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4の30「ユリリカと白蜘蛛」




仮面の聖女候補

「違うわ」


仮面の聖女候補

「私はユリリカ=サザーランド」


仮面の聖女候補/ユリリカ

「お姉ちゃんじゃない」


ユリリカ

「人の見分けもつかないのね」


ユリリカ

「あまり、頭は良くないみたいね」


トリーシャ

「先に進みましょう! イーバ様!」



 トリーシャが、口を開いた。



トリーシャ

「あのようなモノの、相手をしてはなりません!」



 ユリリカは、異常だ。


 ひとめ見れば、それは分かった。


 関わっても、良いことは無い。


 それがトリーシャの判断だった。



イーバ

「え、ええ。そうね」


イーバ

「勝負は預けたわよ!」



 イーバも、同じように思ったらしい。


 イーバたちは、ユリリカやクリーンに背を向けた。


 そして、全速力で駆け去っていった。


 残ったのは、ヨークたち3人と、ユリリカ。


 それに、白ローブの人物。


 そして……。



クリーン

「この子は、あなたの知り合いなのですか?」


ヨーク

「いや。初対面だ。それより……」


ヨーク

「その、お前の相棒が、引きずってるモンは何だ?」



 ヨークは、ユリリカから視線をずらした。


 彼女の隣に立つ、白ローブの人物へ。


 正確には、彼女の右手に。



白ローブ

「…………」


ビヨール

「う……うぁ……」



 白ローブの手には、聖女候補ビヨールの首が、掴まれていた。


 ビヨールの頬は、腫れ上がっていた。


 折れた鼻からは血が流れ、腕や脚は、無残に砕かれていた。


 死に到る拷問を受けたような、酷いありさまだった。



ユリリカ

「ああ……」



 ユリリカは、ビヨールを横目で見た。


 そして言った。



ユリリカ

「誤解しないでくれる?」


ユリリカ

「正当防衛なのよ。これでも」


ユリリカ

「置き去りにするのもアレだから、連れて来てあげたの」


ユリリカ

「彼女、大人しい顔して、人をいたぶるのが趣味なんですって」


ユリリカ

「いきなり襲ってきたから、びっくりしちゃった」


ユリリカ

「けど、白蜘蛛の敵じゃあ無かったわ」


ユリリカ

「ク……フフッ……ヒヒヒヒヒヒッ!」


ヨーク

「白蜘蛛?」


ユリリカ

「ええ。姿を見せてあげなさい」



 白ローブの人物が、ローブを脱ぎ捨てた。


 ローブの下の姿が、ヨークの視線に晒された。



白蜘蛛

「…………」


ヨーク

(黒蜘蛛? いや……)



