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4の23の4「赤ローブとその魔術」



 ボロボロのヨークの体が、地面に転がった。



クリーン

「ヨーク!」



 クリーンは、ヨークに駆け寄った。


 そして、即座に呪文を唱えた。



クリーン

「風癒!」



 ヨークの体が、癒やしの風に包まれた。


 今のクリーンのレベルは、100近い。


 その呪文にも、かなりの効果が有るはずだった。


 だが……。



ヨーク

「う……」


クリーン

「とっとと立つのです!」


ヨーク

「…………」



 クリーンの叱咤を受けても、ヨークは動かなかった。


 動けなかった。



ミツキ

「ん……」



 ミツキが、水面から顔を出した。


 即座に川岸に手をかけ、陸に上がった。


 そのときミツキは、ヨークが倒れていることに気付いた。



ミツキ

「ヨーク……!?」


ヨーク

「なんか……体動かねえ……」


クリーン

「っ……! 抱っこしてやるのです!」



 クリーンは、ヨークを抱え上げた。


 ミツキはヨークに向かい、駆けた。



緑竜

「グルル……!」



 一方、突進を終えた緑竜は、ヨークたちへと向き直っていた。


 緑竜の体表には、焼け焦げた痕が見られる。


 ヨークの呪文によって、ダメージは受けているらしい。


 だが、動くのには支障が無い。


 そのように見えた。


 緑竜は、ヨークを睨みつけた。


 その双眼には、身を焼かれた怒りが、宿っているように見えた。


 緑竜は、頭を低くした。


 突進が来る。


 ヨークには、それが分かった。


 しかし、抗う手立ては無い。


 ドラゴンとの対峙を選択したのは、ヨーク自身だ。


 だから、自分1人が死ぬのなら、それは仕方がない。


 だが、クリーンを巻き込むのは嫌だった。



ヨーク

「逃げろ……!」



 ヨークは肺の底から、なけなしの声を振り絞った


 緑竜の巨体が、前に出た。


 その初動を、ヨークは見切ることが出来た。


 だが、目だけが冴えていても、どうしようも無い。


 肝心の体の方は、指1本動かなかった。


 質量と速度の暴力によって、2人は息絶えるだろう。


 ヨークは死を予感した。


 緑竜が、ヨークの目前に……。



???

「はいそこまで」



 高い声が聞こえた。


 どこかで聞いたような声だった。


 予測していた破滅の時は、訪れなかった。


 ヨークたちと緑竜の間に、人が立っていた。


 その人物は、赤色のフード付きローブを、身に纏っていた。


 ヨークの側からは、その人物の背中だけが見えた。


 顔は見えないが、男にしては小柄だ。



ヨーク

(止めた……?)



 ヨークは驚愕と共に、眼前の光景を見ていた。


 緑竜の突進が、止まっていた。


 赤ローブの人物は、竜に対し、手の平を向けているだけだ。


 たったそれだけで、竜の圧倒的な質量が、ぴたりと停止していた。


 赤ローブの手には、白い手袋がはめられていた。


 それは何の変哲も無い、布製の手袋だ。


 魔導器のたぐいでは無い。


 赤ローブは、自分自身の力で、ドラゴンを止めている。


 ヨークには、そう思えた。


 赤ローブは、竜に手を向けたまま、100度、体の向きを変えた。


 そして首を回し、ヨークを見た。


 ヨークは、フードの中を見た。


 顔のところに、白い仮面が有った。


 仮面は、顔全体を覆っていた。


 目の部分にだけ、小さな穴が開けられている。


 だが、フードと仮面が作る影で、瞳の色までは分からなかった。

 

 ヨークには、赤ローブの容姿が、いっさい判別出来なかった。



赤ローブ

「『戦力評価』」



 赤ローブの人物が、スキル名を唱えた。



ヨーク

「…………!」



 赤ローブが、スキルを使ったらしい。


 普段、ヨークが使っているスキルだ。


 だが、自分に使われるのは薄気味悪い。


 ヨークはそう思わざるをえなかった。



ヨーク

(『戦力……評価』)



 お返しだ。


 ヨークはそう思い、スキルを使った。




______________________________




リーン=ノンシルド



クラス 賢者 レベル231



スキル 探知 レベル24



サブスキル 戦力評価 レベル4


 効果 対象の名称、レベルを判別する


  追加効果1 対象のスキル、所有EXPを判別する


   追加効果2 魔獣の耐性を判別する


    追加効果3 対象の特殊スキルを認識する



ユニークスキル 魔術



ギフテッドスキル 不老



SP 709872



______________________________




 ヨークの意識は、まずは赤ローブのレベルに向けられた。


 恐るべきドラゴンを、片手で止めている猛者だ。


 レベルもさぞかし高いのだろう。


 そう思っていた。


 だが、彼女のレベルは、ヨークの想定を下回った。


 今のヨークのレベルは、300を超えている。


 そんな彼のレベルよりも、赤ローブ、リーンのレベルは、100ほど低かった。



ヨーク

(俺よりレベルが下なのか……)


リーン

「大したものね。その若さで、私よりもクラスレベルが上だなんて」


リーン

「それに……変わったユニークスキルを持っているのね。まるで……」


ヨーク

「ユニーク……?」


リーン

「『戦力評価』のレベルが上がれば分かるようになるわ」


ヨーク

「……? そうなのか……」


ヨーク

「それより……どうやって……」


リーン

「不思議? あなたよりレベルの低い私が、ドラゴンを止めてみせたのが」


ヨーク

「…………」



 図星だった。


 リーンのメインスキルは、『探知』だ。


 物や人の場所を、探り当てるだけのスキルだ。


 戦闘には使えない。


 いったいどんな技を使っているのか。


 ヨークには、まったく理解出来なかった。



リーン

「それはね、私が呪文ではない、本当の魔術を使っているからよ」


ヨーク

(本当の魔術……?)


