表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/280

65.エルフの村

 美味しい料理を食べて温泉にも入り、無事首都『ロマド』向けて出発することができた。

 俺たちの旅もそろそろ目的地へ到着する。



 険しい山道を登りきると突然巨大な壁が現れた。

 山肌に張り付くように街並みがあって、山頂には大きな城があり雲に届くほどの尖塔がそびえ立っていた。

『ルマンド公国』公都『ロマド』、人口二万人程度の国の首都としては小さい山岳城塞都市だ。

 堅牢な城壁は切り立った崖の上に建てられており、万が一攻められても攻略されるとは思えないほどの高さを誇っていた。


『ロマド』の入口は南北に一門ずつ、それも両サイドが崖になっていて大軍で攻めるには狭すぎる道しかつながっていない。

 その細道をワンさんの操る馬車がゆっくりと登っていった。


 門で検問を受ける、『オルレランド王国』の貴族だと分かると態度が軟化して丁寧に扱われた。

 街なかは石畳が敷き詰められていて家も石材建築だ、見渡す限りの石の造形物に圧倒されてしまう。


 街を歩く人々は皆職人のような格好をしている。

 革のエプロンに革の手袋、頭にはバンダナを巻き、動きやすい格好をしていた。

 そしてもう一つの集団は俺より頭一つ分ほど背が低く、ビア樽のような体型、顔を土埃で真っ黒にしている。

 丈夫そうな革のズボンに革のシャツ、頭にはヘルメットのようなかぶりものをしていた。


 最初の人達は人間種で次はドワーフ、二種類の人種が共存している街、それが『ロマド』だった。

『ロマド』の主要産業はふんだんに取れる鉄を材料にした武器や防具、器用な手先から生まれる高級家具や石細工の調度品など、多種多様な品目に及んでいた。

『ロマド』観光などをしたらとても楽しそうだが、俺たちの目的はリサの故郷の発見だ。

 情報をすばやく収集したら早々に現地へ行くことに決めていた。


「ワンさん、『ロマド』ではあまり目立ちたくない、派手な宿は避けて普通の宿に行ってくれ」


 馬車の小窓から指示を出し、これからの日程を考えていく。

 まず図書館は外せない、それと冒険者ギルドにも顔を出しておこう。

 ワンさんには酒場を中心に情報を集めてもらたいな。

 やることが結構あり忙しい滞在になりそうな予感がした。


 宿はすぐに見つかり普通の部屋に泊まる。

 目立ちたくなかったので、宿では名乗らずただのレインで宿泊した。

 馬車が立派だから宿屋の主人は俺が只者ではないと気づいているだろうが、名乗らない以上下手な詮索はせず普通の客として扱ってくれた。


 次の日から精力的に走り回った。

 俺と女性陣、ワンさんとモーギュストの二手に分かれて情報収集にはげむ。

 最初に行ったのは図書館で、街の歴史や伝説のたぐい、そして『エレニア神殿跡』の情報を調べ上げた。

 三人で手分けをして調べたので一日で調べ終わる。

 もちろんリサも俺の手伝いをしてくれて役に立っていた。



 次の日はギルドに行く、ギルドマスターに会って挨拶をして『エレニア神殿跡』の情報を聞き出した。

 ワンさんと合流して情報の共有を図る、すべての情報が出揃った所で作戦会議を開いた。

 俺の部屋にみんなが集まる、各自情報を取得するため活躍したのでやる気に満ちていた。


「みんなお疲れ様、二日間の情報収集は問題なく終えることができた。基本情報をまず俺が説明するので聞いてほしい」


 真剣な表情でみんな俺を見てきた。


「先ずリサの故郷に関して新たな情報は取得できなかった。『エレンの森』があるだろうと思われる周辺の村などを回って、引き続き情報収集に努めようと思う」


 リサが下を向いて泣きそうになっている。

 アニーが優しく抱き寄せてなぐさめていた。


「リサ、まだ希望が無くなったわけではないのだから、気を強く持たなくては駄目だよ」


 極力優しく語りかけ、リサを元気づける。


「うん、わかったわ」


 リサは気丈に振る舞うが、目には涙が溜まって今にもこぼれそうになっていた。

 しかたがないので次の話題に移ることにする。


「『エレニア神殿跡』の情報はある程度集めることができた。『ロマド』より西に馬車で一日、道がつながっている一番辺境の村の近くに『エレニア神殿跡』があることがわかった。」


