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55.懐かしい家

『中層階』十八階層、無人の洋館で一人の少女を保護した。

 少女をつれて探索続行は困難だろう、俺は撤退にシフトして準備を進めていた。




「残念ながらこの十八階層に次の階層に行く階段は見つからなかった。根本的に探索範囲を広げる必要があるかもしれない」


「それはここが十八階層じゃないかもしれないって事でやんすか?」


「それすらわからないんだよ、落ち着いて考える時間がほしい、しかし今はもう時間がないんだ。じきに夜になってしまう、それまでに『コロニー』を見つけなければならない」


 みんな不安そうに俺を見ている。


「しかしリサを保護したため時間的に、『コロニー』を見つけるのは困難になった。幼い子供を連れて探索はできない、そこで一度街に戻ろうと思う、地下牢の石碑から飛べば、なんとか夜までに帰れると思う」


 俺の考えをみんなに伝えた。


「待ってくだせぇ、リサ嬢は石碑を使えるのでやんすか? 石碑に認識していない者を無理やり転送したら時空の狭間はざまに飛ばされてしやいやすよ」


 ワンさんの言葉にメンバー全員は驚きを隠せなかった。

 確かにリサが石碑に認識されていない確率は高そうだ、確認する方法は石碑で転移すること以外無いので、一か八か転移するしか方法ない。


「時空の狭間から戻ってきた人って居ないのよね、あたし飛びたくないわ」


 不安そうにセルフィアが言った。


(まあ俺は魂だけなら行って帰ってきたことはあるんだけどね)


