91.強者たち
初参加の会合は危険なことは何もなく終了した。
宿に帰った俺は会合の内容を仲間達に説明した。
合同探索のことを仲間達に報告すると、ワンさんとモーギュスとはすんなりと受け入れてくれた。
しかしセルフィアとアニーは知らない人間との団体行動が苦手らしく難色を示してきた。
「他のパーティーの人と一緒に行動するのは嫌だわ、どうせ野蛮な人達でしょ?」
「私も男の人達に関わるのは嫌です……、きっといやらしいことをしてきますよ……」
二人とも俺とパーティーを組む前のチンピラ探索者たちや、人さらいのことを覚えていて、極端に人見知りなところがあった。
「そのへんは俺も確認をしてきたよ、探索自体は各パーティー単位で行うらしい。エリアを手分けして探索して定期的に情報交換するだけらしいよ」
俺の話を聞いた二人は態度を軟化させて合同探索を了承した。
次の日の朝、ビリーさんからの手紙が俺達のもとに届いた。
手紙の内容は三日後の早朝、『ミドルグ迷宮』広場に集合とだけ書かれていた。
ちょうどよい日数なのでそれまでの間は完全休業にした。
俺は市場へ買い出しに行ったり、ギルド長への報告に休みを費やし、久しぶりにのんびりと体を休めた。
三日後
合同探索の日がやってきて仲間達と気合を入れて宿を出発する。
迷宮広場が見えて来ると何やら辺りが騒然としていて、小さな子供たちからお年寄りまでが足早に広場に向けて移動していた。
「旦那、合同探索に参加するパーティーはもう広場に来ているみたいでやんすね」
「そうだな、また大騒ぎにならなければいいが……」
一体何組が広場へ集まっているのか、これからの探索に期待しながら広場へと足を進めていった。
広場は大勢の野次馬たちでごった返していた。
迷宮の入口付近はポッカリと空間が空いていて、遠目でもわかるほど立派な鎧や武器を装備した探索者達が思い思いにたたずんでいた。
俺達が広場に姿を現すと野次馬たちから一段と大きな歓声が沸き起こった。
そしてお約束のように人垣が左右に割れて中央への道ができる。
先頭をモーギュストがゆっくりと歩を進めて左右の人垣に目を光らせる。
その後ろから俺達が一丸となって進んでいった。
広場に集っているトップチームの面々は、俺達が到着したことをすでにわかっていたらしく、値踏みするように凝視していた。
一番手前にシルバー・ハンティングマン率いる『影法師』の六人がいてこちらを見ている。
『影法師』のメンバーを見るのは今日が初めてなので、俺も興味がありお互いに観察し合った。
パーティーの中心にはシルバーがいてその周りを仲間達が囲っている。
構成はシルバーを入れて四人が男性で残りの二人が女性だった。
『影法師』のメンバーの装備は独特だが俺には馴染みのある姿だった。
シルバーを含め男性全員が黒装束の衣装を着込んでいる。
頭はすっぽりと頭巾をかぶっていて額には鉢金という防具をつけていた。
衣装の首元や袖からははこれまた黒く塗り込んである鎖帷子が見えていて、ひと目見て魔法がかかった防具だということがわかった。
腕には鉄鋼の小手を装着していて、足は足袋を履いている。
その装備も防御力を高めるための魔法がかかっている高級武具だった。
彼らの出で立ちはまさしく時代劇などでよく見る忍者そのもので、それも只者ではない超一流の暗殺者集団に見えた。
男達が黒ずくめなのに対し女の探索者は鮮やかな朱の衣装を着ていて華やかな雰囲気だった。
上半身は男性陣と同じ着物風だが、下半身はバッサリと太もも付近までで衣装が終わっている。
サイドには深くスリットが入っていてとても動きやすそうだった。
髪型は一人が黒髪のおかっぱでもうひとりが栗毛のポニーテール。
