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 荷卸しはいつも手伝っているため、お父さんがどのような配置で荷物を運ぶかはなんとなくわかっている。書物のような重量のあるものは、一番真ん中の下の方に置かれることが多いのだ。

 重たい箱をいくつも退かしながらそのあたりを探ると、案の定私の目当てのものが眠っていた。


 今回入荷されていた数冊の本の中、ひときわ私の目を引いたのは、著者がラディーナ・ローズマリアの、『魔法』と書かれたものだった。

 私はラディーナ・ローズマリアの一ファンであり、毎度お父さんが入荷する彼女の新刊は私の楽しみの一つだった。

 彼女の本は、淡々と疑問、考察、実験、結論が記されており、彼女が知識の奴隷だということを物語っていた。

 そしてそんな中でも彼女の目の付け所は普通とは言い難いもので、そこが彼女のユニークなところでもあった。

 私は、そんな彼女のユニークなところに魅力を感じていたのだ。


 だが、今回の本はタイトルだけでいつもと違っていた。

 彼女の本のタイトルは、毎回ゲル島に住む生物の生態+巻数であり、今回のような目新しいタイトルのものは初めてだったのだ。


 ゲル島というのは大陸に囲まれた内海に浮かぶ、小さな島だ。

 その島には、我々人間の力では到底太刀打ちできないような危険な外敵がたくさん住んでいる。


 そして、そこにはかつて知的生命体が生きていたそうだ。

 それは大きさが2mにも満たず、二足歩行で手が二本生えた、我々人類と同様な姿形の知的生命体だったそうだ。

 この過酷な環境の中、彼らがどのようにして暮らしていたのか。そして、どのようにして滅亡したのか。

 そしてその探究は、決して少なくない犠牲のもとに、今もなお続いている。



 私はどこか緊張感を覚えながらその本を開いてみると、そこには今までの彼女の本とは全く違う、多くの部分が彼女の考えや想像というような内容が記されていた。

 その内容は、ゲル島探索を行う内に魔法という技術の存在を発見したことから始まり、その仕組みや使い方が、彼女の推察と共に記されているというものだった。


 肝心の魔法というものは、とてもじゃないが現実のこととは思えなかった。

 それはどちらかと言えば空想の物語に出てくるような、摩訶不思議なものだったのだ。

 しかし、そんな気持ちとは裏腹に、この本を書いているのがラディーナ・ローズマリアだというだけで、なぜか魔法というものが存在するのではないかと思えた。

 ただひたすらに正しい知識を追い求めていた彼女が、その興奮を隠すこともせずに、この魔法について書きなぐっているのだ。

 私がその本を吸い寄せられるように読み進めていると、突然するりと本が取り上げられた。


「まったく、さぼるなと言っただろう?」


 声につられて見上げると、困った顔をしたお父さんが立っていた。


「……ごめんなさい」


 私は言い慣れた謝罪をして、頭を下げた。

 それを見て、お父さんはニヤニヤとした笑顔を浮かべた。


「これはお前のためにと思って買ってきたものなんだが……働かないなら商品にしてしまおうかな?」

「……ほんと?」


 私は、お父さんの言うことが信じられなかった。

 ラディーナ・ローズマリアはこの大陸でも第一線で活躍している研究者であり、その本は当然かなりお高い。

 お父さんが私のために本を買ってくることもあったが、それは安価なものばかりであり、お父さんが私のためにラディーナ・ローズマリアの本を買うとは思えなかったのだ。


 そもそも、私は商品の本でも盗み読むし、それは父も知っていた。

 父は、私が絶対に本を傷つけないように慎重に扱うということも知っていたので、直接見つけた時は軽く咎めはするが、止めはしなかった。

 なので、お高い本ならば私のために買う必要はないのだ。ラディーナ・ローズマリアの本のような需要の高い本ならば、それはなおさらだった。

 お父さんは本を元の箱に戻すと、私をあしらうように言った。


「ほんとだ。ほんとだから、さっさと仕事を済ませてきなさい」


 そう言われては何も言い返せず、私はしぶしぶ仕事へと戻ったのだった。


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