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 早速食堂に赴くと、こんな時間だというのに数人の客がいた。

 そんな中に私と同年代くらいに見える人がいて、私は思わず目を奪われた。

 それはこの辺りじゃ珍しい紅髪紅眼の女の子で、傍には金色の髪をなびかせたメイドを従えていた。


 私がその綺麗な紅眼に見惚れていると、こちらを振り返ったその子と目が合った。

 私の視線が不快だったのだろう。その子の睨むような視線に、私はひるんで体が動かなくなった。

 慌てて目を逸らし、自分を落ち着かせてから近くにあった席に座った。

 少し経ってからちらりとその子の方を盗み見ると、既にその少女の姿は消えていた。


「……ふぅ」


 ほっと一息をつく。

 正直、かなり怖かった。

 あの紅い瞳で睨まれると、迫力がすごい。真紅に輝く髪の色も合わせて、威圧感の強い少女だった。

 こうして隣に座っているだけでも、その存在感が───


「あれ?」


 ふと隣を見ると、先程の少女が座っていた。


「初めまして。ごきげんよう」


 突然の出来事に、頭の処理が追い付かない。

 どうやらあの席にいなかったのは帰ったからではなく、私の方に来たからだったようだ。そして、私に用があるということは……


「……どうかしまして?」


 その少女が、黙り込む私にしびれを切らした。

 責め立てるようなその態度に、思わず委縮してしまう。


「えっと、その……ごめんなさい」


 私の謝罪を聞くと、その少女は不機嫌な顔になった。


「あら?貴方は挨拶をされたら謝るようにと教育されたのかしら?」

「いや……初めまして……」


 それは完全に嫌味であり、外見だけじゃなく、中身も威圧的な人だったようだ。

 しかし、元はといえば私がじろじろ見ていたのが悪いのだし、言い逃れもできない。

 そんな私の様子を見たその少女が、ため息をついた。


「そんなに怖がらないでくださいませ。別に取って食おうとしているわけではございませんのよ?」

「はい……」


 家族と以外ろくに会話をしてこなかった私は、その少女のきつい口調に怯えることしかできなかった。

 私をじっと見ていたその少女は、今度は困ったような表情に変わった。


「……まあいいですわ。私はシャリア。今年度からゲル島の生物研究の助手に任命されましたの。間違っていたら失礼ですけれど、貴方もそうなのかしら?」


 その言葉を聞いて、私は少し緊張が和らいだ。

 いわゆる、同期というやつだろうか。騎士団にいた人が書いた本を読んでいるとよく出てくる関係性で、だいたいは助け合うような関係であることが多い間柄だ。

 それも、出会いは悪くても徐々に仲良くなるものが多い。私もそうであるという保証はないが、なんとなく気持ちは楽になっていた。


「シャリア……さん。私はリリです。私も今年度からで、魔法研究の助手に……」


 私がなるたけの笑顔で自己紹介をしていると、魔法研究という言葉を言った途端にシャリアさんの目つきが鋭くなった。


「魔法研究ですって?」


 そう言って、シャリアさんは私を値踏みするような視線を送ってきた。

 そして、シャリアさんは私のことを観察し終わると、何かを考え込むように目を瞑ってしまった。

 突然のことに驚いてしまった私は、気を持ち直して話しかけた。


「あの……どうかしましたか?」


 私の声で目を開いたシャリアさんからは、先程の鋭い目つきが消えてなくなっていた。


「……ごめんなさいまし。新参者同士、仲良くしましょうというお誘いですわ」


 私は、その言葉を聞いて少し嬉しくなった。

 シャリアさんも、同僚ということで仲良くしていこうという気があるようだったからだ。


「えっと、よろしくお願いします!」


 緊張しながらぺこりと頭を下げると、シャリアさんは優雅なお辞儀を返してくれた。


「ええ。それではごきげんよう」


 そして、そのままシャリアさんは食堂を去ってしまった。

 私は、どこかに壁を感じるシャリアさんの態度に、少し不安を感じていた。

 今のやつは、社交辞令というやつだったのだろうか。

 それとも、シャリアさんがああいう人なだけなのだろうか。

 私が困惑しながらシャリアさんが去っていった方を眺めていると、今度は先程シャリアさんと共にいた金髪のメイドさんがやってきて、私の前で綺麗なお辞儀をした。


「初めまして。私はシャリア様の付き人のリエルと申します」

「……初めまして。リリです」


 リエルさんは近くで見るとものすごく綺麗な人で、私はそれだけで気後れしてしまった。

 リエルさんは、そんな私を見て微笑んだ。


「シャリア様のこと、よろしくお願いしますね」


 その笑顔に、思わず見惚れてしまう。

 そしてしばらくしてから慌てて何かを言おうとしたが、その時にはすでにリエルさんはシャリアさんの後を追って立ち去ってしまっていた。

 私は言いたいことを言うだけ言って去っていった二人の背中を眺めながら、主従って似るのかな?なんてことを思うのだった。


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