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76.やばい

『白銀の女神』全員の戦力アップが期待できるものとなった。

 修行は一ヶ月を越え、そろそろ成果が現れ始めていた。




 ワンさんの『気配消失』取得から遅れること二週間、とうとう俺もスキルを獲得する事に成功した。

 モーギュストは俺よりかなり早く取得できてしまい、最終的にはワンさんとモーギュストから隠れる練習方法に切り替わっていた。

 その間アトラスさんはオレたちの身の回りの世話を甲斐甲斐しくしてくれて、快適な修行の日々を送ることが出来た。


「ワンさん、今日から『縮地』と『気配消失』を合わせて実践訓練をしようと思うんだけどいいかな?」


「望むところでやんすよ! あっしは負けやせんよ!」


「僕だって今までのような防御だけの戦闘スタイルじゃないよ、攻撃的防御の恐ろしさを二人に見せてあげるよ」


 二人ともやる気満々だ、俺だってかなりの戦力アップを果たした、簡単に負けることはないぞ。


「それじゃ、森の中でバラけて三つ巴の模擬戦をするぞ」


「わかりやした!」


「おっけー!」


 アトラスさんに許可をもらい森の中へ出してもらう。

 久しぶりの樹海は緑が相当濃くなっていて、空気も美味しく感じられた。

 各自一キロほど離れて隠密行動に入る。

『身体強化』、『縮地』、『気配消失』この三つのスキルを混ぜ合わせて発動すると、えげつないほどの機動力と攻撃力が身に備わっていく。


(これかなりヤバイんじゃないか? 今なら単独で骸骨騎士とやり合えるような気がしてきたぞ) 