二人とも着物の上からでもわかるほどスタイル抜群で、出るところが出てウエストが細くくびれていた。
容姿はどちらも十代後半で、誰もが振り返るほどの美少女だった。
(この異世界の女性はみんなかわいいな、でもあの二人は着物を着ているせいか特に可愛い気がする)
俺は美少女二人を舐め回すように観察してしまう。
その様子に気づいたアニーが俺の脇腹を力いっぱいつねってきた。
「いててて! 何するんだよアニー、ひどいじゃないか……」
「他のパーティーの女性をジロジロ見てはいけません、いやらしい顔をしていますよ気をつけてください」
ジロリと睨みながらアニーが俺をたしなめてきた。
アニーに謝りながら他の探索者達を観察していった。
迷宮衛兵の役人と何やらビリーさんが話している。
その横には屈強な探索者が固まって様子を見ていた。
それはミドルグで最強のパーティー、『暁の金星』のメンバー達だった。
ビリーさんと同じくらいの体格の男達が三人いて、おのおの巨大な武器を手にしている。
一人は俺の身長ほどある巨大な戦斧を担いでいる。
その斧は普通の探索者なら持ち上げられないほどの重量がありそうだった。
もうひとりは鬼が使うような巨大な金棒を片手で軽々と持っていた。
黒光りしているそれは、アダマンタイト合金でできているのが遠くからでもよくわかった。
最後の一人は背中に幅広で肉厚な剣を背負っていた。
アトラスさんの持っていた剣とそれほど大きさが変わらず、その剣で戦闘を本当に行えるのか疑問に思える巨大さだった。
そしてビリーさんは腕に肘までスッポリと金属製のグローブをはめていて、殴りつければ岩でも粉砕できるのではないかと思われた。
四人は間違いなく直接戦闘のアタッカー職だろう、防具もガチガチに固めていてちょっとやそっとの攻撃は通用しないことが容易に想像できた。
残りの二人は高齢の男性魔法使いで、高価なローブに身を包み、これまた高価な杖を手に携えていた。
しかしただの魔法使いとはどことなく違っていて、上手く説明できないが何故がありがたい気持ちになった。
「あの魔法使いの一人は、僧正ですね。相当な徳を積んだ高僧ですよ」
アニーが俺の耳元で男の正体を教えてくれた。
「もうひとりは賢者ね中々なれる職業じゃないわ」
もう片方の耳にセルフィアが囁きかけてくる。
セルフィアの吐息が耳にかかってこそばゆかった。
「旦那、また違うパーティーが到着しやしたよ、あれが『戦乙女』でさぁ」
ワンさんが広場の入口を指し示し俺に報告を入れてきてた。
俺が指さされた方向を見ると、ミカサ・ミルキーウェイを先頭に女性だけで構成された六人組が現れたところだった。
ミカサは相変わらずの露出の高い装備に身を包んでいる。
薄手の衣装に急所を防御しただけの格好は、男嫌いな人間が着るような服装ではなく、何を考えているのかわからなかった。
他の五人の面々をジックリと拝見させてもらおう。
最初に目についたのは長身の戦士だった。
プレートメールに身を包み、長剣を背中に背負っている。
盾は持っていなく両手で剣を持って戦う攻撃タイプのアタッカー職だった。
二人目と三人目はよく似た顔をした少女で、双子と言われても違和感がないだろう。
二人ともロングソードを腰に挿していて高価な革鎧を装備していた。
四人目は僧侶で五人目は魔法使い、ミカサがシーフ職なのでバランスの取れた構成だった。
特に目立った特徴のないパーティーだったが、それは探索者としての評価だ。
俺は六人のことを凝視してその場から動けなくなってしまった。
『戦乙女』の面々は誰も彼もが絶世の美女や美少女で固められていて、一言で言うと華やかだった。
美しい女性を眺めながら、これからの合同探索が有意義なものになるように俺は期待していた。