「食料やその他の備品は全て俺が用意できる、明日一番に街を出て現地へ向かうことにする」


 みな真剣に話を聞いていてた。

 その後は各自知り得た情報を発表していく、情報の共有が終わると明日に備えて早めに寝るために、仲間達は各部屋に帰って行った。


 朝一で『ロマド』を出て辺境地区へ出発する。

 一日かけて目的地の村へ到着した。

 馬車から降りて村の入口に近付いていく。


「こんにちは旅のお方、このような辺境の村へどのような御用ですか?」


 村の門番の老人が丁寧に尋ねてきた。

 容姿は整っていて痩せ型、特長的な細長い耳が目の前の老人がエルフだと言うことを物語っていた。


「この先の『エレニア神殿跡』に行こうと思っている。村の長老に話が聞きたいと伝えてくれないか?」


 銅貨が詰まった小袋を門番に渡す、受け取った門番は恐縮しながら村の中へ消えていった。

 しばらくすると痩せた初老の男がさっきの門番をつれてやって来た。

 男達の後ろには俺たちを一目見ようと子どもたちが遠巻きにあとをついてきている。

 全員がエルフで、ここがエルフの村だということがわかった。


「こんにちは私がこの村の村長です。『エレニア神殿跡』に行きたいということですが、どのようなことを聞きたいのですか?」


「実は『エレンの森』というところに行きたいんですよ。いろいろ調べたら『エレニア神殿跡』という所が関係ある場所だとわかったのでここに来ました。」


「『エレンの森』ですか……、また古い名前をよく知っておいでですね。立ち話もなんですから私の家に来て下さい。何もありませんがお茶でもごちそうしますよ」


 村長を名乗るエルフは複雑そうな顔をして俺たちを自分の家に招待した。

 ワンさんとモーギュストに馬車に残ってもらい、残りのメンバーで村長宅へ向かう。

 遠巻きに見ている子どもたちは、俺と目が合うと嬉しそうに手を振ってきた。

 こちらも笑いながら手を振ってみる。

 すると子どもたちは嬉しそうにはしゃいで家の陰に隠れてしまった。


(皆んな恥ずかしがり屋だな、まるでリサを見ているようだ)





 村長の家についていくと、立派な平屋の木造建築が目の前に姿を現した。

 家の中へ通されて応接間に案内される。


 「いまお茶を入れてきますからそこに腰掛けて待っていて下さい」


 村長が部屋を出ていく、丹念に磨き上げられた家具に座って戻ってくるのを待っていた。


「素敵な家ですね、大事に住んでいるのがよくわかります」


 アニーはエルフの建築物がお気に入りのようだ、素朴で質素な木造建築はアニーの趣味に合っているらしい。


 「私はもっと派手なのがいいわね、だから村から出てきたんだから」


 刺激がほしいセルフィアは村の生活が単調すぎて我慢できなかったみたいだ。

 リサが部屋をキョロキョロと見て落ち着かない。


「リサどうしたんだ、なにか気になることでもあるのか?」


「なんだか凄く懐かしい気がするの、まるで村に帰ってきたみたいよ」


 戸惑いと嬉しさの混ざったような顔をして俺を見てくる。

 同じエルフ族ということでなにか共通する要素があるのかもしれないな。



「おまたせしました、どうぞお飲み下さい」


 村長は一人で住んでいるそうだ、なんでも一人でやっているのでお茶の入れ方も上手だった。

 独特の香りのするお茶が皆んなの目の前に置かれていく。

 リサがお茶を見た瞬間、明るい声で叫んだ。


「モーフィーだわ!」


「お嬢ちゃんよく知ってるね、これはこの辺だけで飲まれている珍しいお茶だよ」


 見た目はまさにコーヒーで、香りもどことなく似ていた。

 こちらでは蜂蜜を入れて飲むようでテーブルにははちみつ入りの小瓶が置かれていた。

 村長がリサのコップにはちみつを入れている、入れてもらったリサは嬉しそうにさじでかき混ぜるとフーフー息を吹きかけながら少しずつ飲み始めた。


「おいしい! お父さんが入れてくれた味と同じね」


 喜んで飲み始めるリサを見て俺も飲んでみようと口をつけた。

 味は麦茶に近いかもしれない、独特のエグミが舌の上に残って飲み慣れなければおいしいとは感じられそうになかった。

 蜂蜜を少しだけ入れてもう一度飲んで見る、するとエグみが抑えられてとても美味しくなった。


「そろそろ話を聞かせてもらってもいいですか? 『エレンの森』と『エレニア神殿跡』の関係を聞かせて下さい」





 村長に頭を下げて話を聞かせてもらう。

 何となくリサが悲しむ内容になるような気がして悲しい気持ちになった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