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97.お人好しの教官

『白銀の女神』と『戦乙女』の懇親会は大盛況のうちに終わった。

 俺は『戦乙女』の戦力アップをどのようにするか悩んでいた。




 早朝早く起きた俺は合計十二人分の朝飯を作りながら十八階層の事を考えていた。

 この遠征の成功の鍵は最大の敵である骸骨騎士を倒せるかどうかだ。

 倒せなければ探索どころの話ではなくなるので、早急に見極めることが重要だった。


『樹洞』付近の探索は前回に調査済みなので、少々探索の足を伸ばさなければならない。

 しかし『戦乙女』達の戦力を底上げしなければ探索の負担になることも事実だった。


「おはようございやす、旦那今日は樹海は快晴でさぁ、足元の雪が反射して眩しいくらいでやんす」


「おはようワンさん、ちょうどよかった少し相談したいことがあるんだ」


 俺は寸胴鍋に入った塩スープをかき混ぜながらワンさんに話しかけた。


「なんでやんすか? なんでもいってくだせぇ」


 ワンさんは尻尾をゆらゆら左右に揺らしながら俺に近寄ってくる。

 かまどのそばに椅子を置きドッカリと座って俺を見上げてきた。


「相談っていうのは『戦乙女』たちのことだよ、樹海の探索をするには少々実力が足りない気がするんだ」


「そうでやんすね、あっしらがいなかったらすぐに全滅するくらいの戦力でやんすよ」


「やっぱりワンさんもそう思うか……、彼女たちを鍛え上げようと思うんだけどいいかな?」


 俺は遠慮がちにワンさんに聞いた。


「旦那……、遺跡でも言いやしたが旦那のやりたいようにやってくだせぇ。あっしは旦那のサポートを全力でしやす、何も心配いりやせんよ」


 ワンさんが頼もしいことを言ってくれる、思い切って頭の中で考えていたことを話してみた。


「俺何故か彼女たちを放っておけないんだ、彼女たちにスキルを教えようと思うよ、じゃないと死人がでてしまうような気がするんだよ」


「わかりやした、旦那の考えをみんなに伝えやす。しかし『戦乙女』たちに口止めだけはしといてくだせぇ、かんたんにスキルの秘密を世間に広めてはいけやせんからね」


「わかったよミカサとよく相談するよ」




 テーブルに王都で買って保存していた名物店の美味しい料理を並べていく、ワンさんと手分けをしてみんなを起こし食卓を囲んだ。

 熱々の塩スープをみんなの皿に盛って朝食を食べる。

 戦乙女達は豪華な朝食に度肝を抜かれ、すっかり眠気が飛んでしまったようだった。


「レイン……、あんた達いつも朝からこんな豪勢な食事を食べているの?」


 昨日出した夜食もそうだが俺はミカサ達に精一杯のご馳走を用意していた。

 毎回驚きながら食べていたミカサは今朝も豪華な食事に喉が通らないでいた。


「まあ無限収納ならいくらでも持ち込みできるからな、今日だって特別用意した料理ではないぞ遠慮しないで食べてくれ。それと食事が終わったら少し時間をくれないか? 話があるんだ」


「わかったわ、急いで食べるわね」


「別に急がなくていいぞ、探索は始まったばかりだからな。それに競争して十九階層を見つけるわけじゃないからゆっくり探索していくつもりだ」


「ありがとう……、レインは優しいわね……」


 顔を赤らめながら俺を見つめてくるミカサは、完全に男嫌いの刺々しさをなくしていた。




「それで話って何?」


 食事を終えて『樹洞』の入口に移動した俺とミカサは、樹海に広がる銀世界を眺めながら話をしていた。


「これからの探索についてミカサの意見を聞いておきたかったんだ、別に急いでいないのはミカサも同じなんだろ?」


「ええそうね、あたし達は参加する事が目的だったから戦果は特に望んでいないわ」


「そうかよかった……、それで提案があるんだが聞いてくれないか?」


「何かしら? 出来る限りのことには協力するわよ」


 少し構えて話を聞いてくる。


「少し言いにくいんだが、『戦乙女』の戦力では十八階層の探索は厳しいように思うんだ。そこでもしよかったらミカサ達の戦力アップを俺達が指導しようと思うのだが迷惑だろうか?」


