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4の37「決着と信仰」



レディス

「ふふふ。何ですか? その反応は」


レディス

「恐怖のあまり、まともに言葉を発することも出来ませんか?」


ヨーク

「クリーン。範囲は前のままか?」


クリーン

「はい。そうですけど」


レディス

「魔獣よ! 射殺しなさい!」



 火、氷、雷。


 魔獣たちの遠距離攻撃が、一斉に放たれた。


 へろへろと。


 力ない攻撃は、ヨークたちに届くことなく、地面に落ちた。



レディス

「…………へ?」



 レディスのすまし顔が、呆けたマヌケ面に変わった。



ヨーク

「お前、アホなのか?」


ヨーク

「聖女のスキルは、魔獣を無力化するんだろうが」


ヨーク

「俺が失格者の救助に行った時に、クリーンには、聖域の範囲を広げてもらってる」


ヨーク

「魔獣を呼んできたところで、役に立つわけが無いんだが……」


ヨーク

「聖女候補のくせに……何やってんだ?」



 そう言うヨークの表情には、戸惑いと呆れが有った。



レディス

「っ……そんな……」


レディス

「聖杖の力も無しに……こんな広範囲の魔獣を、無力化出来るはずが……」


ヨーク

「いや。出来てんじゃん」


クリーン

「あの、あれは倒してしまっても良いのですか?」



 クリーンが、魔獣の群れを指さして言った。



ヨーク

「ああ。任せた」


クリーン

「任されました!」



 クリーンは、杖を持って前に出た。


 そして、魔獣に殴りかかっていった。


 今のクリーンは、自身を『鼓舞』していない。


 腕輪の効果のせいで、レベルは1だ。


 見るからに弱い。


 だが、たいして威力があるわけでも無い一撃で、魔獣が蹴散らされていった。


 それは見る人によっては、奇跡の光景のようにも見えた。



「聖女様……」



 誰かが呟いた。



レディス

「あ……ああ……あ…」


レディス

「ああああああああああああああぁぁぁっ!」



 レディスは羽を使い、宙へと飛び上がった。


 彼女の怒気が、クリーンに向けられた。


 そして、鋭く尖った爪を、クリーンへと……。



白蜘蛛

「おいっち……」


レディス

「!?」



 大地を蹴った白蜘蛛が、一瞬でレディスに肉薄していた。


 結界さえ無ければ、白蜘蛛の身体能力は、レディスに劣らない。



白蜘蛛

「にー!」


レディス

「へぶっ!?」


白蜘蛛

「…………」



 レディスは白蜘蛛の、全力の跳び蹴りを受けた。


 壁面まで吹き飛ばされた。


 轟音と共に、壁には大きなクレーターが出来た。


 レディスは、壁にめりこんでしまっていた。



ユリリカ

「根に持つタイプなの。ごめんなさい」


レディス

「……………………」



 レディスは白目を剥いて、動かなくなった。


 気絶してしまったようだ。



ヨーク

「あ~あ。気品と教養に溢れた姿だこと」



 ヨークが苦笑して言った。



ミツキ

「大神官さんを治療してきますね」


ヨーク

「ああ」



 ミツキは、バークスの所へ向かった。


 彼の手は、レディスによってズタズタにされていた。



ミツキ

「風癒」



 ミツキはバークスの手に触れると、呪文を唱えた。


 彼の手が、癒やされていった。



クリーン

「ふぅ……」



 クリーンは、魔獣の討伐を終えていた。


 レディスは、平静を取り戻した神官たちによって、連行されていった。



バークス

「さて……」



 治療が終わると、バークスが口を開いた。



バークス

「多少のトラブルは有りましたが、聖女の試練を続行させていただきます」


ヨーク

(たくましいな)


