4の41「戦士たちと門」
ヨーク
「俺たちが……?」
ニトロ
「君たちは強い。そうだろう?」
ミツキ
「……神殿騎士たちのレベルは?」
ニトロ
「高い者で80といったところだ」
ミツキ
「なるほど」
ニトロ
「力を貸して欲しい。頼む」
ヨーク
「分かりました。俺で良かったら」
ヨークにとって、ニトロは命の恩人だ。
それに、事態は深刻なようだ。
解決しなくては、多くの人に被害が及ぶ。
ヨークは快く、ニトロの頼みを引き受けた。
ニトロ
「ありがとう」
ミツキ
「鍵は?」
ミツキが疑問を口にした。
ニトロ
「えっ?」
ミツキ
「ラビュリントスの99層には、鍵のかかった門が有る」
ミツキ
「神殿側は、それを把握しているのですか?」
ニトロ
「知っているよ」
ニトロ
「実を言えば、大神殿は、迷宮をほぼ踏破している」
サッツル
「団長……」
サッツル
「部外者に、そこまで話してしまって良いのですか?」
ニトロ
「ここで誤魔化しを言っても、良いことは無いさ」
ニトロ
「彼らの力は、迷宮の完全踏破に不可欠だ」
サッツル
「申し訳有りません。私たちが、ふがいないばかりに……」
ミツキ
「話を続けても?」
ニトロ
「どうぞ」
ミツキ
「あの門は、何なのですか?」
ニトロ
「封印……なのだろうね」
ニトロ
「あの門の奥に、最も邪悪なものが封じられている。そのはずだ」
ミツキ
「そうですか。それでは……」
ミツキ
「あなた方は、鍵のありかを把握しているのですか?」
ニトロ
「うん」
ニトロ
「実は既に、鍵を貸し出してもらう手はずは出来ている」
ニトロ
「だから、その辺りについては、心配しなくても良いよ」
ミツキ
「分かりました」
ニトロ
「それじゃあ、編成を発表する」
ニトロ
「私、……少年、ミツキ、サッツル、リドカイン、聖女トトノール、それと、大賢者様」
ニトロ
「この7名で迷宮を攻略する」
ヨーク
(大賢者?)
ニトロ
「準備が整いしだい、出発する。以上だ」
サレン
「待って下さい!」
サレンが、なかば叫ぶように言った。
その声には、抗議の色がこめられているようだった。
ニトロ
「何かな? 騎士サレン」
サレン
「たった7人で、深層に潜るというのですか?」
ニトロ
「そうなるね」
サレン
「お願いです! 私も連れて行って下さい!」
ニトロ
「ダメだ」
ニトロはきっぱりと言った。
そこに、肉親への甘えは無かった。
サレン
「っ……!」
ニトロ
「邪悪なものとの戦いは、熾烈を極めるだろう」
ニトロ
「悪いが、未熟な者を連れて行くことは出来ない」
サレン
「そんな……」
クリーン
「私は?」
クリーンが発言した。
クリーン
「私はヨークと一緒に、深層まで行ったことも有ります」
クリーン
「足手まといにはならないと思うのですが」
ニトロ
「君は聖女だ」
ニトロ
「杖が無い今、王都にとって、君が最後の希望だ」
ニトロ
「そんな君を、危険な戦いに連れて行くことは出来ない」
クリーン
「……そうですか」
ニトロ
「指を咥えて待っていろとは言わない」
ニトロ
「君たちには、大階段から魔獣が溢れないように、警備をしていて欲しい」
クリーン
「……分かりました」
ニトロ
「さあ、戦いの準備を始めよう」
ヨーク
「…………」
ヨーク
(なんだか急に、でかい話になったな)
クリーンと一緒に、試練を受けていただけだ。
それが急に、大きな話になってしまった。
重大な、王都の危機のはずだ。
だが、ヨークは内心では、他人事のような気分を捨てきれなかった。
……。
準備期間を経て、ヨークたちは、大階段の有る広場に向かった。
迷宮を攻略する6人が、大階段前に集まった。
一行の中で、サッツルが、大きめのリュックを背負っていた。
アイテムの用意は万端らしい。
ニトロは、普段とは別の剣を背負っていた。
階段の周囲には、サレンたちの姿も見えた。
神殿騎士の何割かは、大階段の周囲を、見張ることになっていた。
サレン
「お父様。どうかお気をつけて」
ニトロ
「……うん」
短い親子のやり取りの後、ニトロは階段に足を向けた。
ヨークたちも、その後に続いた。
階段に向かうヨークを、クリーンが呼び止めた。
クリーン
「ヨーク!」
クリーンの表情は、少し苦しげだった。
死地に向かうヨークのことを、心配しているのだろう。
ヨーク
「……悪いな。一緒にあの扉の先を見られなくて」
クリーン
「別に……そんなこと……」
クリーン
「絶対に、生きて帰って来るのですよ!」
ヨーク
「ああ。約束する」
クリーン
「絶対に、絶対ですからね!?」
ヨーク
「分かってるよ」
ヨークは軽く手を振りながら、階段を降りていった。
リドカイン
「よろしく頼むぜ。ハーフのにいちゃん」
大階段を下りると、神殿騎士の1人が、ヨークに声をかけた。
体格の良い男で、肩幅も身長も、ヨークより上だった。
その四肢は、がっしりと太い。
ヨーク
「えっと……」
リドカイン
「リドカインだ」
リドカイン
「一応、聖女の試練にも居たんだがな」
ミツキ
「イーバさんの、守護騎士をしていた方ですね?」
ヨーク
「ああ……そういえば……」
リドカイン
「レディスとの戦いは、見事だった」
リドカイン
「頼りにしてるぜ」
ヨーク
「頑張ります」
ミツキ
「ニトロさん」
ニトロ
「何かな?」
ミツキ
「パーティは7人と聞いていましたが、7人目は?」
今、パーティの人数は、6人だ。
ヨーク、ミツキ、ニトロ、サッツル、リドカイン、トトノールの6人。
ニトロが言っていた7人には、1人足りない。
ニトロ
「大賢者様には、重要な仕事が有ってね。あとで合流する」
ミツキ
「分かりました」
ヨーク
(そもそも、大賢者ってのは何だ?)
