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4の28「聖女候補Lと聖女候補R」




サレン

「…………」


ニトロ

「サレン?」


サレン

「あ……はい……」



 サレンは、父の勇姿に見惚れていた。


 だが、ニトロに呼びかけられると、姿勢を正した。


 そして、反省した様子を見せた。



サレン

「申し訳ありません……」


サレン

「みっともないところを、お見せしてしまって……」


ニトロ

「うん」


ニトロ

「相手の子は、かなり高レベルだったみたいだね」


ニトロ

「だけど、剣は荒削りだった」


ニトロ

「レベルに技量が追いついていなかった」


ニトロ

「無茶なパワーレベリングをしてきた証拠だ」


ニトロ

「冷静に対処出来ていれば、相手のサブスキルを切らせるくらいは出来たはずだ」


ニトロ

「精進しなさい」


サレン

「はい……」


ニトロ

「行こうか」



 ニトロはサレンと共に、歩きだした。


 もう1人の守護騎士も、それに続いた。



ヨーク

「ニトロさん」



 歩くニトロを、ヨークが呼び止めた。



ニトロ

「うん?」



 ニトロは足を止め、ヨークに顔を向けた。



ヨーク

「黙ってましたね? 守護騎士だって」


ニトロ

「はっはっは」


ニトロ

「聞かれなかったからね」


ヨーク

「…………」


ヨーク

「手加減はしませんよ」


ニトロ

「うん。少年はそういう子だ」


ヨーク

「それじゃ、お先に」


ニトロ

「うん」



 ヨークたちは、ニトロよりも先に広場から出た。



ニトロ

「私たちも行くよ」


サレン

「はい」



 ニトロたちは、ヨークたちから少し遅れて、広間の出口へと向かった。


 広間を出る寸前、ニトロは振り返った。



サレン

「お父様?」


ニトロ

「ちょっと急いだ方が良さそうだ」



 ニトロは少し早足になり、広間から消えた。


 それから、様子見していたチームも、次々に広間を出て行った。



サチホの守護騎士

「残念ですが、大神殿に戻りましょう」



 守護騎士が、失格になったサチホに声をかけた。



サチホ

「そう……ですね……」


サチホ

「申し訳ありません。せっかく……守護騎士になっていただけたのに……」


サチホの守護騎士

「いえ。油断してあなたを守りきれなかったのは、我々の不手際です」


サチホの守護騎士

「こちらこそ、申し訳ないと思っています」


サチホ

「……行きましょう」


サチホの守護騎士

「はい」



 サチホたちは、転移陣の中央へ移動した。


 守護騎士が、陣の魔石に触れた。


 陣が輝き、サチホたちは転移された。


 広間には、2組の候補が残されていた。



聖女候補R

「あの……」



 残った聖女候補の片割れが、もう1人の聖女候補に、声をかけた。


 話しかけられた方の聖女候補は、仮面をつけていた。


 おかげでその顔は、見えなかった。



聖女候補L

「何かしら?」



 仮面の聖女候補は、もう片方の聖女候補に、向き直った。



聖女候補R

「その、驚きましたね」


聖女候補L

「何が?」


聖女候補R

「えっと、いきなり聖女候補同士で、戦いが始まるなんて」


聖女候補L

「そう? 予想は出来たと思うけど」


聖女候補R

「そうなんですか? 私はとてもびっくりしちゃいました」




聖女候補R

「まさか、同じ考えの人が居たなんて」




 そのとき、彼女の後ろに控えていた騎士が、倒れた。


 2人とも。


 倒れた騎士の背中に、短剣が突き刺さっているのが見えた。



聖女候補L

「っ……!?」


聖女候補R

「邪魔だったので、排除させていただきました」


聖女候補R

「腕輪が身代わりになると言っても、上手く連撃を叩き込めば、容易いものですね」



 彼女が排除したと言っているのは、彼女自身の守護騎士だ。


 居なくなれば、戦力を減ずるだけだ。


 仮面の聖女候補には、相手が何を言っているのか、理解出来なかった。



聖女候補L

「邪魔って……あなたはいったい……!?」


聖女候補R

「別に……ただの聖女候補ですよ」


聖女候補R/吸血ジャック

「迷宮の殺人鬼、吸血ジャックとも呼ばれていますがね」



 吸血ジャックは、自身の顔に触れた。


 すると彼女の顔が、まったく別の容姿へと変貌した。


 地味だった容姿が、絶世の美貌へと。



聖女候補L

(どこかで見たような……?)



