67.リサの笑顔
リサの住んでいる村はやはり過去の時代のもので既に滅んでいた。
絶望するリサは泣き疲れて眠ってしまった。
リサをテントに寝かせ仲間達で今後のことを話し合うことにした。
焚き火を囲いそれぞれの意見を順番に言っていく。
「リサが取り乱す事は予想ができたことなのに、事前に何もしなかったのは俺の責任だ済まなかった」
「旦那だけが悪いわけではありやせん、みんな同罪でさぁ」
「そうよ、自分を責めては駄目よ、これからのことを考えたほうがいいわ」
「リサちゃん心配ですね、心に傷が残りそうです」
「僕も悲しくなってしまうよ、どうにかして元気づけてあげられないかな」
みんな悲しそうな顔をして、悩んでいるようだ。
「旦那、これからどうするんでやんすか? もうここにいても辛いだけでやんす、ミドルグに帰りやしょう」
「そうだな、リサが起きてから聞いてみるが、早々にここを離れたほうがいいかもしれないな」
「リサちゃんこれからどうするんですか? まさか孤児院に預けるなんて言わないですよね?」
アニーが心配そうに聞いてくる、俺の中でその答えは既に出ていた。
「もちろんそんなことはしないよ、リサは責任を持って俺が育てる。もう決めたことだよ、これは誰にも任せることはない」
俺の強い意志を聞いてメンバー達が一様にホッとした表情を顔に出した。
「レインだけが育てるなんてずるいわ、あたしもリサを育てるわ」
「僕だってリサちゃんのことが心配だよ、一緒に見守らせてほしいよ」
焚き火を囲んでいる全員がリサの親代わりになりたいようだ。
「みんなの気持ちはわかった。リサはみんなで育てていこう、そのほうがリサも寂しい思いをしないと思う」
ただ座っていてもいろいろ考えてしまう、アニーとセルフィアにリサを頼み、モーギュストに周辺の警戒を頼んだ。
俺とワンさんで遺跡の中を探索することにした。
「しかしこの遺跡の荒れようからして、どのくらい昔のものか見当も付きやせんね」
「そうだな、百年二百年では効かなそうだよ、もしかしたら千年単位で昔なのかもしれない」
遺跡の入り口に戻って壁の内側に沿って遺跡内部を調査していく。
何かの建物だった残骸がそこかしこに埋もれているが、風雨に侵食されていて何の施設なのか皆目見当もつかなかかった。
結構な広さの遺跡を一周してみたが、何も収穫はなく広場に戻ってきてしまう。
残すは中心にそびえる石塔のみとなり、開いた形跡のない扉の前で開けていいものか思案していた。
モーギュストが俺たちに近寄ってくる。
探索の結果を伝えると残念そうにうなずいてまた警戒に戻っていった。
「ワンさん、この塔を暴いていいと思うかい? きっとここは古代エルフ族の聖地みたいなところだと思うんだよ」
「そうでやんすね……、シーフとしては挑戦したいでやんすが、リサ嬢のことを思うとそっとしておいたほうがいいような気もしやすね」
「今は止めておこうか、それとなくリサに聞いてみて中に入りたいと言った時はお願いするよ」
「わかりやした」
辺りはもう真っ暗になっている。
広場にポツンと焚き火が浮かび上がり、俺たちを呼んでいるようだった。
あれだけ動いたのに食欲はあまり湧かなかった。
しかし食べないことには体力が持たないのも事実だ。
なにか美味しいものでも作って少しでもリサを励まそうと足早にキャンプに戻っていった。
キャンプに戻るとリサが起きていてアニーに抱っこされていた。
泣きはらした目が真っ赤に充血していて頬には未だに涙の跡が付いている。
「リサ起きたのか、今なにか美味しいものを作ってあげるからね」
テーブルにいろいろな食材を出していく、市場で買った新鮮な野菜や肉が次々と出てきてテーブルがすぐいっぱいになってしまった。
「旦那、出し過ぎでさぁ、肉がテーブルから落ちそうでやんす」
ワンさんが慌てて肉をテーブル戻していく、知らぬ間に考え込んでしまっていたようだ。
「すまないな、少しぼーっとしていたよ」
誤魔化すために苦笑いをしながら巾着袋に食材を戻した。
いつの間にかリサが俺の横に来てジッと見上げていた。
「どうしたんだリサ、お兄ちゃんの顔になにかついているのかい?」
「お兄ちゃん……、さっきはごめんなさい、リサ凄く泣いてしまって困らせてしまったわ……」
気丈にも俺を気遣うリサがいじましくて思わず抱きしめてしまった。