ヨーク

「何だ……? それは……」


リーン

「本当の魔術。それは……」



 リーンは、緑竜へと視線を戻した。



リーン

「人が内面に持つ力に、働きかけるもの」


リーン

「神に頼らず、クラスに頼らず、EXPに頼らず……」


リーン

「私が私で在る証を、この世界に叩きつけるもの」



 リーンの手の平から、炎が放たれた。



緑竜

「グ……!」



 炎は緑竜を包み込んだ。


 緑竜は、それでも動けなかった。


 体の自由が、完全に奪われていた。


 竜は無防備なまま、炎に飲み込まれていった。



緑竜

「グガアアアアアアァァァッ!」



 ドラゴンの絶叫が、辺りに響いた。


 叫びは、すぐに途切れた。


 少し遅れて、炎が消えた。


 緑竜の姿は、無くなっていた。


 リーンが放った炎によって、焼き尽くされたらしい。


 その炎は、規模だけ見れば、それほどのものでも無かった。


 もちろん、そこいらの魔術の呪文よりは、大規模だった。


 だが、ドラゴンを包み込む程度の炎なら、ヨークにも出せる。


 火力には、圧倒的な差が有った。


 外見からは計り知れない、恐るべき力が、その炎には有った。


 それほどの火力にも関わらず、ヨークたちは、炎の熱を感じることは無かった。


 炎は周囲に影響を与えず、ドラゴンだけを焼いたのだった。



リーン

「これが、この力が、本当の魔術よ」


リーン

「あなたが普段使っている魔術は、神様に力を貸して下さいと、お伺いを立てているだけ」


リーン

「あなたという個の力では無いわ」


ヨーク

「……すげえな」


ヨーク

「俺にも出来るようになるのか?」



 クリーンの腕に収まったまま、ヨークは尋ねた。



リーン

「どうかしら?」


リーン

「あなたの中に眠る力を、見てあげましょうか?」


ヨーク

「そんなこと出来るのか?」


リーン

「ええ」


ヨーク

「頼もうかな」



 リーンは手袋を外した。


 素手が外気にさらされた。


 その手は華奢で、そして赤かった。


 リーンはヨークに向かい、赤い手を伸ばした。


 そして、彼の頬に触れた。



リーン

「…………」


リーン

「っ!」



 リーンは何かに驚いた様子を見せ、飛び退いた。



リーン

「ヨーグラウ……! それに……!」


ヨーク

「何を言っている?」


リーン

「裏切り者のメイルブーケが、良く顔を出せたわね……!」


ヨーク

「だから、何言ってんだ」



 リーンは手の平を、ヨークへと向けた。


 手の平に、殺意が乗った。



リーン

「死……!」


クリーン

「あの、どうしたのですか?」


リーン

「あ……」



 リーンの殺意が、散った。


 リーンは毒気を抜かれたように、ヨークに向けていた手を下げた。



リーン

「別に……」



 リーンは、ヨークたちに背を向けた。



リーン

「用事が有るから、もう失礼させてもらうわ」


クリーン

「ありがとうございます。おかげで命拾いしたのです」


リーン

「別に」



 そう言うと、リーンの姿は掻き消えた。


 音も立てず、ふっと居なくなった。


 どのような力なのか。


 ヨークの目では、彼女の力の片鱗ですら、垣間見ることは出来なかった。



クリーン

「あの手、それに、あの声は……」


ミツキ

「ヨーク、立てますか?」



 ミツキにそう問われたが、ヨークは立ち上がることは出来なかった。



ヨーク

「なんか……体が痺れてる感じがする」


ミツキ

「っ……」



 ミツキは、クリーンから奪い取るように、ヨークを抱え上げた。



クリーン

「あっ」


ミツキ

「宿へ戻りましょう」


ヨーク

「ああ。ところで」



 ヨークはクリーンへと、声音を向けた。



クリーン

「何なのですか?」


ヨーク

「お前の家族の名前、聞いても良いか?」


クリーン

「どうしてそんな事を聞くのですか?」


ヨーク

「気になっただけだが……」


ヨーク

(……まあ、良いか)


ヨーク

「寝る」


クリーン

「んぅ?」



 ヨークは目を閉じた。


 すると背中に、温かいものが感じられた。


 自分を抱えるミツキの手が、体を癒やしてくれている。


 ヨークにはなぜか、そんな風に感じられたのだった。




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