68.フルパーティー
リサの笑顔を一時的に取り戻すことに成功した。
辛い場所からはすぐ離れたほうがいいだろう、『白銀の女神』は足早に遺跡から離れるのだった。
結局遺跡の石塔を暴くことはしないことになった。
何年か後に大きくなったリサが自分の意志で開けたいと思った時には手伝ってあげようと思う。
村に戻った俺達は村長に事情を話し村を後にした。
旅は順調に進んで予定通りにミドルグに帰ってこれた。
雪が心配だったが『オルレランド王国』はそれほど雪深い国では無いらしく、出発したときと同じくらいの積雪で旅に支障はなかった。
ミドルグに到着する頃にはリサの心の傷もだいぶ癒えて、表面上は普通に戻ったように思えた。
しかし時折眠っている時にうなされるリサを見ると、まだまだ傷が癒えるのは先のことだと思われて、注意深く見守っていかなくてはいけないと思った。
「ただいまサムソンさん」
「おお、おかえりレイン、寒かっただろ? 食堂が温かいから早く温まってくれ」
気遣いができるサムソンさんが俺たちに笑顔で迎えてくれた。
馬車は暖かくて体は冷えていないが笑顔でお礼を言った。
本当のことを言って場をしらけさせる仲間はここにはいない。
各自部屋に戻り、身軽な格好になると食堂に降りてきた。
「サムソンさん、これお土産よ、王都で有名なお菓子の店の看板商品。おいしいから食べてね」
セルフィアがサムソンさんに忘れずにお土産を買ってきた。
嬉しそうにお礼を言ってサムソンさんが受け取った。
「今日から三日は旅の疲れを癒やすために休みにする、みんな羽根を伸ばしてくれ。休み明けは十八階層の再調査だ、どのくらいの期間がかかるかわからないが丁寧な探索になると思う」
「ねえレイン、リサのことはどうするの? 一人で宿屋に残ってお留守番は可哀相だわ」
「そうですね、私が残ってもいいですが『白銀の女神』は少人数ですから、探索に支障がきたしてしまうかもしれませんね」
リサのことをどうするかは俺も考えていたが中々結論が出ないでいた。
確かに宿に一人長期間留守番させるのは可哀相すぎると俺も思う、どうしようか悩んでいたらリサが大きな声をあげた。
「リサも探索に行きたい! 一緒に連れてって!」
置いていかれると思ったのか焦っていて今にも泣きそうだ。
「しかしなぁ……、年端もいかない子供を探索に連れて行ってもいいのだろうか」
「リサはもう戦えるわ、お願い連れて行って」
上目遣いですがり付いてくるリサはとてもかわいらしく、断ることはできそうにない。
「わかったよ、リサも今日から『白銀の女神』の一員だ、メンバーになったからには甘えは無しで行くぞ、覚悟は良いか?」
「わかったわ、リサ頑張る!」
小さな手を握りしめ一生懸命に宣言する。
その可愛い仕草にニヤケそうになるが無理やり真剣な顔をしてうなずいた。
ある程度この展開は予想していた、リサから探索に行きたいと言われたら許可しようと思ってはいたのだ。
それくらいリサの戦力としての腕前は他のメンバーと遜色なかった。
とうとう『白銀の女神』はフルメンバーになった。
六人体制でフルパーティー、一番安定して探索できる人数だ。
パーティークランを運営するという方法もあるが、『白銀の女神』は当分このメンバーで行こうと思う。
「正式メンバーになったからにはリサの装備を強化しようと思う、明日は武器屋と防具屋を回って装備の見直しをするぞ」
「うん! リサ楽しみ!」
ニコニコ顔でとても嬉しそうだ。
「あっしも装備の強化をしたいでさぁ、明日はお供しやす」
「僕も行こうかな、武器の強化をしたいんだよね」
「当然あたしは行くわよ、リサの装備を選んであげるわ」
「私も行きます、連れて行って下さい」
お約束のようにみんなが行くと言ってきた。
本格的に探索する前にみんなの装備を強化するのもいいだろう。
次の日、みんなで斜め向かいの探索者ギルドの脇にある武器屋に向かった。
みんな自分のお目当ての武器コーナーへ行き、思い思いに武器を選んでいく。
俺はリサに付き添い弓矢を中心に武器を選定していった。
