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92.共闘

『ミドルグ迷宮』の広場に続々とトップパーティーが集結していた。

広場は喧騒に包まれていた。




「レイン! よく来たな! こっちに来いよ!」


 ビリーさんが俺を見つけて手招きしている。

 ワンさんたちにこの場に留まるように言ってから、広場の中心にある迷宮の入口付近に歩いて行った。


「よく来たなレイン、今日からよろしく頼むぜ」


「こちらこそよろしく、お互い有意義な探索になることを期待してますよ」


「おうよ! こいつらが俺達『あかつき金星みょうじょう』の主要メンバー達だぜ、後で詳しく顔合わせをするがとりあえず紹介しとくぜ」


 ビリーさんが屈強な男達を見ながら俺に説明してくる。

 紹介された男達は鋭い視線で俺を観察しながら軽く挨拶をしてきた。


「レイン・アメツチですよろしくおねがいします。今日から頑張りましょう」


 俺はニコリとしながら男達に挨拶をしていった。

 男達に続き二人の老人たちにも丁寧に挨拶する。


「中々礼儀正しい若者じゃな、わしはオズワルド・ハルモジークじゃよろしくの」


「こちらこそよろしくおねがいします賢者セージ様」


「私も名乗らせていただきますよ、マルコ・ガブリエッリです。よろしくおねがいします」


僧正ビショップ様ですね、お会いできて光栄です。よろしくおねがいします」


 二人の老人に深々と頭を下げ敬意を示した。

 老人たちは少し意外そうな顔をした後、顔をほころばせながら俺に笑顔で応えた。


「これほど礼儀正しい青年は中々いないわい、ワシはお主を気に入ったぞ」


「そうですね、それに私達の職種を知っているのも評価が高いです」


 オズワルドさんとマルコさんがしきりに俺を褒めちぎった。


「レインは礼儀正しいんだな、でも爺さんたちに遠慮する必要はないぜ、普段は口うるさいだけだからな」


 ビリーさんが冗談気味に言ってくる。


「ビリーや、この若者をもう少し見習って年寄りを敬うのじゃ」


「いつまでも子供のような言動をしていてはリーダーとして認めてもらえませんよ」


 老人たちは一斉にビリーさんに説教をし始める。

 それを聞いていた三人の戦士たちは声を上げて大笑いしていた。




 俺達が雑談で盛り上がっていると長身の黒装束の男が静かに近付いてきた。

 俺は男の歩き方からある人物のことを思い出していた。


「レイン殿、この前はお見苦しいところを見せてしまい申し訳ありませんでした」


 俺の予想通り『影法師』のリーダー、シルバー・ハンティングマンが薄笑いを浮かべながら挨拶をしてきた。

 彼は俺に声をかける直前に覆面の顔の部分を取り外し自分の顔を晒してきた。


「シルバーさん今日からよろしく、お互い有意義な探索にしましょう」


「ええ、もちろんですよ、とても楽しみですね。後で私の仲間達も紹介させてください」


(何を考えているかわからないが上辺だけは丁寧で洗練された受け答えは流石さすがは騎士爵だな)




