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 それから数日間、私はろくに食事がのどを通らなくなっていた。

 理由はもちろんあの倉庫での会話で、あの時お父さんにはっきりと言われてから、将来のことが不安で仕方なくなっていたのだ。


 私はまだ十歳になったばかりの子供だが、それでも確かな将来がないということは理解していた。

 商家の次女である私にはお父さんの仕事を継ぐ可能性はないし、近所付き合いもしていないから、仲のいい友達もいない。

 自分の将来は、自分で切り開くしかないのだ。そうでなければ、お父さんの意向で、適当なところに嫁がされるだけだ。


 私は、なんとなくそれは嫌だと思っていた。

 私は本を読むのが好きで、特にその作者のことを考えることが好きだ。

 本には、作者の思いや考えが詰まっている。それは、雄弁に彼らの人生を語るのだ。

 魅力のある人から不思議な人まで、十人十色の趣がある。


 しかし、それはいつだって自分で未来を切り開いている人たちだった。

 私は、それに憧れているわけではない。他人が何を考えていて、どういう人生を歩んできたのか、それに興味があるだけなのだ。

 それでも、やはり心のどこかでは、そういう彼らに惹かれていたのかもしれない。

 そうではなかったら、なぜ私はどこかに嫁がされることを嫌だと感じているのかが、説明がつかないからだ。


 私がその自分の気持ちに気がついてしまったのは、ある意味では私の性だったのかもしれない。本で他人を推し量ってきたばかりに、自分の気持ちも客観的に推し量ってしまったのだろう。

 私が研究者───いや、ラディーナ・ローズマリアの助手というものに惹かれているということは、ここ数日の私の状態をみるに明らかだったが、私はそれを認めたくなくて頭を悩ませていた。

 それは、私はゲル島に関する研究者には向いていないという確信があったからだ。

 それでも、結局私は将来への不安に押しつぶされ、お父さんの言葉通りラディーナ・ローズマリアの助手を目指してさらなる知識をつけていくことに決めたのだった。


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