 彼女のプライドを傷つけてしまいそうで恐る恐る聞いてみた。

 ミカサは俺の話を静かに聞いていたが、途中から目を見開いて驚いていた。


「迷惑も何も……、その話が本当なら凄く嬉しいわ、私達も実力が足りないのは自覚していたのよ、だから今回の探索には全滅覚悟で臨んだのよ」


 俺の申し出がよほど嬉しいようで、今にも泣き出しそうだ。


「じゃあ決まりだな、今日からこの『樹洞』をベースキャンプにして君たちの訓練をすることにするよ。少し特殊な方法を取るので秘密にして欲しい、いいか?」


「何をするかわからないけど絶対に秘密は守るわ、仲間達にもきっちり言い聞かせる。イシリス様に誓ってもいいわよ」


「よし、俺の仲間達にも手伝ってもらうつもりだからそのつもりでいてくれ、結構厳しい修行になるのでそのへんも覚悟して欲しい」


「強くなれるのなら何だって我慢するわ、よろしくおねがいします」


 ミカサは深々と頭を下げてきた、素直な彼女はとても可愛らしくてとても好感が持てた。




 全体会議を急遽開く、俺の方針がみんなに伝わり仲間達の了承が得られた。

 セルフィアあたりが反対してくるかと思ったが、意外に乗り気でビックリしてしまった。

 話を聞くと昔から誰かに魔法を教えるのが夢だったらしく、年下の魔法使いエリザベスに色々教えるのが楽しみだと言ってきた。

 アニーもマリアさんに法術を教えるのが嬉しいらしく二人して色々話している。

 僧侶職の二人は昨日のうちに打ち解けて大の仲良しになっていた。




「よし、俺がミカサとコーネリアス、フローラ、ジゼルの直接戦闘組を鍛える。セルフィアはエリザベスをアニーはマリアさんをそれぞれ個別指導しろ」


 セルフィアとアニーから了承の言葉が聞こえてきた。


「ワンさんモーギュスト、悪いけど樹洞の周辺の安全確保をしてくれ、弱そうな敵がいたら半殺しにしてここまで連れてきてくれると助かる。『戦乙女』達にとどめを刺させてレベルを上げさせようと思うんだ」


「それはいいアイデアでやんす、張り切って魔物を連れてきやす」


「僕も頑張るよ、身動き取れないくらいに痛めつけて持ってくるから期待していてね」


「では各自散会して修行にかかれ、期間は特に設けないがあまりゆっくりはしていられないことを頭に入れておけ」



 俺の号令で仲間達がバラバラに離れていく、俺のもとにはミカサを始めとしたアタッカー職の女性陣が留まった。


「よし、まずはどうやって戦力アップを図るか講義するぞ、適当な椅子を持ってきて座って話そう」


 やや緊張気味のミカサ達を座らせてスキル獲得の秘密を語っていく。

 スキルの取得方法や鍛錬法などを丁寧に説明していった。

 俺の話をおとなしく聞いていた彼女たちは、だんだん顔色が青くなってきて厳しい顔になってきた。


「レイン、今の話が本当ならとてつもないことよ、王国に見つかったら大変な目に合ってしまうわ」


 ミカサがみんなの代表をして俺に話してくる。

 俺は平気な顔をしてミカサ達に話していった。


「もちろんその事はわかっているよ、だから秘密を守ってもらうと約束したんだよ。このことを知っているのは『白銀の女神』と『戦乙女』だけだ。他にも二人ほど知っている人がいるが、どちらも口は堅いから秘密が漏れることはない。黙っていればいいんだ簡単なことだろ?」


 俺の言葉を聞いてミカサ達が顔をひきつらせて黙ってしまう、最終的には絶対外部に漏らさないと誓って修行を開始した。





 魔力を体の中に循環させているミカサ達を眺めながら修行のスケジュールを考える俺は、異世界に来る前の部下たちに仕事を教えていた頃を思い出して、妙な懐かしさを感じていた。

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