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80.最終試験

 神様からもらった卵から生まれたドラムが進化して立派なドラゴンになった。

 嬉しく思う一方、王国のキナ臭い情勢に頭を痛めていた。




『お前ら準備はいいか? 少々森の深いところへ遠征に行くぞ、しっかり装備を整えて俺について来い』


 最終試験の会場は樹海の奥深くだそうだ。

 どこへ連れて行かれるかわからないが、久しぶりの遠征にメンバー達が色めき立った。

 ドラムも上空から降りてきて俺の背中に器用に張り付いている。

 やはり俺にくっついているのが嬉しいらしく、おとなしく俺の肩に頭を置いていた。

 後一回進化をしたら流石に背負えなくなるだろうから、この触れ合いを大切にしようと思った。

 アトラスさんを先頭に『白銀の女神』は樹海に分け入っていく、周りの魔物たちは恐れをなして逃げ出したようで一切襲ってくることはなかった。


 行き先は俺たちが日頃探索している樹海の方向とは違い、十七階層方面が北だとすると東へ向かっていた。

 もちろん俺たちはその方向も探索済みで、別段なにもない湿地帯が広がっているはずだった。


「アトラスさんこちらの方角は湿地帯しかないんじゃないんですか? 一体どこに行こうとしているんですか?」


 少々不安になって思わず聞いてしまう。


『よく知っているな、その湿地帯を抜けた先に目的地はあるぞ』


 アトラスさんの話を聞いて俺たちは顔を曇らせてしまう、湿地帯と言っても背丈より深いところがあり、探索した頃は歩いて渡ることは出来なかったのだ。

 しかしアトラスさんはそれ以上何も言わず、ズンズンと先に進んでいってしまった。



『お前らはわからないかもしれないがこの湿地帯には道があるぞ、そこを通っていけば奥に進めるんだ』


 沼のほとりに立ったアトラスさんが俺たちの心の中を見透かすように説明をしてきた。

 アトラスさんが指し示した先には確かに沼を縫うように道が続いている。

 初めて来た時には樹海に慣れていなかったので見逃した可能性が高かった。


 道を進んで行くが案外乾いた道で、『魔導雨具』をつけた俺達の靴には一切泥がつかなかった。

 すべての道を知り尽くしているアトラスさんが先導して、またたく間に湿地帯を抜けていった。

 しばらく樹海を進んでいくとだんだん勾配こうばいがきつくなってきて、今歩いている所が山だということがわかってきた。

 しかし九階層のような険しい山ではなく、今の俺達の体力では悠々と登って行けるほどだった。



「ねえレイン、アトラスさんあたし達をどこへ連れて行くつもりかしら」


「ちょっと不安になってきましたね、探索をしていない所は落ち着きません」


「旦那、師匠にそれとなく聞いてくれやせんか、なんか嫌な予感がしやす」


 メンバー達は場所と最終試験の結びつきがイメージできず不安になっているようだった。

 しかしその中でモーギュストとリサだけは嬉しそうにどんどん歩いている。

 モーギュストは強敵が出てくるなら逆に嬉しいぐらいで、未知の場所を特に好んでいた。

 リサはもともと深い森の中の出身なので、樹海の鬱蒼うっそうと茂る環境が単純に好きなようだった。

 二人仲良く森の中を進んでいっているので、立ち止まるわけにも行かず慌てて二人を追いかけていった。



 辺りが夕闇に包まれだし夜の魔物が徘徊する時間になってきた。

 流石にまずいと思いアトラスさんに行き先を聞いた。


『もうすぐ森が途切れるぞ、安全な場所も知っているから心配いらないぞ』


 アトラスさんにとっては予定通りらしく、一切慌てた様子はなかった。

 少し歩いていくと言っていた通りに樹海が開け岩肌むき出しの山岳地帯になった。

 アトラスさんの指差す方向を見ると九階層によく見られた『コロニー』、『洞穴どうけつ』がポッカリと口を開けていた。

 今晩はあそこでキャンプをして明日目的地へ行くらしい。


『洞穴』の中は全員が入っても余裕でテントを張れるくらい広くて快適だった。

