93.顔合わせ
ミドルグトップパーティーの一角『戦乙女』と共闘することになった。
俺は迷宮の階段を降りながら今後の探索のことをいろいろ考えていた。
迷宮一階層へ降り石碑で謎の遺跡へ飛ぶ。
『戦乙女』は遠征用の大きな袋をいくつも背中に背負って動きづらそうに歩みを進めていた。
十二人が遺跡内に入り、狭い空間はまたたく間にいっぱいになってしまった。
「ミカサ、これからの探索のことだがリーダーを決めなければならない、君の意見を聞かせてくれないか?」
リーダーが二人いると決定するのがいちいち遅くなる、それは探索では致命的な事なので早急に決めなければならないことだった。
「そうね、私はあなたがリーダーをやってほしいと思っているわ。私もトップパーティーのシーフ職をやっているからわかるけれど、あなたは達は尋常じゃないほど強いわ、生き残るためには強者に従うのが賢い選択だと思うの」
ミカサは意外とあっさりリーダー権限を俺に渡してきた、それだけ十八階層の探索が過酷で危険を伴うことを自覚している証拠だった。
「そうか、それじゃ俺が合同チームのリーダーをやらせてもらう、でも嫌なことがあったら遠慮なく言ってくれ、強権でパーティーを束ねるつもりはないからな」
俺がパーティー運営の方針を言うと『戦乙女』の面々から安堵の声が上がった。
いきなり知らない男性がリーダーになるなど彼女たちからしてみれば悪夢のようなことなのだろう。
そのことを踏まえて慎重にパーティーの舵取りをしようと心に誓った。
「きちんとした自己紹介がまだだったな、俺はレイン・アメツチだ『白銀の女神』のリーダーをやらせてもらっている。よろしくおねがいする」
「あっしはワンコイン・ザ・シーフでやんす。シーフ職でレイン準男爵様の家臣でさぁ、よろしくでやんす」
「僕はモーギュスト・ミニタウロスだよ、盾職でレインさんのボディーガードさ」
「あ、あたしはセルフィア・タルソースよ……。魔法使いです、よろしくおねがいします……」
人見知りのセルフィアが目を泳がせながら挨拶をした。
「アニー・クリスマスです。女神教の信徒です、よろしくおねがいします」
アニーは相手が女性ばかりなので余裕を持って自己紹介をする、『戦乙女』面々も全員が女神教徒らしく余計なトラブルは起きなかった。
「リサ・フレッシュウインドよ、精霊使いで弓職よ、よろしくです」
恥ずかしそうに俺の後ろから顔を出しリサが自己紹介をする、リサの可愛さにその場の雰囲気が一気に和んだ。
「それからこのドラゴンはドラムだ、人の言葉を話す事ができる。温厚なのでよろしくお願いする」
「よろしく……」
俺に促されてドラムが一言言葉を発した、ドラムは『戦乙女』にさして興味がないらしくすぐに黙ってしまう、ミカサたちもドラゴンを見るのは初めてらしく遠慮しておとなしくなってしまった。
「今度はあたしたちの番ね、ミカサ・ミルキーウェイよ『戦乙女』でリーダーをやっているシーフ職よ。よろしくね」
ミカサがそつなく自己紹介を終えた、いつもの刺々しい態度は鳴りを潜めていて、案外こちらが本来の彼女の性格なのかもしれなかった。
そしていよいよ美女だらけの『戦乙女』の自己紹介が始まった。
「私はコーネリアス・ヴァレンティノだ、アタッカー職でナイトをやっている。以後よろしく頼む」
最初に挨拶してきたのは長身の戦士で、輝く金髪を三編みにして後ろに垂らしていた。
目の色は透き通った青、肌の色も白く透き通っていてとびきりの美女だった。
装備は全身鎧に身を包み防御力重視なのは明らかだ、背中にはロングソードを背負っていて盾は持っていなかった。
話し方からも分かる通り、男ぽい性格のようだ。
しかしスタイル抜群なのは鎧の上からでもよくわかり、その美貌と相まって探索者たちがちょっかいを出すのももうなずけた。
「フローラ・ベルルッティです、同じくアタッカー職をやってます。俗に言う魔法戦士です、よろしくおねがいします」
明るく自己紹介してきた少女は小柄で健康的な美少女だった。
髪の毛は暗めの金髪で肩まで伸ばしたストレート、軽めの防具で身を固めていているので機動力重視の戦士だろう。
彼女自身が魔法戦士と言っていることから、魔法を駆使して戦うタイプのアタッカー職だと思われた。