 仮面の聖女候補は、眼前の女の美貌に、既視感を抱いた。


 だが、いったいどこで見たというのだろうか。


 答えにたどり着くことは、出来なかった。



吸血ジャック

「これが私の能力です」



 吸血ジャックは、自身の頬を撫でた。


 すると彼女は、元の地味な顔に戻った。



吸血ジャック

「こうして、誰にでもなりすませるわけです」


吸血ジャック

「そういうわけでして、この迷宮は、今から私の庭です」


吸血ジャック

「さあ……あなたの血をいただきましょう!」



 吸血ジャックは、仮面の聖女候補のパーティに、襲いかかった。



聖女候補L

「ヒイイイイイイイイイイッ!?」



 聖女候補の悲鳴が、広間に響き渡った。




 ……。




ヨーク

「ほっ!」



 ヨークは魔剣を振った。



炎鼠

「ギッ!?」



 魔剣は1撃で、魔獣を2つに裂いた。


 魔獣は絶命し、消滅した。



ヨーク

「楽だな」



 戦闘を終えたヨークの表情には、余裕が有った。



ミツキ

「そうですね」


ヨーク

「『聖域』スキルが有れば、高レベルの魔獣も、赤狼と大差ない」



 ヨークたちは、クリーンとは、距離を取らずに戦っていた。


 クリーンの『聖域』は、最小でも、半径30メートルを超える。


 ヨークたちと戦う魔獣は、すべて弱体化された。


 スキルで弱った魔獣を倒すのは、実に簡単だった。



クリーン

「思ったより、大したこと無いのですね。聖女の試練って」


ヨーク

「これからだろ」


ヨーク

「他の候補と出くわしてからが、本番だ」


ヨーク

「お前、今レベル1だって分かってんのか?」


クリーン

「分かってるのです」


クリーン

「いざとなったら、あなたを盾にするからだいじょうぶなのですよ」


ヨーク

「じゃあ俺は、お前を剣にしてやるよ」


クリーン

「何するつもりなのです!?」


ミツキ

「……なるべく戦いを避けられたら良いのですが」


ヨーク

「そうだな……」


ヨーク

「木鼠、100連」



 ヨークは呪文を唱えた。


 ヨークの足元に、小さな木の鼠が、大量に出現した。



クリーン

「あらかわいい」


ヨーク

「こいつで正解の道を、探らせよう」



 ヨークが念じると、木鼠たちは、あちこちへと散っていった。



ヨーク

「最短で行けば、他の候補と戦うリスクを、減らせるはずだ」




 ……。




 一方。


 サレンたちは、ハリネズミの魔獣と対峙していた。



針鼠

「じゅーっ!」


ニトロ

「サレン。『聖域』を広げるんだ。最低でも、半径5メートルまで」


サレン

「はい……!」



 サレンは意識して、自身の『聖域』を広げた。


 その半径は、およそ6メートルほど。



サレン

「くっ……」



 サレンを苦痛が襲った。


 『聖域』を広げるという行為には、大きな負担が伴う。


 だが、魔獣に勝利するためには、必要なことだった。



ニトロ

「辛くても、半径5メートル以上を維持出来ないと、集団戦闘の役には立たない」


ニトロ

「サッツルも、サレンから5メートルの距離を意識して戦うように」


サッツル

「はい!」



 サレンのもう1人の守護騎士は、サッツルと言った。


 薄紫の髪を持ち、目の細い男だ。


 神殿騎士らしく、銀の鎧を身につけている。


 彼は剣を構えたまま、魔獣の出方を待った。


 少しずつ、お互いの距離が縮まっていった。


 そして……。



サッツル

「はあっ!」



 十分に『聖域』に誘い込んで、サッツルがしかけた。


 この迷宮の魔獣は、ラビュリントスよりも屈強だ。


 だが、『聖域』スキルのおかげで、魔獣の強さは、並にまで落ち込んでいた。


 並とは言っても、神殿騎士の基準での並だ。


 平均的な冒険者の基準で見れば、強敵には変わりは無い。


 だが、サッツルは、鍛えられた神殿騎士だ。


 その戦闘力は、平均的な冒険者を、遥かに凌駕する。


 サッツルの鋭い斬撃が、魔獣を裂いた。



針鼠

「じゅっ!?」



 魔獣は深手を負った。


 だが、致命傷では無かった。


 魔獣は後ろに跳び、サッツルから距離を取った。



ニトロ

「サレン」


サレン

「……はい!」



 ニトロの言葉を受け、サレンは追撃をしかけた。


 サレンの剣が、魔獣に致命傷を負わせた。


 魔獣は絶命し、魔石が落ちた。



サレン

「はぁ……はぁ……」



 1度剣を振っただけだが、サレンは疲労していた。


 『聖域』を拡張した影響だった。



ニトロ

「格上の魔獣を、見事に『聖域』で抑え込んだ」


ニトロ

「よくやったね」


サレン

「はいっ!」



 サレンは疲労を忘れ、ニコニコと笑った。


 そのとき……。



サッツル

「何か来ます!」



 サッツルが剣を構え、進行方向を見た。


 何か小さいものが、駆け寄ってくるのが見えた。



サレン

「……!?」


ニトロ

「だいじょうぶ。無害だよ。あれは」



 ニトロにそう言われ、サッツルとサレンは、警戒を解いた。


 鼠たちが、3人の足元を、走り去っていった。



サッツル

「鼠……?」


ニトロ

「木鼠」


ニトロ

「魔術師の初歩的な呪文だよ。きちんと勉強しておきなさい」


サッツル

「すいません……」


サレン

「斥候でしょうか?」


ニトロ

「だろうね」


ニトロ

「とは言っても、普通の木鼠には、遠くの情報を伝える力は無いと思うけど」


サッツル

「どういうことですか?」


ニトロ

「これを放ったのは、相当高レベルの術師ということさ」


サッツル

「あのメイルブーケの少年でしょうか? 魔族の」


ニトロ

「ハーフだよ。魔族じゃない」


サッツル

「そうなのですか?」


ニトロ

「耳を見れば、誰でも分かる。きちんと周囲を観察しなさい」


サッツル

「……はい」


ニトロ

「それに、彼はメイルブーケじゃない」


サッツル

「そうなのですか?」


サレン

「ブラッドロードと聞きました」


サッツル

「……ブラッドロードが2組?」


サッツル

「本気で聖女の地位を狙ってきている。そういうことでしょうか?」


ニトロ

「そうでも無いと思うけどね。少年に関しては」


サッツル

「…………?」


ニトロ

「少年は甘い。善良な田舎の子供だ」


ニトロ

「少年が本気になれば、もっとえげつないことも出来ると思うんだけどね」


ニトロ

「まったく……」


ニトロ

「実に純朴だよ。彼は」



 ニトロはそう言うと、苦笑いを浮かべた。


 だが、すぐに笑みを引っ込め、後ろに視線をやった。



ニトロ

「……む」


サレン

「お父様?」


ニトロ

「追いつかれたか」




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