バークス

「ベイトレッド候補が不正を働いたため、サザーランド候補の勝利とします」


バークス

「よって、ノンシルド候補とサザーランド候補による、決勝戦を行わせていただきます」


バークス

「両チームの代表者、前へ」


クリーン

「えっと……」



 決勝は、誰が戦うべきか。


 クリーンはそう思い、ヨークの方を見た。



ヨーク

「お前だお前」


クリーン

「白蜘蛛ちゃんと戦わなくて良いのですか?」


ヨーク

「仕方ないだろ」



 ヨークはそう言って、自身の腕輪を見せた。


 腕輪の魔石は、全て砕けていた。


 レディスと戦うための代償だった。



ミツキ

「私たちの腕輪は、砕いてしまいましたからね」


ヨーク

「いや。俺の腕輪は無事だが。砕けたのは魔石であって」


ミツキ

「えいっ」



 ミツキは、ヨークの腕輪に手を伸ばした。


 そして、握り潰してしまった。


 腕輪の破片が、地面へと落ちた。



ミツキ

「私たちの腕輪は、砕けてしまいましたね」


ヨーク

「そうですね」


クリーン

「それでは、行ってきます」


ヨーク

「おう。行ってらっしゃい」


ミツキ

「頑張って下さい」



 クリーンは、広間中央に立った。


 少し遅れて、ユリリカがやって来た。


 彼女の表情は、穏やかだった。



ユリリカ

「…………」


クリーン

「白蜘蛛ちゃんは?」



 クリーンの見立てでは、ユリリカは、白蜘蛛より弱い。


 勝ちたいのなら、白蜘蛛を出すべきだろう。


 そう思っていた。


 ユリリカがやって来たことは、クリーンにとって意外だった。



ユリリカ

「もう良いの」



 ユリリカは、微笑んで言った。



ユリリカ

「お姉ちゃんがヨークを憎めなかった理由、少しだけ分かったような気がしたから」


クリーン

「ええと……?」


ユリリカ

「正直に言うとね、私、聖女に興味なんて無かったの」


ユリリカ

「お姉ちゃんと一緒に、研究者の道を行きたかった」


ユリリカ

「だけど……最後まで頑張るって約束したから」


ユリリカ

「だから、戦いましょうか」


クリーン

「分かったのです」



 クリーンは杖を、ユリリカは剣を構えた。



バークス

「試合開始」



 大神官が、試合の開始を告げた。


 クリーンとユリリカの、試合が始まった。



クリーン

「頑張れ私」



 クリーンは、自身を『鼓舞』した。


 そして前に出た。



ユリリカ

「っ……!」



 その試合は、長くは続かなかった。


 クリーンは、終始ユリリカを圧倒し、試合を終わらせた。



バークス

「勝者、クリーン=ノンシルド」



 バークスが、試合の勝者を告げた。


 敗者であるユリリカは、地面に倒れ伏していた。



ユリリカ

「……完敗ね。私の」



 彼女の表情は、爽やかだった。


 クリーンが、トーナメントを制した。


 第3の試練は、ここに終了した。




 ……。




 候補たちはバークスの前に集合した。



バークス

「それでは、大神殿に帰還しましょうか」



 ヨークたちは、神官たちの後について、10層を移動した。


 広間から出て、少し直進した所に、左への分岐点が有った。


 そこを曲がった先の部屋に、転移陣が有った。


 一行は、転移陣を使い、大神殿に帰還した。


 最初に使ったのとは別の部屋に、ヨークたちは転移した。


 それから、一行は部屋を出た。


 バークスの後について、大神殿の広間に移動した。


 そこは一番最初に、ヨークたちが集まった広間だった。


 以前は無かった八つのテーブルが、そこに置かれていた。



ヨーク

(何のテーブルだ……?)



 ヨークが戸惑っていると、神官長のサニタが入室してきた。


 サニタは講演台まで移動すると、口を開いた。



サニタ

「聖女候補及び、守護騎士の皆様」


サニタ

「第2、および第3の試練、お疲れ様でした」


サニタ

「それでは……」


サニタ

「これより、最終試練を始めさせていただきます」


ヨーク

「え……?」



 静まった広間に、ヨークの声が響いた。



サニタ

「何か?」


ヨーク

「…………」


ヨーク

「第3の試練でクリーンが勝って……」


ヨーク

「それで終わりじゃ……無いんですか?」


サニタ

「第3の試練の順位は、聖女選定の参考にさせていただきます」


サニタ

「選定に関しましては、全ての試練の結果を総合し、判断させていただくことになります」


サニタ

「他に何か疑問はございますか?」


ヨーク

「いえ……」



 ヨークはミツキを見た。


 フードの下の彼女の顔に、驚いている様子は無かった。


 この展開を、予想していたらしい。


 自分だけか。


 クリーンが聖女になったと思っていたのは、自分だけか。


 ヨークはそう思い、ショックを受けた。



クリーン

「勝ったと思い込んでしまっていたのです……」



 クリーンは、小声でそう呟いた。


 ヨークとミツキにだけ聞こえる、小さな声音だった。


 ヨークは、同士の頭を撫でようとした。


 払いのけられた。



サニタ

「最終試練では、皆様の信仰を、試させていただきます」


サニタ

「そちらに、8つのテーブルを用意させていただきました」


サニタ

「テーブルにはそれぞれ、聖女候補の名札を、置かせていただいております」


サニタ

「そのテーブルの上に、皆様の少なからぬ信仰を、示していただきたい」


クリーン

「信仰って?」


ミツキ

「カネですよ」



 ミツキが簡潔に断言した。



クリーン

「えっ?」


サニタ

「おほん。信仰は信仰です」


サニタ

「より深い信仰を示せた者を、最終試練の勝者とします」


サニタ

「それでは、始めて下さい」


イーバ

「えっ? えっ?」



 戸惑っているのは、ヨークたちだけでは無かったらしい。


 イーバもまた、困惑をオモテに見せていた。



トリーシャ

「だから言ったでしょう。大丈夫だと」


トリーシャ

「敵はブラッドロード商会のみ。さあ、これを」



 スキルでも使ったのか。


 いつの間にかトリーシャの手に、大きな袋が抱えられていた。


 その中身は、もはや言うまでも無いだろう。


 トリーシャは、袋をイーバに手渡した。



アシュトー

「だから言っただろ。勝ったと思うなって」



 アシュトーが、ヨークに声をかけた。


 その手中にはやはり、ぎっしりと中身が詰まった袋が有った。




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