 その姿は、ヨークがかつて戦った相手に、酷似していた。


 全身が、甲冑で覆われている。


 その容姿は、うかがいしれない。


 明確な差異は、甲冑の色が、正反対の白だということ。


 そして黒蜘蛛よりも、少し身長が低かった。



ヨーク

「そいつは何だ?」


ユリリカ

「見れば分かるでしょう? 白蜘蛛は、黒蜘蛛の後継機よ」


ヨーク

「……それで? 俺に何の用だ?」


ユリリカ

「あなたを倒すわ」


ヨーク

「いまさら、やり返しに来たのか」


ユリリカ

「違うでしょう?」


ユリリカ

「あなたが、あなたの方が、ここに来てしまったのよ。ねえ」


ユリリカ

「黒蜘蛛をたおしたアナタが、どうしてここに居るの?」


ヨーク

「……成り行きだ」


ユリリカ

「ただの成り行きで、この私とあなたが出会う」


ユリリカ

「そんなことが有るかしら?」


ユリリカ

「それって、運命だわ」


ヨーク

「勝手に決めんな」


ヨーク

「……俺を、憎んでるのか?」


ユリリカ

「ええ。ええ! とても!」


ユリリカ

「黒蜘蛛は……私たち姉妹の夢だった。希望だった。未来だった」


ユリリカ

「部外者のあなたには、分からないでしょう」


ユリリカ

「だけど、私たちには全てだったのよ」


ユリリカ

「それをあなたは……一刀両断に斬り捨てた……!」


ヨーク

「あれは……」



 望んでやったことでは無い。


 言いかけた言葉を、ヨークは飲み込んだ。


 ヨークは、黒蜘蛛を斬った。


 その結末は、どう言い繕っても、変わることは無い。


 ヨークが何を言っても、眼前の少女が救われることは、きっと無いだろう。



ユリリカ

「分かってるわ。これが逆恨みだってことくらい」


ユリリカ

「お姉ちゃんも言ってたわ。ヨークを恨んではいけないって」


ユリリカ

「彼は良い人で、被害者だから」


ユリリカ

「巻き込まれて戦っただけの人だから」


ユリリカ

「時が経てば……あなたを許せると思っていたのに……」


ユリリカ

「あなたがつけた傷も、時が癒やしてくれる」


ユリリカ

「そう思っていたのに……」


ユリリカ

「あなたは、黒蜘蛛をたおした剣を持って、私の前に立ってしまった」


ユリリカ

「ヨーク……ブラッドロード……」


ユリリカ

「あなたが来るのが早すぎたのよ」


ユリリカ

「もう……気持ちが抑えきれないの」


ユリリカ

「強く美しく、善良なあなたを、私のけがれた想いでたおす」


ユリリカ

「ヒ……」


ユリリカ

「ヒヒヒヒヒヒヒヒイイイイイイイイイイイイイィィィッ!」



 ユリリカは、笑った。


 その笑い声は、悲鳴に似ていた。


 ユリリカの想いに呼応し、白蜘蛛が前に出た。


 白蜘蛛の手には、杖が握られていた。


 見覚えの有る、黒い杖だ。


 黒蜘蛛が、使っていた杖だ。


 ……白蜘蛛が、地面を蹴った。



ヨーク

(速……!)



 白蜘蛛が、ヨークへと杖をふるった。


 白蜘蛛から見て、右から左へ。


 今のヨークのレベルは、黒蜘蛛と戦った時の、3分の1ほどしか無い。


 黒蜘蛛の同類を相手にするには、パワー不足だった。


 ヨークはかろうじて、白蜘蛛の攻撃を受け止めた。



ヨーク

「ぐうううっ!?」



 魔剣と杖が、ぶつかりあった。


 ヨークの体が、弾き飛ばされた。


 その先には、迷宮の壁が有った。


 ヨークは壁に衝突した。


 ぴしり。


 腕輪の魔石に、小さなヒビが入った。


 ヨークのダメージを、肩代わりした代償だった。



ユリリカ

「え……?」



 ユリリカはヨークの有様を、意外そうに見た。



クリーン

「ヨーク!? 大丈夫なのですか!?」


ヨーク

「怪我は無い」


ヨーク

(とはいえ……このレベルで接近戦は無理だな……)


ユリリカ

「弱い……?」



 ユリリカは呟いた。



ユリリカ

「ヨーク=ブラッドロードが弱い……?」



 黒蜘蛛を倒したヨークが、あっけなく弾き飛ばされた。


 その事実が、ユリリカを困惑させているようだった。



ユリリカ

「そっか……」


ユリリカ

「手加減してるのね?」



 自分の中で答えを見つけたユリリカは、口の端を吊り上げた。


 間違っている。


 見当外れの答えだ。


 ヨークには、手加減をしている余裕など無い。



ヨーク

(弱くて悪かったな)



