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75.衝撃的

 スキル『縮地』を取得することができた。

 今日からは『気配消失』を覚えることになった。




 今日は『白銀の女神』のメンバー全員が小屋の前に集まっていた。

 男性陣は引き続きアトラスさんに特訓をして貰う予定だ。

 女性陣の方は何をするのかと言うと、昨日俺が読んであげた魔法書に書かれていた練習方法を試してみるらしい。

 三人の顔は期待に燃えてやる気に満ち溢れていた。




『今日から『気配消失』を練習していくぞ、基本は一緒だ、まずは魔力を体内で練り上げろ』


 スキルの基本は全部一緒らしい、初めにアトラスさんが『身体強化』を教えてくれたのも、後々スキル取得がスムーズになるためだったみたいだ。


『練り上げたら今度は魔力を体の内側に隠すように展開する、空気に溶け込むように心を落ち着かせろ』


 説明をしながらアトラスさんが『気配消失』実践していく、みるみるうちに大きな体が消えて無くなっていき、ついには見えなくなってしまった。


『お前らは素人だから俺のことが見えないだろうが、少し出来るやつの前では完全に消えることはできないぞ。高度な戦闘では『気配消失』は不意打ちと撹乱かくらんが主な使用方法だぞ』


 なにもない空間からアトラスさんの声だけがはっきりと聞こえてくる。

 目を凝らして見つめるが一切何も見えなかった。


「旦那、あっしには師匠の姿がわかりやせん、本当に目の前にいるんでやんすか?」


「俺も全然わからないよ、多分声がしているところにいると思うよ」


 三人でアトラスさんが消えた場所へ恐る恐る近付いていく。

 油断していたわけではなかったが、突然に見えないなにかに持ち上げられ、思わず大きな声で叫んでしまった。

 途端にアトラスさんが姿を現した。

 俺を抱えてアトラスさんが嬉しそうに笑っているように見えた。



 気を取り直して『気配消失』を実践していく。

 魔力を練り上げるのは訳なく出来るが、その次の体内に隠すということがよくわからずなかなかうまくいかなかった。

 隣でワンさんの気配が徐々に薄くなってきた。

 うまくいくかと思った矢先気配がもとに戻ってしまい、惜しい所で失敗してしまったようだった。


「ワンさん今惜しかったな、もう少しで出来そうだね」


「あっしもシーフの端くれでやんす、気配を消すのは得意でさぁ。しかしこれはかなり難しいでやんすね」


 ワンさんがかなり難しいと言っているなら俺はどうすればいいんだ、全く出来る自信がなくなって集中することができなくなってしまった。

 少し休憩させてもらってセルフィアたちのところへ行ってみた。




 俺たちが特訓しているところから少し離れた水車小屋の前で、セルフィアたちは何やら真剣に瞑想していた。

 地面に布を敷きあぐらをかいて座り目を閉じている。

 背筋はピンと伸びていて腕は膝の上で組まれていた。

 形は座禅そのもので、アルフレッド・メイウェザーの書いた本にも挿絵で乗っていたポーズだった。


 たしかあの座り方をして身体の中を魔力で満たすのだったような。

 それがすべての基礎でそこから色々な事を実践していくように書いてあったな。

 セルフィアが俺のことに気づき目を開けて手を振ってきた。

 俺もにこやかに笑って手を振り返す。

 静かに立ち上がったセルフィアはゆっくりとこちらに移動してきた。


「取り込み中に悪いことしたね、ちょっと気になって様子を見に来ただけなんだ」


 小声でこちらに来た理由を話す。


「そうだったのね、ところでスキルの方は順調なの? こちらは初めたばかりだからまだ成果はないわ」


「まあまあだな、なかなか難しいよ。あの本の事で何かわからないことがあったら遠慮なく聞きに来てくれ、もうそろそろ戻るよお互い頑張ろう」


「ありがとう、わかったわ」


 いい気分転換になった、足取り軽くアトラスさんのもとへ戻っていった。




 毎日同じ魔力操作を繰り返している。

 しかし一向に気配は消えることがなく、時間だけが虚しく進んでいった。

 当初はワンさんがすぐに取得できるのではないかと思われたが、なかなかうまく行かずに苦戦を強いられていた。

 隠密の達人であるワンさんに出来ないものを俺やモーギュストにできるはずもなく、魔力を練るだけの日々が延々と続いていた。


