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95.探索開始

戦乙女バルキリー』の十八階層未探索が発覚して急遽きゅうきょ探索予定を変更した『白銀の女神』は、彼女たちを守りながらの慎重な探索を余儀なくされた。




「ミカサ、これをみんなに配ってくれ王都で買った『魔導雨具』だ、これを付ければ暴風雨も気にならなくなるよ」 


 俺は王都で大量に買った『魔導雨具』を人数分ミカサの手に握らせた、俺のお人好しぶりにミカサがニッコリ笑って丁寧にお礼を言ってきた。

 男嫌いなはずのミカサはなぜか俺に警戒心を抱かなくなって、逆に好意をもつようになった。

 そしてなぜか長身のナイト、コーネリアスも俺のそばを離れようとはしなかった。



「モーギュスト、『戦乙女』の女性陣全てが旦那を好きになるのも時間の問題でやんすよ」


「レインさんは自覚がなく惚れられる天才だからね……、すでに『戦乙女』のリーダーとナイトはレインさんの虜だよ」


 俺のことを二人が遠巻きに見ながら噂をしている。

 その横ではアニーとセルフィアが悔しそうな顔で俺を睨んでいた。

 軽い打ち合わせを全員で行って探索を開始する。


「レイン! もういいでしょ! 早く出発するわよ!」


 セルフィアが強引に俺の腕を取り扉の前に連れて行こうとする。

 気がつけばいつも通りにセルフィアとアニーに左右を固められ連行されてしまった。

 その様子を『戦乙女』達は面白そうに見ていたが、ミカサとコーネリアスは複雑な表情をしていた。




「ワンさん、扉を開けてくれ。それからさっきの打ち合わせ通りに密集隊形になって移動をするぞ。ワンさんは斥候として先行しろ、モーギュストは正面に陣取って敵の不意打ちに備えろ。俺はみんなの周りを警戒しながら進む、他の者ははぐれないように注意するんだ」


「わかりやした!」


「オッケー!」


 元気な返事と共に扉がゆっくりと開いていく、途端に外から稲光が室内に入ってきて次の瞬間に轟音が響き渡った。

 案の定外は暴風吹き荒れる嵐で、みんな表情を固くしている。

 特にあまり慣れていない『戦乙女』達は、より一層体を寄せ合い小さくまとまった。


「前進!」


 嵐に負けない大声で号令をかける、一塊になった俺達はゆっくりと遺跡の外の広場へと足を進めていった。



 広場に出ると神経を研ぎ澄まして辺りをうかがう、特に魔物の気配はせずバケツを引っくり返したような雨だけが絶えず俺に降り注いだ。

 俺達を雨が容赦なく濡らしていく、しかし『魔導雨具』を付けているので全ての雨は体の表面を滑り落ちて一切濡れることはなかった。

 雷鳴だけを我慢すれば快適な探索になることが容易に予想でき、とりあえず安堵あんどした。


「わ~! 体が濡れないよ! お姉ちゃん見て!」


 双子の妹ジゼルが両手をいっぱいに広げて満面の笑顔を見せる。


「ほんとね! 初めて来た時とは偉い違いだわ!」


 姉のフローラも嬉しそうにうなずき二人手を取り踊りだした。


「二人ともはしゃぎすぎよ! ここはすでに魔物たちのテリトリーなのだからしっかりしなさい!」


 ミカサに怒られた二人ははしゃぐのをやめておとなしく辺りを警戒し始めた。


(チームの統制は取れているようだな、これならなんとかなりそうだ)


 ゆっくりとした足取りで遺跡の先にある『樹洞』を目指し行軍する。

 ビリーさん達が使っていない限り今日のキャンプはそこで行うことに決めていた。




 しばらく移動していくとワンさんが俺の横に姿をいきなり現した。


「うわっ! びっくりした、いきなり現れるのは心臓に悪いな」


「すいやせん、ついやってしまいやした、次からは気を付けやす。それより前方の『樹洞』には先客はいやせんよ、魔物の方も餓狼がろうゾンビやアンデッド巨大熊しか見当たりやせん、もちろんすでに始末しやした」