 アニーに抱かれて不安そうにしているリサを見ながら、俺は一つの可能性を考えていた。


「あまり現実的ではないのだが、こんな方法はどうだろう。石碑を使わず一階ずつ階段を登って街まで帰れば、リサを連れて帰ることが出来るのではないだろうか」


 理屈はあっていると思う、物理的に歩いて帰れば石碑を使えなくても戻れるはずだ。

 ただ相当な時間がかかってしまうだろう、そう考えると現実的な手段とは思えなかった。


「いいんじゃない? その方法で帰ろうよ。石碑を使ってギャンブルするより、着実に帰るほうが僕は好きだな」


「でも何ヶ月かかるかわからないぞ、それでもいいのか?」


「食料は問題なくあるんでしょ? レベルを上げながら帰ると思えばいいんじゃない?」


「リサちゃんを安全に地上に連れていけるのであれば、その方法で行きたいと思います」


「決まりでやんすね、アニーの姉さん、リサ嬢に説明よろしくでやんす」


 ワンさんに言われてアニーがうなずく、ベッドの端に座らされたリサはアニーとセルフィアに説明を受けていた。

 俺は巾着袋からごく普通の服を取り出しアニーに渡した。

 リサは未だにシーツに包まれた状態で、これからの帰路に裸では問題があるだろう。


 リサの体には大きすぎる服をアニーが器用にリサの体のサイズに直していく。

 またたく間にピッタリのサイズになり、リサの体をすっぽりと包んだ。

 リサが部屋の中をキョロキョロし始めた。

 何かを見つけたらしく部屋の隅にあるクローゼットを開けると、銀色に輝く弓と胸当てを取り出し装備していく。

 矢筒やづつを担ぐと最後に首に七色に輝く角笛をかけた。


 おどろいてリサを見つめると、照れながら説明をしてきた。


「精霊が教えてくれたのよ、リサは弓が得意なの、いつも森で練習してたのよ」


 装備や武器はリサの私物らしい、胸の前に下がっている角笛をいじりながら一生懸命説明するリサはとても可愛かった。

 角笛は精霊とリサをつなぐ通信機みたいなものらしい。


「そうなんだ、リサは精霊が見えるのかい?」


「ううん、見えないわ。でも感じるの、リサの周りを飛んでるわ」


 そう言って自分の周りの空間をゆっくりと目で追っていく、きっと目線の先に精霊がいるのだろうな。

 リサは精霊使いなのかもしれない、小さい子だがあなどれない実力者の雰囲気をかもし出していた。




 時刻はお昼前、手早く昼食を食べる。

 方針が決まれば急いで帰るだけだ、洋館のある部屋を出て足早に十七階層への階段に向かう。

 途中でリサをおんぶして『身体強化』でスピードを上げた。

 立ちふさがる魔物たちをモーギュストがラッセル車よろしく次々と跳ね飛ばし殲滅していく。

 面白いように跳ね飛ばされて消えていく様子を、リサは興味深そうに観察していた。


 夕方前に階段に到着する、リサの手を石碑にかざして石碑に認識させる。

 足早に階段に近寄ると十七階層に登っていった。


「今日はここでキャンプを張る、コロニーではないが敵が何故か出てこないので一晩くらい大丈夫だろう。もちろん交代で夜通し見張りは立てるので、そのつもりでいてくれ」


「リサも見張り頑張るわ」


 拳を小さくつき上げ気合を入れて話しかけてきた。


「リサは見張りしなくて良いんだよ、お兄ちゃんたちが代わりにするからね」


 俺はしゃがみこんでリサの頭を撫ぜた。

 しなやかな金色の髪はとても柔らかく触っていて気持ちよかった。


 小部屋にテントを二張設置する。

 大ぶりのテントで狭い部屋がいっぱいになってしまい、テントの中で夕食を食べた。

 王都の人気の店の料理をリサの目の前で巾着袋から取り出すと、リサは目を丸くして驚いた。

 エルフには肉料理は口に合わないかと心配したが、リサは喜んで口いっぱいに頬張り美味しそうに食べていた。


 食事の後リサに詳しい話を聞いた。


「どうしてあそこで寝ていたか分かるかい?」


「ううん、わからないわ。森で魔物に襲われて逃げたの……、でも捕まってそこからわからないの……」


 さっきまで笑顔で食事をしていたリサの顔がみるみるうちに曇っていく。

 

