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94.見捨てるつもりはない!

『白銀の女神』と『戦乙女』の顔合わせは順調に終わった。

 俺は彼女たちに俺の秘密の一端を語り始めた。




「これから一緒に戦っていくにあたって『白銀の女神』の強さの秘密を少し話すよ」


 俺が話し始めるとミカサが信じられないという顔をして何かを言いかけた。

 俺はそれを手で制して話の続きをし始めた。


「言いたいことはわかるよ、パーティーの秘密をおいそれと他人に言うのは愚策なのはわかっている。しかし一緒に戦う以上ミカサ達には知っておいて欲しいんだよ」


 ミカサはまだ納得してはいないが反論することや止めたようだ。


「俺達が急成長した一番の原因は物資の大量輸送手段があったことなんだ。実は俺は無限収納のアイテムを持っているんだ、だから無制限に探索できるんだよ」


 俺の告白に『戦乙女』のメンバーたちは信じられないという顔をして俺を凝視してきた。


「この巾着袋にミカサたちの荷物を入れてしまえば探索が楽になる、了承してくれないか?」


「了承も何もそれが本当なら凄く助かるわ、探索者にとって遠征用の荷物ほど頭を悩ませることはないもの」


 ミカサは困惑気味に俺の申し出を受けてくれた。

 食糧や飲料水は探索における生命線だ、その大事な物資を俺に預けてくれるか心配だった。

 しかし、ミカサは俺を信用して全てを任せてくれるようだ、それはとてもありがたいことだった。


 他のメンバーたちも俺の話を半信半疑で聞いていたが、リーダーであるミカサの判断に従ったようだった。

 俺は彼女たちから荷物を受け取ると次々に巾着袋へ入れていった。

 その様子を見ていたミカサ達は信じられない光景に言葉を失ってしまいその場に固まってしまった。


 すっかり身軽になった彼女たちは、遠征での初めての感覚に戸惑いながらも嬉しそうにしている。

 それを見ていたセルフィアたちも、昔の自分たちを思い出してなんとも複雑な表情をしていた。


「レイン殿! 秘密を私達に打ち明けてくれたばかりでなく、無限収納の恩恵まで享受きょうじゅさせてくれるとはなんとお礼を言っていいかわかりません! このような解放感を味わうのは探索者人生で初めてです!」


 長身の麗人コーネリアス・ヴァレンティノが感極まって俺の手を握りながら目をうるうるしている。

 人一倍荷物を背負っていた彼女からしてみれば、手ぶらで探索をする感覚は相当なインパクトがあったようで、初対面の俺にグイグイと近寄ってきた。


「そ、そうか……、それは良かったなコーネリアスさんの役に立って俺も嬉しいよ」


「コーネリアスさんなんて言い方もったいないです! コーネリアスと呼び捨てしてください!」


 更に近寄り俺の手を強く握ってくるコーネリアスさんは『身体強化』のスキル持ちらしく相当な握力だった。


(『戦乙女』のメンバーたちは男嫌いだったんじゃないのか? なんか聞いていた話とぜんぜん違うぞ)



 その後も次々と『戦乙女』のメンバーたちからお礼を言われて照れてしまった。

 俺の人生でこれほど多くの美女や美少女からチヤホヤされたことはなかったのでとてもいい気分になった。

 お礼を言われている間もアニーとセルフィアとリサが俺にピッタリとくっつき、その周りを『戦乙女』の面々が取り囲むというまさにハーレム状態になってしまってとても幸せだった。




