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その1 そうやって俺を残して(人間の)世界は終わった。

 最初は、ああ、また来たのか。と、思った程度だった。

 新型インフルエンザ、SARS、MERS、COVID-19・・・・・・。

 俺たち人類は、散々こいつらに苛めあっれて来たから、逆に慣れっこになっていた。

 またまた中国のある地方都市から始まったそれは、先輩の航跡をなぞる様に世界中に拡散、各国で爆発的感染を引き起こし、大量の患者を病院に送り込んできた。


 症状は悪寒、発熱、筋肉痛、咳に呼吸困難、下痢に最悪下血。そして特徴は異常なほどの感染力の強さ。

 コイツのエンペロープは特製で、アルコールや石鹸にも強く少々消毒してもくたばらないタフさをもち、文字通り手当たり次第に感染の網を広げていった。


 俺が内科医を務めていた病院でも、毎日何十人もの患者が押しかけ、対応に追われた。

 小児科医だった妻も、熱に泣き叫ぶ子供と、その子供の様子に狼狽する親をなだめすかし、目の下に隈を拵えながら治療にあたっていた。

 とはいえ、死亡率は低く、対処療法で寛解する患者が殆どで、完治してみんな意気揚々と病院を去っていった。

「なんだ、口ほどにも無いやっだったな」「そうね、広がるだけ広がって、さっさと店じまい」

 妻と俺と病院のロビーで、ベンダーのコーヒーを飲みながらそんな軽口を言い合ったのを覚えている。


 それから暫くて、また病院が人であふれ始めた。いや、正確に言うと死人だ。

 突然の発熱、それから劇的な肺炎と爆発的に進む敗血症。救急車の中ですでに死んでいるか、医者が見る前にロビーで死ぬか。

 患者たちは熱が出た途端、自分の体液で肺を満たして溺れ死ぬか、全臓器が炎症を起こし使い物にならなくなって死んでしまう。

 あまりにも症状が悪化するスピードが速く、全く処置が間に合わない。

 『痰一斗糸瓜の水も間に合はず』ならぬ『肺水一斗人工呼吸器も間に合はず』だ。

 医療現場場は当然パニックになったが、一番恐怖におののいたのは各国の感染症の対策機関だろう。

 患者から取り出したサンプルからは、あの感染力だけ強く、症状はヘタレなウイルスの陽性反応がでたからだ。


 感染段階は軽い症状だけで感染者を増やすだけ増やし、時期を見計らって一斉にかつ爆発的に増殖し宿主の体を叩き壊す。

 おかげで着いたあだ名がTime Bomb Virus、結局、そのままこいつが正式名称に成っちまった訳だが、そうなるころには世界は終わり始めていた。

 時限爆弾は症状の無かったものにも仕掛けらていて、感染症と戦うはずの人間、つまり俺たち医者や看護スタッフ、消防警察自衛隊役人政治家にも平等に差別なく入り込み、あちこちでドッカンとやり始めたわけだ。


 当然、俺も、妻も爆発に曝された。

 朝から熱っぽいなと思いつつ、同じく調子悪げな妻と病院に着いた途端、酒も飲んでないのに酔っ払ったかと思いふらつき始めると、急に息がで苦しくなり、酸素不足でぶっ倒れる。

 俺の傍らで口からピンク色のあぶくを吹いて倒れ、痙攣し続ける妻の、口元を拭ってやろうと這い進むが、徐々に意識が薄れ、そのまま気を失った。

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