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その7 そうして、俺は女子高生と終わった世界を旅することにした。

「エッチは今は良い。食べろよ」

「ホントに!?だったらアリガト!いただきます」


 何のためらいもなく俺がよこした箸を受け取り、背負っていたOUTDOOR PRODUCTSのバックパックを放り出し、コンロの前にしゃがみ込むと、少々焼け過ぎなバラ肉を摘まみ上げ、熱いだの美味しいだのにぎやかに食べた後、遠慮なしに背ロースを摘まみ、またにぎやかに胃袋に治める。


「ねぇ、これ何のお肉?」

「鹿だ、俺が撃った」

「スゴイ、マジでサバイバルだ。鹿って美味しいね」


 と、またバラ肉に箸を伸ばしにぎやかに平らげる。最初は敵を見る目で、次にエロい目で見てたが、今は餌付けしている子犬か子猫を見ている気分だ。

 人と喋る事がこんなに楽しいとは思わなかった。たとえ相手がリボルバーを突きつける様な娘であったとしてもだ。


「名前は?」

「陰山比無、比べるに有る無しの無し。比類無きっ者に成れって意味らしいよ。オジサンは?」

「児安明、小児の児に安全の安、明暗の明」

「この辺の人?」

「いいや、馬に乗って別の街から来た」

「馬!今いるの?見せて見せて!!」


 賑やかな子だ、納屋からバロンとサクヤを引き出してきて紹介してやる。


「かわいい!名前有るの?」

「黒っぽい方がバロン、牡、茶色い方がサクヤ、牝だ」

「産まれて初めて近くで見た。おっきいけど可愛いね!」


 比無は物おじ一つせず二頭に近づき触ろうとする。バロンは嫌がり首を逸らす「馴れ馴れしい小娘だな」サクヤは近づいて頭を下げ大人しく撫でさせた「初めまして、よろしくね」


 鹿肉に齧り付きつつ二頭を観察している彼女、無邪気だが下手に近寄らない所は勘は鋭い様だ。

 撃ち方も知らないリボルバーを突き付けてくる間抜けさもあるが。


「君一人のようだね、他の人は?家族とか?」


 聞いて『しまった!』と思ったが返答は恐ろしい位あっけらかんとしたもので。


「死んだ。熱が出て、部屋で寝込んで、起きたらみんな死んでた。ま、二人ともあんまし私と上手くいってなかったからさぁ、あんまし悲しくなかったけど。流石にしばらく泣いたけどねぇ」


 と、バーベキューコンロの前に遠慮の一切も無く座り込んで、これまた遠慮なくロースを齧りだした。

 美味そうに咀嚼して飲み込むと。


「ちょっと間家にいたけど、スマホも繋がんないし、テレビも映らないし、二人とも腐って来るし、我慢できなくなって家を出てたら街中みんな死んでて、コンビニとかスーパーで食べる物とか飲み物を持ってきて、公園で暮らしてたけど、蠅とか野良犬とかすごくて、それで、自転車乗って街を出た。あ、あのピストルは途中で見つけたお巡りさんの死体から取って来たんだ。撃ち方知らないけど、脅しには使えるかなぁって」


 久々に会った人間であり、おまけに無害らしいと解ってほっとしたのか、一方的にしゃべりだした。

 男として人畜無害と見られるのは、如何な物かと思うが、ああなってから初めて出会った生きた人間(おまけに美少女)友好的な関係で居るには越したことは無い。


「ねぇ、オジサンは今までどうして来たの?」


 秘密にすることも何も無いので、今日までの事を全部話した。


「スゴイ、お医者さんなんだ!今から先生って呼ぶわ」「可愛い奥さん・・・・・・。残念だね」「お医者さんでハンティングしてて乗馬もして、メッチャセレブ!そんで生き残った。軽くムカつくわ」


 と、ひとしきり感想を頂戴した後で。赤く燃える炭を、その透き通った目で見つめつつ。


「な~んで、生き残ったんだろ?」


 どう答えようかとしばらく考えた。


「なぜ生き残ったか、正直わからない。それこそウイルスに聞いてくれだ。しかし言える事はこれだけ死亡率が高いウイルスでも、生き残った者は居るという事だ、俺たち二人みたいにな。普通、ウイルスは自分たちの仲間を増やすために人にうつり発病させ他の人にうつろうとする。人を殺す事が目的じゃ無い、増える事が目的だ。けどこのウイルスは今解ってるだけだが、俺たちだけしか生かしていない。ウイルスの行動原理とはまったく正反対のことをしてる。なぜか?」

 

 いきなり質問を質問で返されて、キョトンとしていた比無だったが、しばらく考えて。


「強い奴を探してたんじゃないかな?バトル物のマンガのキャラみたいに。自分たちを確実に未来に連れてってくれる。どんなことにも負けない強い奴を」


 やはり、頭は良い様だ。


「鋭い考察だな。学校の成績、良かったろ?」

「ぜ~んぜん。家にお金ないし、勉強嫌いだし、部活ばっかしてた。陸上の中距離走」

 

 なるほど、それであの美脚か?と、エロおやじ思考に陥りそうになる自分を引き留めて。


「その考察から行くと、他にも生き残っている人はきっといる。俺も君と同じ考えにたどり着いた。だから俺は旅に出ようと思ったんだ」


 そう、偉そうに気持ちよく先生ぶっていたら、コンロの上の肉は殆どなくなっていた。比無が全部食ったようだ。・・・・・・なんて恐ろしい子!


「食っていいとは言ったけど、全部食うなよ」

「ごめんなさい」

「まぁ、いいか。寝るんならあっちの母屋で寝ればいい。けど、作りかけの干し肉は食べるなよ」


 そう言ってやると比無はペコっと頭を下げ「おやすみなさい」と母屋に入っていった。


 翌朝。朝飯の支度をしていると、母屋から比無が現れ、寝癖を手でゴシゴシ治しつつ「おはようございます」のあいさつの後。


「一晩考えたんだけど、先生、頼りになるし、優しいし、女の子一人じゃこの先が不安だし・・・・・・、連れてって・・・・・・下さい」


 少し考えて、取り上げていたS&W360jをマウンテンパーカーのポケットから取り出す。


「リボルバーはな、引き金を引くだけで撃てるけど、女の子の君ならまず撃鉄をおこしてから」


 弾が勿体ないのでシリンダーを外してから、撃鉄を興し引き金を引く、冷たい金属音と共に撃鉄が落ちる。

 

「これなら力が無くても撃てる。何度か練習して慣れてきたら連続して撃てる」


 シリンダーを元に戻し、彼女に差し出す。


「返してくれるの?」

「自分の事は自分で守れ、そのリボルバーじゃ狩りには使えないけど、野良犬や猿を脅すぐらいなら十分役に立つ。勿論、悪い人間にもな」

「ありがとう。ございます」


 礼を言う彼女を促して納屋まで連れてゆく。

 扉を開けるとバロンとサクヤが俺たちを見つめていた。


「干し肉が完成して、鹿の毛皮がなめし終えたら、此処を出るつもりだ、それまでに馬にも慣れてもらわなきゃな、しばらくは優しいサクヤで練習すればいい、バロン、サクヤ、新しい仲間ができたぞ」 

 

 バロンは頭を一つ降り嘶いて「足引っ張んなよお、嬢ちゃん」

 サクヤはにゅっと鼻づらを突き出し撫でてもらいそうに「女の子同士仲良くしましょ」

 俺は俺で胸ポケットの妻の写真に囁く「一人じゃほっとけないだろ?な?」


 そうして、俺は女子高生と終わった世界で旅をする事に成った。


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