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57.三人目……?

 リサを地上に連れて帰るために危険な探索を開始した『白銀の女神』は、『地下墓所(カタコンベ)』で夜の悪魔たちとの初の戦闘におちいっていた。




「みんな覚悟は良いかい? 悪魔たちが現れだしたよ」


 モーギュストの報告にメンバー達に戦慄が走る。

 暗い通路の先に青白い人魂ひとだまが出現し始めた。


「聖水を武器にふりかけたな? まだのやつはすぐかけるんだ、普通の武器ではダメージすら通らないぞ」


 図書館で調べた知識によれば、『地下墓所』の夜の悪魔たちはアンデッドの上位種だそうだ。

 物理攻撃はほぼ効かず攻撃力も普通の魔物と比べると桁違いに強い。

 時間配分を間違えた探索者たちは、悪魔たちによって全滅させられるそうだ。


「デュラハンでやんす! やつの防御力はあなどれやせん!」


 人魂が実体化をしていく、そこに現れたのは全身鎧フルプレートアーマーに包まれ大盾を持ち、片手にロングソードを持った魔物だった。

 そして驚くべきことに兜がなく、そこにあるはずの頭部が見当たらなかった。


「ヤツは頭がありやせん、それだけ急所が少ない魔物でやんす」


 デュラハンは俺たちを敵と定めジリジリと近寄ってきた。

 スキだらけで一目散に襲いかかってくるスケルトンと違い、デュラハンは慎重に攻めてくる、それだけでも手強い敵だということがわかった。


「僕と力比べをするつもりだね、受けて立つよ」


 モーギュストもゆっくりとデュラハンに近づいていく、両者の距離がお互いの間合いに入ろうとしていた。

 デュラハンがロングソードを振りかぶってモーギュストを上から斬りつける。

 振りかぶった一瞬のスキを突き、モーギュストがデュラハンの懐に飛び込んだ。


「シールドチャージ!」


 叫び声をともなってモーギュストのぶちかましが炸裂する。

 鎧の重量がたっぷり乗ったアダマンタイト合金の壁盾が、デュラハンの下腹部にもろにぶち当たった。

 大爆音を響かせてデュラハンが天井に吹き飛ばされる。

 天井にぶち当たったデュラハンは、下半身が弾け飛び上半身だけになって落下してきた。


「おっす!」


 掛け声一発、落ちてきたデュラハンを再び『シールドチャージ』が襲う、破裂音が辺りに響きデュラハンの体は粉々にちぎれ飛んで光の粒子になって消滅した。



 援護射撃をしようと身構えていたセルフィアが、唖然としながら黒檀の杖を降ろした。

 俺も握っていた刀の柄をゆっくりと離し、深いため息を吐く。


「なんだよだらしがないな! こんな攻撃は序の口なのにもう倒れちゃったよ」


 心底悔しそうに地団駄じだんだを踏んでいるモーギュストを、メンバー全員が引いた目で見ていた。




 その後もモーギュスとの快進撃は続いていった。

 出てくる敵を自慢の壁盾で全てなぎ倒していく。

 全身の骨が真っ赤な血の色に染まったスケルトンの群れや素早く動くゾンビ、巨大な炎の塊の魔物など昼間の敵とは桁違いに強い敵が襲ってくる。

 しかしアダマンタイト合金の塊と化したモーギュストは、所狭しと暴れまわり悪魔たちを根絶やしにしていった。


「所詮『地下墓所』の魔物だね、全く倒し甲斐がいがないよ」


 つまらなそうに言い放つモーギュストを見ながら、魔物より怖い獣人が『白銀の女神』に所属しているということを、あらためて思い知って頼もしく思うのだった。




 とうとう十階層へ到着した。

 リサに石碑に手をかざす、これでリサは半分近くの階層を行き来できるようになった。

 仲間達に『水神の障壁』を配っていく、無事リサの分も手に入れてあったので、首にかけてあげた。

 にっこり笑って俺を見てくるリサは天使のように可愛かった。


「リサ、これから向かうところはとても暑いところなんだ、辛くなったらすぐ言うんだよ。それからこれも定期的に飲んでもらうからね」


 特製スポーツドリンクをリサに手渡す。

 竹筒の栓を抜いて中身を飲ませてみた。


「おいしいね、飲んだことない味ね」


(よかった、リサの口にあったようだ、これでこの階層も突破できるな)