ミツキ
「ヨーク」
ヨーク
「ん」
ミツキに促され、ヨークは前方を見た。
そこに、魔獣の姿が見えた。
赤狼だった。
赤狼
「グルル……」
気のせいか、ヨークの目に映る赤狼は、いつもより迫力が増して見えた。
ヨーク
「『戦力評価』」
ヨークは魔剣を抜刀しながら、スキル名を唱えた。
_______________
赤狼 レベル101
_______________
ヨーク
「レベル101」
ヨークは赤狼のレベルを、パーティの仲間に知らせた。
リドカイン
「マジかよ!?」
リドカインは、素直な驚きを見せた。
トトノール
「『聖域』を……」
トトノールは『聖域』を広げ、赤狼を弱らせようとした。
そのとき。
ヨーク
「氷槍」
ヨークが放った魔術が、赤狼を貫いていた。
氷の槍が、一撃で赤狼を葬り去った。
後には魔石が落ちた。
トトノール
「えっ……?」
トトノールは絶句した。
ヨーク
「はい?」
トトノール
「お強い……ですね」
ヨーク
「まあ、鍛えてるので」
リドカイン
「レベルがヤベェ上がったんだが」
サッツル
「……同じく」
ニトロ
「これは頼もしいね」
ニトロ
「しかし、赤狼がレベル101か……」
ニトロ
「聖女の杖の力が無いと、こんなことになってしまうんだね」
ニトロ
「1体でも王都に溢れ出せば、甚大な被害が出る」
ニトロ
「これは一刻も早く、迷宮を踏破する必要が有るね」
ニトロ
「最短ルートで、最深層まで行こう」
ヨーク
「走りますか?」
ニトロ
「あまり急ぐと、後衛が奇襲を受ける可能性が有るけど……」
ヨーク
「氷狼、六連」
ヨークは、地面に魔剣を向け、呪文を唱えた。
そして、氷狼を6体、出現させた。
ヨーク
「こいつらに、周囲を守らせましょう」
ヨーク
「これで奇襲を受ける確率は、減るはずです」
ニトロ
「分かった。走ろう」
サッツル
「はい」
ニトロ
「治癒術師であるトトノールさんを、起点にして動く」
ニトロ
「少年とリドカインは、トトノールさんの前。ミツキとサッツルは後ろに立つこと」
サッツル
「分かりました」
ニトロ
「各自、彼女との位置関係を意識して、離れ過ぎないように」
パーティの中で、神殿騎士たち3人のクラスは、聖騎士だ。
ミツキも同様なので、パーティに聖騎士が、4人居るということになる。
ヨークは魔術師だが、周囲には、暗黒騎士だと思われている。
つまり、認識上は、前衛が5人、後衛が1人のパーティとなっている。
後衛は打たれ弱い。
前衛が守ってやる必要が有る。
それに足が遅いので、前衛が全力で走ると、置いていかれてしまう。
トトノールのフォローが、このパーティの肝だと言えた。
リドカイン
「了解!」
リドカインが、威勢よく答えた。
ニトロ
「出発!」
一行は、走り始めた。
各人がトトノールに意識を向け、彼女から離れないように走った。
……。
99層にたどり着いた。
大量の魔獣と戦闘したが、大事には至らなかった。
6人は、ほぼ無傷のままだった。
リドカイン
「お前、レベルいくつ?」
リドカインは軽い調子で、サッツルに声をかけた。
サッツル
「191です。あなたは?」
リドカイン
「193。俺の勝ち」
深層の魔獣は、レベルが200近く有った。
神殿騎士たちにとっては、荷が重い相手だった。
だが、ヨークとミツキのレベルは、300を超える。
ヨークたちが魔獣を倒すことで、神殿騎士たちはレベルアップしていった。
神殿騎士たちは既に、深層の魔獣と、互角以上に戦えるようになっていた。
サッツル
「前衛の方が、EXPを吸いやすいというだけでしょう」
リドカイン
「勝ちは勝ちだぜ」
サッツル
「ヨークさんのおかげでしょうが」
リドカイン
「……まあな」
リドカイン
「けど、無事に帰れたら、騎士団の連中に自慢出来るな」
サッツル
「そうですね。無事に帰れたら」
そう言って、サッツルは前方を見た。
6人の前に、大きな門が、立ちふさがっていた。
その姿は、前にヨークたちが訪れたときと、変わりが無いようだった。
トトノール
「あの先に……邪悪なるものが……」