「リサちゃん大丈夫よ、お姉ちゃんたちがきっと森に送り届けてあげるわ」


 リサを気遣ったアニーが元気づけるために話しかける。


「ホント!? お姉ちゃんありがとう」


「お姉ちゃんたちに任せなさい! 絶対帰れるから心配ないわ」


 セルフィアがわざと元気に言い放つ、二人ともリサのことを思って明るく振る舞っていた。

 少しだけ元気になってくれたようだ、リサはドラムを抱っこして嬉しそうに遊び始めた。

 聞きたいことはまだあるが、ミドルグに戻る旅はまだ始まったばかりだ、少しづつ聞き出していけばいいかな。



 今夜は男どもと久々に樹海で眠ることになりそうだ。

 流石にリサと一緒に眠るわけにいかないので、セルフィアとアニーにまかせた。

 リサはドラムが気に入ったらしく腕に抱えて離さなかった。

 ドラムも大人しく抱えられてまんざらでもないようだ。


「お兄ちゃんたちおやすみなさい」


 ペコリとお辞儀をして就寝の挨拶をしてきた。


「ああ、お休みゆっくり寝るんだぞ」


「おやすみでやんす、リサ嬢心配しないで眠るでやんすよ」


「リサちゃんおやすみ、お兄ちゃんが守っているから安心して眠ってね」


 可愛い仕草に自然と笑顔が出る、早く森に返してあげなくてはいけないな。

 今夜ドラムはリサの抱きまくらになるようだ、リサに抱えられたままテントの奥に消えていった。



ー・ー・ー・ー・ー



 今日から辛い『深淵の樹海』の旅が始まる、人数分の『魔導雨具』を取り出し一人ひとりに配っていく。

 骸骨騎士と戦闘した扉の前に立ちみんなに話しかけた。


「今日から辛く厳しい樹海が待っている、無理をせず進むつもりだが気をしっかりと持って行動してくれ」


「探索しながら進むわけではないから気は楽だね」


 モーギュストは青黒く光る盾を全面に押し出しながらやる気満々だ。


「モーギュスト頼りにしてるぞ、自慢の盾で魔物を蹴散らしてくれ」


「まかせてよ、骸骨騎士だってやっつけてみせるよ」


「骸骨騎士だけはやめてっ! あたしまだ夢に出てくるのよ」


 おばけが苦手なセルフィアが、悲痛な声で抗議してくる。


「大丈夫だよ、夜間は『樹洞』にこもって戦闘はしないつもりだ、ただ豪雨の中の進軍だから足元には注意してくれ」



「それじゃ、扉を開けるでやんすよ。モーギュスト警戒してくれでやんす」


「オッケー! いつでも良いよ!」


 ワンさんが扉の横に立ち壁で何かを操作し始めた。

 ゆっくりと扉が持ち上がっていく、扉の隙間から突風が入ってきて仲間達の頬に勢いよく当たった。

 稲光があたりを包み込む、続いて雷鳴が鳴り響いた。

 リサが俺の手をギュッと握ってくる。

 顔を見ると不安そうに俺を見上げていた。


「大丈夫だよ、すぐ慣れるから。お兄ちゃんたちについて来れば問題ないよ」


 かわいいほっぺたを優しく触る、赤ちゃんの肌のような柔らかさが伝わってきた。

 リサを中心に周りを固めるとゆっくりとした足取りで豪雨が渦巻く樹海に足を踏み入れていった。


「旦那、コンパスはまだ反応してやす、問題なく石碑までたどり着くことができそうでやんす」


 幸先のいいニュースをワンさんが伝えてくれた。

『魔導コンパス』は未だに十七階層の石碑を指し示しているようだ。

 この延長線上の『コロニー』を利用しながら一直線に階段に向かうことができそうだ。

 思ったより早く次の階層に行くことができそうで少しホッとした。




 約一ヶ月後、アトラスさんの住む家の丸太の壁まで来ることができた。

 探索の倍のスピードで移動してきた俺達は、モーギュストの活躍もあってたいして魔物に苦戦もせず順調に距離を稼げたのだ。

 そして驚いたことにリサはただの美少女ではなかった。

 精霊を駆使してミスリルの弓を操り、中々の威力の攻撃を魔物に対して行ったのだ。

 多彩な攻撃で足止めされた魔物たちは、モーギュストの突進をまともに受け、為す術もなく殲滅されていった。


 リサは『身体強化』のスキルもいち早く覚え、完全に戦力として頭数に数えられるほどの実力を獲得していた。


「かなり早くここまで来られたな、アトラスさんの家で少し休ませてもらおう」


 仲間達の間から歓声が沸き起こる。

 事情を知らないリサがキョトンとした表情でみんなを見ていた。


「リサ、いまから会う人はサイクロプス族のアトラスさんという人だ、魔物だけどいい人だから怖がらなくてもいいぞ」


 わかっているのかいないのか、不安そうに曖昧あいまいにうなずく。

 リサの手を握って近くへ引き寄せた。

 俺に寄り添ったリサは心なしか安心したようで、表情が幾分和らいだ。



 巨大な門の前に立ちアトラスさんを呼び出そうと大きな声を出そうとした。

 するとガコンと音がしてゆっくり門が動き始めた。



『お前ら戻ってきたのか、無事で良かった、中にはいれ』


 俺たちが来た気配を察したアトラスさんが急いで門を開けてくれたようだ。

 流石は格上のアタッカー職だ、気配探知はお手の物らしい。


「お久しぶりですアトラスさん、少しの間休ませて下さい」


『いいぞいいぞ、いくらでも休んでいけ。ん? かわいいのが増えているな、早く小屋に行こう』


 リサを見たアトラスさんは嬉しそうに門を押し開けていく、アトラスさんの迫力にリサは言葉をなくして俺に抱きついてきた。

 アトラスさんは俺達が中に入ったのを確認すると門を閉めてかんぬきをかけた。

 先頭に立って小屋に向かうアトラスさんの背中は、とても嬉しそうで足取りは軽かった。


 小屋に入った俺達は最初に訪れたときのように長椅子によじ登った。

 前と違うのは俺の膝の上にリサが座り、ドラムがリサの膝の上に丸まっていることだ。

 もちろん両脇はセルフィアとアニーががっちり固めている。


 向かいの長椅子にはワンさんとモーギュストが座り、アトラスさんが用意してくれた懐かしい香りのお茶を飲みながら、樹海の奥のことなどをアトラスさんに聞かせていった。

 アトラスさんも骸骨騎士の話に興味を持ったらしく、『今度戦ってみようか』などと言っていた。

 あの魔物と単独で戦おうと思うなんて、アトラスさんはどれだけ強いのかわからないな。

 楽しい時間はまたたくまに過ぎていき、リサは俺の膝の上で眠ってしまった。

 アトラスさんに寝室の一つを借りてリサを寝かしつける。

 ドラムを抱かせて毛布をかけてあげた。




 夜になり俺もベッドで眠ることにした。

 久しぶりにまともな屋根の下で眠りにつける、ただそれだけでとても嬉しくなり、幸せを噛み締めながら夢の中へ旅立つのだった。


  

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