「じゃあ行こうか」


 リサの手をつないで九階層『山岳』へ階段を登っていった。




「いつ来ても熱くて苦手な階層でやんす……」


 いつも陽気なワンさんが弱音を吐く。


「久しぶりに来たけどここはえげつない階層だよね」


 モーギュストもうんざりした声で話しかけてきた。


「ワンコ、大丈夫?」


 リサがワンさんを心配して話しかけた。


「リサ嬢、心配してくれてありがとうでやんす、あっしは大丈夫でさぁ」


「モギュもがんばって」


「リサちゃんありがとう、僕頑張るよ」


 二人ともリサに励まされやる気を出したようだ。

 みんなで一列になって重い足を動かしながら狭い坂道を降りていった。


「魔物が弱く感じるわね」


「それだけ俺たちが強くなったのさ」


「レイン様ドリンクをいただけますか?」


「ああ、たんと飲んでくれ、他に飲みたい人はいるか?」


 何人かが手を上げる、手渡しで竹筒を渡し水分補給をした。


「リサは我慢強いね、さっきから汗すらかかないけど大丈夫なのか?」


 仲間が汗だくなのにリサは涼しい顔をして足取りも軽い、不思議に思って聞いてみた。


「精霊がリサの周りを冷やしてくれているのよ、だから全然熱くないわ」


 全員がリサを凝視する、一斉に見られたリサは恥ずかしくなって顔を手で隠した。


「リサ……、君はそんな事ができるのか、もしかして俺たちも涼しくしてもらえるのかな……」


「ちょっとまって、精霊に聞いてみるわ」


 宙を見ながらリサが固まる、少しして笑顔でオレに言ってきた。


「リサに近寄っていれば涼しくしてくれるって言ってるわ、お兄ちゃんたちリサにもっと近寄って」


 ニコニコしながら手招きをするリサに仲間全員が殺到する。


「極楽でやんす……、リサ嬢が天使に見えやす」


「凄く涼しいね、生き返るようだよ」


「かわいいリサ、あたしがおんぶしてあげるわ」


「どうやって涼しくしているのですか? 原理がわかりません」


 メンバー達のリサに対する高感度は針を振り切って最高になった。

 リサから二メートルの範囲は涼しいエリアになっていて、仲間たち全員が精霊の恩恵をうけることができた。

 探索ははかどりすぎるほどはかどって当初の予定の半分で八階層の階段まで到達した。

 もちろん体調を崩す者が出ることはなく、みんな元気いっぱいだ。

 気合を入れて八階層への階段を登っていくのだった。




「すごいわ、草原が広がっているわ」


 八階層の雄大な景色にリサが感動して声を上げる。

 メンバー達はリサが喜ぶ姿を温かい目で見守ていた。

 順調に七階層向けて進んでいく、途中で現れたゴブリン達をリサの矢が串刺しにしていった。


「結構遠くまで当てるわね、あたしの魔法といい勝負だわ」


「私の気弾はあんな遠くでは威力が落ちてしまいますね、遠距離攻撃は弓が良いみたいです」


 リサの弓の腕は相当なもので百メートル離れたゴブリンの眉間みけんに寸分違わず矢を命中させていた。


「精霊が当ててくれるのよ、リサは狙って撃つだけよ」


 またまたみんながリサを凝視する、今回も恥ずかしそうに俺の後ろに隠れてしまった。


「リサ……、どのくらい離れた敵に当てることが出来るんだい? ちょっとやってみてくれ」


 俺のリクエストにコクンとうなずくと草原を見渡して獲物を探す。

 俺の目に見えるか見えないかの敵を指さしてから弓を構えた。

 たいして狙いもせず矢を放つ、放物線を描いた矢は走っている草原オオカミの頭に吸い込まれるように突き刺さった。

 距離にして三百メートル、セルフィアのファイアーボールも届かない超遠距離の、しかも走っている的に見事矢を命中させた。


