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66.リサへの想い

 エルフの村を訪れた『白銀の女神』一行は、村長にいろいろ教えてもらえることとなった。




「そろそろ話を聞かせてもらってもいいですか? 『エレンの森』と『エレニア神殿跡』の関係を聞かせて下さい」


 一息ついたので村長に話をうながした。


「わかりました、そもそも『エレンの森』というのは大昔のこの地方一帯の事を指しているのです。そして『エレニア神殿跡』とはそこに栄えた古代都市の成れの果てなのですよ」


 予想していたのでそれほど驚かない、リサは混乱して俺たちの顔を忙しく見ていた。

 アニーが気を利かせてリサを抱き寄せる、辛いかもしれないけれど彼女にも村長の話を聞かせようと思った。


「今では『エレンの森』と呼ぶ者はこの村でもいません、それほど昔の地名なのですよ。『エレニア神殿跡』には村から案内を一人出しましょう、それほど遠くないので日帰りで戻ってこれますよ」


「そうしてくれると助かります。明日現地に行きたいと思います」


「今日はうちに泊まっていって下さい。何もおもてなしはできませんが、この村には宿屋などはありませんので野宿よりは快適ですよ」


「ありがとうございます、これはほんの気持ちです受け取って下さい」


 銀貨の入った小袋をテーブルの上に置く、中身を確認した村長は恐縮して頭を下げてきた。




 あくる朝、村の入り口の前に『白銀の女神』一行が集結していた。

 全員が完全武装をして森の探索に備えていた。

 案内人は門番の老人でムントさんという名前だった。

 普段は周辺の森で狩猟を行っている狩人だそうだ。


「ムントさん今日はよろしくおねがいします」


「あなたたち一体何者なんですか……、そんなすごい装備をして……」


 開いた口が塞がらないようで言葉少なく俺を見ている。


「俺達は『オルレランド王国』で迷宮を調査する探索者をやっているんですよ。深く潜るにはこのくらいの装備をつけなくては駄目なんです」


「そうなのですか……、あなたたちからしたらこの辺の魔物なんか大したことがないだろうから適当についてきてください」



 ムントさんに先導されて深い森の中を『エレニア神殿跡』まで歩いていく。

 中々険しい森だったが『深淵の樹海』には程遠く、『身体強化』されたメンバー達はムントさんに余裕でついて行けた。


「あなたたち体力もバケモノ級に凄いですね、私のほうがバテてしまうよ……」


 休憩で座った石の上で汗だくでぼやくムントさん。

 メンバー達は誰一人として疲れている様子はなく、涼しい顔であたりを見回している。


「探索者は体力が命ですからね、日頃から足腰は鍛えているんですよ」


 そう言ってスポーツドリンクを差し出す。

 一口飲んだムントさんはそのうまさにビックリしているようだった。



『エレニア神殿跡』に近づくに従ってリサが落ち着き無くそわそわし始めた。

 しきりにあたりを見回し突然駆け出して樹木を見上げたりしている。


「リサ、どうしたんだ、なにか気になることでもあったのか?」


「ううん、なんでもないわ……」


 表情は明らかに暗く何かを発見した感じだった。

 本人が言いたくないのであればそっとしておくことにしよう。



 それから一時間ほど歩きちょうど昼時になった頃、俺達は『エレニア神殿跡』に到着した。

 外観はまさに遺跡で、崩れ落ちた壁の残骸が周りの木々に侵食され今にも埋もれてしまいそうだ。

 かつてはそこそこ大きな都市だったようで、崩れた壁がどこまでも続いている。

 遺跡の中も同じように木々に覆われていて探索するのは骨が折れそうだった。

 ちょうど門に当たる所でムントさんが振り返り俺たちに話しかけてきた。


「ここが『エレニア神殿跡』です。神殿と言っていますが大きな街が崩れ落ちたところだと思ってもらっていいです。街の中心にある神殿が名前の由来です」


 両開きの石の門は相当な時が経過していて片側の扉が既に地面に倒れている。

 かろうじて残っている方の扉には、古代エルフ語でなにか書いてあるようだった。

 しかし、『異世界言語』持ちの俺でも解読することは出来なかった。


「嘘だ~、なんで、おかしいよ!」


 朽ちた門を見た瞬間、突然リサが走り出した。

 俺の横をすり抜け遺跡の中へ侵入していく。

 あっという間に木々の間に消えていってしまった。


「ワンさん! リサを追いかけてくれ! 俺もすぐ後に続く!」


「わかりやした!」


 素早い身のこなしでワンさんがリサの後を追って遺跡の中に消えていった。


「二次遭難の恐れがあるからセルフィアたちはここで待機! ムントさんもここで待っていて下さい!」


「リサどうしちゃったの!? ものすごく慌ててたわ!」


「レイン様早くリサちゃんを追いかけて下さい!」


