69.再探索
仲間の装備を強化して万全の態勢になった『白銀の女神』は、迷宮の探索を再開した。
この三日間俺はいろいろな人と会って話をした。
ガルダンプさんやカミーラ女男爵、メアリーさんに『暁の金星』のリーダーのビリー・バグダッド。
中々の忙しいスケジュールだが何とか話は丸く収まった。
ギルド長とビリーさんには旅の報告を、メアリーさんには報告と翻訳の手助けを少々、そして大好きなカミーラ超美人貴族様とは楽しいひと時を過ごさせてもらった。
カミーラさんは隣国『ルマンド公国』の特産品である発泡ワインをお土産に持って行くと、とても喜んでくれていつにもまして親しく話をしてくれた。
ついつい長居をしてしまい夕食に招待されてしまったが、お酒が入って間違いが起きてはいけないので丁寧に断った。
早朝宿屋の前に集まった俺達は、久々の迷宮探索ということで緊張していた。
しかし緊張と同時に期待もしており体調も万全ということも相まって、今までになくやる気がみなぎっていた。
「あたし迷宮探索久々過ぎて緊張してきちゃった」
「不謹慎ですけどワクワクしてきましたね」
「姉さん達、嬉しいのはみんな同じでさぁ、今日は楽しんでいきやしょう」
「久々に骨のある魔物と戦えそうだね、楽しみだよ」
四人ともいい顔をしている、久しぶりの探索で少し不安だったが大丈夫そうだな。
「リサは緊張しているか?」
「大丈夫よ、お兄ちゃんがそばに居てくれればリサは安心なの」
にっこり笑って言ってくるリサは、さして緊張している様子もなく大物の片鱗を見せていた。
「よし! みんな迷宮に向けて前進だ! 今日から長期遠征、気合い入れていけ!」
「「「「「了解!」」」」」
「ギャウ!」
六人と一匹の『白銀の女神』は隊列を組んで『ミドルグ迷宮』広場に向けて歩き出した。
町の人々から次々と声援が飛んでくる、メンバーの磨き抜かれた装備に朝日が反射してキラキラと輝いていた。
ー・ー・ー・ー・ー
俺たちは今、推定十八階層の地下牢にいる。
迷宮の一階層から石碑で転移してきたのだ。
相変わらず腐臭が漂いそこかしこに小型犬ほどの大きさのネズミが走り回っていた。
「モギュっち! ネズミの駆除よろしく!」
「モギュさん! お願いします!」
「まかせといて! 新しい槍の試し突きにちょうどいいね!」
モーギュストが喜々としてネズミを追いかけ始めた。
すると俺の横に控えていたリサが、素早く矢筒から矢の束を取り出すと、弓につがえ連続で射り始めた。
あっという間にその場のネズミたちが串刺しになっていく、結局モーギュストは数匹しか仕留めることが出来なかった。
「リサ凄いわ! 全部倒すなんてなんて優秀なの!」
セルフィアがリサを抱き寄せ頬ずりをしている、リサは嬉しそうに笑って 喜んでいた。
「リサちゃんひどいよ……、僕の楽しみを奪わないで……」
すっかり気落ちしたモーギュストがネズミから矢を回収して持ってくる。
「クリーン!」
アニーが慌てて矢に魔法をかける、リサはきれいになった矢を矢筒に戻すと、申し訳なさそうにモーギュストに謝っていた。
「リサ! 謝る必要はないわ! こう言うのは早いもの勝ちよ!」
セルフィアがきっぱりと言い切り、リサを抱き寄せモーギュストから隠してしまった。
「別に責めてないよ、ただ飛び道具には流石に勝てないと思って愚痴っただけだよ……」
恐縮したモーギュストが逆にリサに謝ってその場が丸く収まる。
探索を開始した俺達は、なにか見逃しが無いか丹念に調べ始めた。
「駄目でやんすね、やはりこの階には階段はありやせん」
たっぷり一日かけて探索し、ワンさんが入念に壁をチェックしたにもかかわらず十九階層に行くための階段は見当たらなかった。