「ほら、精霊がまた矢を運んでくれたわ、精霊とリサは仲良しなの」


 思わぬ所に超超距離を狙えるスナイパーが隠れていた。

 先制攻撃では敵なしのリサは『草原』では無双状態だった。

 放たれた矢をドラムが回収してくれる。

 無限に撃ち続けるリサの矢は、草原から魔物の姿を消してしまった。




「リサとドラムのお陰で魔物との戦闘もそれほどしなくて済んだ、ここから先は普通の迷宮だ。『自然迷宮』ではないので強い魔物は出てこない。だが罠だけは気をつけなければならない。ワンさんあと少し頑張ってくれ」


「まかせといてくだせぇ、誰も怪我すること無く地上に連れていきやすよ」


 自信満々に言い放つワンさんはとても心強かった。




 一層一層着実に街に近づく、長かった旅ももうすぐ終わろうとしていた。

 五階層でキャンプを張り一息つく、ここからは一気に街まで行けるはずだ。


「ここからは魔石の回収をせず一気に地上を目指す。みんな『身体強化』を発動させるんだ。魔物は俺達の敵じゃないそ、モーギュストを先頭に一気に街まで駆け抜けるぞ」


「「「「「了解!」」」」」


 モーギュストが先頭を走りその裏にリサをおぶった俺、両隣をセルフィアとアニー、俺の後ろをワンさんが固める。

 迷宮の地形はみんな頭に叩き込んであるので一切迷うことはなかった。

 背中のリサが魔物を先制攻撃で討伐していく、動く俺の背中からでも正確に急所を貫き、砲台としても優秀なリサであった。


 一階層の階段もすぐそこだ、時折ルーキー探索者がギョッとした目で俺達を見てきた。

 声をかけつつ横を走り抜けていく、あっけにとられた探索者が俺たちの背中をいつまでも見つめていた。


「よし、みんなゆっくり止まるんだ、この先の角を曲がれば一階層の石碑前だ、早いとこ宿に戻って今夜は祝杯をあげよう」


 一斉に歓声が上がる、リサも嬉しそうに声を上げていた。

 石碑にリサの手をかざして最後の認識をさせる。

 長い旅路も終わってみれば二ヶ月かからなかった。

 驚異的な身体能力と、数々の困難を乗り越えてきた精神力が、奇跡の探索行を実現させたのだ。

 満足感に浸りながら一歩ずつ階段を登っていく、外に出ると一瞬の静寂のあと歓声が沸き起こった。

 驚いたリサが俺にしがみつく、リサを観衆から守るように優しく抱き上げた。

 マントでリサを包み安心させる、軽く役人たちに断ってから広場を足早に離れていった。




 懐かしの『雄鶏おんどり嘴亭くちばしてい』に到着する。

 サムソンさんが出迎えてくれて、リサを紹介した。


「こんにちはリサちゃん、おじさんはサムソンだ仲良くしてくれな」


「うん、よろしくサムソンさん」


「レインも隅に置けないな、二人もべっぴんな彼女が入るのに、もう三人目を見つけてきたのか」


「彼女だなんて困ります」


 アニーが困りながら喜んでいる。


「やっぱりそう見えるかしら? でもレインの彼女はあたしだけよ」


「一体いつそんなことが決まったんですか? 私もレイン様の彼女になりたいです」


 二人がまた騒ぎ出したぞ、食堂に行きながら苦笑いをした。


「お兄ちゃん大好き」


 リサが俺の首にすがり付いてくる。

 それを見たセルフィアとアニーが一瞬凍りつきリサを凝視した。


「リサ……、恐ろしい子」


 目を見開きセルフィアがつぶやく。

 アニーも意見は同じらしく激しくうなずいていた。





 リサの歓迎会及び迷宮からの生還のパーティーは遅くまで続き、宿屋の常連も巻き込んだ大規模な宴会に発展した。

 次の日はワンさんリサを除いて全員が二日酔いでダウンしたのだった。

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