60.他国へ
リサの故郷はなにかおかしい、現代には存在していないのかもしれない、真相を確かめるべく旅する覚悟を決めた。
「ギルド長、今日は一人で来ましたよ」
「おお、そうか今日はゆっくりしていけるのか?」
「ええ、十八階層を少し見てきたので報告しますよ」
「おお! 楽しみじゃな、お主から貰った火酒がまだ少し残っておるから一杯飲みながら話すぞ」
「ギルド長、もしかして一樽全部飲んでしまったんですか? 体壊しますよ?」
心配になって思わずツッコミを入れてしまった。
「お主はドワーフ族という種族のことをなんにもわかっとらんな、ワシらにとって酒は燃料なんじゃ、飲めば飲むほど元気になるんじゃよ」
(やっぱりギルド長はドワーフだったのか、そうじゃないかと思っていたんだが聞きそびれていたんだ。これでようやくモヤモヤが取れたな)
ドワーフ族とわかれば話は違う、ギルド長の目の前に、火酒の大樽を二樽出した。
「ドワーフ族の特性は知っています。体を壊さないならもっと飲んで下さい」
ドワーフと言う種族は酒への耐性があり、文字通り水のように酒を呑むのだ。
酒で体を壊したドワーフの事を聞いたことがない俺は、思う存分ギルド長にお酒を飲んでもらうことにした。
「おおおお! なんと! まだあるのか! ワシは迷宮で死ななくてよかった!」
泣きながら樽と俺の足を抱え込み泣きじゃくるギルド長に、引きまくった俺はギルド長の手をどけようと手を出したが、逆に抱きしめられてしまった。
「やめてください~、そんな趣味はないですよ! どいて下さい」
『身体強化』を発動してギルド長を剥がそうとするがびくともしない、嬉しそうに泣いているギルド長は『身体強化』を使っているようだった。
(なんだと~、ギルド長はスキル持ちだったのか、どおりで宝箱の大爆発から生還できたわけだな……)
相手が『身体強化』持ちならもう諦めるしかない、ギルド長が泣き止むまで身を任せた。
「この樽はまた違う香りがするぞ! 樽によって微妙に風味が変わるのか?」
泣き止んだギルド長は三樽全部開けて火酒をグラスに注いで利き酒を始めた。
落ち着くまで待ってから十八階層のことを詳しく話していく、終始ごきげんなギルド長はニコニコと話を聞いていた。
「ギルド長、大陸の西にかつて『エレンの神域』と言う、ハイエルフの王国があったそうです。しかし今は深い森の中で『エレニア神殿跡』という遺跡になっているそうです。なにか知っていることがあれば教えて下さい」
「その話はワシも知っておるぞ、『エレニア神殿跡』とはかつて栄えたエレニアという国の、滅んだ跡のなれの果てじゃな」
「なるほど……、話を戻しますがリサの故郷はもう無いのですね?」
「『エレニア神殿跡』の周りは深い森じゃ、そこにはエルフたちもたくさん住んでいるぞ、しかしお主が言ったハイエルフの王国など聞いたことはないな」
「その『エレニア神殿跡』というのはどのくらい離れているんですか? メアリーさんは『ルマンド公国』と言う所にあると言ってました」
「その通りじゃな、隣国の『ルマンド公国』に『エレニア神殿跡』はあるのじゃ、比較的友好的な国じゃから行くのは難しくないぞ」
「馬車で行ったらどのくらいかかりますか?」
「三週間あれば行けるじゃろう、それほど遠い国ではないぞ」
「ギルド長、俺たち『エレニア神殿跡』に行ってきます。どうしても自分たちの目でリサの故郷を確認しておきたいんです」
「そうか、また長い旅になりそうじゃな、気をつけて行って来い」
「はい!」
ギルド長が立ち上がり執務机の方に歩いていく、机の後ろに飾ってある鎧から小手を外して持ってきた。
「これはワシが現役時代に愛用していた剛力の小手じゃ、おいしい火酒のお礼じゃ」
俺はありがたく頂いて腕に装着する。
小手は俺の腕にピッタリの大きさになる、力が体中にみなぎり筋力がアップした。
「その小手は『身体強化』に反応して力を倍加する魔装具じゃ、今のお主なら使いこなせるじゃろう」
「ありがとうございます、行ってきます」
ギルドを出ると雪がちらついていた。
季節はとっくに冬になっている、鉛色の空を見ながら宿屋に戻っていった。
宿屋に戻って仲間達に報告する。
「……と言うわけで『ルマンド公国』に行くことになった。出発は準備ができ次第、各自準備を早急に終わらせてくれ」
「あたし王国から出るの初めてなの! すごく楽しみだわ!」
「セルフィア、遊びに行くわけじゃないでしょ、浮かれているとひどい目にあうわよ」
「わかってるわ、旅が始まったらちゃんとするわ」
(また二人のじゃれ合いが始まったな、ほっとくのが一番だ)
「旦那、また買い出しに行きやしょう、掘り出し物の魔道具があるかもしれやせん」
「僕も行こうかな、鎧を改造するパーツがほしいんだよ」
「リサも行きたい」
「よしみんなで行くか、冬の旅支度をしなくてはいけないから明日は買い出しだな」
じゃれ合っていた二人がこっちを見て固まった。
「あたし達も連れて行って!」
「私達も連れて行って下さい!」
駆け寄ってきて抱きつかれた、逃げる間もなくサンドイッチされてしまう。
「大丈夫だよ、連れてくからどいてくれ」
ワンさんとモーギュストが苦笑いをしている。
「リサもくっつく!」
とうとうリサが二人のマネをして俺の腰に張り付いてきた。
両脇からセルフィアとアニー腰にリサ、三人に抱きつかれ暖かいけど苦しい冬のひとときになった。
次の日、仲間達と久しぶりに市場に買い出しに行った。
まず最初に寄ったのは衣服を売る露天でリサの洋服を買い揃えた。
可愛い妹のようなリサの服をセルフィアとアニーが嬉しそうに選んでいく、リサは着せ替え人形のように取っ替え引っ替え試着させられて目を回していた。
たっぷりと時間を掛けて衣服を買い揃える。
全て古着だがリサが着ると、とても中古の服とは思えないほど似合っていて、とても可愛かった。
更に市場でいろいろな食材を買い漁っていく、肉屋の前でセルフィアとアニーがしきりに肉を買えと言ってきたので、かなり大量に買う羽目になってしまった。
セルフィアが念仏のように「ステーキ、ステーキ」と言ってニヤケている。
その横では鶏肉を食い入るように凝視しているアニーがいてちょっと怖かった。
その他に錬金術師の店に行ったり、冬用の備品を買い揃えたり久しぶりに楽しい一日になった。
リサの笑顔を見ることが出来たので今日はいい一日だった。
明日はどうしても行かなければならない所がある。
メンバー達とよく話し合ってから行くことにしようと思った。