「やはりここは十八階層ではないのか……、そうなるといったん十七階層に戻って探索のし直しだな」
「え~! また嵐の中に戻るの!? 気が滅入るわ……」
「セルフィア、わがままを言っては駄目よ、みんな嫌なのは同じなんだから」
「わかってるわよ、ちょっと言ってみただけじゃない……」
セルフィアが気落ちして小さくなってしまった。
「みんな聞いてくれ、残念ながらこのフロアーは十八階層ではなかった。これより十七階層に戻り探索のやり直しを行う。外は嵐だと思われる、気を引き締めて探索に当たってくれ」
俺の話を神妙に聞いているメンバー達がうなずいた。
「旦那ちょっといいでやんすか? 探索のことで少し考えていたことがありやす」
「いいよ言ってみて、どんどん意見は聞きたい」
「『ルマンド公国』に旅している間考えていたんでやんすが、この地下牢の上の遺跡より奥の樹海はどうなってるんでやんすかね? まだ先が続いているように思えてなりやせん」
「確かに謎の遺跡の奥に樹海はまだ広がっているね、そっちを重点的に探索すれば案外道が開けるかもしれないよ」
モーギュストも同じことを考えていたようで、ワンさんの考えを支持してきた。
「なるほど、その考え方は筋が通っているな。それじゃ明日からは樹海の奥へ探索の幅を広げてみよう。『コロニー』が見つかったらそこを中心に丹念に探索していこう、それでいいな?」
「あっしの意見を取り入れてくれてありがとうございやす」
「ワンさん、こういう意見はどんどん言ってくれ凄く助かるよ、みんなも遠慮はいらないからな」
仲間達が了解の声を上げていく、明日からは暴風吹き荒れる『深淵の樹海』の探索だ、覚悟を決めて探索しよう。
地下牢から階段を登り謎の遺跡で一晩キャンプをした。
朝になったので扉の前にみんなで移動をする。
扉を開ければそこは『深淵の樹海』、凶悪な天候が支配する魔境だ。
これまでと同じ様に樹海の奥へ分け入ってみれば、案外すぐに『コロニー』が発見できるような予感がしていた。
『魔導雨具』の装着を確認してワンさんに扉を開けてもらう。
途端に遺跡内に突風が吹き荒れて雷鳴が響き渡った。
外は案の定暴風雨、滝のような雨がとめどなく降り、土むき出しの地面を泥の海に変えていた。
号令を発して遺跡の外に出ると樹海の奥へ移動し始めた。
「なんか寒くなってきたわね……」
「確かに寒いですね、息が白くなってきました」
セルフィアとアニーが腕を体に回し寒がり始めた。
アニーのナイスバディーが回された腕で強調されてしまい目が釘付けになる。
「レイン様、目がいやらしくなってますよ、真剣に探索してください……」
胸元を凝視していたのをアニーに気づかれてしまった。
恥ずかしくなって目をそらし、誤魔化すためにメンバーに指示を出す。
「みんな『火神の障壁』付けてみてくれ、それからマントも装備してみよう。何となくこれからもっと寒くなるような気がするんだ」
巾着袋からみんなのマントを取り出し一人ひとりに配っていく、またたくまに冬装備になり寒さも気にならなくなった。
更に奥へ探索を続ける、暴風雨はいつしかみぞれ混じりになって急激に気温が下がってきた。
「旦那! 当たりだったようでやんす!」
ワンさんが指し示す先には見慣れた太い樹幹が見え、地上から二十メートルほど上のあたりにポッカリと空洞が空いていた。
謎の遺跡から樹海の奥へ探索を開始して数時間、待望の『コロニー』、『樹洞』が目の前に出現した。
とうとう『樹洞』を発見した、樹海はこの奥にも続いている可能性が高い。
長期戦になる予感を胸に秘め、大きな樹の下へ近づいて行くのだった。