容姿に関してはまだあどけなさが残っているが、後数年すれば誰もが振り返る美女になるのは、整った容姿から容易に想像できた。
「ジゼル・ベルルッティです! フローラお姉ちゃんとは双子です! 魔法戦士です! よろしくおねがいします!」
一際大きな声で自己紹介してきたのは、明るい金髪の少女だった。
自己紹介によればフローラ・ベルルッティの妹のようだ。
フローラと同じ顔をしている彼女は装備もよく似通っていた。
歳はリサより二、三歳上だろうか、長い金髪をポニーテールにしてとても活発そうに見えた。
予想通り彼女たちは双子だった、職種も同じで髪型が違わなければ外見で判断は難しいだろう。
「わ、私はエリザベス・スプリングスです……、魔法使いをやっています……、よろしくおねがいします」
恥ずかしそうに自己紹介してきたのは、おかっぱで藍色の髪の毛をした小柄な少女だった。
歳は俺より一つ二つ下だろう、セルフィアと同じような藍色のローブに身を包みやはり同じような杖を持っていた。
典型的な魔法使いの彼女は自信が無さそうにうつむいているが、俺の見立てでは『戦乙女』の中で一番火力があるように思えた。
「最後は私ですね、皆様はじめましてマリア・ビスコンティーと申します。私も女神教の信徒です、よろしくおねがいしますね」
真っ白なローブに身を包んだ優しそうな女性が丁寧な挨拶をしてきた。
女神教の信徒と名乗る彼女は、つややかなストレートの黒髪を腰まで伸ばしていて、白のローブと対照的でとても魅力的だった。
色白で日本的な美人、俺はひと目で気に入ってしまい彼女のことを隅々まで眺めてしまった。
スタイルはアニーといい勝負のナイスバディーで、白いローブの胸元を大きく押し上げている。
腰をベルトで締めていてスタイルの良さがはっきりと分かった。
生唾を飲んだのを横のアニーに聞かれてしまい、思いっきり横腹をつねられる。
手加減なしの攻撃に絶叫してしまいそうになるが、『戦乙女』達がいる前でみっともない真似はできないので必死に我慢をした。
「アニーさん……、俺が悪かったから許してください……」
妙な脂汗をかきながら小声でアニーに謝る。
「レイン様はスケベです、私というものが居るのに煩悩の塊ですね」
アニーは脇腹をつねりながらグイグイと体を押し付けてくる、痛いやら気持ちいいやらで頭の中がぐるぐると回り始めた。
「アニーの姉さん、そのへんで勘弁してくだせぇ、みんな旦那の話を待っていやす」
ワンさんが俺に助け舟を出してくれた。
まだ不満げなアニーは脇腹をつねるのを止めたが、俺にピッタリと張り付き離れることはしなかった。
「えー、ともかく自己紹介は終わったようだな。みんな仲良くしてくれ、そしてこれからの方針を俺の方から発表したいと思う」
横にアニーが張り付き後ろにリサが隠れているというなんとも締まりがない格好で、とても恥ずかしくなってしまう。
居心地の悪さを我慢してこれからの探索のことを話し始めた。
「まず『戦乙女』の荷物のことだが、この際俺が預かろう思うがいいだろうか?」
俺の唐突な申し出に『戦乙女』達が頭の上にはてなを浮かべたような顔をしている。
ワンさん達は俺の秘密の一端が外部に漏れるのを心配して顔を見合わせていた。
「ワンさん、彼女たちに大荷物を背負って戦闘をさせるわけにはいかないよ。収納の秘密ぐらいなら言ってもいいと思うんだ」
「旦那がそうおっしゃるならあっしは反対しやせん、旦那の好きなようにやってくだせぇ」
ワンさんから了承を得た、俺は混乱しているミカサたちに『白銀の女神』の秘密の一端を語り始めた。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
登場人物紹介・『戦乙女』所属者
【ミカサ・ミルキーウェイ】…… 『戦乙女』のリーダー、魔法系シーフ職、『ミドルグ探索結社』所属。
【コーネリアス・ヴァレンティノ】…… アタッカー職。ナイト、長身の麗人。
【フローラ・ベルルッティ】…… アタッカー職。魔法戦士、双子の姉。
【ジゼル・ベルルッティ】…… アタッカー職。魔法戦士、双子の妹。
【エリザベス・スプリングス】…… 魔法使い。引っ込み思案だが天才肌。
【マリア・ビスコンティー】…… 僧侶職。女神教の信徒、温厚で優しい。