「リサは弓以外になにか武器は使えるのか?」
「ううん、解体用にナイフを使ったことがあるくらいよ、それ以外ではないわ」
リサは弓矢以外に興味を示さず様々な弓を試していた。
今の弓はミスリル製でリサのもともとの持ち物だった。
ある意味親の形見なので手放すことはなさそうだ。
他の弓を使いたいか聞いたら、今の弓を下取りに出さないなら使ってみたいと言ってきた。
そこで店の主人に相談していい弓を紹介してもらうことにした。
「うちの一番の商品のこの弓がおすすめですよ」
主人が渡してきたのは魔法がかかった弓矢だった。
魔力を込めると矢に風属性の魔力が宿り、飛距離が出て命中率が上がる品物だった。
(リサには必要ない機能だな、彼女のほうが能力の高い精霊を持っているからな)
リサも弓矢を持って弦を引き絞ってみたりしているが、イマイチなようで表情は冴えなかった。
結局武器は今まで使っていた形見のミスリルの弓をそのまま使い続けることになった。
リサの弓の腕前がそれだけ完成しているということなので納得できる結果だった。
他の仲間はモーギュストがアダマンタイト合金の短槍を新しく購入した。
モーギュストは「全ての武装がアダマンタイト合金になったよ」ととても喜んでごきげんだった。
その他のメンバーは特に欲しいものがなかったらしく今回は購入を見送ることにしたようだ。
次に防具屋へ行く。
リサの装備は普通の胸当てだけなので防御面で心配だった。
この際なので店にある一番良い装備を選ぶことにした。
セルフィアとアニーがリサに色々な装備を着せて吟味している。
弓使いのリサには重装備は無理なので、軽い装備で高性能な物を選んでいった。
まず初めにアニーも買ったミスリル銀糸の鎖帷子を購入した。
軽さと強靭さを合わせ持った魔法装備で、かなりの防御力アップに繋がった。
そして胸当ては精霊の胸当てと言う装備に決定した。
その胸当てをリサが最初見た時、小さな驚きの声を上げた。
どうしたのか聞いてみたら、胸当ての周りを精霊が飛んでいると教えてくれた。
店主に確認するとだいぶ前に入荷した一点物の魔法装備で、着る人を選ぶらしい。
具体的には防具に認められない人が装着すると普通の胸当てでしか無く、取るに足らない防御力になる。
しかし相性が良い場合様々な恩恵が装備者を敵から守ってくれるという癖のある装備だそうだ。
リサが装備すると相性がバッチリで、精霊たちが喜んでいるとリサが言ってきた。
全属性の精霊たちがリサの周りを飛び回り、リサを守り始めたらしい。
買うことが決まるとリサは喜び満面の笑みを湛えて俺に抱きついてきた。
その途端、俺の体は妙な感覚に陥り思わずリサから離れてしまう。
リサに聞いてみると精霊が嫉妬して俺を遠ざけようと騒ぎ出したらしい。
リサが精霊に言い聞かせるとおとなしくなってそれ以降は何も感じなくなった。
精霊という未知の生命体を操るリサに、驚きと頼もしさが心に湧き上がった。
その他防具屋ではワンさんが新しい装備を購入した。
幻影の革鎧という名前が凄くかっこいい装備だ。
シーフ職のワンさんにぴったりな装備で、その装備を着ると敵が姿を認識しづらくなるらしい。
完全に見えなくなるわけではなく、ほんの少し位置がずれて見えたり、一瞬だけ見えなくなったり、敵が着ていたら厄介な装備だった。
もちろん防御力は今まで着ていた魔法の革鎧より強固に出来ていて、物理攻撃を防ぐ結界魔法が付与されていた。
更に魔法鉄鋼を所々(ところどころ)に貼り付けた凝った作りになっていて、重量軽減の魔法までかかっていた。
「これで持ち金が全てなくなりやした、また一から稼がなくてはいけないでやんす」
スッカラカンになったにもかかわらす嬉しそうに語るワンさんは、今回の装備を前々から狙っていたそうだ。
満足そうなワンさんを見て自分のことのように嬉しくなってしまった。
中々の戦力アップを果たしたメンバー達を見て、これから始まる探索に期待が高まる。
早く迷宮に潜りたいという気持ちがふつふつと沸き上がってきた。