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72.朝食を食べよう

 十八階層で強敵と戦闘になり、モーギュストの鉄壁の防御力で辛くも勝利を収めた『白銀の女神』一行。

 この先探索していく上で攻撃力アップが必須になり、アトラスさんに相談するため十六階層まで戻ってきた。




「アトラスさ~ん、いますか~?」


 門の前で呼び出すが、今日は門を開けてくれなかった。


「きっと狩りにでも行っているのよ、私達もその辺で時間を潰しましょう」


 セルフィアの提案で森をゆっくり散策する。

 出てくる敵はトレントや大型の狼ばかりで今の俺達の敵ではなかった。

 キノコや山菜を採りながらアトラスさんの家の周りをゆっくりと移動していく。

 二時間もすると元の門の前に戻ってきた。


 森の奥から何やら懐かしい感じの気配が伝わってきた。

 少し待っているとアトラスさんが大きな熊を肩に担ぎながら木々の間から現れた。


『おお! お前ら久しぶりだな、また来たのか、よく来たな』


「お久しぶりです、アトラスさんに相談したいことがあってきました」


『そうかそうか、とりあえず中にはいれ、熊の肉食わせてやるぞ』


 魔物であるアトラスさんの顔の表情はよくわからないが、大きな一つ目はとても嬉しそうに見開いていた。

 軽々と大きな門を片手で開け、俺たちを塀の中へ入れてくれる。

 門に(かんぬき)をきっちりとかけ、大股で母屋に歩いていった。

 その後を早歩きで追いかけていく。

 背の低いモーギュストやリサはほとんど駆け足状態で、アトラスさんの体躯の大きさがよくわかった。



 母屋に入れてもらい、いつものように椅子に腰掛ける。

 アトラスさんが熱々のお茶を入れてくれて、俺達の近況を話していった。

『深淵の樹海』をかなり奥へ進んだことや、骸骨騎士との戦闘の事を順番に話していく。

 戦闘に勝利したことを告げると大いに喜んでモーギュストの頭を大きな手でグリグリと撫でていた。



「今回夜の魔物だと思っていた骸骨騎士が昼間の森にも出没することがわかったので、危険度が増してしまいこれ以上奥へいけなくなってしまったんです」


 骸骨騎士の話題になったので戦力アップの相談をアトラスさんに切り出した。


「今の戦力では到底奥へはいけません。アトラスさん、俺達がもっと強くなる方法を教えてくれませんか? お願いします」


 メンバー全員で頭を下げる、皆んな真剣な表情をしていた。


『そうか……、俺はアタッカー職だから直接戦闘をするレインとワンとモギュのことは鍛えられるぞ。しかし魔法は専門外だから難しいな……』


 アトラスさんの言った内容をメンバー達に伝えていく。

 スキル『異世界言語』を持っていない仲間達は、アトラスさんの言葉がわからないのだ。

 皆んなで話し合った結果、俺達三人だけでも強化してもらうことになった。


「それじゃ、しばらくご厄介になります。よろしくおねがいします」


『そうかそうか、また賑やかになっていいな。でも鍛えるときは厳しく行くぞ、覚悟しておけよ』


「はい、がんばります!」



 こうしてサイクロプスの巨人アトラスさんに俺とワンさん、モーギュストは特訓を受けることになった。

 女性陣は各自、自主練習をすることになり、厳しくも楽しい森の生活がスタートした。




ー・ー・ー・ー・ー




 今日からアトラスさんの特訓が始まる。

 朝早く起きて身支度をすると日課の準備体操を小屋の外でおこなった。

 朝もやが漂う樹海の朝は、ここが迷宮の奥深くということを忘れるほどすがすがしかった。


 アトラスさんが飼っている(にわとり)が放し飼いになっていて、小屋の周りをゆっくりと歩いている。

 ワンさんが(とう)のカゴを持って産み落とされた卵を嬉しそうに拾っていた。


「旦那、見てくだせぇまだ温かいでやんす」


 カゴの中には産みたての卵が数個入っていて、触ってみるとほのかに温かかった。


『お前ら朝飯が出来たぞ、早く食え』