 ヨークは内心で、そう毒づいた。



ユリリカ

「白蜘蛛! 彼に本気を出させて!」


白蜘蛛

「…………」



 白蜘蛛は、ユリリカに忠実だった。


 再び地面を蹴り、ヨークへと向かった。



ミツキ

「……!」



 その進路を、ミツキが阻んだ。



白蜘蛛

「…………!」



 白蜘蛛は、杖を水平に振った。



ミツキ

「ハッ!」



 ミツキは大剣で、白蜘蛛の攻撃を受け止めた。


 その動きは、いつもよりも鈍い。


 大剣の重量を、扱いかねているようだった。


 だが、2度3度と重ねられる攻撃を、なんとか受けきった。



ミツキ

「この剣なら……!」



 以前の戦いでは、剣を折られた。


 今回、剣の強度だけは十分だ。


 ミツキには、そのように思われた。



ミツキ

「フッ!」



 体勢を立て直したミツキが、反撃の横振りを放った。



白蜘蛛

「…………!」



 白蜘蛛は回避のため、後ろへと跳躍した。


 そのとき……。



ヨーク

「樹縛」



 ヨークが呪文を唱えた。


 地面から、細い木々が現れた。


 木々は、白蜘蛛に絡みついた。



ユリリカ

「あっ……!」



 白蜘蛛はヨークの呪文によって、拘束されてしまった。



ユリリカ

「その程度っ!」


白蜘蛛

「…………!」



 白蜘蛛は、四肢に力をこめた。


 木々を引きちぎり、即座に拘束から脱出した。



ヨーク

「ミツキ下がれ!」


ミツキ

「はい!」


ヨーク

「樹殺界!」



 ヨークは呪文を唱えた。


 彼の剣先は、白蜘蛛へと向けられていた。


 剣先から、大量の樹木がほとばしった。


 さきほど白蜘蛛を拘束した木々よりも、太く鋭い。



ユリリカ

「白蜘蛛!」


白蜘蛛

「…………!」



 白蜘蛛は、杖で木々を殴りつけた。


 迫る樹木を、次々に粉砕していった。


 やがて、押し寄せる樹木が消滅した。


 白蜘蛛は、ヨークの呪文を防ぎきった。


 無傷だった。



ユリリカ

「さあ! 次……は……」



 樹木が消え、ユリリカの視界が開けた時……。


 ヨークたちの姿は、無くなっていた。



ユリリカ

「え…………?」



 ヨークたちは、ユリリカたちを残し、逃走していた。



ユリリカ

「逃げ……た……?」


ユリリカ

「ヨーク=ブラッドロードが逃げた……?」


ユリリカ

「そんなはず無い……」


ユリリカ

「ヨークは強くて……綺麗で……勇気が有って……」


ユリリカ

「お姉ちゃんが認めた英雄なんだッ!!!!!」


ユリリカ

「逃げるわけ無い……」


ユリリカ

「ヨークが逃げるわけ無いのに……」


ユリリカ

「ありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえない」



 ユリリカは、ぶつぶつと呟きながら、自身の頬をひっかいた。


 爪が肌を裂き、頬からは血が流れた。



ユリリカ

「……………………」


ユリリカ

「ニセモノ?」


ユリリカ

「どこ……? 本物のヨークは……」


ユリリカ

「キッ……ヒヒヒッ……」


ユリリカ

「キヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイィィィッ!」



 ユリリカの笑い声が、迷宮にこだました。




リューゼ

「あの……」




 悲鳴を聞きつけて、他の聖女候補が近付いてきた。


 彼女はユリリカに対し、心配そうに声をかけた。



リューゼ

「大丈夫ですか? その、悲鳴が聞こえたの……で……」



 彼女、リューゼはそう言いながら、ユリリカの近くの地面を見た。


 そこにビヨールの姿が有った。


 彼女は痛めつけられ、グチャグチャになっていた。



リューゼ

「ひっ……!?」


リューゼ

「ぁ……魔獣に……襲われたのですか?」


ユリリカ

「ああ。その子? 違うわ」


ユリリカ

「それは私たちがやったの。正当防衛なの。襲ってきたから」



 そう言ってユリリカは、リューゼに近寄ろうとした。



リューゼ

「ッ! 近寄らないで!」



 リューゼは身構えて、ユリリカから距離を取った。



ユリリカ

「どうして? 私、あなたに聞きたいことが有るのに」


リューゼ

「私には、あなたと話すようなことは有りません!」



 ビヨールの怪我は、正当防衛などというレベルでは無い。


 ユリリカは、弱者を痛めつける悪党だ。


 リューゼは、そう判断したようだ。


 彼女は剣を構え、ユリリカへと向けた。



リューゼの守護騎士A

「…………」


リューゼの守護騎士B

「…………」



 彼女の守護騎士も、同様に剣を構えた。



ユリリカ

「そう。残念」




 ……。




 30秒後、リューゼたちは地面に倒れていた。


 腕輪の魔石は、3つとも砕けてしまっていた。



リューゼ

「…………」


ユリリカ

「気絶しちゃったみたいね」


ユリリカ

「ヨークのこと知ってるか、聞きたかったのに……」


ユリリカ

「それにしても、試練だからって、いきなり襲いかかってくるなんて」


ユリリカ

「聖女候補って、野蛮な人ばっかりね」




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