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1/17

 

 その日、街門には人だかりができていた。

 様々な話声が重なって、喧騒となる。

 私はお兄ちゃんとはぐれないように手を繋ぎながら、その人だかりの一部となってお父さんの帰りを待っていた。


「おい、馬車が見えてきたぞ!」


 しばらくして、誰かがそう叫ぶ声が聞こえてきた。

 その声につられるように、皆がこぞって外の様子を確認しだした。

 私も外の様子を確認しようとぴょんぴょん跳ねてみたが、私の小さな体ではいくら跳ねても外の様子を確認することはできなかった。


「お兄ちゃん、見える?」


 私がそう聞くと、お兄ちゃんは顔をしかめた。


「いや、俺も見えないな。……見たいのか?」

「うん!」


 元気よく答えると、お兄ちゃんはやれやれといった顔で私の腰を掴んだ。


「───それ!」


 お兄ちゃんが勢いよく私を持ち上げると、なんとか周囲の大人たちより高くまで持ち上がった。

 目を凝らして、街の外を見る。すると、確かにこちらに向かってくる点のような集団を確認することができた。


「……どうだ?見えたか?」


 やはりお兄ちゃんも気になっていたのか、私を持ち上げながらそんなことを聞いてきた。


「うん。でも、まだまだ遠いよ」

「まあ、見えるとこまで無事に来れたならもう大丈夫だろ」


 お兄ちゃんは、そう言って私を降ろした。

 というのも、街の外には危険な生物が蔓延っているのだ。なので、私たちは点在する街の中で暮らしている。

 そして、そんな危険な外に頻繁に出歩くわけにもいかず、他の街との交流は一部の選ばれた人が年に数回行き来するだけだった。


 特に今日帰ってくる予定の商隊は、この国の王が住まう王都に行ってきた商隊であり、多くの人がその帰りを待ち望んでいた。

 その商隊には私のお父さんも参加しており、私たち一家にとってはお父さんが王都で何を仕入れてきたかによって直接的に生活に響く一大イベントだった。

 まだまだ子供の私にとってもそれは例外ではなく、私の関心はお父さんが入荷してくる本にあった。


 いつからなのかは覚えていないが、私はよく本を読む。読む本はジャンルを問わず、私は本の内容よりも、その本から読み取れる著者のことを考えるのが好きだった。

 そんな私がお父さんの荷物に思いをはせていると、突然お兄ちゃんから声をかけられた。


「リリ、俺たちの仕事は父さんの荷卸しの手伝いだからな?」

「うん」

「……ほんとにわかってるのか?」

「うん」


 お兄ちゃんは、呆れたようにため息をついた。

 その音で、私はようやくお兄ちゃんから声をかけられていたということの気がついた。


「あれ、お兄ちゃん何か言った?」


 お兄ちゃんは私を見て再びため息をつくと、

「なんでもない」

 と言って首を振ったのだった。




 商隊の中腹にいたお父さんと合流すると、すぐに店に戻って荷卸しが始まった。

 荷物はある程度のカテゴリーごとに分かれており、私はそれほど重くない、装飾品や軽道具を担当することになった。

 しかし私の目当ては書物の方にあったので、お父さんの指示通りに商品を運びながら、お父さんが目を離す隙を窺っていた。


「父さん、ちょっと」


 数十分ほど真面目に働いていると、衣服を整理していたお兄ちゃんがお父さんを呼び出した。


「今行く!……リリ、さぼるんじゃないぞ」

「うん!」


 私の返事を聞いたお父さんは、ため息をついてからお兄ちゃんの方へと歩いて行った。

 私はそれを見届けるや否や、すぐにまだ手の付けられていない荷物の方へと駆けつけていったのだった。


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