 シルバーや『暁の金星』のメンバーたちと当たり障りのない話をしていると、横から話を遮りミカサが割り込んできた。


「ビリー来たわよ、あたし達『戦乙女バルキリー』も参加することにしたわ」


 不機嫌そうな顔で腕を胸の前で組んだミカサは、挨拶もせず一方的に宣言をする。

 シルバーが呆れた顔をしてミカサを見た。

 俺もつられてミカサを見ると彼女一人だけが俺達に近付いてきていて、パーティーのメンバーたちは遠巻きにこちらをうかがっていた。



 これで四パーティー全部がそろった。

 後は謎の『単独迷宮探索者スカベンジャー』、ショーン・ギャラクシーを待つばかりだった。

 雑談などをしながらショーンを待つが彼は中々現れなかった。

 そして諦めかけて今回の探索の説明をビリーさんが話し始めようとした頃、迷宮からショーンがゆっくりと姿を現した。


「ショーンぎりぎり間に合ったようだな、しかし何故迷宮から出てくるんだ?」


「その質問は愚問ですね、迷宮に潜る意味は探索する事以外にありませんよ」


「まあそうだけどよ……、それじゃ説明をするからリーダーは休憩所へ来てくれ」




 広場に併設されている休憩所に場所を移動して、ビリーさんから今回の合同探索について詳細な説明を受けた。

 まず十八階層に移動した後、それぞれ別の方向を探索して十九階層を発見することになった。

 話し合いの結果、俺達『白銀の女神』と『戦乙女』がエリアの半分を担当し、『あかつき金星みょうじょう』と『影法師』がもう半分を担当することになった。

 ショーンをどちらのグループに入れるか話し合ったが、途中でショーンから単独で動くと言われてしまい、しかたがないがその申し出を受け入れた。


「一つ疑問があるのだが聞いてもらえるか? あれだけ広い樹海でどうやって情報交換をするんだ、いちいち戻ってきていたら時間がかかってしまうぞ」


 俺はビリーさんに疑問を投げかけた。


「よく聞いてくれたぜ、それにはこれを使おうと思ってるんだ」


 ビリーさんが嬉しそうに懐からピンポン玉くらいの水晶玉を五個出してきた。


「これは俺のパーティーが宝箱から見つけた魔道具だ、握って魔力を流すと他の水晶の色が変わるようになっているんだ」


 そう言って一つの水晶をビリーさんが握り魔力を流す、すると他の4つの水晶が赤くひかり始めた。

 水晶玉は一日ほどで光らなくなるので、こまめな確認が必要だということだった。


「この水晶は距離や空間に縛られず作動するすぐれものだ。俺がきちんと動作確認したから安心していいぜ。十九階層を発見したときに魔力を流して知らせることにしようと思っている。この水晶を発見したから今回の合同探索を提案したんだ」


 いきなり都合のいい魔道具の出現にビックリしてしまう。


(たしかにこれなら十九階層発見一本に絞れば効率の良い探索ができそうだな)


 ビリーさんは俺達一人ひとりに水晶玉を渡してきた。

 みんな興味深げに観察すると大事そうに懐にしまっていた。

 俺も巾着袋にしまいビリーさんの説明の続きをおとなしく聞くことにした。




「各自受け持ちの地域を自分たちのペースで攻略してくれ、無理に攻略する必要はねえからな。街に戻ってきた場合は迷宮役人に探索の進行状況を詳しく説明すること。今回の探索はあくまで協力であって競争ではないからくれぐれも無理な探索はしないでくれ」


 ビリーさんの言葉に各パーティーのリーダーたちは真剣に耳を傾けている。


「十九階層を発見したパーティーは速やかに水晶玉を発動して石碑から街に戻ってくれ。今回は抜け駆けは厳禁だ、発覚した場合はそれなりの処置が取られるからそのつもりでいてくれ」


 その他細かい打ち合わせを終えたリーダーたちは、それぞれの仲間達が待っているところへ戻っていった。



 俺はセルフィア達のいる広場の一角に戻り、打ち合わせの詳細をみんなに語った。


「『戦乙女バルキリー』と組んで探索するのは少し嫌だけど女性だけだからまだましよね」


「そうですね、いやらしい男の人がいないだけでも安心できます」


 俺の報告に初めは難色を示していたセルフィアとアニーが、なんとか納得をしてくれてその場が収まる。

 人さらいにひどい目にあった二人なので人見知りが激しいがしかたがない、時間が解決してくれることを願って迷宮の入り口へ移動していった。

 広場をゆっくりと移動していくと迷宮の入口付近にミカサ率いる『戦乙女バルキリー』の面々が集っていた。

 俺は少し緊張しながらミカサに声を掛けた。


「少し話をしないか? お互いエリア担当が同じだから打ち合わせをしたい」


「そうね……、話は手短にしてちょうだい。もう他のパーティーは出発したみたいよ」


 ミカサも流石に俺のことを邪険には出来ず渋々話に乗ってきた。



「俺達は十八回層探索は二回目なんだ、ミカサは慣れているのか?」


「あたしたちも樹海の探索はあまり慣れていないわ、いつもは『大聖堂』で稼いでいるのよ」


 いつもの高圧的な態度は鳴りを潜めていて、不安な表情をして落ち着きがなかった。


「そうか……、これは提案なんだかしばらくの間俺達のパーティーと一緒に探索しないか? ミカサたちのパーティーの事情は多少知っているつもりだ。俺達はミカサたちに何もしないし、こちらの女性たちも男性探索者たちと昔トラブルになったことがあるから気が合うと思う、どうかな?」


 断られるのはわかっていたが、ミカサ達の実力が少し心もとないと感じた俺は、思い切って提案をしてみた。


「そうね……、ちょっと待ってもらえるかしら、仲間達と相談してくるわ」


 意外なことにミカサは提案をすぐには断らず、仲間達の方へ行ってしまった。

 俺もみんなに事情を話し了承してもらう。

 少し経って戻ってきたミカサは言いにくそうにしながらも俺の提案を受け入れてきた。


「仲間と相談した結果あんたの提案を受け入れることにしたわ。あたしたちは男嫌いだけど獣人と少年ぐらいならなんとか我慢できそうよ。よろしくね」


「よし、十八階層の遺跡の出口で最終確認をしよう、みんなで迷宮に入るぞ」





 総勢十二名と一匹の大連合となった俺達は、慎重に迷宮へ降りていくのだった。  

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