 アトラスさんはとても世話好きで食事を一手に引き受けて作ってくれていた。

 さすがに悪いと思い当番制にしようと提案したが頑として受け入れず、滞在中のご飯は全てアトラスさんが作ってくれることになった。




 大きなテーブルの上には焼きたてのパンがうず高く置いてあり、その横には人数分のスープ皿がいい香りの湯気を立てて並べてあった。

 そして大きな深皿がテーブルの真中に一皿あり、中に昨日獲ってきた熊の肉がタレに絡まって入っていた。



 美味しそうな匂いに引き寄せられたのかセルフィア達が食卓に姿を現した。


「みんなおはよう、なんか凄く美味しそうな匂いがしてきたわ」


 まだ寝ぼけているが食欲はあるらしく、鼻をひくつかせながら匂いの出処を探っていた。


「皆さんおはようございます、今日もよろしくおねがいします」


 アニーが丁寧な挨拶をしてくる。

 アニーは誰よりも早く起きて朝の祈りをしているので、寝ぼけた顔を見たことなど無くいつもシャキッとしていた。


「お兄ちゃんたちおはよう……」


 リサはまだ少し眠いようだ、アニーに手を引かれ半分寝ているようだった。

 アトラスさんが用意してくれた台に上り、人間には大きすぎる椅子に登って腰掛ける。

 モーギュストも鎧は着けていないので一人で何とか座ることが出来た。


『みんなそろったな、では食べるぞ』


「アトラスさん、アニーが食前の祈りをするので少し待ってくれますか?」


『前にもやっていたイノリだな、面白そうだから俺もやるぞ』


 腕を組みながら目をつむるアニーを見たアトラスさんが、見よう見まねで大きな腕を組んだ。

 イシリス様に感謝の祈りを捧げ食事がスタートした。

 アトラスさんは感謝の祈りの意味がよくわからなくて微妙な顔をしていたが、みんなで祈ることには特に反対すること無く、これからも付き合ってくれることになった。


『昨日獲ってきた熊を料理したぞ、お前ら食ってみろ』


「お肉が朝から食べられるなんて贅沢ね!」


 早速セルフィアが取り皿を取って熊に肉を取り分けていく。

 みんなの分も取り分け始めてさすが肉奉行(にくぶぎょう)だと思った。


「甘辛いタレが合っていて凄くおいしいです」


 アニーが幸せそうに熊肉を頬張る。


「とても美味しいわ、お兄ちゃんも食べてみて」


 一口食べて笑顔になったリサが、俺の(ひざ)の上で俺を見上げてきた。

 木のさじに乗った柔らかそうな熊肉をリサが俺に食べさせてくれる。


「うん、本当においしいな、新鮮だからなのか全く臭みがないな」


 俺がニッコリとリサに笑いかけると彼女もニッコリと微笑み、また匙を差し出してくる。


「リサお兄ちゃんばかりに食べさせないで自分も食べなさい、そうしないと大きくなれないよ」


「わかったわ、リサもいっぱい食べるわ」


 そう言ってパンを頬張りスープを飲みだした。

 育ち盛りのリサはびっくりするほど食欲があり、どんどん皿の中の肉が無くなっていく。

 一生懸命食べているリサが可愛くてニヤケ顔で眺めていた。


「レイン様、あ~ん」


 あまり食べないでリサを見ていたのをアニーが見ていて、俺に熊の肉を差し出してくる。

 俺もなれたもので条件反射で口を大きく開けてアニーから肉を食べさせてもらった。


「ふふふ、おいしいですか? もっと食べてください」


 ニコニコ笑いながらアニーが更に肉を差し出す。


「レイン、あ~んして」


 俺がアニーとイチャイチャしていたのを横で見ていたセルフィアが、自分の食事を中断して俺を構い始めた。

 もちろん俺は二人から交互に食べさせたもらった。



 少し多めに食べすぎてしまったが、とても美味しい朝食をいただいてアトラスさんにお礼を言った。

 アトラスさんは嬉しそうにうなずき、食器を片付けに食堂を後にした。





 食休みの後はいよいよ訓練が始まる。

 いつまでも浮ついた意識では怒られてしまうな、気合を入れ直して小屋の外へ出て行くのであった。    

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