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 それから数時間をかけて荷卸しを終えると、ようやく私は解放された。

 仕事中もあの本のことが頭から離れなかった私は、仕事が終わると同時にお父さんに詰め寄った。


「お父さん、あの本は?」

「ああ、あれか……」


 お父さんは少し悩むようなそぶりを見せた後、奥の倉庫からあの本を取り出して私に手渡した。


「そいつは、お前の誕生日プレゼントにするつもりだったんだ。だから、今受け取るなら今年の誕生日プレゼントはなしだぞ?」

「うん、わかった」


 私はそんなことより、一刻も早く自室に戻ってその本を読み進めたかった。

 私がお父さんから本を受け取ろうと手を伸ばすと、お父さんはひょいっと私の届かない位置まで本を持ち上げてしまった。


「リリ。この本はな……知り合いの伝手で手に入れたものなんだが、かなり貴重なんだ。というのも、この本を書いたラディーナ・ローズマリアさんが帝国の怒りを買って追放されたそうでな。この本も、帝国が集めて回っているらしい」


 追放と聞いて、私は心底驚いた。

 ラディーナ・ローズマリアは、帝国が誇る第一線の研究者だ。

 魔法という一見ありえないものを発表したくらいで、追放されるほどのことなのだろうか。


「私はそっち方面には疎いからよくわからないが……まあ、貴重に扱ってくれ」

「うん……」


 本を貴重に扱うのは、当然のことだ。

 私には、そんなお父さんの忠告よりも、今後の彼女の行く末の方が気になってしょうがないのだった。




 自室に戻ってきた私は、妙な興奮を感じながらひたすらこの本を読み進めていた。

 その本からは、ラディーナ・ローズマリアの嬉々とした興奮が手にとるように伝わってきた。

 それは私の中の彼女の像が壊れそうなほどだったが、それでもその中に潜む彼女の冷静で従順な知識への態度に、やはり彼女の面影が投影されていた。


 勢いのまま最後まで読み進めると、そこには『私はこの魔法と名付けた技術に、私の生涯をかけることにした』と記されていた。


 私はこの文を読んだ時、鳥肌が立った。

 何かにとりつかれたようにゲル島の生物の生態を研究し続けていた彼女が、それを捨ててこんな摩訶不思議なものに取り組むと宣言しているのだ。

 いったい何が、彼女をそこまで駆り立てるのだろうか。

 ラディーナ・ローズマリアという人は、何を考え、何を思って、魔法の研究という方向へと舵を切ったのだろうか。

 この宣言が、帝国との亀裂を生んだのだろうか。

 色々な疑問がわくばかりだった。それでも、ラディーナ・ローズマリアという一人の研究者の人生が大きく動き出したこの事件に、私は彼女のファンとして目が離せなくなったのだった。


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