「そろそろ遺跡の外に出ようか、外は暴風雨で地獄だみんな装備の確認をキッチリしてくれ」


 全員から一斉に返事が返ってくる、十人を超える人数からの返事は迫力があって少しびっくりした。




「旦那今から扉を開きやすよ、いいでやんすか?」


「ちょっとまってくれ、ミカサ達は暴風雨対策はしていないのか?」


『白銀の女神』の面々がマントを羽織り『魔導雨具』や『火神の障壁』などで暴風雨や寒気対策に万全なのに対して、『戦乙女』達は特に何も対策らしいことをしていなかった。


「え? 対策って何もしてないわよ、探索は我慢するのが当たり前じゃないかしら?」


 ミカサは俺が何を言っているのかわからないという顔をしている。

『ミドルグ探索結社』の会合で見せていた刺々しさは一切見受けられなかった。


「旦那、それはまずいでやんすよ。これから探索する十八階層は極寒地獄でさぁ、対策なしでは生き残ることは出来やせん」


 ワンさんの言葉に『戦乙女』達は顔をひきつらせて固まっている。


「ミカサ、ちょっとこっちに来てくれないか? 他のものはその場で待機していてくれ」


 俺はミカサを連れて遺跡の奥へ戻っていった。




「単刀直入に聞くが、ミカサ達は十八階層を探索したことがあるのか?」


 嫌な予感がして俺はミカサを問いただす。

 少しの間黙っていたミカサは意を決したようで重い口を開けてきた。


「実は一回だけしかないわ、その探索も過酷かこくすぎてすぐ撤退したのよ……」


「まじか……、それじゃ今回はどうして参加したんだ?」


「だってビリーのやつが参加しなければ情報を教えてくれないって言ってたでしょ……、今回参加しなかったらトップチームから確実に転落してしまうわ……」


 ミカサが苦悶の表情で事情を暴露してきた。


(彼女たちの戦力が妙に劣るのはそのためだったのか……、少し予定を変更しなければならないな)


「悪かったわ、おとなしく街に戻って今回の遠征から身を引くことにするわ」


 肩を落としながら元気のない声で言ってくる。


「少し考えさせてくれないか、これもなにかの縁だからミカサ達が不利にならないように考えてみるよ」


 俺の申し出に信じられないという顔をしたミカサは、肩の力を抜き一層しおらしくなった。


「ありがとう……、そう言ってもらえるだけでありがたいわ」




 俺はミカサと一旦離れてワンさんと合流した。

 ワンさんにミカサと話した内容をを伝えて意見を聞く。


「旦那は優しすぎやす、普通なら見放してしまうのが当たり前でやんすよ。でもそこが旦那のいいところでやんす、あっしたちも旦那に拾われてここまで来られたんでさぁ。旦那の思うように行動してもあっし達は文句は言いやせんよ」


 落ちこぼれだった俺達は肩を寄せ合いここまで来た。

 ワンさんもその事をよくわかっているので俺に反対することはなかった。


「ありがとうワンさん、一度俺とミカサで街に戻って十八階層の装備を買い揃えてくるよ。そこからゆっくりと探索して行こうと思う」


「わかりやした、あっしからみんなにはきっちり言っときやす。何も心配はいりやせんよ」


 短い打ち合わせを終えてミカサと再合流する。

 今後の方針を伝えるとびっくりした顔をして、嬉しそうにお礼を言ってきた。


「ありがとうレイン、これでみんなに顔向けが出来るわ」


 ミカサの目はうっすらと涙を浮かべていて、リーダーの苦悩が痛いほどわかった。

 さっそくみんなに方針を伝える、仲間達には遺跡にとどまってもらいミカサと二人で街へ戻った。



 街に戻った俺とミカサは、まず錬金術師の店へ行って『火神の障壁』を買った。

 ミカサは大金の持ち合わせがないということなので、俺が全額立て替えることにする。

 これにミカサはドン引きしてお金を借りる立場を忘れて俺に説教をしてきた。

 しかし現状それしか選択肢がないと俺が言うと、凄く恐縮してお礼を言ってきた。

 

 最初に入った店にちょうど人数分、六個の『火神の障壁』が在庫であったので、うまい具合に一店舗だけで調達できた。

 その足で道具屋へ行き、アクセサリーに加工してもらう。

 ギルドの横の道具屋の女将さんは、お得意様の俺の要望をすぐ聞いてくれて急いでネックレスに加工してくれた。

 加工している間に市場へでかけ『戦乙女』用のマントを人数分ミカサに選ばせた。



 最低限の装備を確保した俺達は急いで迷宮に戻っていった。

 その道すがらミサキが俺を見ながら質問してきた。


「レイン、どうしてここまで良くしてくれるの? 失礼かもしれないけれど気味が悪いわ」


 遠慮がちに聞いてくるミカサは、すっかり棘が無くなってただの美女探索者になっていた。


「そうだな……、うまく言えないが今の俺は女神様に生かされている立場なんだ、だから損得勘定では生きていないんだよ。困っている人がいれば無条件で助ける、だからミカサたちにしていることは俺の気持ちだと思って素直に受けてほしいんだよ」


 俺の話を真剣に聞いていたミカサは、話を聞き終えると顔を真赤にして横を向いてしまった。





 俺はミカサの様子を横目で見ながら仲間が待っている迷宮を目指し、大通りを急ぎ足で移動していった。

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