 『お前ら全然駄目だな、こうなったらみんなでかくれんぼをするぞ。俺が鬼をやるからお前ら隠れろ、もちろん『気配消失』をして隠れるんだぞ』


 アトラスさんが無茶なことを言ってきた。

 『気配消失』など出来ない俺達は、アトラスさんから隠れることなど出来るはずがない。

 開始直後からすぐ見つかってしまい、罰としてぐるぐると身体を振り回されて遠くへ投げられるという、ハンマー投げのハンマーみたいにされてしまった。

 飛んでいったその場所ですばやく身を隠し『気配消失』を開始する。

 追われている焦りからか中々魔力を練ることが出来ず、アトラスさんに見つかり幾度となく放り投げられた。


 しかしかくれんぼの気配を押し殺す動作が、次第に魔力としっくり噛み合ってきた。

 アトラスさんから隠れることと、周りに溶け込むことが全く同じだと気づき、少しずつ気配が消えていった。

 数日後にはワンさんが『気配消失』を発動させた。

 やはり隠密の達人はオレたちとは一味違う様だ。

 一度発動をしてしまえば隠密の達人であるワンさんは、もうどこにいるのか一切わからなくなってしまった。

 アトラスさんもワンさんを探すことは諦め、俺たちを重点的に狙い始めた。




 俺たちが『気配消失』取得に悪戦苦闘しているころ、セルフィアたちは『アルフレッド・メイウェザーの魔法書』に書かれている『魔法速詠唱』を練習していた。

 もともと魔力を扱うことに慣れていた三人は、順調に魔法書に書かれている発動方法を実践して成功させていった。

 今までは一つの魔法を放つのに魔法の種類や威力、距離などをいちいち決めていかなくてはならなかったそうだ。

 その作業を(おろそ)かにして発動すると威力や飛距離の小さい魔法になってしまい、強敵には全く効かないものになってしまった。

 しかし魔法書に書かれている方法は、全てを並列して決めていく手法で、複雑だがかなりの詠唱短縮を実現していた。


 何故このような価値のある書物がアトラスさんの家の書棚に無造作に置かれていたのか、暇を見てアトラスさんに聞いてみた。

 アトラスさんの言うことには、もともとこの場所は大勢の狩人たちが集まって生活していたところだったようだ。

 狩人の中にはアタッカー職の他に魔法を駆使して魔物を狩るものも大勢いた。

 当然私物の中には魔法書もあり、彼らが魔物たちに倒されると遺品整理の名目で一箇所に集められたらしい。

 この囲いの中には昔はいくつもの小屋があって、今の畑だらけの場所ではなかったそうだ。

 

 更に疑問が芽生えアトラスさんに質問していく、魔法書はとても古いもので人間の手によって書かれているようだ。

 しかし今地上の人々は魔法書に書かれているような練習方法を実践していない、どのような人物がこの魔導書を持っていたのか聞いてみた。


 『そりゃあ本人に決まってるぞ、アルフレッドは大昔ここで魔法の研究をしていた変わり者の魔道士だ。たまに顔を合わすと色々な魔道具をくれたりしたいいやつだった。あの『魔力剤』の調合法だってアルフレッドが考案した物だぞ、本当に面白いやつだったな』


 衝撃的事実をサラッと言うアトラスさんにビックリしてしまう。

 どう見ても魔導書の状態から見て数百年以上前に書かれた書物だ、一体アトラスさんは何歳なんだろう。

 衝撃的すぎて年齢を聞くタイミングを逃してしまい話が進んでいってしまう。


 アルフレッド・メイウェザーは天才だが相当な変人で引きこもり体質だったようだ。

 魔物たちが(つど)うこの地に(きょ)を構えると、滅多に顔を見せずに研究に没頭していたそうだ。

 彼は魔物たちと会話が出来たらしく『万能言語』のスキル持ちだった可能性が高かった。

 案外俺と同じで異世界転移してきた人だったのかもしれないな、もう亡くなってしまったようなので確認することは出来ないが、この世界にはいろいろな人がいることが改めてわかった。





『魔力剤』みたいな凄いものを作った人が魔導書の著者ということは、この本はとんでもない価値のあるものなのではないか。

 セルフィアたちの戦力アップがかなり期待できるものになった。

 探索の膠着状態(こうちゃくじょうたい)からスムーズに事態が流れ出した気がして、とても嬉しくなってしまった。

 

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