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その2 だが俺はなぜか生き残った。

目が覚めた。

 

 起き上がろうともがいてみて、節々が痛いのは痛いが何とか起きられる。

 身を起こし、辺りを見渡すと、死体死体死体死体、延々と病院の床を埋め尽くす死体の群れ。

 傍らの妻も、カッと天井を睨む目は白濁が始まっていて、死後硬直も取れて目を閉じてやることができた。

「おい!誰かいないか?!誰か生きて無いか?!」吠えてみてが反応が無い。

 クソ重たい喪失感に半日くらいその場が動けず、ブンブンとうるさい蠅にせかされ、何とか立ち上がり、他の患者(当然もう死んでるが)が寝ていたストレッチャーから「ごめんなさい」と先客を引きずり降ろして代わりに妻を乗せ、駐車場へ向かい自家用車のランドクルーザーにに乗せてやる。

 それから、病院の端から端まで見て回ったが、誰一人生きている者は居なかった。医者も、看護師も、患者も、みんなその場で死んでいた。


 仕方が無いので駐車場に戻り、自宅のあるマンションへ戻る。


 街に人気は無い。人が居たと思っても死んでいる。

 外出禁止を徹底させるために通りに居た警察官も、自衛隊員も、みんな動かない。好き放題にカラスについばまれていた。

 そう言えば信号も点いていない。カーラジオも点けたが聞こえるのは雑音だけ、ワンセグテレビも砂の嵐、ぶっ倒れる前はうるさいぐらいに感染拡大と止まらない死亡者の数をがなり立てていたのに。

 スマホもアンテナは立つが通話は出来ない。田舎の親父やお袋、アメリカに住む兄貴、医大時代の友人、挙句の果てには昔の彼女。みんな出ない。

 マンションに着いたのは良いが、オートロックが開かない。エントランスの椅子を叩きつけ、ドアを壊して入る。

 冷たい妻を背負い、まだ筋肉痛の残る体に鞭打って息を切らして階段を上る。最上階の部屋なんて、買うんじゃ無かった。

 当然、マンションも人気は無い。蠅だけが嬉しそうに飛んでいる。

 部屋に戻ると、取り合えず妻の白衣を脱がせ、浴槽に残っていた水で体を拭いてやり、パジャマを着せてベッドに横たえる。

 そのあと、暫く妻の死に顔を見つめながらぼんやりしていたが、急に涙が出てきて意味不明の言葉を喚き散らし、まるで子供みたいにその場を転げまわる。

 大丈夫、誰もうるさいなんて文句を言いに来ない。躯体が丈夫なのが自慢のマンションだし、そもそも下の階の住人も死んでいるだろう。


 そうやって、夜中まで泣きわめき、それこそ子供みたいに泣き疲れ眠ってしまった。


 翌朝、まだ生きていた。

 昨日からの空腹が耐えきれなくなり、冷蔵庫を開けて食えそうな物を取りあえず引っ張り出し、食事を始める。

 ハム、チーズ、ピクルスにクラッカー。コーヒーが飲みたいとコーヒーメーカに粉を入れ、蛇口をひねるが水が出ない。そうそう、電力が供給されていないから水も出ないよなと思い直し、ミネラルウオーターをコーヒーメーカーに注ぎ、スイッチを入れて気が付いた。

 何やってんだ?俺?

 オール電化のマンションだし、IHヒーターも使えない。よしんば、ガスだったとしてもそいつも来ていないだろう。

 けど、こういう時にアウトドアをやってる奴は得だ。ウォークインクローゼットから、カセットコンロを持ってくると、ヤカンで湯を沸かし、コーヒーを入れる。

 二人分入れて、妻の枕元にも。

 食い物を腹に入れ、コーヒーも飲んで、バルコニーに出て世間を眺める。

 恐ろしいほど静かだ。賑やかなのは死肉をあさるカラスだけ。

 ふと、変なことを考える。子供がいなくてよかったな。妻を失っただけでもこんなに悲しいのに、この上子供まで居たら・・・・・・。

 

 ここから飛び降りたら、良いんじゃないか?


 そっちへ考えが行く。

 下を覗き込むと、一発で死ねそうだ。

 それに、俺は狩猟をしてるからショットガンを持っている。これなら引き金を引くだけで、確実に脳幹を吹き飛ばせばすんなり死ねるはずだ。

 書斎のガンロッカーを開け、カッコよさに惹かれて買ったベネリM3スーパー90を眺める。

 プラスチックと鋼で出来た、死をもたらす精密機械・・・・・・。 

 しばらく考えて、やめた。妻をちゃんと弔わなきゃ。


 次の日、マンションの管理員室に保管してある防災用備品からスコップを拝借し、公園に穴を掘った。

 そこに布団を敷いてやり、妻を寝かせて、その傍らに彼女が「結婚記念日に成ったら開けようよ」と言っていたシャトーマルゴーの2014を置いてやる。当然、半分は俺が飲んだ。

 シーツを掛けて土をかぶせてゆく。すまんな、けど、埋葬されるだけでも今日日は贅沢なんだぜ。

 

 また次の日、生活必需品を手に入れるため外出する。

 一応、ベネリM3を持って出た。ゾンビ化した死人には出くわさないだろうが、ヒャッハーな略奪者が居ないとも限らないし、早々と野良犬化した大型犬が、人の手首を咥えて歩いているのをベランダから見てしまったからには、それくらいの用心は必要だろう、と、考えての事だ。

 近所のスーパーに行って、蠅のたかったレジのおばちゃんにごめんなさいと一応声を掛け。食料や日用品、それにミネラルウオーター、ワインにスコッチも加えてカートに詰め込めるだけ詰め込み、カードも使えそうにないので足りそうな額の金をおいてスーパーを出た。

 意味は無いが、まぁ、けじめだ。

 そう言えば、商品は腐る物以外全部そのままだった。略奪も起きていないと言う事は、この街の人間は死に絶えたと言う事か?ショットガンはやはり大袈裟だったか?


 また息を切らして階段を上って部屋に持ち込む。 

 その日の夜は一人酒盛りをしてすごした。

 このころに成ると、何とか人間らしい思考ができるようになり、これまでの事、これからの事に思いをめぐらす。

 ただ、誰かに喋りたいので、妻の写真を相手にブツブツと独り言。


「なぁ、普通さぁ、ウイルスって感染し広がってなんぼだろ?宿主を皆殺しにするなんて、間抜けな真似するかね?」

「そもそも、どうして俺は生きてるんだろ?抗体ができた?そもそも先天的な耐性があった?いやいや、また劇症化して今度こそオダブツ?」

「俺が生きてるなら、他にも生きてる可能性も有るよな?でも人数が少なきゃ、個体数割れでどのみち人類は滅亡か?」


 いい加減に酔っぱらってきて、ゴロリと床に寝転んで、その日は寝てしまった。

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