「いいんだ、いいんだよリサ、もっとわがままを言ってくれて良いんだ。これからもずっと一緒だよ、どこにも行かせない、一緒にいつまでも暮らそう」
「うん、ありがとう」
まだ本当は辛いだろう、しかし他人を気遣って我慢しているリサがとても愛おしかった。
気を取り直して今夜はバーベキューにすることにした。
確かリサはまだバーベキューをしたことがなかったはずだ。
みんなに聞くと諸手を挙げて賛成をしてくれて、アニーやセルフィアがリサにバーベキューのしかたを教えていた。
「今日は残してもいいから盛大に焼きまくるぞ! みんな覚悟して食べてくれよ!」
張り切って肉を網の上に並べていく、肉好きのセルフィアが途中から参戦してきて俺から肉の皿を奪っていった。
どんどん網の上に肉を並べていく、塩コショウが甘かったらしくセルフィアが追加で下味をつけていた。
「肉はしっかりと味がしたほうが好みだわ、あたしが肉を担当するからレインは魚介を焼いてね」
ステーキ奉行に追い出され、もう一つの網の上に貝やエビを乗せていく、しかしまたしても途中でアニーとリサにエビの皿を取られてしまった。
「レイン様、リサにバーベキューの焼き方を教えますのでここはお任せ下さい、レイン様はなにか違うことをしてもらえますか?」
嬉しそうにエビを網の上に乗せているリサをアニーが後ろからサポートしている、またもや追い出されてしまった俺は最終手段に出た。
「ワンさん! いまから『ラーミン』を作るよ! 手伝ってくれ!」
「まってやした! あっしで良ければお手伝いしやす!」
「僕も手伝わせてよ、ちょっと興味があるんだ」
寸胴鍋を取り出して水と下処理した鶏ガラを煮込んでいく、水が沸騰した頃アクをすくい取っていろいろな野菜を入れてゆっくりと煮ていった。
「肉が焼けたわよ! みんな取りに来て!」
ステーキ奉行からお声がかかった。
一斉に肉の周りにメンバーが集っていく、リサも嬉しそうにお皿を持って網の前に立っていた。
エビがいい具合に焼けているぞ、そろそろ取り出したほうが良さそうだな。
おせっかいかも知れないが、一番いい焼き加減で食べてほしいので、エビと貝を網の上から救出する。
「みんな、エビと貝も食べごろだよ取りに来てくれ」
俺の声を聞いたメンバー達が一斉に群がりエビと貝をさらっていった。
テーブルに着きワイワイと騒ぎながら美味しそうに食べていく。
ワンさんがリサにエビの殻の剥き方を教えている。
興味深そうに見ているリサは悲しみを一時忘れているようで、ニコニコ笑っていてこちらもつられて笑顔になった。
セルフィアがステーキ奉行の職務を遂行しておかわりの肉を網の上に並べていく。
付け合せの野菜やキノコまで並べ始め、技術の進歩をうかがうことができた。
こちらも負けてはいられない、ドンブリに王都で有名な『ラーミン』の店の秘伝のタレを入れていく。
人数分入れたら鍋からスープを注いで、茹でていた麺を素早く入れた。
トッピングは焼豚に半熟卵、葉物野菜の湯がいたものを入れ、シンプルな『塩ラーミン』が完成する。
「『ラーミン』できたよ! 食べたい人は取りに来てくれ!」
「あっしが取りに行きやす! 待っていてくだせぇ!」
戦闘している時より素早くワンさんが駆けつける、次々と『ラーミン』をテーブルに運びみんなの前に置いていった。
もちろん『ラーミン』は大好評だ、またたくまにお代わりコールが湧き上がり、慌てて追加を作る羽目になった。
椅子に腰掛けみんな満足そうにまったりとしている。
最後にデザートとして、甘いシロップ漬けのりんごのような果物をみんなに配った。
嬉しそうに食べるリサは幸せそうな笑顔をしていた。
(やっぱり美味しいものは人を笑顔にするな、なるべく美味しいものを食べさせてリサを元気づけてあげよう)
リサを見ながらこれからのことを考える、辛い思い出しかない遺跡は早く撤退してミドルグに帰ろう。
方針を決めてみんなに伝えると、全員が賛成をしてくれて話がまとまった。
「お兄ちゃん、一緒に寝よ……」
リサが寂しそうに俺の手を握ってきた。
今日ぐらいは彼女の願いを叶えてあげてもいいかな。
「わかったよ今日は一緒に寝ようか」
リサが満面の笑みで俺に抱きつく、お姫様抱っこをしてテントに運んであげると、とても喜んで首に抱きついてきた。
リサを真ん中にして四人と一匹でテントで眠る。
大人数になってしまって少々きついが、嬉しそうに微笑んで眠るリサを見ながら俺も夢の中に旅立った。