 動揺した二人がリサを心配して騒ぎ始めた。


「モーギュストあとは頼んだぞ!」


「わかったよ、まかせといて!」


 遺跡に向き直り『身体強化』を強めていく、勢いをつけてやぶの中に突入していった。



 木々をくぐり抜け小枝をへし折りながら強引に進んでいく、目指すは遺跡の中心の神殿跡だ。

 俺の勘がリサは神殿跡に向かったと言っている。

 事前に知らせておけばこんな事にならなかった。

 自分の浅はかさが嫌になってしまうが、今はグジグジ考えているときではないと無理やり考えるのをやめた。


 周りに魔物の気配は感じられない、所々にワンさんが強引に通り抜けたと思われる痕跡が残っていた。

 どれ位走っただろうか、体感ではそろそろ中心部についてもおかしくない頃だ。

 そう考えたその時、唐突に視界が開け広場が目の前に現れた。


 その広場は綺麗に舗装してあり、草木が侵食した痕跡は全く無かった。

 眼前にはうず高くそびえ立つ塔があり、リサが扉の前で泣き崩れていた。

 その横にはワンさんが呆然として立っている。

 俺に気づいたワンさんが力なく手を振ってきた。

 とりあえず安全は確保されているようで一安心した。

 

 近寄るたびにリサの泣き声が大きくなってきて、いたたまれない気持ちになった。

 隣りにいるワンさんも同じ気持ちらしくしっぽが力なく垂れ下がっていた。


「リサ……、いきなり飛び出しては危ないよ……」


「ううう、なんで……、皆んなどこへ行っちゃったの……」


 リサの隣にしゃがみ肩を抱き寄せる、リサは大粒の涙を浮かべならら俺を見上げた。


「リサはこの場所を知っているわ、ここはリサが住んでいた村なの……」


「間違いないのか?」


「間違いないわ、この塔を忘れるはず無いもの……、村の様子は大きく変わってしまっていたけどこの塔だけは覚えているわ。皆んなどこへ行ったの……」


 泣き崩れるリサにどの様に声を掛けていいかわからずに、その場で固まってしまう。

 遺跡は放棄されてから相当に時間が経っており、ここに誰かが住んでいることがないのは一目瞭然だった。


「ワンさん、すまないがみんなを呼んできてくれないか」


「わかりやした、行ってきやす」


 どこかホッとした感じでワンさんが返事をする。

 彼としてもどうしたらいいかわからず戸惑っていたのだろう。


 しばらく経つとリサが顔を上げ俺を見上げてきた。


「お兄ちゃん……、お兄ちゃんはこの事を知っていたの? リサの村がもう無くなってしまったことわかっていたの?」


 真っ直ぐに見つめる瞳は悲しみにあふれていて、俺はいたたまれなくなってしまった。


「いいや、そうかもしれないとは思っていたけど確信はなかったんだ、黙っていてごめんよ……」


「リサのお父さんもお母さんも本当にもういないの? リサは一人になってしまったわ」


「リサは一人じゃないぞ、俺やみんながいるじゃないか、決して一人にはしないよ」


「でもみんなお父さんお母さんがいるんでしょ? リサにはもういないのよ!」


「リサ……、お兄ちゃんも一緒だよ、この世界にお兄ちゃんの知っている人はリサたちしかいないんだ、母さんにも父さんにももう会えないんだ」


 いつの間にか俺も泣いていた。

 親父やお袋の顔が浮かんできて泣けてきたのだ。

 暫くの間リサと抱き合って静かに泣いていた。

 この広い異世界で境遇の似ているリサがとても大事に思えた。




「レインさ~ん! 大丈夫か~い?」


 モーギュストが木々を切り開きながら広場に現れた。

 心配した彼は俺をみるなり大きな声で呼びかけてきた。

 次々と森の中から仲間達が現れる、みな一様に心配顔で歩くスピードも心なしか早かった。


 手を大きく振って合図をする。

 仲間達の顔がホッとした顔になり、足取りも少し軽くなったような気がした。

 腕の中のリサは泣きつかれて眠ってしまったようだ。

 起きたらまた悲しむだろうが、今はゆっくり寝かせておいてあげようと思った。



 リサをアニーに渡しみんなに事情を説明していく、みんな涙を流し俺の話を聞いていた。

 リサはアニーの胸に顔を預けぐっすりと眠っているが、時折うなされて顔をしかめていた。

 アニーが優しく頭を撫ぜてあげると、安心したのか安らかな顔に戻り規則正しく寝息を立てていた。


 ムントさんに無理を言って一晩遺跡でキャンプすることを告げる。

 先に帰ってもらって村長に事情を話してほしいと言うと、快く引き受けてくれて足早に村へ戻っていった。

 静かにキャンプの用意をして、リサが起きるのを待った。





 リサの悲しい顔を見て心が傷んだが、彼女を守っていくという思いも同時に芽生えた。

 俺がリサの親代わりになると心に強く誓うのだった。


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