『退魔の香』を焚きテントを設営して夜に備えた。

 いつも食事を作ってくれるアトラスさんに、今夜ばかりは俺がごちそうを作ると提案した。

 アトラスさんは快く受け入れてくれて樹洞の入り口にドッカリと座る。

 ふと気になって『退魔の香』がない一人でキャンプするときはどうやって夜を過ごすのか聞いてみた。


『なに、ここら辺の魔物は夜になっても俺を襲いに来ることはないぞ、皆んな俺を恐れて隠れてしまうからな』


 驚愕の事実がまた一つ発覚した。

 アトラスさんは樹海の主のような存在なのではないだろうか、とんでもない人が樹海のほとりに住んでいたものだ。




 アトラスさんがお腹いっぱい食べられて、気を使わない料理は何かとみんなに聞いたら。

 口を揃えてバーベキューしかないと言われてしまった。

 俺もそうじゃないかと思っていたが、案の定の展開に思わず吹き出してしまった。

 かまどを設置して網を載せる。

 巾着袋から食材を取り出すと、指示を出してもいないのにセルフィア達がどんどん持っていって焼き始めた。


 俺の役目は食材を出すことで終わり、あとは焼けるのを待つだけだ。

 美味しそうな肉の焦げる匂いがまたたく間に辺りに充満していき、食欲を掻き立てられていった。

 アトラスさんのために肉を多めに追加で出していく、魚介や野菜もたっぷり追加してお腹いっぱい食べられるようにした。


「アトラスさん、食事の用意ができましたよ、バーベキューっていう食べ方ですよ一緒に食べましょう」


『そうかそうか、なんか変わった食べ方だな、遠慮なく食べるぞ』


 アトラスさんは身体が大きいので椅子には座れない、そこで焚き火の周りに車座くるまざになって食事をすることになった。

 ワンさんとセルフィアのためにエールとワインを出して渡す。

 意外なことにアトラスさんは酒を一滴も飲まなかった。

 食前のお祈りをして楽しい夕食が始まった。


 美味しそうな焼き肉の塊を山のように皿に盛りアトラスさんに手渡す。

 アトラスさんは大きな肉の塊を一口で頬張り豪快に咀嚼そしゃくしていく、またたく間に皿が空になり慌てて追加の肉を皿に盛った。


『うまいうまい、バベキウはうまいな、いくらでも食えるぞ』


 バーベキューの発音がかなり怪しいが喜んでくれて何よりだ、どんどん焼いてモリモリ食べてもらおう。

 牛の肉に豚の肉、ウサギの肉に熊の肉、流石に狼の肉は止めておいたが、樹海の獣や市場で買った定番の肉をこれでもかと言うほど焼いていった。

 どれもこれもシンプルに塩コショウだけだったが、アトラスさんを始め仲間達全員が満足して楽しい夕食会になった。


 食休みをまったりと過ごしていた俺は、かねてから心配していたこの探索の目的地について、アトラスさんに聞くことにした。


「アトラスさん、そろそろこの探索の目的地を教えてもらえませんか? 仲間達も少し不安になってきてます」


 俺の話にメンバー達が真剣に聞き耳を立てている、関心がないのは俺の膝の上で未だに生肉を食べているドラムぐらいだった。


『まあここまでくればいいだろう、本当は明日の朝発表しようと思ったんだが、眠れなくなっても知らないぞ』


 アトラスさんが勿体もったいつけて中々教えてくれない、思わず追加で催促しようと喉元まで言葉が出た。

 大きな手でアトラスさんが俺の言葉を制止して一息でいい切った。


『明日の最終試験はこの山に巣食っているアースドラゴンの討伐だ。お前たちだけできっちり倒したら合格とするぞ、アースドラゴンはなかなか手強いぞ覚悟してかかれよ』


 俺は絶句して言葉が出なかった。

 俺が黙っていると仲間達が話の内容を聞いてきた。

 アトラスさんの言葉を仲間達に伝えていく、仲間達から悲鳴が聞こえてきた。





 本物のドラゴン討伐、信じられない最終試験に王国の危機など吹っ飛んでしまい、どうやって生還するか真剣に考えるのだった。


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