 木々の間を高速で走り抜けながら気分が高揚していくのを感じる。

 周りの魔物たちが一切俺に気付くこと無く、直ぐ近くに立っていても襲ってくることはなかった。


 ふと違和感を感じ『縮地』を発動して瞬間移動をする。

 元いた場所を横目で確認すると、ワンさんが俺の居た所に短剣を突き刺したところがちらっと見えた。

 しかし次の瞬間にはワンさんの姿はかき消されて見えなくなってしまう、当たりをつけて樹海の中に溶け込んだワンさんを追いかけた。


 木々の間にワンさんがチラチラと姿を見え隠れさせている。

 どうやら俺を誘っているようだった。

 俺の手に持っているのは普通の短剣だ、仮にワンさんに思いっきり当たっても打撲程度で命の危険はない。

 ワンさんの誘いに乗って一撃を入れるべくスキルを高めて近寄っていった。



 もう少しでワンさんに接近できると思った所で横から凶悪な圧力を感じた。

 短剣の腹を向けて防御姿勢に入る。

 次の瞬間身体がばらばらになるほどの衝撃が剣を通り越して全身に伝わってきた。

 一瞬で数メートル吹き飛ばされて太い幹に激突してしまう。


 攻撃してきたのはもちろんモーギュストだ。

 小型の盾をもって普通の全身鎧に身を包み素早く近付いてきた彼に、俺は気づかずまんまと攻撃を受けてしまった。

 しかし威力は加減しているらしく、木の幹に少しめり込んだぐらいで戦闘に支障はなかった。

 慌てて『縮地』で距離をとっていく、俺が逃げる後ろではワンさんとモーギュストがぶつかりあってお互いに吹き飛ばされていた。


 やられっぱなしではリーダーの面目が立たない。

 二人が消えていった方向に全力で接近する。

 アトラスさんが使っていたフェイントの『縮地』や気配をわざと遠くへ飛ばし、そのスキを『気配消失』で一気に近づくトリッキーな動きを披露する。


 二人は俺の動きに翻弄(ほんろう)されて処理が追いつかなくなってその場に姿を現した。

 背後から一気に近づきモーギュストの背中を思いっきり蹴りつけた。

 さすがのモーギュストも『身体強化』がたっぷりかかった蹴りを受けて、前方に弾丸のようなスピードで飛んでいく。

 ワンさんを巻き込んで巨木のウロの中にに盛大に音を立てて飛び込んでいった。


「旦那! 一時休憩しやしょう、今の一撃でモーギュストが気絶しやした」


 ワンさんが両手を上げてウロの中から出てくる。

 慌てて駆け寄るとウロの中でモーギュストが伸びていて傍らに盾が落ちていた。


「ちょっとやりすぎたかな、次からはモーギュストにはアダマンタイトの全身鎧をつけて完全武装になってもらおうか」


「とにかくモーギュストを担いでアトラス師匠のところへもどりやしょう」


「そうだな、そろそろお昼ごろだし急いで帰ればば昼食に間に合いそうだな」


 ワンさんがモーギュストを担いで家に向かって歩き始める、程なくして意識を取り戻したモーギュストは気絶したことをとても悔しがっていた。


「アタッカー職の攻撃はえげつなくて困るよ、もちろん完全武装すれば対抗できるけどレインさんはどんどん強くなるね」


 気絶させられたことを恨んでいる様子はまったくなく、単純にパーティーの戦力アップしているのが嬉しいらしい。

 俺も一度謝罪した後はあまりそのことに触れることはなく、戦術のことをみんなで議論しながら帰途についた。




「ただいま戻りました。アトラスさん俺たちかなり上達しましたよ、全てアトラスさんのおかげですありがとうございました」


 三人で深々と頭を下げた。


『そうかそうか、たしかに前とは見違えるような雰囲気になったな、一皮むけたということか』


 嬉しそうなアトラスさんはオレたちの身体をペタペタと触りながらうなずいていた。


『飯食い終わったら、お前ら三人と俺で模擬戦闘するぞ、手加減はするが死なないように気をつけろ』


 衝撃の宣言に俺は絶句してしまう、俺の顔色を見て二人が不安そうにしていた。

 二人に模擬戦闘のことを話すと、かなりおどろいて青い顔になる。

 スキルを少し使えるようになったことで、アトラスさんの戦闘力がよく分かるようになって逆に怖くなってきてしまった。



 昼食が喉を通らないのでスープで無理やり腹に押し込む、午後の模擬戦闘をどうやって乗り越えようか三人とも必死に考えた。

 食休みをすると小屋前に集まった。

 アトラスさんは俺の背丈ほどある極太の木剣を手に持って嬉しそうに素振りしていた。

 一振りごとに剣風が巻き起こり土埃を巻き上げる。

 まともに食らったらただでは済まなそうなその圧力に逃げ出しそうになった。


『お前ら逃げようと思うなよ、逃げたやつは容赦しないぞ』


 俺の考えがわかるかのように大きな一つ目でジロリと睨まれてしまう、二人に通訳すると二人とも震えながら完全武装に着替え始めた。

 俺も慌てて魔法鉄鋼の鎧を着込み最良の装備にしていく、剛力の小手まで付けて少しでも生存確率を高めていった。


『準備はできたか? 森の中で戦闘を開始するぞ、お前らは連携して攻めて来い、武器は最高のやつを使って本気で来ていいぞ』


 びっくりすることにアトラスさんは本気でかかってこいと言ってきた。

 その表情は真剣に見え、冗談を言っているわけでは無さそうだった。

 二人に言って本番用の武器を装備していく、愛刀を腰に挿して完全武装を完了する。

 ワンさんは魔法の双短剣、モーギュストはアダマンタイト合金の短槍にそれぞれ換装していった。


「三人とも頑張ってください、今バリアかけますね……」


 アニーが心配そうに俺達を見てバリアをかけてくれる。

 身体がうっすらと光りだして防御力が上がったことがわかった。


「レイン、修行も大事だけど程々にしてね、顔色が真っ青だわ……」


 セルフィアが俺の顔を手で触りながら心配してきた。


「お兄ちゃん、死なないで……」


(リサ……、縁起が悪いことは言わないでくれよ……、本当に心配になってきたな……)





 修行をして戦力アップしようと思ってアトラスさんを訪ねてきたのに、今までで一番やばい強敵と戦うことになってしまった。

 一瞬でも気を抜いたらただではすまない状況に追い込まれた俺たち三人は、死を覚悟して樹海に向かっていった。

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