークにとって、ミツキの顔は、今日はじめて見るものだ。

　ミツキは美しく、そのうえ珍しい第３種族だ。

　１度見たら、忘れられるはずが無い。

　記憶違いだとは考えにくかった。

　年齢は、近いように見える。

　物心つく前に出会った可能性も、低いだろう。

　ならどうして、彼女は自分を知っているのか。

　ヨークには、それが疑問だった。

ミツキ

「正直に話したとして、信じてもらえますかね？」

ヨーク

（信じられないような話を、する気か？）

ヨーク

「まあ、努力はするよ」

　ヨークは年頃の少年だ。

　美少女には弱い。

　だから、彼女を信じたいという気持ちは有った。

　よっぽど妙なことを、言われるので無ければ。

ミツキ

「はい」

ミツキ

「実は、私はスキルの力で、未来を知ることが出来るのです」

ヨーク

「『戦力評価』」

　ヨークはすかさず、スキル名を唱えた。

　そして、ミツキのスキルを見た。

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ミツキ＝タカマガハラ

クラス　聖騎士　レベル８

スキル　収納　レベル２

ユニークスキル　癒し手

　効果　触れた相手の傷病や呪いを回復させる

　　追加効果１　相手への思いやりにより効果上昇

　　追加効果２　？？？

ユニークスキル　ニューゲームプラス

　効果　全てをやり直す

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　ヨークは、自身のスキルレベルが許す範囲で、ミツキのクラスとスキルを認識した。

ヨーク

「ミツキ……」

ミツキ

「はい」

　ヨークに名を呼ばれることで、ミツキの頬が緩んだ。

ヨーク

「……お前のスキルは『収納』らしいが？」

ミツキ

「ユニークスキルです」

ヨーク

「ユニーク？」

ミツキ

「私は、加護の力に頼らないスキルを、所持しています」

ミツキ

「その力によって、未来が分かるということです」

ヨーク

「それなら……」

　ヨークは背中から、荷物をおろした。

　そして、紙とペンを取り出した。

　紙に何か文字を書いて、地面に伏せた。

ヨーク

「俺がなんて書いたか、当ててみろ」

ヨーク

「未来が分かるなら、当てられるはすだ」

ミツキ

「分かりませんね」

ヨーク

「あっさりだな？」

ミツキ

「私に分かるのは、本来辿るはずであった、悲劇の道筋だけです」

ヨーク

「…………？」

ミツキ

「本来の私は、奴隷商人に捕まって、商品として売られていくはずでした」

ミツキ

「その最中にあなたに救われ、あなたの奴隷となりました」

ミツキ

「それが、本来の歴史です」

ヨーク

「？？？」

ミツキ

「私はスキルによって、その運命を回避しました」

ミツキ

「そしてこうして、あなたに会いに来ました」

ミツキ

「その変化によって生まれた、新しい未来がどうなるかは、私にも分かりません」

ヨーク

「……信じろってのか？　それを」

ミツキ

「こちらとしましては、信じていただかないと、非常に困るのですが」

ヨーク

「そう言われてもな。いきなりそんなこと言われても……」

ミツキ

「未来のことは断言出来ませんが……」

ミツキ

「あなたの過去についてなら、知っていますよ」

ヨーク

「言ってみろ」

ミツキ

「名前はヨーク＝ブラッドロード。ハインス村出身」

ミツキ

「クラスは魔術師。スキルは『敵強化』。サブスキルは『戦力評価』」

ミツキ

「成人式の日、『敵強化』スキルを授かったことで、幼馴染に置いてけぼりにされる」

ミツキ

「しかし、『敵強化』で魔獣のＥＸＰが増えることに気付き……」

ヨーク

「もう良い。分かった」

ミツキ

「信じていただけましたか？」

ヨーク

「ぜんぶ鵜呑みにするわけじゃ無いが、お前が凄い力を持ってるってのは分かる」

ヨーク

「それで、その凄いお前が、俺に何の用だ？」

ミツキ

「このままだと、大勢の人々が、次の冬に死にます」

ヨーク

「どうして？」

ミツキ

「殺されるのです。神によって」

ヨーク

「神て」

ミツキ

「本当ですよ？」

ヨーク

「それで？　どうして神様が、みんなを殺すっていうんだ？」

ミツキ

「細かい動機までは、私にも分かりません。ですが……」

　……。

　ミツキは、己が知る多くのことを、ヨークに話し終えた。

ヨーク

「……とんでもない話だな」

ミツキ

「信じていただけますか？」

ヨーク

「保留しとく」

ミツキ

「ちぇっ」

ヨーク

「お前のスキルだと、未来は変わっても、過去は変わらないんだろ？」

ヨーク

「だったら、その知識が活きる時が、来るだろうさ」

ヨーク

「これからの行いで、証明してみせろよ」

ミツキ

「ご一緒してよろしいのですか？」

ヨーク

「こんだけ言われたらな」

ヨーク

「嘘だったら、逆に褒めてやるよ。物書きの才能有るぜ。お前」

ミツキ

「嘘じゃないですけどね」

ヨーク

「それじゃ、出発するか」

ミツキ

「あっ、待って下さい」

ヨーク

「何だ？」

ミツキ

「私にこれを、付けていただきたいのですが」

　ミツキは『収納』スキルを使用した。

　彼女の手中に、奴隷の首輪が出現した。

ヨーク

「……首輪？」

ミツキ

「はい。奴隷の首輪です」

ヨーク

「ナンデ？」

ミツキ

「私のような第３種族は、王都では狙われる存在です」

ミツキ

「はじめから、所有者が居ると分かっていた方が、危険を減らせます」

ヨーク

「そんなもんか。分かった」

　ヨークはミツキから、首輪を受け取った。

　そして彼女の細い首に、首輪をはめてみせた。

ミツキ

「んふふ」

ヨーク

「えっ？　なに笑ってんの？　怖い」

ミツキ

「笑ってませんけど」

ヨーク

「良いけど。んじゃ、行くぞ」

ミツキ

「待って下さい。まだ主人の登録が、終わっていませんよ」

ヨーク

「登録？」

ミツキ

「はい。この首輪は、主人が奴隷に命令するためのモノです」

ミツキ

「そして今、私の主人の座は、空白になっています」

ミツキ

「主人が登録されていないと、誰でも簡単に、私の主人になることが可能です」

ミツキ

「主人になった者は、私に何でも言うことを、聞かせることが出来るようになります」

ミツキ

「そうならないよう、予防として、あなたを主人としておきたいのです」

ヨーク

「待てよ。俺がお前の主人っていうのは、フリだろ？」

ヨーク

「そんなことをしたら、フリじゃなくなっちまう」

ミツキ

「おや。ヨークは私に、変な命令をするつもりなのですか？」

ヨーク

「しねーよ。気持ち悪い」

ミツキ

「それなら問題無いですね？」

ヨーク

「……分かったよ」