募る想いを持て余し始めていた。
3度目のキスの後、はっきりした返事ももらえぬまま、俺たちは逢瀬を続けた。
俺は、オフになれば、いや時間が許す限り、Tに逢いに向かった。
Tの屋敷の近くのいつもの場所に車を止め、Tを待つ。
髪を揺らし、俺の待つ車に急ぐT。
滑るように車に乗り込んだTの華奢な手を握りしめ、逢いたかったと呟く。
お互い、人目を忍ぶ関係だったが、逢えば楽しかった。
ドライブに出かけたり、隠れ家のような店で食事したり…。
別れがたく、何時間も車の中で話し込んだこともあった。
知らない世界をのぞくようなものだったのだろう。
俺の仕事の話に目を輝かせていたっけ。
そして、別れのキス。
ぎこちなかったTのキスも段々と…。
潤んだ瞳。
切ない溜息。
我慢できなくなるのは、時間の問題だった。
このまま、どこかへ行こう。
あなたを浚いたい。
だめよ、無茶を言わないで…。
切ない溜息を零しながらも、必死に理性と戦うT。
好きだ、愛してる。
何度訴えても、最後はするりとかわされてしまう。
あなたは、私が人のものだから欲しがるだけよ。
きっと、手に入れてしまったら、すぐに飽きてしまうわ。
そうだろうか、それは俺にもわからない。
でも、Tの笑顔を思い出すだけで、安らかな眠りにつける。
それが愛でなくてなんだろう。
俺は、嫉妬していると思われたくなくて、あまりTの旦那のことは聞かなかった。
Tもあまり話さない。
だが、ぽつりぽつりと話す内容を綴り合わせれば、Tの夫婦関係がどんなものかはわかる。
親同士が決めた政略結婚。
Tの旦那には、結婚前から女がいる。
Tの元にはほとんど帰ってこない。
あの広い屋敷で、Tは使用人に囲まれ、孤独な日々を送っている。
あなたは、そんな生活の中での、たった一つの彩なの。
無くしたくないの。大事にしたいの。
そう言われると、俺にはどうしようもない。
俺は、Tへの募る想いを持て余し始めていた。