「そうか、ご苦労さま。骸骨騎士はいないか……、ワンさん骸骨騎士と一人で戦っては駄目だよ、これはリーダー命令だからな」


 ほおっておけば一人で危険に立ち向かっていきかねないので少し強めに釘を差しておいた。


「わかってやす、そこまで無茶はしやせん」


 真剣な表情で返事した後、その場からゆっくりと消えていった。

 その様子を見ていた『戦乙女』達は驚きの表情をして顔をひきつらせていた。


 程なくして大きな樹木が見えてきて今日のキャンプ予定地の『樹洞』が目の前に現れた。

 ワンさんが垂らしたロープを伝って次々に仲間達が上へ上がっていく、『戦乙女』たちもロープを掴み危なげない足取りで登っていった。


(なるほど『身体強化』はみんな取得しているのか、伊達にトップパーティーを名乗っているだけはある少し安心したな)


 基本の『身体強化』スキルでさえ取得できていなかったら、彼女達には街に戻ってもらうように言うつもりだった。

 しかしそれは杞憂きゆうに終わり、これからの探索に希望が見えてきた。



『退魔の香』を焚いて安全を確保すると、仲間達に向き直った俺はいつものように指示を飛ばした。


「よし、今日は早いがここでキャンプをするぞワンさんテントを張ってくれ、今日は人数が多いからテントも倍の数設置してくれ。それから食事の用意だ、懇親会こんしんかいを兼ねて豪華にするぞ」


「わかりやした」


「バーベキューね、わかったわ」


「リサもお手伝いするわ」


 テキパキとキャンプの用意をし始めた俺達をミカサ達が居場所なさげに見ている。

 我慢できなくなってミカサが俺に話しかけてきた。


「レイン、あたしたちの荷物も出してくれないかしら。食料やメンテナンスの道具があるのよ」


「ん? そうか飯は俺達が提供するから心配しなくていいよ、メンテナンスの道具は今出すよ」


「でも食料は貴重よ、あなた達の食べる分をあたし達がもらうわけにはいかないわ」


 女神様からもらった巾着袋の凄さを、いまいちまだわかっていないミカサは、しきりに食料消費のことを気にしていた。


「大丈夫だよ、食材はみんな腹いっぱい食べても数年は持つくらい入っているからね」


 巾着袋を軽く叩きならがミカサに言うが、それでもピンとこないのか困った顔をしている。

 そこでテーブルを出すとその上に大量の肉や野菜を山のように出していった。

 それを見ていた『戦乙女』達から悲鳴に似た歓声が上がった。


「お姉ちゃん! お肉が山のように出てきたよ! 不思議な袋だね!」


「山のようにじゃなくて本当に山ね……、どうなっているのかしら?」


 次々と大きな肉の塊を出し続ける巾着袋が珍しいらしく、双子の姉妹が俺にまとわりついてきた。

 隙あらば巾着袋を触ろうとするジゼルを、姉のフローラが俺に気を使ってたしなめている。

 仲の良い姉妹を見て俺も楽しくなってどんどん肉を出していく。


「レイン! もうわかったからそれ以上は出さなくてもいいわ! テーブルから肉が落ちそうよ!」


 あふれかえる食材を慌てて抑えながらミカサが俺を制止してきた。


「わかってもらえたか、共闘している間は俺が料理を担当するから期待していてくれ」


 少々やりすぎだったかもしれないが一応食糧問題は納得してもらえたようだ。

 味気ない携帯食なんて食べていたら探索に支障が出でしまいかねないので、これで良かったと一人で満足した。





 みんな大好きバーベキューを『戦乙女』にも食べてもらおう、きっと気に入ってもらえるに違いない。

 俺はウキウキとした気持ちで調理に取り掛かるのだった。

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